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昔の話

 倒れ込んだリベアを抱える。顔はいつもよりも白くなって熱も感じない。

「大丈夫ですか。どこか悪いんですか」

「力を使いすぎてしまいました。私は消えてしまいます……最後まで案内できなくてごめんなさい」

 リベアは弱々しく答えた。こうなるのがわかっていたかのようだ。

「そんな……何か助かる方法はないんですか」

「全部私のせいなんです。消えてしまうのも仕方がないんです」

「だからどうしたんですか。死ぬのを受け入れなきゃいけないんですか。絶対嫌です。僕が転生しなかったのがダメだったとしたら今すぐします」

 目の前で死にそうなリベアを見捨てられるわけがない。動き出そうとして腕を掴まれる。

「……これに触れてください」

 電子基板のように小さな板がいつの間にかリベアの手にあった。躊躇している暇もない。迷わずすぐに触れた。すると体と意識が離されたような感覚を覚える。


 意識だけが空へ飛んで行き地面は見えなくなっていた。一体リベアは何をさせたいのだろうか。どれぐらい空中に飛んだか分からないが景色が変わる。どこまでも白い地面があり、目の前には立っているリベアがいた。

「なんですかこの状態は。何がどうなっているんですか」

 疑問を投げかけたのだが言葉を無視して話し始める。

「こんにちは優也。いきなりこんな所に来て困惑しているかもしれませんが安心してください。私が優也に隠している真実を話す気になったと言うことなんでしょう。私の過去を交えて話していきます」

 何を言っているのかわからない。真実? 過去? 今はどうでもいいじゃないか。

「リベアさん、今あなたは倒れているんですよ。早く元の場所に戻してください」

 僕の話を聞いていないのか僕の方を向いてくれない。

「あぁ忘れていました。最初に言っておく必要がありましたね。今の私は人間で言うところの動画なので優也の質問に返答できません。ある程度は予測して答えたりしておくので理解しておいてください。実際に目の前で話すと恥ずかしいのと私自身辛くなってしまうかもしれなかったのでこのような形になりました。分からないところは映像が終わるとすぐに会えますので私から聞いてください。現実世界と意識世界の時間の流れが違うのはフォビアちゃんの世界で体感しているでしょう」

 僕の質問が予測できなかったから無視されたのか。しかたがない。この時のリベアは倒れているなんて思ってもなかっただろう。映像を止める方法もわからないから元の場所に戻れない。時間もほとんどかからないなら真実を見てからでも遅くはないだろう。

「さて、真実を話す過程は全体で大きく三つに分かれます。まずは今の優也と会うまでの話です。私はもともと神に仕えていた天使だったのは言ったと思います。その頃にあった出来事です」

 リベアが指を鳴らす。床がなくなり落ちていく。

「大丈夫ですよ。演出ですから。落ちるたびに今に近づいていきます」

 安心させる言葉をくれるが今はいらない。いくら時間の流れが遅いとは言っても時間は経っている。早く元の場所に戻ってリベアを助けないとはいけないのに。焦燥感のようなものが押し寄せる。

 言っていた通り、着地しても痛みはなく灰色のタイルが一面に貼られている空間に出た。目の前に左右は地平線の先まで、上はてっぺんが見えないほど大きな岩がある。ここまでくるともはや岩の壁だろう。既視感を覚えるがどこで見たか思い出せない。

「私が感情をもらって少し経った時でした。感情を持った天使は私とフォビアちゃんだけだったので他の天使と考え方に違いを感じていました。それを見かねた大神様から呼び出されてここに来ました」

 大神様。何度か名前は出てきていたが何者なのだろうか。リベアとフォビアに感情を与えて転生の仕組みを作った神様。聞いた話だけだと興味心だけで動くような人物のように感じる。

「優也は初めて見ますよね。岩となっているこの方が大神様です。普段は念話でお話しされます」

 この岩が? 神様たちはリベアと同じように人間体だと勝手に思っていた。

「今回は私が聞いた内容を優也にも聞こえるようにしたので話がわかると思います。そろそろ私が来ますよ。その間、黙りますので後から説明しますね」

 そう言ってリベアは一度消える。言葉通り、当時のリベアが無表情でこの空間に現れた。

「お呼びでしょうか」

 リベアは少しも感情が乗っていない言葉で話す。

「ああ、これの補助をして欲しい。来なさい」

 男性か女性か分からない。抑揚もなく平坦な声が聞こえた。かなり気持ちが悪い。神様は本来こうなんだろう。大神に呼ばれて出てきた人間を見てさらに悪寒が走る。いつか見た地獄のように自分がいたのだ。年も今の僕と変わらないように見えるが目から正気はなくなっており、心から疲れているようだった。何者だろうか。

「かしこまりました。個体名は何でございますか」

「勇者と呼んでおけ。移動させるぞ」

「承知しました」

 淡々と会話が進み、リベアと僕と同じ見た目の人間が移動したようだ。それと同時にリベアが現れる。

「と、これが私と優也の最初の出会いです。気がついているとは思いますが優也の前世です。以後、勇者さんと呼びます」

 僕の前世は勇者だった。僕に直接は関係ないが少し嬉しかった。話しているリベアの顔は少し曇っている。

「きっと優也は勇者について勘違いをしていると思います。なのでまず、人間の勇者と私たちの勇者の概念が違うと言っておかなくてはいけません。ゲームやファンタジーで主人公となったり英雄や歴史上で偉業を成し遂げた人。人はこれらを勇者とするのではないでしょうか」

 確かにそうだ。勇者は憧れの存在で子供の頃の夢だった人もいるだろう。

「しかし私たち神はそうではありません。勇者とは世界を直すための使い捨ての道具なのです」

 何か嫌な予感がした。今の僕がいて過去は使い捨てられる勇者。だったら僕はリベアに捨てられたのだろうか。

「私たちは世界を大量に生産して転生者も大量に入れています。その過程でたまに問題が発生します。私たちが関与しないところで勝手に進化や欠陥が生まれたのです。強い魔物や賢すぎる種族、世界の仕組み自体が問題だったときもありました。一度発生すると死者は増えて信仰の力は収支として減ってしまいます。世界を直すのも労力がかかってしまうので世界を捨てていました。ところが大神様が新しい考えを打ち出したのです」

 あまりいい考えとは思えないが聞かないといけない。

「それが勇者でした。人間自体どの世界でも虐げられていて成り上がりを目指す種族。勇者は人間からすると良い存在と植え込みも済んである。だったら勇者にならないかと呼びかけて追加の能力も軽く付ければ簡単に騙せる。そう考えたみたいです。予想は驚くほど当たっていて、勇者希望者は後を絶ちませんでした。それでも世界の母数が多いので手が足りません。なので同じ勇者を何度も違う世界に行かせたのですがたった十回前後で発狂してしまい、この案は労力に見合わないと言われ始めました」

 子供時代憧れだった勇者。これでさえ神に作られた存在だった。きっと神にとって人間は力をくれるだけの道具なのだろう。聞いていて辛くなった。

「長かったですがようやく私たちの話に戻れます。大神様は天使と共に世界を直すと勇者の精神の寿命も伸びるのではないかと仮説を立てました。壊れた世界は直せますし、天使も世界を救えば神になるための信仰の力を貯められます。それで人間に近い私と勇者の中でも命が長かった勇者さん。二人で世界を直す旅が始まりました」

 前世の僕は頑張っていたんだ。少しだけ胸が張れるような気がした。地面が崩れる。時代が移動するのだろう。落ちながらリベアは手の上に映像を出す。あぜ道を死んだ顔をしている勇者と無表情のリベアが歩いている。

「勇者さんに出会った時点で百の世界を直して心身ともに限界でした。最初のうちは勇者さんの補助をするだけで交わす言葉もなく、大神様の命令が必要か疑っていました」

 百個も世界を救うなんて憧れる。たとえ神に使われていたとしても前世が素晴らしかったと誇りに思う。リベアはもう一つ映像を出す。勇者は顔色が良くなって元気になっていた。リベアは相変わらず無表情だったが。

「疑いは杞憂に終わりました。本来、勇者さんの命は今の時点で死んでいてもおかしくない状態でした。なのに百、二百と世界を救ってまだ命は尽きません。それどころかどんどん元気になっていきました」

 周りにはリベアの記憶と思われる映像が落下に合わせて下から上に流れていく。リベアが最初の映像と今の映像を並べる。比べるまでもなく明らかに勇者は顔色も良くなり活力に溢れている。

「勇者さんにも余裕ができて、私と積極的に話そうとしました。その頃は感情を表現する力が乏しく、楽しいのかわからなかったのですが話すたびにとても喜んでいました。それからたびたび勇者さんが感情の表現の仕方を教えてくれました」

 話しているリベアも思い出したのか嬉しそうにしていた。それほど勇者との日々が良いものだったのだろう。

「それから何千かの世界を救っている間に感情を表に出す方法を学びました。顔だけでなく言葉にも感情をのせて話せるようになりました。勇者さんも喜んでくれて、私からも自然と話す回数が増えました」

 何千個の世界を救っているというのに随分とあっさりしている。本人は何とも思っていないらしい。

「勇者さんは過去をほとんど覚えていませんでした。自分の名前や生きていた頃はもう忘れていました。ただ元の世界、地球は平和で良かったなぁとたまに呟いていました」

 それにしても勇者とはいい関係を築けていたみたいだ。勇者と仲良くしているのを少しだけ嫉妬していた。何千も世界を救っていたらそうなっても仕方ないとも思う。けれど同じ見た目をしている自分に盗られている事実に苛つきが治らない。

 リベアは突然落ち着きがなくなり動き始めた。

「あぁここが来てしまいました。本当に言わないといけないんですね。優也には一番言いたくない一つ目の秘密です。私は勇者さんに恋をしていました。後の行動は全て恋愛感情のせいです。今のうちに謝っておきます。ごめんなさい」

 僕もリベアに利用されていた。さっき聞いた大神と大して変わらないじゃないか。憤りを感じても今のリベアにぶつけられない。もどかしい。どんな時でも僕に勇者を重ねて見ていたのだろうか。勇者の代わりに同じ見た目で用意されただけの存在。そういうことなのだろうか。

「優也が生まれた理由。優也と出会ってすぐの時。今、この時も含めて、全て私のせいです。何を言っても言い訳にしかなりませんが優也に会ってからの日々は勇者さんをとの日々を超えるほどとても楽しいものでしたよ」

 リベアに何を言われても涙しか出ない。喪失感だけが僕を包んだ。いつか見た、成功した自分の最上級のような存在に全てを破壊されたような感じだ。もうどうでもいい。何も知りたくない。

 リベアが世界の映像を出して何か言っていたが僕にはもう興味はなかった。今回は目を閉じて耳を塞げば情報を遮断できる。僕には一人の時間が必要だった。

 当たり前だけど暗闇の中には何もなかった。ただ僕の苦しいだけの記憶と一緒に消えていこうとしていた。僕はきっとリベアのことが好きだったんだろう。自覚はない。最初に一目惚れしてからこの感情は前に出なかった。神だと分かった時に叶うわけがないと諦めたからかもしれない。

 少しだけ物事を違う方向に捉えようとしていたら違う考えが浮かんだ。本来この動画は僕が秘密を知るために作られたものでそれ以上の意味はないはずだ。でも、もしかしたら違うのかもしれない。リベアが動画の本来の目的を違うように利用したのならどうだろう。僕がリベアを嫌いになること。そして倒れたリベアを救わせないためにこの動画を見せた。今まで見たものは僕がリベアを嫌いになる要素が多い。最初からのんきに見ているものではないと思っていた。すぐにリベアを救わないといけないからだ。でもリベアは僕に助けられたくなかったとしたら。自分が助かる方法が思い浮かばなかった。。もしくは僕を作り出してしまったことがリベアにとって罪になった。消えてしまうのも仕方がないと諦めていたから可能性がある。

 なら、違っていてもいい。今だけ、僕の都合のいいように捉えることにしよう。僕は絶対にリベアを助ける。助けた後に真相を本人から聞いてやる。。そのためにはこの動画も最後まで見なくては。

 目を開き、耳を押さえた手を離す。変わらず救った世界を説明していたリベアがいた。

「私たちの旅は何億、何兆もの世界を救うまで続きました。その間に私も他の神様以上の力が貯まっていました。でも、いつのことだったか勇者さんが私の話に空返事するようになりました。戦闘にも集中していなくて最初の頃に戻ったような気がしました。ここで勇者さんの最期を悟りました。そんな状態でさらに十個ほど世界を救った後勇者さんは動かなくなりました」

 勇者は死んでしまったのだろうか。しばらく落ちていたがようやく地面が見えてきた。灰色の大地だと思っていたら大神の岩石だった。

「私だけだとどうしようもなくて。大神様なら何か知っているかもしれないと思ったんです。だから大神様のところに戻って、知恵を貸してもらおうとしました。甘い考えだったと今では思います」

 当時のリベアが大神に話しかけている。

「大神様ただいま戻りました。お頼みしたいことがあるのですが」

「おおっ、すごい力じゃないか。リベア、もう神になれるぞ。良かったな」

 大神の声が先ほどと違う。抑揚がついて感情を表に出している。

「大神様、勇者さんを助けてください。もう動けなくなってしまって……」

「ああ、それはもういいぞ。随分と寿命が伸びているがさすがに使えないだろう。そうだ、お前のおかげで天使と勇者で共に旅をさせる有用性がわかったんだ。他の神にも勧めてみたら大好評でな。これからも広めていくよ」

 リベアは笑顔を変えずに握り拳を固めている。力が強すぎて血が出るほどに怒っている。

「大神様、まだ勇者さんは助けられますよね。」

「なぜこんなものに力を使わねばいかんのだ。今回復したとしてもいずれ使えなくなる。だったら新しいものを使えば良いじゃないか。もう次の勇者は用意できているぞ。必要ならば……」

 瞬間、目の前を覆い尽くしていた岩石が砕け散る。何があったのかとリベアを見てみると元々岩があったところに拳を突き出し、地面は踏ん張ったせいか少し抉っている。勇者は無反応だがリベアは未だ拳を緩めずに無表情で涙を流していた。目の前を覆い尽くしていた岩石は消滅している。

 小さくなった砂は空中を漂ったり、地面に落ちて山を作っている。リベアは腕を動かし、魔力で砂となった大神を集めてボール状の球体に収めた。それを一心不乱に殴り続けている。

「私には怒りの感情がないことは前にも話しましたね。本当にこの瞬間まで失われていました。でも勇者さんを助けようとすると無い感情が湧き上がりました。そしてこうなってしまったのです。この後、私は怒ったまま砂を殴り続けていました。同じ映像が続きますので少し加速します」

 動画の早送りのようになったリベアはその間、確かにずっと殴り続けていた。

「私は勇者を道具として扱う大神様が許せなくて怒りをぶつけ続けました。私の行動に気がついた他の天使や神たちが私を止めに束になって来ましたが止まりませんでした。世界を救い続けた天使の成長は大神様の考えている以上だったようです」

 早くてあまり見えなかったが天使や神と思われる何かがリベアを押さえようとするが止まる気配はない。むしろ止めに行った神たちが殴った風圧で吹き飛んでいる。

 時間の加速が戻った。改めて殴りつける鈍重な音が体の中に響く。

「何十分か経ったときです。他の神たちも対策をするために一度離れ、私と大神様、勇者さんだけになりました」

 それまで全く動かなかった勇者が体を引きずって現れる。風圧にも負けずに腕の力だけで前に移動していた。未だ殴り続けているリベアの足に触れる。リベアが殴るのをやめて勇者の方を向く。足から折れるように体を落として泣いた。泣いているリベアに勇者は明るく微笑んだ。

「どうして……どうして笑えるんですか。勇者さん、消えてしまうんですよ」

 勇者に触れながらリベアは泣き続けている。もう勇者は動けないようで笑顔のまま目を閉じている。やがて涙を拭い、動き出したリベアは勇者を中心に地面に円を描き始めた。

「勝手に勇者さんを転生させようとしています。初めてでしたが転生の仕方は知っていました。勇者さんが言っていた地球に送ろうとしています」

 描き終わったのか立ち上がり、何かを呟く。模様が浮かび上がると同時に勇者の体も動き始める。模様が勇者の体に張り付き白い球体が出来上がる。世界を小さくした時のように腕を動かし勇者の体が小さくなっていく。米よりも小さくなった発光体は空中を飛んでいき見えなくなった。しばらく空を眺めていたリベアは座ってまた泣いていた。

「大神様を全て消せたと思っているかもしれないですが大神様はまだまだ力を持っています。本来、岩も一瞬で直せたはずなのですがなぜかやりませんでした。そして、後に知ったのですが、大神様は優也が勇者であると目に見えない印をつけたみたいです。死んだ時にもう一度利用しようとしていました。さすがに私も怒りましたけど、おかげで優也に会えました」

 周囲に神様たちが集まる。全員が臨戦態勢のようだがリベアは何もしない。地面が消えて、また次の時期へ向かう。この後どうなってしまったのだろう。

「転生させた後、他の神たちに囲まれたのですが攻撃しない意思を示しました。そのまま私を拘束してここは終わりです」

 次に見えたのは発光した檻。電気なのかバチバチと光が辺りに飛び交っていた。

「大神様を攻撃した罪で処罰を受けます。本来、存在が消されるほどの大罪でした。なぜか大神様が消すのは待って欲しいと助けました。目的は何だったのかわかりませんが大神様には反抗しないと契約して、檻に自ら入りました」

 刑務所のようなものだろうか。

「檻の中でも勇者さんと会うのを諦めていませんでした。転生した人でも構わないからとにかく会いたい。次はもっと幸せな世界に転生させてあげたい。でも、今のシステムだと希望した世界に転生させてあげられない。どうすれば良いか檻の中でずっと研究していました。実はこの時にシステムの穴を見つけたりしたのですが今は必要ないですよね。導き出したのが優也も知っている世界を自作する仕組みです」

 こんなに重い過去を持って生まれた仕組みだったのか。それを知らずに僕は断り続けていた。そのせいでリベアも今、苦しんでいると思うとただ辛くなる。檻の中に誰かが現れた。見た目がまるで変わらないフォビアだった。

「フォビアちゃんも仕事の合間に来てくれました。一緒に研究を手伝ってくれたり、感情を表現する練習をしたりととても良くしてくれました」

 さらに誰かが檻の中に入ってくる。砂が渦を巻きながら人間の形を作り出している神かどうかもわからない存在だ。

「大神様です。私が粉々に砕いた砂の状態を再利用して人間の体を作っていました。私の前に現れたのは優也を見せるためでした。なぜ教えてくれたのか理由はわかりませんが、転生が成功していて嬉しかった。嬉しさでいっぱいだったところに優也を案内しろとも言われて、さらに嬉しさが増しました」

 地面が割れる。すぐに下が見えて、何もないタイルだけの空間に出た。

「いずれ私の空間になるところです。大神様は自身の体、岩を切り出して椅子を作りました。この上で神の力を使うと力が増幅されると言ってたのですが、んまだ私は使っていないので知らないです。そう言えばフォビアちゃんのところにも同じものがありましたね。」

 何もなかった空間はいつもの生活空間に戻った。じゃあ僕はずっと大神の周りで筋トレをしていたのか。何だか恥ずかしくなってくる。また地面がなくなって落下が始まる。

「最後は優也と出会ってから私がやってしまったことです。優也と会ってすぐでした。死んだ瞬間の記憶はすぐに消さなければいけません。しかし、転送地点が他の神にずらされていてすぐに会えませんでした。私に似せた偽物です。覚えているでしょうか」

 覚えている。殺されかけた相手だ。

「何とか探しだしたと思ったら優也は意識を失っていました。久しぶりに出会えた喜びと意識を失っている絶望で感情をぐちゃぐちゃにしながら治療をしました。意識を取り戻したと思ったらまた気絶して、どうにかなりそうでした。あのときは魅了しているとは気づかず迷惑をかけました」

 死んでしまいそうなほど綺麗だったから仕方ない。地面が見えると、また一面大神の岩の空間だった。

「問題はあの後です。元の場所に戻っているつもりで優也の魅了をどうするか考えていました。気がつくと別の場所にいて大神様に強制転移させられていました。大神様は優也が最初の世界に転生したいと言ったら前と同じように勇者にさせると言って私を拘束しました。すぐにでも戻って優也を止めようとしましたが大神様に攻撃できないのを利用されて動けないまま優也が断ってくれるのを祈ってました」

 あの世界を見ていた裏でひどい事件があったのか。僕もリベアも危なかった。

「ですが、優也は誘惑を振り切ってくれた。後の質問から優也の中に残っていた勇者さんが助けてくれたんだと思いました。感謝しましたよ」

 どうかわからないが断る決め手になったものだ。確かに僕も感謝はするべきだろう。

「優也が断った瞬間に拘束を外し、元の場所に戻って、後は知っての通りです。でも、一つだけ謝らないといけません。あの時、薬を渡しましたよね。私を見ても気絶しない薬なんて言いましたが嘘です。フォビアちゃんの言葉を借りると人間の汚い欲を少なくする薬だったのです」

 欲を少なくする。前にフォビアとも似た話をした。僕は欲が少なかったと言われたが薬のせいだったのか。

「研究をしていた時にたまたまできた薬です。あのとき、他に渡せるものがありませんでした。優也もあのままだと倒れてしまいますし、嘘をついて飲ませてしまいました。異常もなかったのでそのままにしていました。それで終わっていたら良かったのですが、フォビアちゃんがピンポイントに嫌がるほどの効果だとは思いませんでした。優也を地獄に送ったのも、原因はほとんど私にあります。本当にすみませんでした」

 深々と頭を下げる。誇張した言葉だと思っていたのに。本当に何もかもリベアのせいで何とも言えない気分になった。絶対に生き返らせて文句を言ってやる。

「それからの出来事は優也もだいたい知っているでしょう。むしろ、私は過去の存在なので私よりも知っているんじゃないですかね」

 この後倒れてしまうので無茶しないでください。意味はないけれどつい呟いてしまいそうになる。

「さて、長かったですが秘密と過去話はこれまでとなります。長い間見てくださり、ありがとうございました。最後に一つだけ。先の私が話したときの心境は覚悟を持っていたものです。優也に嫌われたり、そのまま関係が戻らないかもしれないと考えた上で話したのだと思います。それだけは頭の隅にでも残していってください」

 真面目な顔をして言っている。微笑みはすぐに戻ってきた。

「まぁ、今の私が何を言っても意味はないんですけどね。では元の場所に戻します。またすぐに会いましょう」

 地面にヒビが入る。目の前のリベアは手を振って映像は終わりを迎えた。地面がなくなり落ちていく。僕の中で覚悟は決まった。後は行動を起こすだけだ。目を閉じながら自分に言い聞かせるように考えていた。


 目を開けると腕の中でリベアが横たわっている。どうやら時間が経っていないのは本当だったらしい。安心からかまた涙が流れてしまう。

「……どうでしたか。私のこと嫌いになってくれました? 」

 現実に戻って最初の言葉がそれだった。考えは当たっていたようだ。

「いえ、全然。絶対救います」

 全てを悟ったような顔に変わる。僕の目元に指先が軽く触れて涙を拭いてくれた。

「そうですか……それは残念です」

 言葉と笑顔を最後にリベアの体から重さを感じなくなる。腕に抱えていた存在がぼんやりと薄れていき霧のように消えた。

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