2−13:ダンジョンを進む一行の前に……
――ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
安全なルートを選んで進みつつ、僕たちは第5階層の入り口までやってきた。僕とティアナは第4階層のボス部屋までしか行ったことが無いので、ここからは初めての道のりになる。
ティアナも最初こそテンション高めだったけど、今はだいぶ落ち着いたらしい。僕のすぐ横で杖を構え、じっと第5階層の奥を見据えている。
「第5階層か、僕とティアナにとっては未知の階層になるな。よし、まずは地図の確認っと……」
早速地図を取り出して、第5階層の地形を確認する。
第5階層は途中で2本に道が分かれ、その2本の道がそれぞれまた2本の道に分岐していくようだ。最終的に全てのルートが下り階段手前で合流するので、全部で4つのルートが存在することがこの地図から読み取れる。
そして、1番安全なのはここから右・左の順に進むルートのようだね。このルートは罠がほとんど無く、レムレースの出現頻度もそこまで高くないようだ。ちなみに出てくるレムレースは第4階層と変わらず、コボルドとバットがメインになるらしい。
「さて、どのルートを進むっすかエリオス様?」
「もちろん、1番安全なルートを進むよ。分岐を右・左の順に進むルートだね」
他のルートは罠が多かったり、レムレースが大量に出てきたりするみたいだからパスだ。ブロンズゴーレムで無理矢理踏み越えていくこともできなくはないけど、せっかく先人が知恵を授けてくれたのだから有効活用しないとね。
「特に異議は無いかな?」
――コクッ
全員が頷いたのを確認してから、先に進む。まずは第7階層、スモールボア3体がいるボス部屋を目指して進んでいこうか。
◇
「よし、全員止まれ!」
――ガシャンッ!!
第5階層のボス部屋前まで到着したので、ゴーレム軍団を一旦停止させる。声出しと同時にゴーレムを制御し、ゴーレムはすぐにその場で静止した。
……うん、凄い迫力だね。総勢32体の全金属製ゴーレムがただ立ち止まっただけで、鎧同士の擦れる音が辺りにすごく響いたよ。戦場で敵を威圧するならともかく、隠密行動には向かないかな……これは、ちょっと改良が必要だね。
「道中のレムレースは、全部エリオス様が倒してくれたっすね」
「僕というか、倒したのはブロンズゴーレムだけどね」
「……全てのゴーレムは、エリオス様の制御下にありますから。ここはエリオス様の実力、ということでよろしいのでは?」
「ん〜、ならそうしておこうかな」
道中で倒したのは、コボルド3体にバット3体だった。いずれもドロップアイテムは落とさず、ここまで僕たちは成果品無しの状態が続いている。
ちなみに、第5階層へ到着するまでの道中は先行するパーティが居たためか、レムレースとは1度も戦っていない。ゼルマとフランクが休養日のダンジョン探索を嫌がる理由が、少しだけ分かった気がするよ……。
まあ、僕はボス部屋周回を前提とした探索予定を組んでいるから、いわゆるボウズ状態でも全く焦っていない。成果を得られることは確定しているのだから、道中は無理しなくてもいいのだ。
――何をやっている、気合が足らんぞお前らっ
「……ん?」
ボス部屋の前を通り過ぎようとして、中から声が聞こえてくることに気付いた。どうやら珍しく、誰かがボス部屋に挑戦しているようだ。
……嫌な思い出が蘇ってくるね。以前、第1階層で同じような場面に遭遇した時は、中から伯爵家三男坊様が出てきたんだったっけか。家名と名前は忘れてしまったけど、ホブゴブリンごときに苦戦した挙句ポーションをタダでよこせとか言うような、まさに上級貴族そのものの恥知らずな男だった。
落ち目の貴族家だったから、適当にあしらってからダンジョンを出てきたけど……あれからどうなったんだろうね?
――よしっ、いいぞいいぞその調子だっ、そのままいけば勝てるぞお前らっ
「………」
それにしても、声がやたら大きいな……扉越しだから音量が落ちてるはずなのに、何を言っているのかがハッキリと外まで聞こえてくる。声量だけなら父上をも上回るかもしれない。
加えて、今回は探索者側が優勢のようだ。内容はもちろんのこと、声色にもかなり余裕が感じられる。第5階層のボスもスモールボア2体だったはずだけど……それを相手に優勢なら、それなりに腕の立つ人たちだと思う。
――よしっ、お前たちの勝利だっ。勝ちどきを上げよっ
――おお〜〜〜っ
そんなことを考えているうちに、どうやら中の人たちがスモールボアに勝ったみたいだ。よしよし、しばらく休憩に入るだろうから、僕らは早めに先へ進――
――ガチャッ!
「んっ!? おっと失礼、ボス部屋の順番待ちだったかなっ!?」
なんと、スモールボアと戦っていたであろう人がすぐにボス部屋から出てきた。
最初に扉を窮屈そうにくぐってきたのは、傷だらけの全身鎧を着た偉丈夫だった。足甲に手甲、兜まで全て備え、身長2メートルは超えているだろう巨体を顔まで完全に覆っている。その大きささえなければ、廊下に飾られた全身甲冑と見間違えそうな見た目だ。
……なんというか、防具だけでもブロンズゴーレムより重そうだ。それらを身に着け、更に2メートル級の大剣を背負っても全く動じていないので、相当な力自慢の人なのは間違いない。
「いえ、僕たちはもう少し奥に向かいますので大丈夫です」
「おお、そうかっ! それにしても君たち、随分な大所帯だなっ!?」
ブロンズゴーレム軍団を見た偉丈夫が、そんなことを言った。一応、パッと見は人に見えるよう意匠にこだわったつもりだけど……偉丈夫の目からは、ちゃんと全身鎧を着た人に見えているらしい。
「いえ、これは全てゴーレムですよ? ほら」
――ガチャッ!
「なんとっ!?」
偉丈夫の近くに居たブロンズゴーレムを制御し、兜のバイザーを上げさせる。その下から青銅でできた顔が現れたので、偉丈夫は大袈裟なくらい驚いていた。
「ランドルフ様、早く退いてください。私たちが出られません」
「むっ!? おお、すまんなっ!」
そして、偉丈夫――ランドルフ殿がその恵まれた体格で、完全にボス部屋の出口を塞いでいたらしい。まだボス部屋の中に居た人――声の高さからおそらく女性だろう――に怒られて、ランドルフ殿が横に退いた。
……それにしても、ランドルフ"様"ね。そう呼ばれるということは、ランドルフ殿はこう見えて結構地位の高い人だったりするのかな? 口調といい振る舞いといい、とても貴族には見えないんだけど……あ、もしかして?
軍事系貴族家の中にあったな、そんな貴族家が。家系の男子全員がとんでもなく筋骨隆々で、貴族らしくない豪快な性格の持ち主だという伯爵家が。確かその中に、ランドルフという名前の人物が居たはずだ。
「まったく、ご自身の体格をお忘れですか、ランドルフ様? スモールボア戦後で疲れているのですから、速やかに道を空けて頂きたいものです」
ランドルフ殿が退いた後、長い黒髪の女性がボス部屋の中から出てきた。
……その女性は、アルカディア王国ではまず見かけない雰囲気を纏っていた。黒髪黒目も見たことが無ければ、白い上着に赤いズボン……ズボンというには裾がだいぶ広いけど、とにかくその格好も僕は見たことが無い。唯一、女性が鞘に入れて腰に差している反りのある刃を持つ剣……それが"刀"と呼ばれるものだということは知っている。
その刀を好んで使う民族が、ヴィルヘルム帝国よりも更に東方に居るというのを書物で読んだことがある。小国ながら精強な軍を持ち、ヴィルヘルム帝国からの干渉を実力で跳ね除け続けているのだとか。独立独歩の気運が強く、どことも友誼を結ばない国としても有名らしい。
「しかしだな、ハルカよっ! あの程度のレムレース、掴んで投げ飛ばせばそれで済むことだろうっ!」
「そんなことができるのはランドルフ様だけです……いえ、トビアス様とクリストフ様もですかね? とにかく、私たちにはできませんので無茶言わないでください」
「むっ、そうだったのかっ!? クライネルト伯爵家の男子たるもの、それくらいはできなければ務まらぬからな。知らなくてすまなかったな、がはははははっ!!」
黒髪の女性――ハルカ殿にたしなめられたランドルフ殿が、まるで盗賊団頭領のように豪快に笑う。
……本当にこの人、貴族なのだろうか? ハルカ殿にだいぶ雑に扱われてるような気がするし、それを全く気にもとめてないし……。
ランドルフ殿自身が言ってたから、もう確定はしてるんだけど……一応、確認だけはしておこうかな。
「すみません、念のため確認させてください。貴方はランドルフ・フォン・クライネルト殿でよろしいでしょうか?」
「むっ!? おお、その通りだっ! そういう君はエリオス・ソリス殿だなっ!?」
そう言いながら、偉丈夫が兜を取る。その下から、アルカディア王国では一般的な金髪蒼眼の顔が現れた。
予想通り、偉丈夫はランドルフ・フォン・クライネルト殿……軍事系貴族家クライネルト伯爵家の、次男の方だった。
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