お誕生日おめでとう、アダム君
ちょっとご都合主義が過ぎるかもしれません。
「6年という短い期間ですがお世話になりました。」
直属の上司というものがいないので人事部に辞表を提出し、今日が最後の出勤だ。
異例の退社速度というべきか、辞表の提出の翌日には辞令が出された。
有給も残ってはいるが構うものか。
「本当にいいのかね?」
人をあんな仕事もない部署に入れておいて何を言うのか、庇うつもりがあったのならもっと前に出来たことがあっただろう。
まぁ、仕事をしなくても給料が出るというのは一部の人にとっては是が非でも付きたい仕事かもしれない。
少なくとも私はごめんだ。
「はい、正直に申し上げて…愛想が尽きました。」
「そうか…君のこれからを祈っているよ。」
部下がいる手前で社交辞令を言わねばとは分かっているがのが余計に白々しい。
「最後に一つだけ、営業1課の課長…私の以前の直属の上司ですが社内のコンプライアンス違反、書類偽造、パワハラ、セクハラ等々の記録を会長を始め、社長と各役員宛てにメールしています。」
「は…?」
「私が書類を偽造して異動させられた…と表向きはなっていますが真実はそうではない、という証拠を揃えています。あ、セクハラは私にではなく別の社員に向けて…ですが。」
いつも胸に入れていたICレコーダーが遂に日の目を見た。
「それでは、いままでありがとうございました。失礼します。」
「ちょっ、まっ!」
私は聞く耳持たず、部屋を出る。
明日はいろいろな意味で社内は大揉めだろう。
さようなら、遣り甲斐の無さと怠慢な日々。
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ドアを開けると社長が待ち構えていた。
パーン!とクラッカーを鳴らして迎えてくれた。
「どうも…というか何ですかこれは…」
「そろそろ前の会社に見切りをつけてウチに来る頃合いかな~ってね」
この人はホントに読心術とか使えるのではないだろうか…。
「ええ、お察しの通り綺麗さっぱり辞めてきました。」
「では、これからよろしく頼むよ。管理者クン。」
私と社長は握手を交わす。
「早速だがこれが契約書になる、よく読んだ上でサインしてくれよ?」
「了解です…って随分分厚いですね…」
「そりゃ情報や特許があるからねー法的に抜け目が無いように弁護士に作ってもらってるのさ。」
ずしりとした重みを両手に感じながら、これを全部読むという未来に少し悲観した。
「クーリングオフは受け付けるからサインしてから読み込んでも良いよ。」
それならば、とその場でササッとサインをしてしまう。
もう前の会社に戻る気も無いし、この仕事に遣り甲斐も感じていた。
「これでいいですね、改めてよろしくお願いします。」
「ちゃんと読んでって言ったのに…」
ぶつぶつ言いながらも嬉しそうな気配を隠さない社長だった。
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管理者の間にて目を覚ます。
予定では今日は一番最初に助けた事例の締めの日だ。
幸いなことに救済メールは入っていない。
「さぁ、今日が初仕事だ!」
私は気合を入れて『転移』する。
気合を入れようが入れまいがボタン一つな訳だが、そこはご愛敬。
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全く笑いが止まらないよwww
おっといけない、ネットスラングは品位に関わる。
契約書にサインさせてしまえばこっちのものだ。
クーリングオフ?適用は出来るよ?
やれるのなら…ね♪
これで沢渡クンをあの世界の管理人として正式に『転移』させることが可能になった。
では、状況説明の手紙をしたためようか。
今夜は祝杯だな。
何に?そりゃ決まってるでしょ。
あちらの世界に『生まれた』管理人に…さ!
短めですが、ここで1部の完となります。