2−21:第10階層
階段を下り、遂に僕たちは第10階層へと下り立つ。ここを通り抜ければ、奥に転移装置があるはずだ。通路にはEランクのレムレースも出てくるようになるし、油断はできない。
……とまあ、意気込みは十分にあったつもりなんだけどね。
「……人が多いですね」
「第10階層は大体いつもこんな感じっす。転移装置が近いっすからね、良い狩場っすよ」
「……通路にはホブゴブリン、ボスはオークが出るので、探索者には結構人気があります。休養日でなければさすがに人は少ないのですが、それでも人出が絶えることはありません」
「そっか、ホブゴブリンはポーションを確定ドロップするもんね。確かオークもだったかな? 全員が回復魔法を使える魔法士をパーティに入れられるわけじゃないし、リスクを抑えつつ経験値もお金も稼げるわけか」
第10階層に着くと、通路には見える範囲だけでも結構な人数の探索者が居た。どこまでも静かだった第9階層とは、まさに雲泥の差だ。ここからが本当のダンジョン探索ってわけだね。
……第9階層までにほとんど探索者が居なかったのは、無謀な者は第10階層へ辿り着けずに淘汰されるからなんだろうね。命を落としてしまったら次の探索なんてできやしないのだから、人数が少ないのも納得だ。
そして、ここから先に居る探索者はその合格ラインを越えた者たちだけ。レムレースの強さが上がるのと同時に、そこに居る探索者のレベルも上がるってわけだ。
「ふう、ポーションゲットっと……ってうおっ!? なんだなんだ!?」
と、1番近くでホブゴブリンを倒していた探索者パーティの1人がギョッとした顔でこちらを見た。
周りにブロンズゴーレムの一団を引き連れているから、僕たちの姿はとても目立つ……そう、悪い意味で。ランドルフ殿や銀狼の面々はそこまで気にしてなかったけど、こんな人数でパーティを組む奴なんて滅多に居ないからね。
「第10階層へは初到達って感じだな。それにしても随分ゾロゾロと引き連れてやがる」
「サイテーね、パーティ人数は最大でも6人くらいに抑えるのがマナーだってのに」
「なんだ、通路のレムレースを独占する気か?」
そう、つまりはこういうことだ。ダンジョンは通路がそこまで広くなく、レムレースだって大量に居るわけじゃない。人数をかけてしまえば、ほとんど占有みたいな状態にもっていくこともできてしまうわけだ。だからこそ、パーティの人数は6人くらいまでにするのが暗黙の了解となっている。
……まあ、最深到達階層記録を更新しようとする人たちはその限りでないらしいけどね。普通に100人規模のパーティを結成するし、それでも10階層分を踏破できるのは10人以下とかいう地獄らしいのだから。
「あいつら……! エリオス様はそんな人じゃないっすよ!」
「どうどう、落ち着いてよゼルマ」
「しかし……!!」
「彼ら彼女らの言うことはもっともだ。今の状況だけ見たら、僕が金に飽かせて大量に傭兵を雇った不心得者にしか見えないだろうさ。
……だからこそ、こうするわけだ」
――ガシャッ!!
「「「「!?!?」」」」
身に付けていた兜のバイザーを、全てのゴーレムに上げさせる。そこに、青銅製の明らかに人ではない顔面が現れて……ようやく、僕の周りを囲む重装騎士が人ではないことに気付いたようだ。
「これ、全部僕の魔法なんだよね。32体とも、僕が操る金属製のゴーレムなんだよ」
「「「「………」」」」
あれだけ騒がしかった通路が、シーンと静まり返る。
(……ちょっとやり過ぎたかな? でも、探索者は舐められたらおしまいだからね)
「ふふ、試しに戦ってみるかい? 1体1体がレベル30の戦士くらいの実力を持つ、僕特製のゴーレムだよ?」
「れ、レベル30だって? い、いや、遠慮しとくよ」
そこに居る探索者の顔が一様に歪む。
……まあ、実際はレベル30どころじゃなくて、もうちょっと強そうなんだけどね。その辺は制御する僕次第なところはあるかな?
「……というわけで、通路に出てくるEランクレムレース程度に用は無いんだ。今日はさっさとオークに挑戦してから、転移装置を使って戻るつもりだ。第10階層は初めてだからね」
「「「「………」」」」
「というわけで、お先に失礼しますね〜」
――ガシャッ! ガシャッ! ガシャッ!
唖然と立ち尽くす探索者パーティの横を、僕たちはゆっくりと通り過ぎていく。
◇
ボス部屋と転移装置を目指す道中でも、第10階層では結構な人数の探索者を見かけた。そのせいか、途中で1度もレムレースに出くわすことなくボス部屋の前まで来ることができた。
「「「「………」」」」
そして、ボス部屋の前には人、人、人……他の階層では絶対に見かけない、ボス部屋に挑む探索者たちの順番待ちの行列ができている。大体8パーティくらいかな? 皆それなりに腕には自信がありそうな顔をしている。
「これって、いつもこうなの?」
「そうっすね。休養日でなくても、2〜3パーティは待ってるのが普通っす」
休養日だけの光景かと思えば、ゼルマ曰くそうでもないらしい。普段からこうなら、ここのボス部屋で20連勝ボーナスを狙うのは難しそうだ……。
「第11階層のボスもオークっすけど、それに挑むくらいならもっと奥に行くってんで、そっちはわりと空いてるっす」
「……鈍重かつ遠距離攻撃を持ちませんから、2体でも3体でもあまり変わらないタイプの相手ですね。そこがスモールボアとの違いかと」
「でしたら、次の探索の際は第11階層のボス部屋に直行した方が良さそうですね」
「う〜ん……まずは、オーク2体に勝てるかどうか試さないとね。よし、早速並ぼうか」
第11階層のボス部屋はオークが3体出てくるらしいけど、ここで試してみて大丈夫そうなら次はそっちに回ろうかな?
「お〜、ようやく私たちの番っすね」
「初めてだよ、ボス部屋に入るのにこんなに待ったの」
ボス部屋前の行列に並ぶこと、約20分。ようやく僕たちのパーティが1番前までやってきた。
……後ろをチラッと見ると、探索者がまだまだズラリと並んでいた。どうやら皆、オークに挑戦するらしい。
そして、全員がブロンズゴーレム軍団を見て目を丸くしていた。さっきの反省を活かしてバイザーを上げたままにしているので、さすがにマナー違反を指摘するような人は居なかったけどね。
――ガチャッ!
「あ、俺たち終わったんで次の人どうぞ〜」
「お疲れ様です。さあ、入ろうかみんな」
「了解です!」
「了解っす!」
「……了解しました」
前の人たちがボス部屋から出てきたタイミングで、入れ替わるようにボス部屋の中へと入っていく。初のDランクレムレース戦……うん、とっても楽しみだね。
「散開せよ!
……よし、ゼルマ扉を閉めて!」
「了解っす!」
――ガチャッ!
――パァァァ……
素早くブロンズゴーレムをボス部屋中に散開させる。そうしてゼルマに扉を閉めてもらうと、光の柱が2本立った。スモールボアのそれよりも少しだけ柱が太い気がする。
スモールボア戦の時と同じく、近くにいるブロンズゴーレムは光の柱に急行させる。それ以外のブロンズゴーレムは僕たちの近くに集めて、迎撃体制を取らせた。
……そして、オーク2体が実体化する。
「「ブゴォ」」
――ズババッ!!
「「ブギィッ!?」」
棍棒を掲げて咆哮を上げようとしたオーク2体目がけて、四方八方からブロンズゴーレムが刃を振り下ろす。その全てをまともに食らい、オークの体には深い斬り傷がいくつも刻まれた。
「「ブ……ギ……」」
――パシュゥゥゥ……
オークは豚鼻の太った人型の魔物で、明らかに前衛タイプのタフそうな相手だったけど……足、腕、胴体、そして頭と斬られてしまっては、さすがに耐えられなかったらしい。あっという間に地面へと倒れ伏せ、それぞれポーションをドロップして消えてしまった。
「……いや、これじゃあスモールボアと全然変わらないじゃん」
「「「………」」」
つい、感想が口をついて出てしまう。マックスさんが言っていたことは、どうも事実に限りなく近かったらしい。
もっとも、初手で倒し切れなかった時は相当大変だろうけどね。チラッと見た感じでは、オークはブロンズゴーレム2体分くらいの体幅があったし……持っていた棍棒も、ホブゴブリンのそれの3倍近い太さがあった。さすがのブロンズゴーレムでも、オークの一撃を貰えば大損壊は免れないだろう。
それでも、3体くらいが相手なら何とかなると思う。次に探索する時は、第11階層のボス部屋に行ってみようかな。
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