第十一話 賛歌。1-2
おおお降ろせ! おろせ! オロセ!
すすす全ては――あなたの『物』だから。
綺羅 清美
心臓に刺さっている魔槍が彼女の中に溶け込んでいく。
それは幻想的な光景だった。
「二十四キロの命か……」
最早、和馬に興味がなくなったレイナは北に歩き出す。
しかし和馬は。
和馬の右手首の甲から『Β.ベータ』の文字が現れる。
「領域を我の求める形へと、その求めた形とは神をも束縛する一筋の愛。それは如何なる矛も決して通さず、生きとし生けるもの、そしてありとあらゆる物を支配のもとに、心技体の全てを束縛する物なり也。『神縛領域』」
一途な愛を欲した。
彼女を引き寄せ背中から抱きしめる。
と同時に和馬は、レイナが空間から取り出した一本の神剣によって貫かれ、その短き人生に幕を閉じた。
レイナは死体となった和馬を抱きかかえ、祝詞を紡ぐ。
「アクセルワールド」
目指すは『ラン・アサイラム』だ。
『今すぐアサイラムを雲の上まであげなさい』
水瀬由紀が出した厳命は綺羅清美によって阻まれる。
「おおお降ろせ! おろせ! オロセ! すすす全ては――姫様の物だから! せきにんは……とるから! 美剣カンナがここにくるんだよー!」
地上に降りている『ラン・アサイラム』。
しかし末端にはあげろとかさげろとか、そういうことは聞かされていない。
だから門番にはそれがわからなかった。
「だからー、ここを通るには許可証が必要なんですよ」
「許可証? わたくしに?」
レイナな小首を傾げた。
「そうです。それにその耳……。あんた獣人でしょ。まあ、それは良いんですがね――」
「もう良いです。まだあの大地に足を踏み入れていないのに悲鳴が聞こえますので……」
「はい?」
「間引きをすると言ったのです」
『死に至る病』
「「「あああああああああああああああああああああっ!」」」
数人の門番やその近くにいた人間達の身体に黒い斑点がぽつぽつと沸いて倒れていく。
それはまるで黒死病を早送りで見せられているような風景だった。
もう彼女を止められる者は……。
人が倒れていく。
大勢ばたばたと死んでいく。
黒くなって死んでいく。
毒を撒き散らしながら歩みをやめない彼女を強引に止めたのは一発の大量殺戮兵器だ。
もちろん避難勧告など出していない。
『全加早速領域』の力を使い『夜舞』まできていた彼女を止めたはたった一発の爆弾。
それにより周囲は爆風で建物は倒壊し、放射能がまき散らされた。
そして歩いてくる人物が一人。
水瀬由紀だ。
「久しぶりだね、カンナちゃん」
「今はまだ浅斬レイナという娘ですが」
「だったらなに?」
水瀬由紀から祝詞が紡がれる。
「我は我にあらず、起首は起首にあらず、我望む領域こそは未知への始まりである。白き夢が覚め憂鬱なる時に全ての語感を遮断すれば――」
「自我の病。その全てを吐き出し、深淵なる大樹を咲かせよ。『無骸大樹』」
由紀の祝詞の最中にも関わらずレイナの手が、由紀の心臓を握った。
「無粋なマネをして申し訳ありません。わたくしは祝詞でも自由に動けますので」
「……うん、知ってたよ」
顔に皺ができていた由紀が嬉しそうに微笑んだ。
「あたし、どのぐらい生きられるようになる?」
「二十四キロ分の魂です。この『アサイラム』が血燭に飲み込まれるまで生きられますよ」
「それは……良いね」
水瀬由紀の身体がその面容を変え、やがて大きな大樹となった。
これで彼女は永久に近い生を謳歌できるだろう。
それが幸か不幸かなんて、誰が決められるのか?
自分の身体がある『神頭』までやってきたところでレイナは神道雄一と対面した。
「さて始めるか」
「『Ν.ニュー』の文字を見ました」
「ああ、領域は病だ。大抵は早死にさ。そして俺の生きている意味もすでにないわけだ」
美剣カンナは当時のままの姿で息を吹き返した。
そしてカンナは自分が入ってた穴に浅瀬和馬と浅斬レイナを埋めた。
「強かっただろ。俺の餓鬼は」
「ええ、世界最強の男性だったと思います」
「美剣カンナのお墨つきを貰えるなんて、そいつはー良かった」




