【幕間】黒幕のほほ笑み/エルロッドの視点/4人の帰路
「何だか濃厚な時間だった…」
1人になり一息つく。
いろいろと確認すべき事が山盛りだ、特にAIと世界観については疑問が残る。
成人指定になるような性的描写、人格が壊れたようなNPC…これは本当にゲームのレベルで済ませて良いのだろうか。
"アダム君、聞こえるかい?"
社長からの囁きに思考が中断される。もう時間だろうか。
"時間のお知らせだよ、今ログアウトすれば大体22時過ぎってところだね"
"了解です。これからログアウトします。"
とりあえず思案している事は報告書に纏めよう。
ログアウトの為に玉座に座りメニューを開く。
眠気を覚え、目蓋が重くなり次第に世界が黒く染まってゆく。
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「まずいねぇ…まったくまずいねぇ…今日の案件で真に迫りすぎている…」
『エッグ』から流れてくる情報を流し見しながらトントントン…と机を指でたたく。
「最初のほうは問題ないが…2件目がはちょっとタイミングとしては早すぎる」
トン…トン…思案が終わったのか音が止まった。
「ま、早すぎるなら処置して疑問点だけ『忘れた』ことにしておくか。」
キーボードをカタカタと叩き、『エッグ』から流れてくる情報に修正を入れているようだ。
「本契約するまではダメ、というより楽しみは取って置かなきゃね。」
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耳元で目覚ましが鳴っている。
若干体が重い気がするが予想の範疇だ。
重い体に力を入れ『エッグ』を開けると社長がそこに立っていた。
「いやー、2日目お疲れ様。報告書を書いたらあがってもいいからねぇ~」
はい、と短く返して指示されたノートPCへ向かう。
報告書の内容として、
助けたNPC名、内容、気になった点等を書き出していく。
最初の救助では耳長種…エルフを助けたがまだ祈りについては説明しておらず後日対応します…と。
次の討伐ではゴブリンに囚われていた人種を保護して信仰について説明と物資の援助を実施しました。
この『ゲーム設定されたAIは素晴らしく高性能できっとプレイヤーは満足できるだろう』と。
うん、こんなものだろう。
とても『楽しかった』と思う。
まだ2日目だがもう就職を決めてもいいかもしれない。
まだ週中だ。
早めに帰って、明日に備えよう。
「社長、報告書出来ましたのでサーバーに上げて置きます。」
「はーい、お疲れちゃーん」
「お先に失礼します。」
バタン…と扉が閉まりオフィスにはサーバーの駆動音が満ちる。
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「んふふふ、よしよし…本人の意識にも影響は無し。」
先ほどサーバーにアップされた報告書を読みながらすっかり冷めたコーヒーを煽り、一息つく。
「報告書から見るに内容調整は良好っと…とりあえず疑問点は先送り出来た…本人も好印象みたいだし、管理者はこれでOKかな。」
薄暗いオフィスの静かな微笑を知るものは居ない。
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助けられた耳長種:エルロッドの視点
穏やかな心地だ…朝のまどろみの中にいるようだ。
しかしベッドではない、ゴツゴツいた岩場の不快感を感じ目を開ける。
私は確か薬草採取中にスケイルベア、別名:鎧熊に襲われ、瀕死の状態で洞窟に逃げ込んだ。
最後の力で洞窟に偽装を施したところから記憶がない…ここまでは良い。
抉られた脇腹の痛みが無い…そうだ!私は脇腹を抉られているはずだ!
飛び起きるて自分の脇腹を確認するが、そこにあるのはちょっと色白な自分の肌。
着ていた革鎧は裂け、下に来ていたチェインスーツも切れている。
深手を負ったのは間違いないようだ…だが傷が無い。
どういうことだ?と首を傾げる。
コロン…と自分の脇になにやら小さな像が転がっている事に気づく。
「はて、このような像は持ち合わせていなかったと思うが…」
素材は…分からないが非常に精巧な出来だ…どこぞの神を模した物だろうが今までで見たことないタイプのものだ。
この洞窟にあったこの像…マジックアイテムが発動して、私の傷を癒した…とか?
私が瀕死になった事により秘められた能力が開花した?
神様が「貴様が死ぬべきはここではない」と生かしてくれた?
…推論を挙げてもきりがない。
私は助かった、それでいいじゃないか。
目的の薬草は採取できた、では早く家に帰らねば。
像は…念のため回収して置こう、後で長老にでも鑑定してもらえば分かる事もあるだろう。
壊れた装備以外は被害なし…
彼が耳長種の村で真実を知るのはもう少し先の話。
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マルダと村娘3人の帰路
アダムより装備、食料、路銀を貰った4人は洞窟――元ゴブリンの巣を後にして、一番近いフルーたちの村へ向かっていた。
獣道ではない程度には開けた道をフルーが先頭、レッタ、イロエ、最後尾にマルダが続く。
出発してからすでに2時間と少し、隠ぺいの外套のお陰かモンスターに見つかる事もなく今のところは順調だ。
「あれ…なんだったんだろうなぁ…」
何とは無しにマルダが呟く。
「きっと天使様ですよ!」
イロエが目をキラキラさせて答える。
「でも翼も輪っかも無いし、見たこともない甲冑だったけど?」
レッタが当然と言えば当然の疑問で返す。
「書物で読んだことのある天使族…では無いと思いますが、強大な力を持った慈悲深きお方という事は分かります。」
フルー会話を締める。
「でもよー、本当に慈悲深い方ならあんな…目に合う間にさ…助けてくれなかったのかなーって…」
マルダは会話の流れで疑問を口にしただけだろう、しかしフルーは違った。
"助けて貰って、ここまでの施しを貰っておいて不満を言うのか"と少々苛立ちを覚えているようだ。
「…あの御方はこうおっしゃっていました。『汝らの助けを聞いて』…と。」
足を止め、後ろを振り返り他の3人に聞こえるように言う。
「助けを求める者に救いを与える者…救済者。助けを求めるところには理不尽があり、それを正して世の中のバランスを取るのがあの御方の目的だと私は考えます。」
レッタとイロエは少し冷めた目でフルーを見てボソボソと小声でやり取りしている。
「またフルーのいつものが始まったよ」(ボソボソ
「いつものことだから気にしない」(ボソボソ
今更だがこの村娘3人は同じ村で生まれ育った幼馴染であり、山菜を取りに山へ入ったところゴブリンに捕まったという事らしい。
「お、おう…あれだな!あれだけの悪いことがあったからこんな…アタシが一生掛かっても手に入れられないくらいの武器も貰えた訳だしな!」
ミサイル・ランスを握りしめこれからを思う。
才能がある冒険者なら緑のランク、運が良ければ赤にも上がれるだろう。
アタシのように秀でたものが何もない奴は長年もやって緑にたどり着ければ良い方だろう。
今回のような運に恵まれない限りは…。
能力を持った武器はそれだけで価値を持つ。
例えばただの鉄製のロングソードですら耐久性や切れ味の向上が付いただけで値段が10倍に跳ね上がる。
火や風など属性が付いた暁には30倍以上…とても買えるものではない。
値段に比較するのはちょっと違うと思うが、ゴブリンの巣での1週間…昼も夜も分からないから感覚でだが――の凌辱の末に魔法武器と指輪、外套…これらを売るだけで一生遊んで暮らせるのではないか…という思惑すら浮かんでくる。
しかし、冒険者になった者なら誰でも夢見る特級クラス…英雄の領域、特色。
今なら手が届くのではないか、自分も英雄の仲間入りが可能に――
「私、いえ私たちはあの御方に救われ、『信仰』を集めるという使命を授かりました。」
夢物語に邪魔が入った、そうだ…フルーの話の最中だった。
付き合いが短いマルダでも何となく分かった…こいつは酔っている。
「さぁ、村に急ぎましょう!」
少なくとも村まではあと最低で2日、天候にもよるが4日は掛からないだろう。
再び動き出した4人。
モンスターには会いたくないが、武器を試してみたくて仕方が無い冒険者。
自らの信じる信仰に酔った娘。
適度な距離感で相手をする幼馴染。
村まではまだ山を越えた先だ。
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