2−20:新たなる指輪型アーティファクト
「じゃあ、またな」
「はい、また会いましょう」
「……また」
ボス部屋の前で、マックスのパーティと別れる。マックスたち5人は階段を下りて、第10階層の方へと向かっていった。
……さっきまで色々と話を聞いていたんだけど、マックスたち5人は"銀狼"という名前で活動する探索者パーティで、それなりの実力と堅実な行動方針を持っているらしい。マックス談なので話半分くらいに聞いていたんだけど……ボス部屋から出てきた時にほとんど怪我をしていなかったから、余裕を持った探索をしているのは本当だと思う。
別れ際に『また会いましょう』と言ったけど、別にリップサービスとかそういうものじゃない。パウラという一流魔法士のタマゴと知り合いになれたのは僥倖だったし、彼女とはできればまた会って話をしたいと思っている。
可能なら、彼らのパーティごとパウラをソリス男爵家私兵団に迎え入れたいところなんだけど……特にマックスは、あまり貴族に良い感情を持っていないようだったからね。その辺は慎重に考えていく必要があるかな。
あと、これは僕の勘でしかないんだけど……彼ら彼女らとは、意外とまたすぐに会えそうな気がしている。
「さて、僕たちは第9階層のボス周回を始めよう。皆、準備はいい?」
「もちろんです、エリオス様」
「いつでもいけるっすよ〜」
「……俺も、準備万端です。ボス部屋に入りましょう」
早速全員でボス部屋に入り、ブロンズゴーレムを散開させた後に扉を閉める。
……部屋内に光の柱が4本立つ。その近くに居たブロンズゴーレムは駆け寄らせつつ武器を構えさせ、距離の遠いブロンズゴーレムは僕の周りに集合させていく。突進攻撃をケアしつつ、スモールボア出現直後の隙を狙うための布陣だ。
「さあ、1回目のボス戦を始めよう」
――ガシャッ!
光の柱のすぐ近くで、ブロンズゴーレムたちが剣を振り上げる。
「「「「ブゴ」」」」
――ドシュッ!!
「「「「ブグッ!?」」」」
同時に4体、ボス部屋に出現したスモールボア。咆哮を上げようとしたその瞬間、無防備な喉元へと剣を突き立てた。
いくら脚が弱点とは言え、それ以外の部位に全く攻撃が通らないわけじゃない。さすがに頭部は固いけど、お腹や喉元なら普通に攻撃は通る。突進攻撃のすれ違いざまでは狙いにくいだけだ。
「「「「ブ……ギ……」」」」
――バタッ
――パシュゥゥゥ……
哀れ、戦闘開始から約10秒ほどで、スモールボア4体は何もできないまま倒れる。後には小さなボアレバー2個だけが残った。
「あ〜、3体も4体も変わらないっすね」
「……油断は禁物、なのでしょうが、圧倒的すぎて緊張感が保てないですね……」
「スモールボア如き、もはやエリオス様の敵ではないようですね」
ボアレバーをブロンズゴーレムに拾わせていると、皆がリラックスした様子で言葉を口にする。
……なんというか、遂に作業感みたいなのが出てきてしまったね。ダンジョン探索に慎重さは大事だし、安全第一なのは間違いないんだけど……ここまで負荷が軽すぎるのも、さすがに問題なのかもしれない。
スピードリングⅠはある程度まとまった数が欲しいから、たまにここでスモールボア戦を周回するつもりだけど……さすがに次回探索からは、オーク戦を中心にシフトしていった方がいいだろうね。スモールボアではなかなかレベルが上がらなくなってきたし、いい加減次のステップに進んだ方がいいだろう。
◇
――ザシュザシュッ!
「「「「ブギィッ!?!?」」」」
――パシュゥゥゥ……
第9階層のボス部屋に来てから、これで79回目のスモールボア戦……今回も開始直後の攻撃が成功し、僕たちの完勝で戦いは終わった。
「楽っすね。これでお給金なんか貰っていいっすかね……」
「……後詰めも、大事な役割だ。我々が暇なのは良いことだ、誰も怪我していないことの、証拠なのだから」
「さすがはエリオス様ですね」
もはや3人も、武器を構えつつも半ば観戦モードだ。時折武器を動かしているので、何かあれば行動できるよう準備はしているのだろうけど……結局は何も起きない時間が、淡々と過ぎていた。
「………」
次で80回目の戦闘だ。これに勝利すれば、再び連勝ボーナスをドロップするだろう。
ここまでは、パワーリングⅠ・スピードリングⅠ・スピードリングⅠの順にドロップした。運良く2つもスピードリングⅠを入手でき、先の戦利品と合わせて3つのスピードリングⅠが揃った。これだけあれば、それなりに能力を補完できるだろう。
……そして、未だに新種ドロップは姿を見せていない。そろそろ、新しい指輪型アーティファクトが出てくると思うんだけどね……。
「よし、ゼルマ、外を確認してから扉を開け閉めしてくれるか?」
「オッケーっすよ」
ゼルマが扉を開けて、外の様子を確認し……何も無かったのかそのまま閉めた。ボス部屋に4本の光の柱が立つのを見て、すぐにブロンズゴーレムを駆け寄らせる。
「「「「ブギ」」」」
――ドシュドシュドシュッ!!
「「「「ブギッ……!?!?」」」」
喉元を剣で裂かれたスモールボアが、白い粒子となって消えていく。後にはボアレバーが1つだけ残り、今回もまた咆哮を上げている間に討伐が完了した。
「……おっ、きたきた」
少し間を置いて、銀色の指輪が1つドロップする。遠目で見ても、パワーリングやスピードリングとは違う気配が漂ってくるな……これは、遂に当たったかな?
「………」
早速指輪を拾い上げて、鑑定を試みる。
……感じるのは、微弱な闇の魔力。先のパワーリングⅠやスピードリングⅠとは、纏う雰囲気が明らかに異なることが分かった。そして、この効果は……。
「……マジックリングⅠだね、これは」
「おお、ようやく出たっすね」
魔力を底上げする効果を持つ、指輪型アーティファクトの一種だった。今の僕やティアナには必要な逸品だ。
「………」
「……? どうなさいましたか、エリオス様?」
「ああ、ちょっと気になることがあってね。もう少しだけ、深く鑑定してみる」
マジックリングⅠを鑑定した時の感触に、少しだけ違和感があった。なので、もう少しだけ探ってみる。
……そして、違和感の正体はわりとすぐに掴めた。
「……多分だけど、魔力の自然回復を促す効果もあるね。無いよりはマシ、程度の効果しかないみたいだけど」
「えっ、それでも凄いことではありませんか!?」
「まあね。僕ら魔法士にとっては、垂涎物の効果だ」
魔法士は、魔力が無くなればただの人だ。一般人よりは戦えるだろうけど、魔力切れは戦闘能力を大きく損なってしまう。だからこそ、魔法士は魔力残量を常に気にするものなのだ。
「マジックリングⅠも集めないとね」
これで、スモールボア4体を周回する理由が増えたね。第10階層の転移装置から来れば、すぐに挑戦できるのでありがたいところだ
「……おっ、レベルが27に上がったみたいだ。スモールボアを400体近く倒して、ようやく1つレベルが上がるんだね……」
「さすがの創造様も、いい加減Dランクのレムレースと戦えって言ってるんじゃないっすか? 私らは全然レベルが上がらなかったし、明らかにレベルアップの速度が鈍ってるっすよ」
「でもこれ、単にスモールボアの経験値が少ないだけじゃないね。得られる経験値が減衰してる気がする」
「……確かに、そんな気はしますね」
スモールボアとオークを比べて、オークの経験値が何十倍も多いとはさすがに思わない。もしそうなら、どこかのパーティに寄生して強い敵をひたすら倒してもらう……みたいな方法がレベルアップの最高効率になってしまうからだ。
しかし、現実はそうじゃない。おそらく、何かしらの条件を満たした場合は本来得られるはずの経験値が減衰するのだろう。それがいわゆるレベルの壁というもので、レベル20に達するとEランクの敵では相手として弱すぎるため、得られる経験値が大きく減ってしまっているのではないかと考えられるのだ。
もちろん、その逆もまた然り。自身のレベルよりも強すぎる相手との戦闘では、ちょっと参加したくらいでは全くレベルが上がらないと聞いたことがある。たまに聞く"凄すぎて参考にならない"という感覚に近いのだろう、身の丈にあった相手と戦うことがレベルアップに繋がっていくのかもしれないね。
「よし、今日はこんなところかな。最後にオークと戦ってから、第10階層の転移装置を通って探索は切り上げよう。
……帰りにダンの所へ寄っていきたいからね。また案内を頼むよ、ゼルマ、フランク」
「よっし、待ってましたっす! ダンの件も了解したっす!」
「……了解です。オークなら、相手にとって不足無し、です」
「どんな相手なのでしょうか?」
――ガシャガシャッ!!
ボス部屋を出て、第10階層へと向かう。ここからは通路のレムレースもEランクが出現するようになり、難易度が1段階上昇する。
……さて、Dランクのレムレースの強さ。見せてもらおうかな。
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