第十一話 賛歌。1-1
われは主が好きじゃ。
お主は――どうじゃ。
卑弥子
「良い出来だ」
四本の聖遺物を手に取った和馬の第一声は賛辞だった。
誓いの聖剣。
闇を掬う魔剣。
天を貫く聖槍。
地を這う魔槍。
実際にこのどれもが値段をつけられないほどの武器だが、
「世辞はやめてください」
両目に『σ.シグマ』持つ身形 依代という名の男は二度首を振った。
「本物を間近で拝見したあなたにはこのようなものなど玩具に過ぎないでしょう」
これはまごう事なき本音だったが、依代に悲観の色はない。
当然の事実として神器>聖遺物なのだから。
神器を創造できるのはたった一人だけだから。
それは己ではないから。
とても刀鍛冶とは思えない華奢な依代に嫉妬などの感情は一切なかった。
それよりも気になったのは理由の方だ。
「これだけの聖遺物を僕に依頼なされて和馬さん、どうなされるのですか? あなたは?」
「……そう」
「はい?」
「戦争しにいくんだ」
――――。
――――――――。
「それは……心が躍りますね」
「もちろんだ! 駒は揃った。『アサイラム』を取り戻しにいく。相手はこの世界そのものだからな」
和馬はさっそく有給休暇をとって竜人達の国、剣峰泰山に向かい卑弥子と対面する。
「そのタイミングでよいのじゃな」
ホワイトドラゴンと見間違うような序列一位のお姫様、暗黒竜の卑弥子は確認をとった。
それに和馬は即答する。
「ああ、今回の未来予知は完璧だ。『アサイラム』は失墜する。お前は目的を果たせる。双方にまったく損はねえ」
そこから先は、終末への道。
七つの大罪と呼ばれていた『天使の牧場』七人の生き残りは蒸発した。
日本の茨城県にあたる襠草は消滅したのだ。
暗黒竜が吐き出すホライズンブレスによって。
『ライム』の地図は書き換わり、そして完全な荒野になったその場所には二人の人間が対峙していた。
浅瀬和馬と浅斬レイナ。
二人は見つめ合う。
だが浅斬レイナの瞳にかつて和馬に向けていたものは、ない。
「おそらく零パーセントの任務だな」
「あら、あなたはわたくしを評価してくださるのですね」
そのレイナの口ぶりに和馬は子供のように楽しく笑う。
「そらそうさ。お前は世界そのもの」
「……で?」
「人間一人の魂の重さは0,01ミリグラム。俺は約二万倍だ」
「……で?」
「お前は24キロだろう。どう殺せって話だよな!」
「……で?」
「我らの怨みをその身で受けろ!!」
和馬は腰に差してある二本の剣を手に取る。
そして祝詞を紡ぐ。
「一、二、三、四、全てを限定を解除」
和馬は自我の塊だ。
左目から『Ν.ニュー』の文字が浮かびあがる。
「ああ――無念に散った人の子よ、我は君を忘れはしない。ああ――心半ばにして崩れた人の子よ、我はあなたを無駄にはしない。誓いを一筋の刃に彩り、必ず世界を殺してみせよう。汝が領域。『幾万数多の鎮魂歌』」
沢山の呪詛を欲した。
地面が焼けるような臭いと共に爆発的な推進力でレイナに詰め寄るが、
「不の禅壁」
彼女にはこれがある。
しかし和馬は起承転結の起の部分だ。
それはつまり、神の盾の解除こそが彼の役目だ。
右目から『Ε.エプシロン』の文字が同様に浮かびあがる。
「我が望み手にしたもの。それは小を一切除いた、偽りなき個の魂なり也。その魄を大の両手で、多数に集めることを望み、それを達する今ならば、我の魂魄は、種の理想を、限りなく追い求めた者へと至ることであろう。『大大多多魂魄領域』」
沢山の命を欲した。
レイナは素直に驚く。
神の盾を砕ける者など存在しなかった。
あの頃までは。
「俺達の悲願、そのための足掛かり、それはアイギスの解除、又は破壊だ。神の名を持つとはいえ、たかが盾が数千の命の重みに耐えられるものか!」
「起きなさい姫月」
瞬時に二本にわかれた姫月と和馬が持参した聖剣、魔剣がガチリと音を立てた。
レイナは一度後ろにさがり『全加早速領域』紡ぎ、自分の形へと持っていこうとする。
だがそれさえも。
和馬の左手首の甲から『Ρ.ロー』の文字が現れる。
「我が源罪の罪を、その眼前なる敵に被せよう。構うことはない。その者は我を殺そうとしているのだから。我はそれを逃れるため、自身の罪をその相手に重りとなりて、背負わせる者なり也。『大落遅行源罪領域』」
同じ速さを欲した。
和馬は許さない。
理由は投擲による一撃にかけているからだ。
彼は獣のように後ろに飛躍すると
背中に差していた天を貫く聖槍を全力で放つ。
つんざくような破裂音と共に煙りが立ち昇る。
そしてそれを姫月の防御形態で防いでいたレイナに、真後ろから地を這う魔槍を突き刺した。




