2−24:戦いの足音、近付く
ギルドでの用事を済ませて屋敷に帰り着き、そこでゼルマとフランクと別れる。休養日にも関わらず対応してくれたので、2人には換金して得たペルナや報奨金などを3等分して渡した (ティアナにも渡そうとしたけれど、本人は受け取ってくれなかったので何かしらのプレゼントとして別途渡そうと考えている)。
……本当はパワーリングⅠとかも渡そうとしたんだけど、それは2人に固辞された。ゼルマには『1個ならともかく、複数個はさすがにヤバい奴らに目を付けられかねないっす。探索者の中にはそこそこ強いクセに倫理観終わってる奴らも居るっすから、今はまだナチュラルな状態の方が安全っす。だから受け取れないっす』と言われたし、フランクにも『……いざとなれば、アーティファクトに頼る時もあるかと思いますが。今はまだ、その時ではないかと。それらは、エリオス様が有効にお使いください』と言われた。なので、2人の分はマジックバッグⅠの中にキープしてある。
ティアナにもマジックリングⅠをたくさん用意したいところだけど、これは残念ながらパワーリングⅠ・スピードリングⅠとの3択ドロップとなる。3種の指輪の中では入手性が最も悪いので、ダンさんのところに定期的に通いながら数を揃えていきたいところだ。
……そうして、その日の夜。父上・母上と一緒の卓を囲み、マナーに厳しい夕食会が終わった。その後はしばらく、歓談の時間となる。
このタイミングであれば、父上に報告もしやすい。マジックバッグから指輪型アーティファクトを取り出し、それを父上にお見せすることにした。
「む? それが今日の戦利品か、エリオスよ」
「はい、父上。本日は第10層まで探索を進め、オークとも刃を交えました。その道中でボス部屋を周回し、指輪型アーティファクトを多数手に入れております」
「なるほど、その緑色の指輪はスピードリングⅠだな? まさか5個も集めるとは……もう1つの黒い指輪は、もしやマジックリングⅠか? フォルクハルトも集めているらしいが、数が少ないと嘆いておったな」
さすが父上、僕では鑑定しないと分からないのに、一目見ただけで分かってしまうとは。
聖騎士団はアルカディア王国の主戦力だから、戦闘力を底上げできるアーティファクトの情報には人一倍敏感なのだろう。パワーリングやスピードリングはその代表格だから、種類の違いにも父上はすぐ気付いたに違いない。
……そして、当然ながら王国魔法士団はマジックリングⅠを集めている、と。ランクⅡやⅢのリングは非常に希少だから数が揃えられず、さりとてランクⅠのリングがよく出るかと言われればそうでもなく……数を揃えようとすれば、莫大なお金がかかってしまう。実際に前線で戦う人たちは当然として、後方で装備品を調達する人たちにとっても頭の痛い問題だろうね。
「はい。父上のおっしゃる通り、こちらがスピードリングⅠで、こちらがマジックリングⅠとなります。マジックリングⅠは確実に入手できるあてがありますので、あと2つほど集めようと考えています」
「……ランクⅠとは言え、それほどの数のアーティファクトを集められるのはエリオスくらいのものであろうな。ところで、パワーリングⅠはいくつ持っているのだ?」
「パワーリングⅠでしたら、30個ほど持っております」
「そうか……」
父上が、腕を組んで考え込み始めた。
……どうしたんだろう? 何か、言うかどうかを迷っているように見えるけど……。
「……実は、そろそろヴィルヘルム帝国との戦いに新たな動きがありそうでな。完全に膠着した北の戦線……それを揺り動かす一手を、国王陛下の命のもと打ち込もうとしているのだ」
「なるほど……」
「まもなく、アルカディア王国聖騎士団の訓練が完了する。そしてヴィルヘルム帝国側は現在、5年に渡るゲリラ攻撃によって補給路が寸断され、防衛能力が落ちている状態だ。そこを一気に叩く」
「………」
ヴィルヘルム帝国に北の領地を奪われてから、約5年。それほどの長きに渡り、ヴィルヘルム帝国軍を相手に組織的なゲリラ攻撃を続けられる。そんな集団がまだかの地に居たんだね。
……その影響で、前線のヴィルヘルム帝国軍は深刻な物資不足に陥っているという。どれほど精強な軍隊であっても、十分な物資が無ければ力を発揮できないからね……侵略する側にとっては、頭の痛い問題だろう。
そしてこれまでは、アルカディア王国聖騎士団の精鋭を帝国軍の奇襲で失っていたために、攻めるに攻められない状況が続いていたが……それが、ようやく解消されてきたってところかな。
「此度の戦は、エリオスにも声が掛かるかもしれぬ。心の準備はしておいてくれ」
「はい。この勲章を賜った時より、既に覚悟はできております」
片剣銀翼章を頂戴した時点で、既に戦場へ赴く覚悟はできている。
……僕はもう、ただの10歳の小僧じゃない。国王陛下より直々に勲章を頂き、王立魔法士学校にも入学している。この時点で僕は立派な予備役……つまり、正式にアルカディア王国の軍属となっているわけだ。
年齢がどうの、というのは全く理由にはならない。今ある力を尽くして、王国のために戦うことが僕の役目なのだ。
「……ふっ、良い目だ。エリオスならば安心だな。しかし、まさかエリオスの初陣がランベルトと同時になりそうだとは、思いもしなかったがな」
「なんと、ランベルト兄上もご出陣なさるのですか?」
「ああ、その予定だ。さすがに最前線で戦うわけではないが、後詰めとして戦場に入る予定となっている」
ソリス男爵家の長兄、ランベルト兄上。未だ18歳の身でありながら、騎士としての実力は既に王国でも指折りのものを持っている人だ。実力ではまだまだ父上に及ばないものの、あと2年もすれば確実に追い越すと言われている。
……ただ、父上曰く『剣技の冴えは私以上だが、将として優れているかと問われれば疑問が残る。百の兵を率いることはできても、千や万の兵を統率するだけの器は持ち合わせていないだろう』とのこと。良くも悪くも、兄上は優れた騎士なのだ。
そして、兄上はそのことにまだ気付いていない。騎士に求められる能力と、それらを率いる将に求められる能力は全く別のものなんだけど……騎士として優れていれば、将としてもすぐ一人前にやっていけるだろうと。兄上はそう考えている節がある。
その時点で、兄上が将に向いていないのは明白だ。現場部隊長としては有能だと思うけど、そこは一番死傷率の高いポジション……次期当主となる可能性が一番高いランベルト兄上に、それを任せるのは難しい。父上もそのことには気付いており、どうするか悩んでおられることも僕は知っている。
貴族家当主が一騎士という立場では、メンツが立たないのだ。最終的には父上の判断となるけど、良い形に収まればいいな……。
「……そこで、エリオスに相談なのだが。今エリオスが持っているパワーリングⅠを、全て買い取らせてもらうことはできないだろうか? もちろん、代金は相場価格で用意しよう」
「え? ええと……はい、大丈夫です」
「ありがたい。では……」
「セバス、すぐに用意を」
「かしこまりました」
父上が言うより先に、母上からの指示が飛ぶ。セバスが扉を開けて更に指示を出すと、誰かが返事をするのが聞こえた。
……パワーリングⅠは、1つ50万ペルナが相場だ。それが30個で1500万ペルナ、父上なら確かに払えなくもないけど……今回は、それが問題なのではなく。
「僕はまだ10歳なのですが、そのような大金を持たせて頂いても大丈夫なのでしょうか?」
1500万ペルナもあれば、色んなことができてしまう。早いうちにそのような大金を得てしまえば、金銭感覚がおかしくなってしまう可能性もある。
……その辺りを、父上と母上はどのように考えておられるのだろうか?
「エリオスならば大丈夫だろう。私はそう確信している」
「私も、ですよエリオス」
……父上と母上は、僕のことをかなり信用してくださっているようだ。ならば、ここで返すべき言葉は1つ。
「ありがとうございます。王国のため、民のため、大切に使わせて頂きます」
「うむ、頼んだぞ」
父上が大きく頷く。どうやら僕の返答は正解だったようだ。
……なればこそ、動くのは早い方がいい。来たるべき戦に備えて、準備を進めていこう。
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