表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/47

第36話「父の復讐」

 第七坑道へ続く道は、以前来た時よりもずっと重く感じられた。

 

 道そのものは変わっていない。

 

 岩肌の冷たい壁。荷車が通るための広い道。遠くから聞こえてくる工房街の槌音。

 

 けれど、今はそこに別のものが混じっている。

 

 チャロの手がかり。

 姿を消したガルド。

 

 そして、第七坑道の奥に潜んでいるかもしれない何か。

 

「旧搬出路はこっちだよ」

 

 先頭を歩くエイネシアが、迷いなく脇道へ入っていく。

 

 いつもの軽い足取りではあるが、表情は鋭い。チャロの持ち物を見つけてから、彼女の空気はずっと張り詰めていた。

 

 ファウラーも無言で続く。

 

 長である彼が直接ここまで来ることには危険もある。だが、止めたところで聞くような顔ではなかった。

 

「この先は、今は使われていない道です」

 

 ファウラーが低く言う。

 

「古い搬出路で、第七坑道の奥へ繋がっています。事故後は封鎖されているはずでした」

「封鎖されているはず、か」

 

 俺は足元を見る。

 

 地面には、うっすらと車輪の跡が残っていた。

 古い道だというのに、土埃の上には新しい乱れがある。

 

 誰かがここを使っている。

 それも、一度や二度ではない。

 

「なるほどのう。使われておらぬ道にしては、新しい痕跡がある。ずいぶんな働き者がおるようじゃ」

 

 ティアが皮肉っぽく呟く。

 

「魔鉱石を運び込んでいたのか、運び出していたのか……」

「どちらにせよ、まともな使い方ではなさそうだね」

 

 エイネシアの声は冷たかった。

 

 旧搬出路を進むほど、空気が重くなっていく。

 

 壁には古い補強材が残り、ところどころ腐りかけた木材が岩に埋もれていた。足元には割れたランタンや、錆びた金具が転がっている。

 

 そして、その中に混じって青白い欠片が見えた。

 

「魔鉱石か」

 

 俺が拾い上げると、欠片はかすかに光を帯びていた。

 ティアがそれを覗き込み、眉を寄せる。

 

「この辺り、マナの流れがかなり乱れておる。前に入った時より濃い」

「奥に近づいている証拠、か」

「おそらくのう」

 

 俺は腰の《黄泉》に手を添えた。

 

 打ち直したばかりの刀は、鞘の中で静かに沈黙している。

 だが、この先で必要になる。

 そんな嫌な確信があった。

 

 やがて、搬出路の奥に古びた鉄扉が現れた。

 

 扉には封鎖を示す札が打ち付けられている。だが、その札は半ば壊され、扉の片側はわずかに開いていた。

 

 エイネシアがしゃがみ込み、床を確認する。

 

「足跡がある。小柄な足跡と、大きい足跡。やっぱりここだ」

「チャロ様……」

 

 ファウラーが拳を握る。

 俺たちは慎重に扉を押し開けた。

 

 中は広い空間だった。

 

 かつては搬出用の集積場だったのだろう。壁際には壊れた荷車や古い箱が積まれ、中央には魔鉱石を加工するための台のようなものが置かれている。

 

 そして、奥の柱に、小柄なドワーフの女性が縛られていた。

 

「チャロ!」

 

 エイネシアが叫ぶ。

 

 その声に、女性がゆっくりと顔を上げた。

 

 髪は乱れ、頬には汚れがついている。服もところどころ破れていたが、意識はあるようだった。

 

「エイネ……姉……?」

 

 掠れた声。

 

 その瞬間、エイネシアの表情が崩れかけた。

 だが、彼女は飛び出さずに足を止める。

 

 視線を周囲に走らせ、罠を警戒している。

 

「チャロ様!」

 

 ファウラーも声を上げる。

 チャロは弱々しく首を振った。

 

「来ちゃ、だめ……奥に……」

 

 その言葉が終わる前に、空間の奥から足音が響いた。

 

 ゆっくりと。

 重く。

 一人のドワーフが姿を現す。

 

 白髪混じりの髭。

 がっしりとした体。

 見覚えのある顔。

 

 第七坑道で、俺たちが救助した坑夫。

 

「ガルド……」

 

 俺が呟くと、男は暗い目でこちらを見た。

 

「来ちまったか」

 

 その声には驚きがなかった。

 

 まるで、こうなることを分かっていたみたいだった。

 

「ガルドさん。あなたが、チャロ様を」

 

 ファウラーが問いかける。

 ガルドは答えない。

 

 ただ、チャロの方へ一度視線を向け、それから俺たちを見る。

 

「この娘は、殺すつもりだった」

 

 空気が凍った。

 

 エイネシアの目が細くなる。

 

「……今、なんて言った?」

「殺すつもりだったと言ったんだ。魔鉱石の流れを嗅ぎ回って、俺のところまで辿り着いた。放っておけば、全部明るみに出る」

「それで、チャロをさらったのか」

 

 俺の声が低くなる。

 ガルドは静かに頷いた。

 

「そうだ」

「なら、なぜ殺さなかった」

 

 ティアが問う。

 ガルドは、苦しげに顔を歪めた。

 

「……殺せなかった」

 

 その声には、さっきまでの冷たさがなかった。

 

「この娘が、あいつに似ていた。危ないと分かっていても奥へ進む目。坑道のことになると周りが見えなくなる癖。職人や坑夫を放っておけねぇところまで……何もかも、ミラに似ていた」

「ミラ……」

 

 ファウラーが静かにその名を口にする。

 ガルドの目に、憎しみが戻る。

 

「あの子は、優秀だった。誰よりも鉱脈を読む目があった。第七坑道を任されたと聞いた時、嬉しそうに笑っていたよ。ロダン様に認められたってな」

 

 ガルドの拳が震える。

 

「俺も誇らしかった。あの子は俺の自慢だった。だが、その坑道があの子を殺した」

 

 声が、少しずつ荒くなっていく。

 

「第七坑道は脆かった。危険だった。なのに、ロダンはあの子に任せた。あの子は責任感が強い。任された仕事を投げ出せるわけがねぇ。結果、落盤で死んだ」

「記録では、ロダン様が無理に採掘を続けさせた形跡はありません」

 

 ファウラーが言う。

 だが、ガルドは笑った。

 乾いた、ひどく虚ろな笑いだった。

 

「記録? そんなもんで、ミラが帰ってくるのか?」

「ガルド……」

「補償も受けた。謝罪も受けた。第七坑道も封鎖された。けどな、俺の娘は戻らなかった」

 

 ガルドは胸を押さえるように拳を握る。

 

「だから、恨んだ。ロダンを。ロダンが守ろうとしたこの国を。ガリアという鍛冶の国そのものを」

 

 その言葉に、俺は奥歯を噛んだ。

 

 悲しみは本物だ。

 娘を失った痛みも、きっと本物だ。

 

 だが、それでも。

 

「それで魔鉱石を横流ししたのか」

「ああ」

 

 ガルドはあっさり認めた。

 

「他国の錬金術師と手を組んだ。魔鉱石を使えば、通常のゴーレムより強い個体が作れる。魔法も弾き、物理にも耐える。国を壊すにはちょうどいい」

「国落としのために、ゴーレムを作ったということですか」

 

 ファウラーの声が震えていた。

 怒りだ。

 

「そうだ。ガリアが誇る魔鉱石で、ガリアを壊す。最高の皮肉だろう?」

「笑えぬな」

 

 ティアが冷たく言った。

 

「娘を失った悲しみを、国を壊す理由にするか」

「よそ者が説教するのか」

「妾は魔王じゃ。だからこそ分かる。壊すのは簡単じゃ。じゃが、一度壊したものは戻らぬ」

 

 ティアの声は静かだった。

 

「おぬしは娘を失った。その痛みは消えぬ。じゃが、おぬしが今やろうとしていることは、他の誰かに同じ痛みをばら撒くことじゃ」

 

 ガルドの顔が歪む。

 

「黙れ……」

「黙らぬ」

「黙れ!」

 

 ガルドが叫ぶ。

 

 壁際の魔鉱石が一斉に青白く光った。

 その瞬間、空間全体が低く震え始める。

 

 ずず……ずずず……。

 

 奥の暗がりで、何かが動いた。

 

 俺は反射的に黄泉の柄へ手をかける。

 ティアも魔力を練り、エイネシアはチャロを守るように一歩前へ出た。

 

「ガルド、やめろ!」

 

 ファウラーが叫ぶ。

 だが、ガルドは止まらない。

 

「もう遅い。止められねぇ。俺にも、な」

「何だと?」

 

 奥の壁が砕けた。

 

 そこから現れたのは、巨大な影だった。

 以前戦った魔鉱石ゴーレムよりも、さらに大きい。

 

 身の丈は四メートルを超えている。岩と金属を混ぜたような巨体。その全身に、青白い魔鉱石の光が脈のように走っている。

 

 胸の中央には、大きな魔核らしき結晶が埋め込まれていた。

 

 ゴーレムが一歩踏み出すと地面が揺れた。

 

「大型の魔鉱石ゴーレム……」

 

 ファウラーが呆然と呟く。

 

「完成していたのか……」

「完成なんかしちゃいねぇよ」

 

 ガルドは自嘲気味に笑った。

 

「こいつはまだ試作だ。だが、十分だろう。街へ出れば、工房街くらいは簡単に潰せる」

「そんなことをすれば、関係ない人まで巻き込むぞ!」

「関係ない?」

 

 ガルドの目が血走る。

 

「誰も関係なくなんかねぇ。ガリアの火が燃え続けるたびに、俺は思い出す。ミラが帰ってこなかった日のことをな!」

 

 大型ゴーレムの腕が持ち上がる。

 

 狙いは、俺たちではない。

 柱に縛られたチャロだった。

 

「チャロ!」

 

 エイネシアが飛び出す。

 

 だが、ゴーレムの動きは重いくせに、腕の届く範囲が広い。

 間に合わない。

 

 俺は腰を落とし、黄泉の柄を握った。

 死の気配は解放しない。

 だが、抜く。

 

 今の黄泉なら、周囲を巻き込まずに抜ける。

 赤黒い刃が鞘から滑り出る。

 

 その瞬間、身体の奥から魔力が細く吸われ始めた。

 

「ティア!」

「分かっておる!」


 俺は一気に踏み込んだ。

 ティアは風魔法を発動させ俺の背を押し加速させる。

 

 ゴーレムの腕がチャロへ迫る。

 その前に、俺は黄泉を振り抜き、赤黒い刃が、青白い魔鉱石の腕に触れる。

 

 抵抗はあった。

 けれど、弾かれない。

 

 刃は魔鉱石の外殻へ食い込み、そのまま腕の表面を大きく裂いた。

 

「っ……!」

 

 斬れた。

 だが、その瞬間、身体の奥からごっそりと魔力を持っていかれる感覚があった。


「こいつ……! 追加で喰いやがった……!」

 

 重い。 

 ただ抜いているだけとは違う。 

 黄泉は斬った分も追加で俺から魔力を奪っている。

 長期戦になるのは不利だ。

 

 ゴーレムの腕は軌道を逸らし、柱の横を砕いた。

 エイネシアがその隙にチャロの縄を引き千切り、抱え込む。

 

「ユウマ君!」

「大丈夫……!」

 

 そう答えたものの、膝が少し笑っていた。

 

 黄泉は強い。

 前とは比べものにならないほど、魔鉱石の外殻さえ断ち切る程に届く。 

 けれど、振り回し続ける刀ではない。

 

 抜いているだけで魔力を吸われる。

 斬れば、さらに奪われる。

 

 俺はすぐに黄泉を鞘へ戻すと、魔力の流出が止まった。 

 そこでようやく、息が少し楽になる。

 

「ユウマ、なぜ納める!」

 

 ティアが叫ぶ。

 

「抜きっぱなしだと持たない」

 

 俺は息を整えながら、鞘に収まった黄泉へ手を置く。

 

「必要な瞬間だけ抜く」

 

 そうだ。

 

 こいつは振り回す刀じゃない。 

 常に抜いて戦う刀でもない。

 

 抜く。

 斬る。

 納める。

 

 必要な一瞬だけ、すべてを断つ。 

 それが、今の黄泉の使い方だ。

 

 大型ゴーレムが、こちらへゆっくりと向き直る。 

 青白い光が、胸の魔核に集まっていく。

 次の一撃は、さっきより重い。 

 そんな確信があった。

 

 俺は腰を落とし、居合の構えを取る。

 鞘の中で、黄泉が静かに震えた。

 

「来い」

 

 小さく呟く。

 

 ガルドの復讐も。

 魔鉱石で作られた怪物も。

 

 ここで止める。

 赤黒い刃が、鞘の奥で息を潜めていた。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ