2−25:高純度ミスリルゴーレムの実現に向けて
ダンジョン探索を行った、翌日。今日は王立魔法士学校の研究室に顔を出した。
与えられた個室の椅子に座り、じっくりと考える。
「……無詠唱攻撃魔法だけじゃ、いつか痛い目を見るかもしれない」
……研究成果発表会に向けた準備は、日々着々と進んでいる。ヨハネス教授には『無茶な日程だと思ってたんだけど、エリオス君には朝飯前だったかな? すごい完成度だよ、僕もびっくりしたね』とお墨付きを貰えた。資料の出来も良かったみたいで、後は発表会に向けて練習を重ねるだけとなった。
少し余裕ができたので、僕は切り札となる魔法について考えていた。
「もう1つくらい、切り札が欲しいな。今の僕でも十分に扱える、無詠唱攻撃魔法に続く強力な切り札が……」
無詠唱魔法による奇襲攻撃は、確かに有効な切り札だ。初見の相手には相当効くけど……万が一それを凌がれてしまえば、後は実力の勝負になる。
そして、僕はまだまだ弱い。レベル26というのは、10歳としては相当高いと思うのだけど……世間一般で言えば、まだ一人前にもなっていない。レベル30で初めて一人前というのは、多くの人が共通認識としているところではあるんだけど……僕はまだ、そこまでのレベルには届いていない。
だけど、周りは僕のことをそう見ていない。勲章を頂いて王立魔法士学校にも通い、僕を一人前の軍属として見ている。当然、求められる成果も一端の軍属としてのものが求められるわけだ。
勲章を受け取るというのは、つまりはそういうことなのだ。ただ栄誉の証を受け取るのではなく、『この後は同業者の模範となるよう、たゆまぬ精進を期待する』という王国からのメッセージでもある。特に僕の
場合、予定よりも一段高いランクの勲章を頂いたわけだから、なおさら成果を上げなければならないのだ。
そして、新たなる切り札の開発に向けた案はある。ここヨハネス研究室だからこそ実現可能な、今の僕にピッタリの切り札が。
「……高純度ミスリルゴーレム。アイアンゴーレムの何十倍も強い、特別な力を持ったゴーレムの作成。実現可能性を考えても、これがベストだろうね」
魔力のみで高純度ミスリルを生成するのは、実はとても難しい。鋼鉄と比較して300倍近い魔力を使ってしまうので、前世の僕でも数体作れば魔力が空っぽになってしまうほど燃費が悪いのだ。さすがにこれは現実的ではない。
……なのでここは、最初から高純度ミスリルを用意したうえでゴーレムを作成する。成形するのであればまだ現実的な魔力消費量で済むので、ヨハネス研究室の在庫を最大限活用して高純度ミスリルゴーレムを作ってしまうつもりだ。
加えて、遠隔操作が難しい問題点も解決する必要がある。耐魔性の高いミスリルでゴーレムを作ると、遠隔操作のために繋いだ魔力パスすら弾いてしまうのだ。それを無理矢理繋ぎ続けるだけで、とてつもない量の魔力を消費してしまう。
……ならば、どうするか。そこは簡単な話で、遠隔操作しなければいい。
ようは、完全自律行動が可能なゴーレムを作ってしまえばいいのだ。これなら魔力消費を気にせず、強力な高純度ミスリルゴーレムを運用することができる。オリハルコンゴーレムでもそこは同じで、その実現には完全自律行動化が必須となる。
もちろん、これらはとても難しいことだ。前世の僕が生前研究した中に"アーティフィシャル・インテリジェンス"という、魔法陣を刻んだものに人工の知能を与える魔法があるのだけど……ハッキリ言って完成度が低い。現状で自律行動となるとただ剣を振るだけ、ただ盾を構えるだけのゴーレムしかできない。
技も何もあったものではなく、さらに言えば敵味方の区別すら付いていないゴーレムができあがるだろう。そんな危険なものを戦場に持っていくわけにはいかないのだ。
「確かに難しいことだけど、いつかはやらなければならない。ならば、いつやるか。
……それは、今しか無いんだ」
もう間もなく、ヴィルヘルム帝国への反攻作戦が始まる。少なくともそこに、この高純度ミスリルゴーレム作成を間に合わせたいのだ。
だから、早急にアーティフィシャル・インテリジェンスの魔法の完成度を高める必要があるんだけど……この魔法、実は地属性魔法ではなく、闇属性魔法の領域になる。
前世の僕は、ほぼ地属性1本の魔法士だと周囲から思われていたようだ。基本的に地属性の魔法しか使わず、研究成果も地属性魔法に関するものが大半だったからだ。
……だからこそ、前世の僕は闇属性魔法を自らの切り札として密かに研究していた。ゴーレム魔法はその成果の1つであり、徹底的に闇魔法の気配を隠す構成の魔法陣となっている。プロが見ても地属性魔法だと勘違いするくらいに、その隠形は洗練されているわけだ。
ゴーレムの遠隔操作には、闇属性魔法による簡易人工知能の補助が必須だからね。右膝の関節を5°動かして、右腕の肘を3°動かして……なんて1つ1つ細かく指示を出していたら、ゴーレムなんてまともに動かない。その点を周囲に悟られないように、ゴーレム魔法は作られているわけだ。
「………」
……そしてもう1つ、実は結構深刻な問題がある。
「……やっぱり、魔石が要るね。魔法陣を刻み込むための魔石……それも、高ランクモンスターが落とす闇属性の魔石が」
ダンジョンに出現するレムレースは、そのほとんどが野生に生息するモンスターを模した存在だ。ホブゴブリンやスモールボア、オークといったメジャーなレムレースは、当然のように野生のモンスターとしても存在している。
そして、モンスターはアイテムを落とさない。代わりに体内には魔石があり、モンスターの種類によって様々な特性を帯びているわけだ。
「自律行動を可能にする魔法は、闇属性の魔法……だからこそ、魔石も闇属性を帯びたものでなければならない。
そこにアーティフィシャル・インテリジェンスの魔法陣を仕込み、ミスリルゴーレムに埋め込む。各関節とは魔力伝導率の高い材料で繋ぎ、ミスリルゴーレムが自ら考えて体を動かし行動できるようにする。
……できれば地・闇属性混合の魔石を使うのが最適なんだけど、そんなモンスターは超高ランクにしか居ないからなぁ……」
Sランクモンスターである、マッドネスドラゴンとかね。別名"呪泥竜"とも呼ばれるモンスターで、ディオニソス大陸のど真ん中を南北に貫くガディエル山脈、そのすぐ西にある狂乱の泥沼と呼ばれる地域に生息している。
この狂乱の泥沼は、あまりに過酷な環境ゆえ人が立ち入ることができない土地となっている。強酸性を帯びた沼からは精神を侵す猛毒の霧が常に発生し、周囲一帯を覆っているらしい。マッドネスドラゴンも存在こそ確認されてはいるものの、その行動パターンすら定かではないのだ。
「さすがに、そこまで高ランクの魔石は用意できないかな」
ここでBランクモンスターの魔石があれば、かなりのものが作れるだろう。Cランクモンスターの魔石でも大丈夫だけど、多少は動きが鈍くなってしまうと思う。
……でも、現実的に考えてCランクモンスターの闇属性魔石が落とし所かな。Bランク魔石ですらそうそう出回らないのだから。
「……Cランクの闇属性魔石、あるよね?」
王立魔法士学校なら、Cランクの魔石くらいはありそうだ。ヨハネス研究室にも地属性のCランク魔石がゴロゴロしてるくらいだし。
……ただ、そこには1つ問題がある。
「僕が闇属性も相当使えるってことが、バレてしまうな」
多少は使える、程度の認識ならまだいい。どうせ脅威にはなり得ないだろうと、相手も警戒を緩めるからだ。
……だけど、相当の使い手だとバレてしまったら?
「隠し玉の意味が無くなっちゃうからね……」
できるだけ、僕が闇属性魔法も使えることを隠したいところだ。
「……エリオス様、よろしいでしょうか?」
「ん? ティアナ、どうしたんだい?」
「それでしたら、私が使いに出ましょうか? 私が間に入れば、気付かれる可能性は多少低くなるかと」
「………」
……確かに、ティアナの言う通りかもしれないね。
「……よし、それならお願いしてもいいかな? Cランクの闇属性魔石を1個、どこかで調達してきて欲しい」
「かしこまりました! それでは、早速動きますね!」
一瞬で笑顔になったティアナが、個室から飛び出していく。
……よし、僕は今のうちに魔法陣の改良作業に入ろうかな。今日1日で、せめて敵味方を判別する方法を作り上げないとね。
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