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転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

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第37話「神楽流抜刀術」

 次の瞬間、ゴーレムの胸部が眩く輝いた。

 

 魔核を中心に、膨大な魔力が収束していく。

 空気が震える。

 肌が焼けつくような圧力に、背筋がぞくりとした。

 

 まずい。

 そう思った時には、すでに遅かった。

 

 ゴーレムの胸から、高密度の魔力光線が放たれる。

 

「ユウマ!? 何をしておる! 早く避けるのじゃッ!」


 ティアの叫びが耳に届く。

 

 そうだよな。普通なら避ける。

 あるいは同等以上の魔法をぶつけて相殺するべきだ。 

 真正面から受けるような攻撃じゃない。

 

 まともに食らえば、人間の身体なんて跡形もなく消し飛ぶだろう。

 

 だけど。

 

 俺の手は、黄泉の柄に添えられていた。

 

 逃げろ、ではない。

 受けろ、でもない。

 

 黄泉が俺に語りかけてくる。

 まるで、自分の使い方を伝えるように。

 

 斬れ、と。

 

 俺は深く息を吸った。

 肺の奥まで冷たい空気を入れ、ゆっくりと吐き出す。

 

 腰を低く落とす。

 余計な力を抜き、肩から指先までを静かに緩めた。

 

 脱力。

 けれど、意識だけは研ぎ澄ませる。

 

 迫り来る魔力光線に視界が白く染まる。

 

 その光が俺を飲み込もうとした瞬間、俺は柄を握った。

 

「神楽流抜刀術――壱ノ型《新月》」

 

 ほんの一瞬。

 黄泉を鞘から抜き放つ。

 

 音も衝撃もない。

 ただ、世界だけが暗転する。

 

 まるで夜そのものが、坑道の中へ落ちてきたかのようだった。

 

 魔力光線の轟きも、崩れる石の音も、誰かの息遣いさえも遠ざかる。

 

 時が止まった。

 そう錯覚するほどの静寂。

 

 その中で、黄泉の刃だけが薄く光を引いた。

 俺は斬り終えた姿勢のまま、静かに息を吐く。

 

 そして、黄泉を鞘へ戻す。

 ちん、と小さな納刀音が響いた。

 

 次の瞬間、世界に色が戻ると俺へ迫っていた魔力光線が、左右に割れて霧散する。

 その奥にいたゴーレムの巨体もまた、胸部から斜めに裂けていた。

 高純度の魔鉱石を含んだ外殻ごと。

 まるで、そこに最初から切れ目があったかのように。

 

 上半身と下半身がわずかにずれ、轟音を立てて崩れ落ちる。

 

「なっ!?」

 

 誰かが息を呑んだ。

 

「わーお! 凄い一撃! 全然太刀筋が見えなかったよ」

 

 エイネシアさんが軽い調子で言う。

 けれど、その声には明らかな驚きが混じっていた。

 

 ティアも目を見開いている。

 ファウラーやチャロに至っては、何が起きたのか理解できていないようだった。

 

 だが、俺だけは歓声を上げる気になれなかった。

 

 黄泉の柄から手を離さず、崩れたゴーレムを見据える。

 

「すみません」

 

 俺は静かに言った。

 

「倒し損ねました」

 

 その言葉と同時に、ゴーレムの中心部に埋まった魔核が強く光った。

 

 崩れた岩片が震え出す。

 

 砕けた外殻が、磁力に引かれる鉄粉みたいに集まっていく。

 裂けた胴体が接合され、剥がれ落ちた腕が繋がり、失われた胸部が再構築されていく。

 

「こやつ、再生持ちかッ!」

 

 ティアが舌打ちする。

 

「魔核を直接どうにかしないとヤバいな」

 

 俺は眉をひそめた。

 斬れなかったわけじゃない。

 外殻も、魔鉱石も、確かに切断した。

 

 けれど、魔核そのものには届いていなかった。

 

「あの魔核を狙うのは、骨が折れるだろうなぁ〜」

 

 エイネシアさんが、いつもの軽い声で言った。

 だが、その目は笑っていない。

 

 その通りだ。

 

 ゴーレムの魔核は、高純度の魔鉱石に包まれている。

 さらにその外側を、硬質な岩の外殻が何層にも覆っていた。

 

 並大抵の攻撃じゃ、貫通できやしない。

 

 仮に外殻を剥がしても、魔鉱石の層を砕く必要がある。

 しかも、相手は再生する。

 時間をかければかけるほど不利だ。

 

 再生を終えたゴーレムが、ゆっくりと動き出した。

 重い腕が持ち上がる。

 

 次はまた光線か。

 そう身構えた直後、ゴーレムは予想外の動きをした。

 

 崩れ落ちていた自分の身体の一部を掴み上げたのだ。

 

「……は?」

 

 ゴーレムはそれを握り潰し、投げ飛ばしてきた。

 砕けた石片が、散弾みたいにこちらへ飛来する。

 

「はあ!? ありかよそれッ!」

「言っとる場合かッ! こんな場所じゃ妾は役に立たんぞ!」

 

 ティアが叫びながら魔法陣を展開する。

 坑道内で大規模魔法を使えば、こっちまで巻き込まれる。

 

 天井を崩せば全員生き埋めだ。

 

 だからこそ、ティアは本来の火力を出せない。

 

「ぷぷぅ、魔王ちゃん。強いくせに、そういうとこはポンコツだよね〜?」

 

 エイネシアがからかうように笑った。

 

「小娘が言ってくれるッ!」

 

 ティアの額に青筋が浮かぶ。 

 次の瞬間、二人の周囲に無数の魔法陣が展開された。

 

 ティアの魔法陣からは黒紫の魔力弾。

 エイネシアさんの魔法陣からは青白い光弾。

 

 まるで張り合うように放たれた弾幕が、飛来する石片を次々と撃ち落としていく。

 

 爆ぜる石。

 飛び散る粉塵。

 

 坑道の中に、乾いた破裂音が連続して響いた。

 それでも、数が多すぎる。

 

 二人が撃ち落としきれなかった破片を、俺が黄泉で斬り落としていく。

 

 一つ。

 二つ。

 三つ。

 

 斬っても斬っても、石片は雨みたいに降ってくる。

 

 くっそ、流石に防ぎきれない。

 

 そう思った矢先だった。

 大きな破片の一つが、俺たちの横を抜けた。

 

 向かう先にいたのは、チャロとファウラーさん。

 チャロは足がすくんだのか、動けていない。

 ファウラーさんも彼女を庇おうとしていたが、間に合わない。

 

「チャロ!」

 

 誰かが叫んだ。

 俺も踏み出そうとした。

 

 だが、距離がある。

 ティアもエイネシアも、別の石片への対応で手が塞がっていた。

 

 間に合わない。

 

 誰もがそう悟った、その時。

 

「うぐッ!」

 

 鈍い音が響いた。

 

 チャロとファウラーさんの前に、ガルドが立っていた。

 その背中が、二人を隠している。

 

 飛んできた破片は、ガルドの額を掠めて砕け散っていた。

 

 血が流れる。

 額から頬へ。

 赤い筋が落ちていく。

 

 ガルドは苦しげに顔を歪め、その場に膝をついた。

 

「ガルド……どうしてあなたが……」

 

 ファウラーは、信じられないものを見るように呟いた。

 

「知るか……」

 

 ガルドは乱暴に吐き捨てる。

 

「気付いたら身体が勝手に動いてやがっただけだ……」

 

 そう言って、額を押さえながら二人から目を逸らした。

 強がっている。

 それは誰の目にも明らかだった。

 

 チャロが、おずおずとガルドに近づく。

 そして、震える手で彼の手を握った。

 

「ガルドさん」

 

 小さな声だった。

 

「守ってくれて……ありがとう」

「ッ!」

 

 ガルドの肩が震えた。

 その顔は見えない。

 けれど、俺にはなんとなくわかった。

 

 きっと今、チャロの姿を娘のミラと重ねている。

 

 失ったもの。

 守れなかったもの。

 その痛みが、あいつの中でまだ生きているのだろう。

 

 だからこそ、身体が勝手に動いた。

 理由なんて、それだけで十分だった。

 

 ゴーレムが再び腕を振り上げる。

 長くは感傷に浸らせてくれないらしい。

 俺は黄泉を握り直した。

 

「決着つけるぞ」

「うむ」

「そうだね、終わりにしよう!」

 

 ティアが隣に並ぶ。

 エイネシアさんも軽く肩を回し、背中の大剣を抜くと口元に笑みを浮かべた。

 けれど、その瞳は鋭い。

 

 俺はゴーレムの胸部を見据える。

 狙うべきは魔核。

 

 そのためには、まず外殻を剥がす。

 次に、魔核を包んでいる魔鉱石の層を露出させる。

 

 そこまでやれば、エイネシアさんなら届かせられるはずだ。

 

「エイネシアさん」

「なにかな?」

「俺とティアで、なんとか魔核を包んでる魔鉱石まで剥がします。トドメ、お願いできますか?」

「うん! 任せてよ!」

 

 即答だった。

 軽い。軽すぎるほどの返事。だが、不思議と頼もしい。

 この人ならやれる。

 そう思わせるだけの何かがあった。

 

 俺は小さく息を吐く。

 

 黄泉の柄に手を添え、腰を落とした。

 隣ではティアが魔力を練り上げている。

 

 坑道内の空気が重く震えた。

 

「いきます!」

 

 俺とティアは同時に地を蹴った。

 再生を続ける魔鉱石の巨人へ向かって、真正面から突っ込んでいく。

 

 今度こそ。

 あの魔核を、引きずり出す。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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