2−11:新生ヨハネス研究室の人たち
「本当に凄いわ、この魔法! なんだか自分が伝説的な地属性魔法士になった気分よ!」
ヨハネス教授が用意した魔法触媒を片手に、オリハルコン鉱石を精錬していたレオノーラ先輩がテンション高めに叫んでいる。ヨハネス研に所属するだけあって、やはり彼女も優れた地属性魔法士……大して時間をかけることなく、リファイン・オリハルコンの魔法をマスターすることができたみたいだ。
……とは言え、リファイン・オリハルコンはまだ未発表の魔法だ。ヨハネス教授もそこを配慮してくれたようで、ヨハネス教授が自ら構築した魔法である純度90%オリハルコン精錬魔法しか教えていない。この魔法では高純度オリハルコンにまで至らないので、魔法の価値としてはやや下がったものとなる。
ただし、それでも魔法としては史上初のものだ。王立魔法士学校を卒業するのに十分な成果となるので、レオノーラ先輩が興奮するのも頷ける。
「……できたわ」
しかも、この魔法は習得難易度が比較的低いことが確定した。地属性魔法が専門ではないエリーゼでも習得することができたので、それなり以上の技量を持つ地属性魔法士であれば習得可能だということが判明したわけだ。
「………」
ちなみに、ドライ殿は魔法を全く使えないそうだ……あくまでも自己申告なので、切り札を隠してる可能性はあるけどね。ドライ殿が本当に王家の影なら、切り札の1つや2つ隠し持っていても不思議じゃないし。
ただ、【魔眼】でドライ殿を見ても魔力のオーラが全く見えないので、少なくとも放出系の魔法が使えないのは本当だと思う。これが自己強化系の魔法だと、達人の中には魔力を一切表に出さない人もいるので【魔眼】では確認できなくなってしまうのだけど……ドライ殿なら、その領域に到達していてもおかしくないな。
「この魔法でも十分凄いと思うんだが……エリオス君は、更に上位の魔法が使えるんだよな?」
「はい。これより上位の精錬魔法は、理論上純度99.5%オリハルコンを目指すことができます。次の研究成果発表会では、そちらの魔法について発表しようと考えています」
「純度99.5%か、だから高純度オリハルコン精錬魔法というわけだな」
まあ、実際は魔力消費量の関係もあって、純度99%を少し超えた辺りが実用限界になるんだけどね。それでも高純度領域へ足を踏み入れられるし、そうしてできたオリハルコンは伝説級の武具に使われるレベルの材料になる。
「これが王立魔法士学校首席の実力ってことね。知れば知るほど自分との差を痛感するわ……」
「……まあ、僕1人の実力じゃないんだけどね」
「……ええ、知ってるわよ。エリオス様はそうなんでしょ?」
最後の言葉だけ、こそっとエリーゼが耳打ちしてくる。やはり彼女も知っている方の人……僕が神の愛し子だということを、誰かから聞かされているのだろう。
そして、エリーゼが知っているということは……。
「………」
ドライ殿も当然、僕が神の愛し子だということを知っているのだろう。
……そのわりに、なぜか僕には護衛が付かないんだけどね。二流工作員を軽く返り討ちにしてしまったから、護衛なんて要らないと思われてるのかな? あるいは僕が軍事系貴族家の所属だから、貴族家のメンツ的な問題で付けたくても付けられないとか?
どちらにせよ、僕も決して万能じゃない。ドライ殿クラスの工作員をけしかけられれば、今の僕では遅れを取る可能性は高いだろう。そんな高ランクの工作員がそうそう居るとは思えないし、今までは想定の範囲外だったんだけど……ドライ殿を見ていると、可能性が無いとは言い切れなくなってきた。1度父上に相談しなければ。
「……むぅ」
「……? どうしたんだい、ティアナ?」
陽だまりのような香りがふわっと漂う。応接ソファに座る僕へと抱きつくように、横に立つティアナが腕を絡めてきた。その表情には、どこか不服そうな色が浮かんでいて……【魔眼】で見るとティアナの白いオーラが槍のように膨らみ、その矛先がエリーゼの方へ向けられているのが見えた。
……これは、もしかしなくても嫉妬かな? さっきエリーゼが耳打ちしてきたから、距離が近いと思ったのかもしれない。屋敷でも、まれに他のメイドたちへ同じような目線を向けていたから、ほぼ間違い無いと思う。
まあ、それならそれで僕としては嬉しいかな。僕なりにティアナと真剣に向き合っているつもりだけど、ティアナもまた嫉妬の念を抱くくらいには、僕と真剣に向き合ってくれているということの証左だからね。
「………」
――スッ
「っ!?」
僕はそれ以上何も聞かず、黙ってティアナを抱き締め返す。ただそれだけで、ティアナの攻撃的な魔力は引っ込んでいき……しばらく魔力が大きく乱れた後、少しずつ落ち着いていった。
そうして、ティアナの魔力が落ち着いたタイミングで声をかける。
「ふふ、落ち着いたかい、ティアナ?」
「……は、はい」
「安心してよ、僕はティアナしか見てないからさ」
「エリオス様……はい、もう大丈夫です」
頬を少し赤らめたティアナが、そっと腕の力を緩める。それに合わせて、僕もティアナを抱きしめる力を緩めた。
あ〜あ、ちょっと……いや、かなり残念だね。ティアナを抱き締めていると幸福感が凄いし、普段は微妙に距離感があるからもう少し堪能したかったんだけど……やっぱり恥ずかしいのかな? それとも、メイドとしての立場を優先しているのかな?
どちらが理由かは分からないけど、こういう機会はなかなか無いのでちょっと……いや、かなり残念だ。
「あらら〜、随分と見せつけてくれるわね。なになに、エリオス君の本命?」
「ティアナは僕の専属メイドであり、探索者パーティの仲間であり、10年来の幼馴染でもありますから。自分の命と同じくらい、ティアナのことは大切に思っています」
「自分の命より大事、とは言わないのね」
「僕に何かあれば、ティアナが深く悲しみますので。血反吐を吐いて泥水啜ってでも生き抜く覚悟です」
「……感情が重たくない?」
「僕は重荷に感じたことはありませんね。おそらくティアナもそうだと思いますよ?」
「……… (コクッ)」
レオノーラ先輩がからかうように言ってきたけど、至極真面目に返したらなんだか凄い顔をしている。僕は思っていることをそのまま言葉にしただけなんだけどなぁ……。
「レオノーラ先輩には、そういう良い人は居ないのですか?」
「え、私? うーん……どうかしらねぇ?」
レオノーラ先輩が、北の方角へと視線を向ける。その目には薄っすら熱が籠もっていて、彼女の魔力もその視線の方向にグッと伸びていた。
……先輩が見た方角に、彼女の想い人がいるんだろう。それが北の方角ということは、ヴィルヘルム帝国との戦いの最前線にその人は居るのかもしれないね。
その人が無事に帰ってくることを、僕はただ祈ることしかできない。
……しかし、僕には僕のできることがある。それを全力でやり遂げて、少しでも王国のためになったなら……もしかしたら、それで助かる命があるかもしれない。
そう信じて、まずは研究成果発表会に向けて準備を進めていくつもりだ。既に道筋は見えているから……後は、必要なものを用意するだけだ。
研究成果発表会まで、あと1ヶ月ほど。入学早々踏ん張りどころが来たけど、最後まで頑張っていこう!
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