第6話「夜襲決行。レイド戦開幕」
首都ヘンデルを発ってしばらく。
夕日はすでに傾き、森は赤黒い薄闇に沈み始めていた。
今回の合同作戦に集まったのは十組のパーティ。三十人を超える冒険者たちをまとめているのは、Bランクパーティの面々だった。
「作戦は単純だ」
先頭を歩く大柄な男が、低く言う。
「ゴブリンどもが寝床に入り、気が緩んだところを叩く。見張りを潰し、そのまま巣へ雪崩れ込む。混乱してる間に押し切るぞ」
周囲から短い返事が飛ぶ。
真正面からぶつかるより、ずっと理にかなっている。
「……なんか、本当に大仕事って感じだな」
「今さら何を言うておる」
隣を歩くティアが鼻を鳴らした。
「金の匂いに釣られておったくせに」
「否定はしないけど、こうして大人数で進んでると実感が湧くんだよ」
「ふむ。なら震えておるのか?」
「いや?」
「ならよい」
こんな大人数での戦闘なんて初めてなのに、ティアはいつも通りだな。
案外、こういう戦闘にも参加したことがあるのか?
しばらく進んだところで、カイルが並んできた。
「こういうの慣れてないだろうと心配したが、要らぬ心配だったみたいだな」
「そう見えるか?」
「少なくとも足は止まってねえからな。大抵の新人は緊張で震えるもんさ」
言いながら、彼は仲間を示す。
「あ、そうだ。うちのパーティメンバー紹介しとく。こっちが剣士のルイス」
「よろしく!」
「で、こっちが盾役のグレン」
「うむ」
ほうほう、爽やかイケメンに堅物そうな大男ね。
装備も良い。それなりに強いんだろう。
「俺はユウマ。こっちはティア」
「魔王じゃ」
「それまだやるのか?」
「本当のことじゃが?」
ルイスが怪訝そうな顔をし、グレンが無言でカイルを見る。カイルは苦笑して肩をすくめた。
「もうすぐ始まる。夜で視界も悪い。慎重にいこうぜ」
「ああ」
「うむ」
やがて先頭が足を止めた。
――バーメニア大森林北部、旧遺跡跡地。
崩れた石壁と、半ば地中に埋もれた遺跡の残骸。月明かりに照らされたそこは、不気味なくらい静まり返っていた。
入口付近には数体のゴブリンが徘徊し、粗末な槍や剣を手に警戒している。
「思ったよりちゃんとしてるな……」
「住処というのは大事なものじゃ」
「ゴブリンに家づくり文化があるとは思ってなかっただけだ」
「魔物も群れをなせば、統率するものも出てくる。油断して足元すくわれておったら笑ろうてやるから心配するでない」
「足元すくわれることより、お前に助ける思考がないことの方がよっぽど心配だけどな」
小声でやり合っていると、カイルが苦笑する。
「余裕あるな、お前ら」
「いつもこんな感じで疲れるんだよ」
「妾は満更でもないぞ?」
「はいはい」
その時、Bランクパーティのリーダーが手を上げた。
全員が息を潜める。
直後、火炎弾が夜空へ打ち上がった。
戦闘開始の合図だ。
赤い光が弾け、見張りのゴブリンどもが思わず顔を上げる。
その一瞬で、全てが動き出した。
「行けッ!!」
掛け声と共に各部隊が一斉に駆け出す。
盾役が入口をこじ開け、矢が夜を裂き、魔法が火花を散らした。
悲鳴と怒号が一気に遺跡へなだれ込む。
「うおっ……!」
グレンが盾でゴブリンを吹き飛ばし、その横をルイスが抜けて喉を裂く。カイルの槍は正確に急所を貫いていた。
速くて、無駄がない。
「ぼさっとするな、ユウマ!」
「ああ、分かってる!」
俺も槍を構えて飛び込む。手近なゴブリンの脇腹を突き、別の一匹を蹴り倒す。その頭上を赤黒い光が掠め、飛びかかってきた個体が吹き飛んだ。
「進め、ユウマ」
「助かる!」
カイルとルイスが道を空け、その間を俺とティアが飛び出す。
ティアが片手を振るうたび、赤黒い魔力が炸裂して次々とゴブリン達を吹き飛ばしていく。相変わらず派手だが、あれでも加減しているらしい。
「目立ちすぎるなよ?」
「加減しとるじゃろ」
「十分騒がしいんだよ!」
入口を突破すると、その先は崩れた石の通路だった。
左右の壁には古い彫刻の跡。そこへ、さらにゴブリンどもが群がってくる。
他のパーティが前に出て押さえ、また別のパーティが横から斬って仕留めていく。近くの別パーティも、前衛と後衛が無駄なく噛み合っていた。
すげえな。
違うチーム同士が、ここまで綺麗に連携するのか。
「感心しておる場合か。おぬしもさっさと加わるんじゃ。金が逃げていくぞ?」
「……ああ、そうだな。いっちょ派手にいくか!」
――スキル《鍛冶》。
スキルを発動した、その瞬間。
いつもの黒いウィンドウに、見慣れない文字が浮かぶ。
【スキル《鍛冶》の熟練度が一定値に達しました】
【スキルレベルが上昇しました】
【補助効果《素材選定》が使用可能になりました】
【使用可能素材一覧を表示します】
「お?」
続いて視界の端に、ずらりと素材名が並ぶ。
【粗鉄片】
【劣化鋼材】
【魔石片】
【ゴブリンソード】
【ゴブリンスピア】
【鎖片】
【硬木材】
【……】
おお、これは便利だな。
周囲に何が素材として使えるのか、一目で分かる。
しかも思っていたより種類が多い。周囲に埋まっている鉱石や、ゴブリンどもがかき集めた武器まで使えるのか。
だったら――
素材を選択し、幅広の刀身を思い描く。
すると周囲の鉄片や折れた武器、鉱石片が浮かび上がり、赤く灯りながら混ざり合い、一本の武器へ形を成した。
手に現れたのは、赤の装飾が走る鉄の大剣。
「いいね。悪くない」
ずしりとした重さ。だが、今の俺なら片手でも十分振れる。
「ほう。ようやくそれらしい武器を作ったの」
「惚れるなよ?」
「気色の悪い冗談を言うでない」
気色の悪いってなんだよ、ちくしょう。
その時、ティアの前方にいたゴブリンの群れへ赤黒い魔力が炸裂した。
轟音と共に魔物どもが吹き飛び、その奥に道が開く。
「道を開けたぞ、行け」
「言われなくても!」
俺は一気に踏み込む。
瓦礫の陰から現れたのは、普通の個体より一回り大きいゴブリン。筋肉のつき方も、持っている剣も違う。
ゴブリンジェネラルだ。
「はあっ!」
大剣を横薙ぎに振り抜く。
鈍い衝撃と共に、ジェネラルの身体が壁まで吹き飛び、そのまま動かなくなった。
「おお……」
「感動してる場合か、次じゃ!」
「だな!」
その先は乱戦だった。
最奥の広場には、夥しい数のゴブリンがひしめき、その奥の石台にはゴブリンジェネラルがもう一体。
そして、その後ろにゴブリンロードが鎮座していた。
他より頭一つ大きい体躯。血染めの大鉈を持ち、ぎょろりとした目でこちらを睨みつけている。
「主か。なかなかに不細工じゃの」
「煽るな!」
怒号と共に全面衝突が始まる。
前衛が壁を作り、後衛が魔法と矢を降らせる。押し込まれそうな場所には別パーティが入り、崩れそうな前線をすぐに立て直す。
カイルの槍が二匹まとめて貫き、ルイスがその隙を縫って首を裂く。グレンは大盾でジェネラルの突進を受け止めた。
「新人、今だ!」
グレンのその声に合わせ、俺は体勢を崩したジェネラルへ大剣を振り上げる。
甲高い音と共に鎧ごと裂け、緑の血が噴き上がる。
横をすり抜けたティアが、別のゴブリンの眉間へ指先を向ける。赤黒い光が一筋の線となり、頭が弾け飛ぶ。
「もっと左じゃ、ユウマ!」
「そっちが右を減らせっての!」
「注文の多い男じゃの!」
文句を言いながらも、こいつとの連携はやりやすい。
ティアが大きく崩し、俺がそこへ叩き込む。俺が引きつけた敵を、ティアがまとめて吹き飛ばす。雑だが、妙に噛み合う。
なんだかんだ一緒に過ごして、連携が取れるようになっていた。
「ロードはBランク組が抑える! 周りを削れ!」
広場の奥では、レイドを率いていたBランクパーティがゴブリンロードとぶつかっていた。重い斬撃を盾で受け、脇から槍が突き、魔法が足を止める。そこへ、リーダーの大剣が深く食い込む。
下手に混ざると連携を崩しかねないと判断して、俺たちは残党の掃討に回ることにした。
大剣を振るうたび、密集したゴブリンどもがまとめて吹き飛ぶ。数で押してくる相手には、こういう武器がよく刺さる。
そしてついに、広場の中央で一際大きな咆哮が響いた。
振り向けば、ゴブリンロードの胸をBランクパーティのリーダーが大剣ごと貫いていた。
巨体がぐらりと揺れ、膝をつく。追撃の槍が喉を穿ち、ロードはそのまま崩れ落ちる。
――決着がついた。
統率を失った残りのゴブリンは散り散りに逃げようとしたが、冒険者たちがそれを許すはずもない。
数分後、広場には荒い息と血の臭いだけが残っていた。
「はぁ……終わったあ……」
肩で息をしながら大剣を下ろす。
「初レイドにしては上々じゃったの」
「そっちは、派手にやりすぎだろ……」
「こういうのは派手な方がよいのじゃ。お祭りみたいで楽しかろう?」
ティアはそう言って小さく笑う。
向こうではカイルたちも無事を確認し合っていた。
すげえな。違うチーム同士が役割を果たし、噛み合って、あの数を押し切った。
俺一人じゃ見られなかった景色だ。
その時、手の中の大剣がさらさらと砂のように崩れ始めた。
「お、もう限界か」
「なんだか、毎回壊れるタイミングが違うのう。なにか条件でもあるのじゃろうか」
「言われてみたらそうだな……。まぁ、そこは今後の課題だな」
崩れて消えていく残滓を見送りながら、俺は口元を緩めた。
危険な依頼だった。だが、それ以上に得るものは大きかった気がする。
経験も、連携の感覚も、そして何より。
「……これ、相当稼げたんじゃないか?」
「うむ。よい夜襲じゃったな」
「感想が物騒なんだよ、お前は」
けれど、その物騒さすら今は悪くない。
こうして少しずつ、旅立ちに必要なものを積み上げていく。その実感が、今は素直に楽しかった。
あとがき
見て下さりありがとうございます!
手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!
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