2−16:創造神様の手抜き
――ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
「………」
ブロンズゴーレムを周りに引き連れ、階段を下りて第6階層までやってきた。
……うん、いい感じだ。もはや階段の上り下り程度では、ブロンズゴーレムを32体操作しても疲れなくなってきたね。これなら64体同時操作もいけそうな気がするよ。
「エリオス様、第6階層はどのような地形なのでしょうか?」
「あ、ちょっと待ってね……」
周囲を軽く見回してみる。
……近くにレムレースは見当たらないけど、念のためブロンズゴーレムで壁を作っておく。そうして安全を確保しておいてから、地図を取り出して確認する。
「ええと、第6階層の地形は……あれ?」
地図には、真っすぐ一本道の通路が書かれていた。罠が仕掛けられている点は違うけど、これってもしかして……。
「第1階層と同じ……ああ、そうか。第6階層から第20階層までは、第1〜5階層の地形をループするんだったっけ?」
「……はい、その通りです」
何かの本で読んだ記憶があったので口にすると、フランクが補足してくれた。
ダンジョンの第6階層以降では、第1階層から第5階層までをそのままループさせたような地形が続くらしい。ダンジョンを創り出した創造神様の手抜きだとか言われてるけど、ほとんどの探索者からは地形を覚えやすいので好評なんだとか。
……まあ、ダンジョンの本番は第21階層かららしいからね。そこから先は入るたびに地形がランダムで変わり、罠配置も完全ランダムになる。更に罠は不可視化されていて、出現するレムレースは遥かに手強くなるそうなのだ。
そこから考えると、第20階層まではお試しというか、ダンジョン探索の練習みたいなものなんだろう。だから神様も、ダンジョンを作る時に第20階層まではあまり力を入れなかったのかもしれないね。
「罠の位置も地図に書いてあるんだけど、一本道だから目印が無いんだよね。足元をよく確認しながら、慎重に進んでいこう」
「了解しました、エリオス様」
「了解っす」
「……了解しました」
「あ、そういえばここから新しいレムレースが出てくるみたいだね」
「ああ、レッサーインプっすね」
第6階層からはバットとコボルドに加えて、新たにレッサーインプというレムレースが出てくるようになる。小さな悪魔のような見た目をしていて、ファイアボールを放ってくるダンジョン初の魔法攻撃型レムレースであるらしい。
「でも、そんなに強くないっすよ。ファイアボールも2発撃てば魔力切れになるっす」
「……俺なら、素手でも振り払えるレベルの、火力です」
「なるほど、それならブロンズゴーレムで受けても大丈夫そうだね」
よっぽど高火力なら話は別だけど、フランクが素手で対処できる程度ならブロンズゴーレムが致命打を受けることにはならないだろう。油断は禁物だけど、普通に戦えば問題は無いかな。
……僕の想定では、第9階層までは同じ感覚でいけると考えている。次の第7階層からゴブリンアーチャーという、弓を扱うモンスターが出てくるそうなんだけど……こいつもFランクの敵だ。攻撃力はそこまで高くないらしい。
同じく第7階層から出てくるゴブリンアーミーと連携して、こちらがアーミーに手こずっている間に矢を射掛けてくるそうなんだけど……ブロンズゴーレムに、そんな半端な攻撃が通じるわけがない。ひたすらゴーレムを突撃させる、という究極の脳筋戦法で十分対応できると思う。
むしろ、第10階層からが問題だね。第1〜3階層までのボス部屋で出てきたホブゴブリンが、第10階層からは普通に通路で出現するようになるらしい。ボスはDランクのオークだし、第10階層からはボスもザコもレムレースの強さが1ランク上がるわけだ。
さて、そこでもブロンズゴーレムは通用するのだろうか? ボス部屋でホブゴブリンやスモールボアと戦った感触を見る限りでは、大丈夫だと思うけど……。
――ゴォッ!
――ガシャガシャガシャッ!!
「……ん?」
僕たちのことを、壁になって守ってくれているブロンズゴーレムたち。その内の1体から、炎が当たって炸裂するような音が聞こえた。
その音に反応して、ブロンズゴーレムたちが次々と戦闘態勢を取り始める。待機状態の時に敵から攻撃を受けた場合、僕の指示を待たずに反撃するようブロンズゴーレムには設定してあるんだけど……その機能がうまく働いていることを、図らずも自身の目で確認することができた。
「キキィッ!?」
ブロンズゴーレムの向こう側から、耳障りな甲高い鳴き声が聞こえてくる。おそらくは炎を放った下手人、レッサーインプがそこに居るのだろう。
ただ、その鳴き声には焦燥感が籠もっていた。軽く攻撃を仕掛けたつもりが、30体以上のブロンズゴーレムから一斉に敵意を向けられたのでは焦るのも仕方ないかもしれないね。
――ガシャガシャ!
――ズバババッ!!
「ギァァァッ!?」
駆け寄ったブロンズゴーレムが次々と斬撃を放っていく。
……レッサーインプから、断末魔の叫び声が聞こえた。そこで全てのブロンズゴーレムの動きが止まったので、どうやらレッサーインプを倒すことができたようだ。
「………」
レッサーインプが倒れたであろう場所を見てみたけど、特に何もドロップしていなかった。キュアポーションⅠを25%くらいの確率でドロップするらしいんだけど、今回は縁が無かったようだね。うーん、残念。
あと、レッサーインプのファイアボールを受けたであろうブロンズゴーレムの様子を見てみたけど……そちらは、表面に僅かな焦げ跡がある程度だった。ヒビも溶解跡も全く無く、ほぼノーダメージと見ていいだろう。ゼルマとフランクが言った通り、魔法攻撃力はそこまで高くなさそうだ。
……それよりも問題なのは、レッサーインプの不意打ちを許したことだ。少なくとも、ファイアボールが着弾するまで音の1つも聞こえなかった。攻撃の予兆が全く感じられなかったわけだ。
ブロンズゴーレムに遮られてレッサーインプの姿が見えず、そのまま攻撃されたのが理由かもしれない。いくら【魔眼】でもゴーレム越しに魔力を見ることはできないので、効果を発揮させるなら対象を直視する必要があるのだ。だからこそ、背後からの攻撃に対しては警戒レベルを引き上げておく必要があるだろう。
「前後をブロンズゴーレムで隙間無く固めるか? ただ、それで罠まで見えなくなるのはちょっと怖いな……。
……よし、それならこうしよう」
――ガシャガシャガシャッ!!
少しだけ悩んでから、32体のブロンズゴーレムの配置を組み替えていく。前方に16体、後方に16体を回しつつ、後方はブロンズゴーレムをビッシリと隙間無く並べていった。目が届きにくい後方については、ブロンズゴーレムに壁役を務めてもらうわけだ。
そして、前方は……古い兵法書において、鶴翼の陣と呼ばれる配置を参考に並べる。その1番凹んだ場所に僕が居て、前方を広く見渡しながらゴーレムを操作するわけだ。そこで危険と判断すれば、僕たちを守るようにブロンズゴーレムが前方を塞ぐ手筈となっている。
「さて、これで一旦先に進んでみようか」
「了解です、エリオス様」
「了解っすけど、これ私たちが居る意味あるっすか? 今さらっすけど……」
「……守りが固すぎます。ルーカス様でも、この陣を突破するのは苦労されるのでは……?」
フランク、それ多分正解だよ。父上に苦労を強いることはできるだろうけど、結局は突破されるだろうね。まだ試したことはないけど、なんとなくそんな気がする。
……そして、ゼルマは不正解だよ。君たちが居る意味、当然あるに決まってるじゃないか。
「複数人の目で確認してこそ、無事に帰れる確率は高まるものだよ。だからゼルマ、油断無く辺りを警戒すること。いいね?」
「わ、分かりましたっす!」
気を引き締め直した3人を連れて、第6階層を進む。ブロンズゴーレムの守りも完璧ではないし、僕だって決して完璧ではない。だから、人の目は多ければ多いほど良いのだ。
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