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アーマー騒動

基本、テクニカルシティには何でも売っている。

その為、この街にいれば、生活は困らない。


生活は勿論の事、戦闘における道具も多く売っており、ほとんどの戦士はこの街にいれば困らない、と言われている程。


そしてこの日、ワンダーズは考えた。


戦闘時、体を守るものが必要だと。

そこで、テクニカルシティという戦士の恩恵に甘える事にしたのだ。



アーマーを売っているアーマーショップにて。れな、粉砕男、テリーの三人は、壁一面に並ぶ白銀の鎧に目を通していた。

しかし…戦闘で身を守る、という名目で来たものの、れなは「己の体一つで十分な気がしてきた」と、アーマーショップではタブーと呼ぶべき失言を滑らせ、テリーは戦闘用途というより、どれが妹の目を引くことができるか、という名目で厳選してる様子。真面目なのは粉砕男だけだ。

「おーい二人とも。早いところ選ぼう」

れなは、棚に立て掛けられていた白銀のアーマーを適当に手に取り、上から、下から、と宝石のように扱い、眺めてる。防具というのは、実はあまり世話になった事がない。防具自体が、彼女の目には物珍しく映っていた。

これがあれば衝撃を和らげ、体の痛みも抑えられるとよく聞くが…。


「アタシ痛い方が好きなんだけどなあ」


(じゃあ何でついてきた!)

粉砕男はツッコミを抑える。その周辺の姿見の前で赤いアーマーを身に着け、ポーズをとるテリーに、彼はやれやれと自分の頭を撫でた。




結局、れなはごく普通のアーマー、テリーは赤いアーマー(炎に耐性があるらしい)、粉砕男はその大柄な体格相応の、店一番の大きさと重量を誇る分厚いアーマーを身に纏い、自動ドアをくぐりぬける。

「どうだれな?俺はかっこいいか?」

回りながら歩くテリー。彼の中ではアーマーという物は早くも防具ではなく、ファッションとなってしまったようだ。普段着ている黒いスーツの上からそのままアーマーを被せただけなので、お世辞にもかっこいいとは言えない。

しかしれなは拍手まで挟みながら、その[お世辞]なのか本心なのか、「かっこいい!世界一のイケメン!」と大絶賛していた。

この二人らしいと言えば二人らしい。粉砕男はやれやれと首を振りつつも、優しく笑っていた。

ともかく、これでこれからの戦闘のリスクが少しは下がっただろう。


「よし、二人とも。これのおかげである程度の被弾は防げるだろう。これからは戦闘が楽になるかもしれな…」


重い音が響いた。


浮かれていたテリーが塀に衝突してしまったのだ。前方不注意の極みだった。

「あ!何やってるのテリー!」

れなは慌てて駆け寄り、テリーの骨の手を掴み、助け起こす。

「あぁ…すまんすまん。ドクロの前じゃなくてよかったぜ…あれ?」

彼は胸元に違和感を覚えた。



「…あっ」

赤いアーマーに…黒い亀裂が入っていたのだ。

しかもそれは、ミキミキと嫌な音を立てながら、少しずつ広がっていく。

二万もの金額を払って購入した新品が傷に侵食されていくのを、三人はただ傍観する事しかできなかった。

いや、れなだけは何故だかこの状況でも「おー、ヒビヒビ」と盛り上がっていたのだが。


そして…とうとうアーマーは、真っ二つに裂けた。



「…ああああああ!!!??」

テリーが悲鳴をあげたのは、全てが終わってからだった。

アーマーは修理不能な程にボロボロになってしまっている。よく見ると、一番深い亀裂以外にも細かな傷が大量についており、先程までの輝きは幻想だったのかと疑う程だ。

戦闘用のアーマーが、そこらの塀にぶつかった程度で崩壊するなど、あってはならない事だ。むしろ塀の方が傷つくであろう硬度を誇るというのに。

「おかしいな…?」

粉砕男は何となく、自分を覆っているアーマーを指でなぞってみる。


すると…。指が触れた地点から、アーマーにヒビが入る!

「え」

そして…一瞬にして、粉々に崩壊する。

テリーの物と全く同じ惨状だ。このアーマーの額は五万円。一分以内で、七万円が飛散した。

「…不良品だ!!間違いない!!」

三人は踵を返し、自動ドアを睨む。

一つだけならまだしも、二つもの新品がこうも簡単に壊れたのだ。店の品質基準について3時間ほど問いたださなくては気がすまない。

「不良品を平然と売りさばくなんて許さない!よーしっ!アタシがガツンと言って、お金を全部取り返して上げる!」

れなは気合たっぷりに。自身の胸を叩く。



…彼女のアーマーも、同じ末路を辿るのだった。





再度入店した三人。

店主の男は、「いらっしゃいませー」と呑気なまでの微笑みを見せている。

店にはまだ多くのアーマーが残っていた。まだそれほど街に浸透していない店なのだろう、売れ行きは良くないようだった。

あるいは、これらのアーマーの真実を知ってしまい、もう二度とこの店の世話にならないと、他に移ったのか。どちらにせよ、穏やかな理由は考えられない。

まず先に、れながレジカウンターに乗り出した。

「ちょっとー、おたくで買ったアーマー秒で壊れたんですけどー」

目を細め、レジに肘をついて腰を捻らせる、とことん嫌味な態度を出してみせる。何と嫌な客だろう。いくら店が悪いとは言え、最低限のマナーは必要だとばかりに、粉砕男が彼女を引き戻す。

店員は不気味なほどに笑顔を崩さなかった。首を傾げる店員のエプロンの下に、白銀の光が僅かに反射してるのが見える。彼もまたアーマーをつけてるのだ。

「んんー?我が店のアーマー達が不良品とでも言いたいのですか?」

「そうだ!!」

テリーがれなの横から、文字通り[踏み出した]。

足をカウンターの上に乗せ、膝に肘をかけて、骸骨面をぐい、と店員へ迫りこませる。

「おめーが適当なものを売りつけるせいで、俺のかっこいい姿も台無しになったじゃねえか!」

「おやおや、それはつまりあなた、そんなに自分の容姿に自信がないということですか?」

店員の冷静な返しに、テリーは黙り込んでしまった。



ここでようやく一番まともな粉砕男が動いた。

「すみません。ここで購入したアーマーが壊れたので返金をお願いしたいのですが」

実にまっすぐかつ無難な声かけ。

「そんなんじゃ伝わらないよ」とれなが粉砕男の手をつつく。しかし、どんな時もあまり強気に出ては危ないのだ。

店員はようやくまともな反応を見せた…。




と、思われた。




店員は俯き…十秒ほど沈黙した。

やがて…笑い出す。

「はは…はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

「笑いすぎだボケ!!」

テリーが突っ込む。


店員はしばらく笑い続けたが、やがて…背後にあるアーマーに拳を添えた。

「そうだよ。ここはな、かっこいいアーマーでバカなやつを釣って資金稼ぎをする、闇姫軍の施設の一つなんだ!」

まーた闇姫かよ、とばかりにれなが首を横に降る。言われてみれば、所々にドーナツのポスターが貼られていたり、黒い装飾品が多かったりと、闇姫の趣味が丸見えだ。

長年彼女と戦い続けてるのに、気にしなければ気づかないものだった。

店員は挑発的な笑みを崩さぬまま、カウンターに肘をつく。メンタルだけは、本物のアーマーを装着しているかのように硬い。

「ふん、戦う事にしか能のないお前達は今ここで俺を倒すつもりだろ?だがそう簡単にはいかないぜ。なぜなら俺の着ているアーマーは、特別なんだからな!」

彼はわざとらしく握り拳を振り上げると…自身の胸元へとそれを振り下ろした。

コツン、と鉄の音が響く。音は店内の壁を蹴り、何度も空間を往復する。


その反響音が聞こえなくなると…店員が着ているアーマーに、動きが生じる。


どこにでもありそうなアーマーの表面から、明らかに異質な…銀の触手が、突き破るように出現した!

計4本。それらはれなとテリーの顔の、掠めんばかりの距離を通過し、天井へと伸びていく。

「な、なんだ!気をつけろ!」

粉砕男は慌てて二人の肩を引いて離させる。

背後の棚にれなの背中がぶつかり、重厚な音が覗く。

アーマーは触手を壁や天井に固定し…店員を空中

へぶら下げる。店員はポケットからハンドガンを取り出し、三人に向けて威嚇した。

「ははは!!こいつはな、パラアーマーというモンスターさ!着ている者の力を吸い取って更にその硬さを増し、敵を攻撃する…俺の最強の相棒だ!」

相手は二人ということだ。

店員はれなの小指一本でも倒せるだろうが、パラアーマーは未戦闘のモンスター。粉砕男は用心し、れなとテリーを守るように足を踏み込む。体重をかけられた床には亀裂が走る。

店員はハンドガンのセーフティを外していた。パラアーマーという味方を身に着けた事で、勝利を確信している様子だ。

「さあどうした?来い!」

挑戦を受けてやろうと、れなが飛び込もうとするが…。


テリーの細長い手が、れなの前に、隔てられるように伸びてきた。

「待てれな。俺らは攻撃しなくて良いと思うぞ」

「え?」

テリーは一応、手元に骨を生成しつつも、天井付近で足をぶらつかせる店員を見上げ続ける。

「あいつが着てるパラアーマーってやつ、着たやつの力を吸収するんだろ?ならあいつ、自滅するんじゃないか」




…その言葉が終わるなり、店員は左右に揺らめき始めた。

「あ…」

目眩が襲いかかる、疲労感が襲いかかる。


どうしてパラアーマーを店に設置して客に着させず、自分で着てしまったのだろうか、この男は。


「ぎゃあああ!!」

空中でバランスを崩した店員はレジのカウンターに落ち、顔面をぶつける。

主を失ったパラアーマーも触手のバランスを崩し、やかましい音をたてながら床に叩き込まれる。ワンダーズ、不戦勝だ。



目を回す店員。

この計画性の無さに、大して金もかかってなさそうな脆いアーマーの数々。闇姫も適当に配属したのだろう。

「こういうのはもっと広い街で探した方が良いな…残念だ」

ただ気力を消費しただけの結果に、粉砕男は深くため息をつく。


店中にあるアーマーを倒れた店員に片っ端から叩きつけた後、三人は退店するのだった。








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