2−14:偉丈夫だらけの伯爵家
「すみません、念のため確認させてください。貴方はランドルフ・フォン・クライネルト殿でよろしいでしょうか?」
「むっ!? おお、その通りだっ! そういう君はエリオス・ソリス殿だなっ!?」
偉丈夫さん改め、ランドルフ・フォン・クライネルト殿が兜を取る。そこから短く切り揃えられた金髪と蒼眼が姿を現し、屈託の無い笑みを浮かべて僕を見ていた。
クライネルト伯爵家は、当主が王都守護騎士団の副団長職を歴任する軍事系貴族家の重鎮だ。その家系の男子は全員が恵まれた体格を持ち、例外なく優れた武勇を誇るという。
外から聞くだけだと、明らかに外征向けな人たちなのだけど……こうして会うと、なるほど王都の守護者として適任だと感じる。この目立つ風貌は、王都に住む善良な人たちにとっては安心感を得られるのと同時に……悪意を持つ者たちにとっては、常に見られている感じがしてこの上なくやりにくいだろうね。
それに、僕が聞いていたクライネルト伯爵家というのは裏表の無い豪快な家風で、およそ上位貴族らしくない振る舞いをする……ということだったのだけど。貴族として木っ端でしかない僕の顔を知っているということは、裏では上位貴族らしく情報収集を丁寧に行い、貴族家内で精査・共有できていることの証左だ。表向きの豪快さに勘違いしがちだけど、長年伯爵位を維持してきた実力は伊達ではないということだね。
「ありがとうございます、ランドルフ殿。僕のことをよくご存知でしたね?」
「当然であるっ! 軍事系貴族家の一員として、類まれなる功績を上げた同胞を知らぬことなどあってはならぬのだっ! それが王都守護に関わることならば、我らがクライネルト家にとってはなおさらであるっ!」
そう言うランドルフ殿の目に、悪感情は全く浮かんでいない。もしクライネルト伯爵家が、メンツを重視する貴族家であったなら……王都守護を司る者としてのメンツを潰した張本人として、多少なりとも僕を嫌悪する感情が浮かんでいたはずだ。それが全く無いということは、少なくともランドルフ殿は貴族としてのメンツではなく、王国にもたらされる実益の方を重視して行動できる人なのだろう。
つまり、彼は信用に値する人物ということだ。
「なるほど、この子が例の……」
「凄いよな、噂に聞くヴィルヘルム帝国の魔法士工作員部隊・ヘキサグラムを一方的に叩きのめしたんだろう? 相当な腕利きなんだろうな……」
黒髪の刀士ハルカ殿だけでなく、王都守護騎士っぽい鎧を身に着けた男性2人もボス部屋から出てきた。僕が言うのも変な話だけど、2人とも若いのでまだまだ成長途上の人たちに見える。ランドルフ殿を含めたこの4人がパーティを組んで、ダンジョン探索をしているようだ。
……それにしても、かなり強そうなパーティだね。【魔眼】ではない普通の目で見ると、純粋な武力ではランドルフ殿が1番上でハルカ殿は2番手。騎士っぽい男性2人に実力差はほぼ無く、ハルカ殿よりは下だけどゼルマやフランクよりは少しだけ強い。もちろん、僕と比べればかなりの格上だ。
さすがは軍事系貴族家の重鎮、クライネルト伯爵家だ。連れている人材のレベルが高い。潜在能力なら僕たちも負けていないけど、今はまだレベルが足りないかな。
「ふむ、エリオス殿よっ! 君の目から見て、我々はどのように映っただろうかっ!?」
ランドルフ殿が、今度は眼光鋭く僕に尋ねてくる。
……やっぱり気付いたか、僕が4人を品定めしていることに。お互いに軍事系貴族家の一員だから、思考パターンも似ているのかもしれない。こちらもちゃんと見ているぞ、という意味で釘を刺しにきたのだろう。
……そして、彼にはもう1つ別の意図があるようだ。しきりにハルカ殿の方へ視線をやっているので、その意図というのはハルカ殿と何か関係があるのだろうか。
「純粋な武力は皆さんの方が圧倒的に上ですね。しかし、魔法込みならば初戦は僕たちの圧勝、次戦があればやりようによっては互角……といったところでしょうか」
僕が見た通りの感想をそのまま述べる。確かに純粋な武力では勝てないけど、それは魔法を抜きにした場合の話だ。魔法込みならば、僕は初戦に限り4人まとめて相手にしても勝つ自信がある。次戦以降もほぼ互角に戦えるだろう。
【魔眼】で見た限りでは、ランドルフ殿のチームに魔法士としてやっていけるほどの魔力を持つ人は1人も居ない。【魔眼】に引っ掛からないほどうまく隠している可能性もあるけど、それは王家の影 (仮)のドライ殿クラスの技量があって、ようやく"そうじゃないか?"という話が出てくるレベルのものだ。そういう突き抜けた人物は一種独特の雰囲気を纏っているものだけど、4人にそこまでの雰囲気は感じないのでほぼ見た通りの印象で受け取っても大丈夫だろう。それなら、初戦は順当に僕たちが圧倒できるはずだ。
「……へえ。初戦は絶対に勝てる、とおっしゃるので?」
――シャラン……
「「「……!」」」
僕の言葉に反応して、薄ら笑いを浮かべながら刀を鞘から抜き放ち、その切っ先をこちらに向けるハルカ殿。その目には剣呑な光が宿っており、僕の後ろに居たティアナたち3人が武器を構える音が聞こえた。落ち着いた佇まいに見えたんだけど、意外と血気盛んな人なのかな?
……でもまあ、残念ながらその程度の圧で怯んだりはしないよ、僕は。父上やオズバルド本部長のそれに比べれば、大した威圧感でもないし……それに。
剣を抜いて、その切っ先をこちらに向けた時点で……王国法においては、反撃が許されるのだから。
「ええ、その通りですよ。だって気付いてないでしょう?」
「何が、でしょうか?」
「えっ、ちょっ、ハルカ様!!」
「………」
「ハルカ様、う、後ろを見てください!!」
「……一体なんですか、この子とお話ししていると……き……に………」
騎士っぽい男性たちに声を掛けられて、ようやくハルカ殿は気付いたみたいだな。
僕が既に、彼女の後ろ首元へアイアンスパイクの矛先を突き付けていたことに。エリーゼの時と全く同じで、僕の無詠唱魔法攻撃にハルカ殿は一切反応できなかったようだ。
「僕の魔法は無詠唱かつ極小音、初見で対処するのは極めて困難です。素の耐久力のみで鋼鉄の槍衾に耐えられるのであれば、この限りではありませんがね」
そんなことができるのは、Cランク以上の特に守りが固いモンスターくらいじゃないかな? 人なら少なくともハーフミスリル製 (50%ミスリル合金)の防具で全身くまなく覆うか、強靭な肉体を持つドラゴニュート族でないと耐えられないと思う。
……ちなみに、これは今の僕における話だ。前世の僕はAランクとされるモンスターでさえ悠々と蜂の巣にしていたから、レベルを上げればオリハルコン製の防具でさえも貫通できるかもしれないね。
「……がはははははっ! いやぁなるほど、これがヘキサグラムを討ち果たした魔法士の実力かっ! 確かにこれでは防ぎようがあるまいっ!」
ランドルフ殿が、心底愉快そうに大きな笑い声をあげる。これ、純粋に僕を褒め称えているように聞こえるけど……ランドルフ殿も食えない人だな、ハルカ殿を僕にけしかけたくせに。おそらくだけど、これが彼の狙いだったんだろうね。
僕が見た感じ、ハルカ殿は良くも悪くも直情径行な人だ。そして姿勢や隙の無さから、相当な鍛錬を積んでいることとかなりの刀の腕前を持っていることは一目で分かったけど……それゆえに、ハルカ殿は自分の実力に絶対の自信を持っているはずだ。厳しい鍛錬を積んだ自分が、少なくとも同年代以下の人に負けるはずがないと……本気で思い込んでいる節が見受けられた。
僕が『初戦なら圧勝できる』と言った瞬間に、刀を抜いたのがその証拠だ。あの行動には"そこまで言うなら試してみるか?"という、言外の意思が籠もっていたように僕には感じた。
……でも、それって戦う者にとっては致命的な欠点なんだよね。相手の力量を常に完璧に見極められるならともかく、現実にはそんなこと不可能なのだから誰が相手でも冷静に観察と考察を重ねて、退くか戦うかの判断を下さなければならない。それがハルカ殿にはできないのだ……少なくとも、自分が1度格下だと判定した相手にはね。
だから、僕みたいな初見キラーと当たってしまうと最悪だ。なす術なく敗北し、気付く間もなく終わってしまう。今回は僕が、彼女の命を奪うつもりまでは無かったから生きているだけで……これが戦場なら既に死んでいただろうね。
「……それで、どうしますか? 降参しますか?」
「………」
「僕はどちらでもいいんですよ? 刀を抜いて切っ先を向けた時点で、ハルカ殿は僕に対する敵意があると判断されますから。このまま僕の攻撃魔法が貴女の喉元を貫いても、王国法上正当防衛が成立します」
「……ま、まさか本当に」
「僕がやらないとでも? ヘキサグラムのヴェントゥスとルーメンだったかな、同じようにこの魔法で串刺しにしています。僕の大切な仲間に手を出そうとしたのでね」
――グググッ
埒が明かないので、鋼鉄のトゲをハルカ殿の首元ギリギリまで伸ばす。そうしてから、僕は返答を迫った。
「さあ、返事は?」
「……ま、参りました……」
――カラン、カラン……
刀を取り落とし、両手を上げて降参の意思をハルカが示した。
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