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大王ダコの目的

北の海より、荒波が襲いくる。


「出たぞー!!パープルG!やれー!!」

紫のツインテール潮風に投じながら、巨大なアンドロイド少女が敵に立ち向かう。


ここは港町。海沿いに敷き詰められたコンクリートと、聳え立つ工場の数々。

その場所に現れた巨大な影。


海面から姿を現したのは、大王ダコと呼ばれるモンスターだった。その名の通りの巨躯を誇る生物であり、触手一本で建物をなぎ倒す程の力を持っている。

近頃、各地に大王ダコが現れ、その度にテクニカルシティのアンドロイド、パープルGを始めとした巨大ロボの戦力が事態の収束…及び、大王ダコの撃退へと出向く。

「出動ー」

パープルGが足を踏み込み、海面が凄まじい勢いで舞い上がる。

タコをそのまま巨大化させ、頭が王冠状に隆起した大王ダコは、不気味な程に丸い目で自身に襲いくる影を音なく睨む。

触手がパープルGの頭上目掛けて振り下ろされるが、彼女は難なく腕を振り上げ、アンドロイド特有の硬度で受け止める。

海面で荒れ狂う二つの質量。波がコンクリートを叩きつけ、激しく揺さぶる。


人々が悲鳴交じりにパープルGを応援し、そして逃げていく。小人たちの声援など聞こえないとばかりに彼女は眠そうに目を細め、大王ダコの触手を掴み、持ち上げ…。

鋭い蹴りを打ち込んだ。


大王ダコは全身を震わせながら、触手を周囲の人工足場に貼り付けながら後ずさり、少しずつ海中へと身を沈めていく…。


あんな生物が暴れていたとは思えない程の静寂が、逃げていた人々の心をも支配した。




「パープルGが解決してくれたが…この大王ダコ、北から順に港に現れては襲撃を繰り返しているんだ」


今まさに襲撃されていた港町の研究施設にて。


パープルGの主である、赤い髪の女性、ルミ。

眼鏡のレンズを白く光らせながら、彼女は目の前に並べられたワンダーズ全メンバーを見渡していた。


北の海に現れ、そこから南へ下るように襲撃を繰り返す大王ダコ。近頃この辺りを騒がせている存在であり、その根本的な解決の為に多くの戦士が呼び出されているという。ワンダーズもその戦士の一角だった。

まず手を挙げたのは葵だ。

「その大王ダコ、北から順番に港を襲ってるのよね。多分単純に北に生息してる生き物で、移動しながら港を襲ってるんだと思うけど…襲ってる港に何か共通点はないの?」

その質問に、ルミは山盛りの紙達…調査資料を両手に、視線を葵に合わせずに答えた。

「どの港も工場があるようだ。工場内にある資源が目的なのか、海洋汚染を防ごうとしているのか…どちらにせよ、人間に対して良い感情は抱いていないだろうな」

相手の意図が分からない…もどかしい状況だった。

ルミの予想も、勿論確実とは言えない。一番可能性が高いというだけで、完全に空回りしているという可能性だって十分にありえる。

幸い大王ダコはそこまで強くはなく、パープルGがいなくてもここにいるワンダーズの誰か一人で十分撃退できる相手だ。

しかし何度も追い払うだけでは意味がない。根っこの解決の為に、更なる調べが必要だ。


粉砕男とれみが、机に広げられた資料へ簡単に目を通す。そこにはこれまで襲われた港町の情報が記載されており、どれもこれも当たり障りのない、どこにでもあるような工場ばかりだ。

扱ってる物質も、海洋エネルギーや電気エネルギー…どこもかしこも同じような物質だった。

「大王ダコの狙いはやっぱりこのエネルギーなのかな?」

れみは写真に目を通していく。

白い壁、灰色の煙突の工場達。中には、工場の上から触手が振り下ろされる瞬間の写真まで激写してある。

れみの言葉に、ルミは顔を険しく歪めた。

「それが、この大王ダコ…実は片っ端から各地の工場を狙ってる訳ではないんだ」

いつの間にか彼女の手には他の工場の写真が握られていた。

ドクロとテリーが、肩をつけあってその写真を凝視する。

扱ってるエネルギーは他の工場と何ら変わりない。特に独自の特徴がある訳でもなく、ごく普通の、しかし威風堂々とした工場達が、紙の上で音なくその存在感を示している。

「エネルギーを狙ってるならばこれらの工場も狙うはずだ。だがやつはこれらの工場を素通りした」

同じ条件なのに、興味を示さない工場がある。

これが、このモンスターの目的を迷宮に隠した最大の要因だった。

他に何か条件があるのか、それとも野生生物故の気まぐれか。


壁の外から、待機しているパープルGの欠伸がこだました。

深い謎解きの時間など、彼女にはただ時間を無駄に浪費するだけ…早く大王ダコと戦いたい、とばかりに退屈そうにしている。


十分程、互いの意見を出し合い、無駄と言えば無駄な時間を過ごした。

頭脳派の粉砕男と葵、そして科学者たるルミでさえも回答は出ない。

戦闘用語が微塵も出ない状況に、ラオンは部屋の隅でナイフを蹴りあげる妙な遊びに転じていた。


…そして。


「うーん、やはり今日も一方的に大王ダコを追い返すしかなさそうだな…」

ついに、ルミが諦めの声をあげたその時。



またもや、海面が突き上げられる轟音が外から響き渡る!

白衣を翻し、背後の壁に目を向けるルミ。電灯が揺れ、机一杯に広げられていた資料がずり落ちていく。




港町の海面に…巨大な触手がそびえ立っていた。

吸盤の隙間から流れ落ちる海水が、コンクリートを打ち付け、潮の雨を降らせていく。


今の今まで研究施設の横で腰を下ろしていたパープルGが、立ち上がる。足元の人々を踏みつぶさないように気をつけつつも、同時にどこか適当な準備体操を挟む。

「これはこれで面倒くさいけど、やるか」

大王ダコが顔を出し、宿敵(少なくとも大王ダコにとっては)を前に、触手の動きが僅かに速くなる。

一度に二本の触手が、パープルGを挟み込むようにして襲いくる。彼女は迷いなく両手を広げ、その怪力の挟み撃ちを受け止める。


大気と海水が荒れ狂う中、研究施設内では今か今かと、出撃の体勢をとるれなとラオンが膝を震わせている。

丁度大王ダコが現れたのだ、ここで何か決定打となる要素を掴んでおきたいところだった。

港を狙う理由、そして今までの港を襲わなかった…深く、壮大であろう理由を掴みさえすれば…。


しかし、今は戦闘中だ。

戦闘中に集中すべきことは…敵を倒す事、そして周囲の被害を抑え込む事。

調査は後回し、今はまずやつを黙らせる。

パープルGに加勢すべく、全員の足が動こうとしていたまさにその時!


「おい。もしかして」

テリーだった。

今の今まで、資料に真剣に目を通していた妹に釘付けだった彼の空洞の目が、1枚の紙へと向けられたのだ。

特に意識はしておらず、偶然その紙に目が行っただけ。だからこそだろうか、彼はある事に気づいたのだ。



「あの大王ダコ、タコツボ欲しいんじゃないか」


は?と、何人かが思わず冷たく発した。

一瞬、タコツボというのが何なのかを忘れてしまった程に、予想外の答えだった。

外へ出ようと足をばたつかせるれなと、ナイフを振り回すラオンの髪を両手で掴みながら、葵がその理由を問う。

「どゆこと?テリー」

「ほら、見ろよ。あいつが襲った工場にはちゃんと共通点があるんだ」

白い人差し指が、写真一枚一枚を指し示す。



共通点。

それは、それまでの考察が馬鹿らしくなる程に単純だった。


『…えん、とつ?』

ドクロの高い声と、ルミの低く淀んだ声が重なる。


そう、煙突。




確かに、襲撃した工場には煙突があり、素通りした工場には無い。

大王ダコの巨躯が潜り込めるような大きさではないが、大王ダコは確かに煙突のある場所ばかり狙ってるのだ。

それに、無数の建物が密集してる港町でも、工場のみを狙っているように見えた…という報告もある。すなわち煙突を狙っていた、という事だろうか。



「…煙突だと?タコツボだと?そ、そんなバカな話があるものか!」

これまで多くの仮説を出してきたルミが、納得できないといった様子で頭を抱え始めてしまった。葵と粉砕男はすっかり黙り込み、ドクロは兄が提示した説を信じるかどうか、顎に手を添えて悩みに悩んでる。


そんな中、テリーを引き継いだのは…れなだった。

「じゃあさ!」

振り上げられた彼女の右手に、全員の視線が集中する。


「確かめてみよう!それが本当なのか!!」

れなとの付き合いが長い仲間たち。無意識に、本能的に、衝撃に備えて屈み込んだ。


瞬時に、部屋中に莫大な衝撃波が発生し、無数の紙が宙を舞う…どころか、衝撃による斬撃波で真っ二つに切り裂かれていく。

れなが飛び込んだのは、部屋の天井だった。

ドアを開けて外に出るなどという野暮な真似はしない彼女。床に瓦礫をまきながら、ド派手に外へ飛び出し、大王ダコのもとへ一直線に飛んでいったのだ。

突然の破壊行為に、ルミはしばらく言葉が出なかった。




港町に飛び出した黄色い光…れなは、取っ組み合うパープルGと大王ダコの隣を飛んでいく。

両者、戦闘に夢中で、視界の隅を通り過ぎる黄色い小粒など、文字通り眼中にない。

巨大な質量が衝突しあう様子は、れなの戦闘狂気質を強く刺激する。自分もあの戦いに飛び込みたいという衝動を必死に抑え込みながら、彼女が目指した先…。


そこは、海面だった。

青い壁が優しくれなを迎え入れ、別世界へと無造作に放り込む。白い泡が視界を覆い尽くし、目を開ければ…透明の花畑が目前に広がる。

その花畑を舞う花びらは…色とりどりの魚達。


だがれなには彼らなど眼中にない。

狙う先は、海底の地表だ。

「よーし」

水中でくぐもった独り言。彼女は拳を握り、地面に狙いを定め…打ち込む。


ゴッ、という不自然な環境音。





荒波が一際強くなり、大王ダコとパープルGを叩く。



それに真っ先に反応したのは、戦闘に夢中になっていた大王ダコだった。

野生の本能が、あるものを察知したのだ。


パープルGは、抵抗をやめた大王ダコから手を離す。

タコ特有の柔らかい皮膚は、うねるようにコンクリートの上を撫で、海域方面へと戻っていく…。



施設の窓からそれを見守っていたワンダーズとルミ。れなが海へ飛び込むところも、大王ダコの行動の変化も、全てを目撃していた。


やがて大王ダコは水中へと姿を消す…。

迷いないその動作は、水中に先程なかった何かが出現した事を示していた。


しばらくして…水飛沫と共に、騒がしい声が響いた。

「やったよみんなー!!」


れなだ。ツインテールを水で光らせながら、暖かな陽光で下がった体温を取り戻す。

彼女はそのまま飛行姿勢に移り、先程破壊した施設へとまっすぐに突っ込んで戻っていく。

飛行時の風が瓦礫を僅かに動かす中、彼女は転がるように部屋に飛び込み、ピースサインを見せつける。

「れな、どうやったんだ?あんなタコ野郎、お前ならワンパンだろ」

腰に手をやり、ラオンが聞く。不機嫌そうな様は、今回戦闘の機会を与えられなかったからだろう。

鏡のごとく対照的なテンションのれなは声高らかに説明した。

「あのタコ、タコツボが欲しかったんでしょ?だから、海底まで潜って地面を殴って、クレーターを作ったんだ!」

そう、彼女は自慢の腕っぷしで海底に大穴を空けたのだ。大王ダコも今頃は、地中に潜って窮屈なタコツボに身を詰めている。


なんとダイナミックな解決策だろう。

「それにしても煙突が目的だったなんて…。テリー、よく気づいたな。感謝するよ」

自身の盲点を呪うルミ。

多くの可能性を予測する科学者だからこそ、灯台の下に気をつける必要があるのだろう。


テリーは拳を掲げ、すっかり調子にのりだした。

「はははは!!これからはテリー博士と呼びたまえ!!そして我が妹よ!!俺をお兄様と呼ぶがいい!!!!はははは!!!!!はははははははははぁーーー!!!!」



その後。

テリーの笑い声があまりにもうるさい為、大王ダコが再出現、パープルGが動く事となったのだった…。




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