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転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

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第29話「ガリアの長」

 救助した坑夫たちを連れ、第七坑道の外へ出ると、待っていた少年が真っ先に駆け寄ってきた。

 

「親方!」

 

 泥と煤で汚れた少年の顔が、泣きそうに歪む。

 担がれていたドワーフの一人が、うっすらと目を開けた。

 

「……騒ぐな。頭に響く」

「よかった……!」

 

 少年はその場にへたり込みそうになったが、ダグロが肩を掴んで支えた。

 

「泣くのはあとにしろ。まずは医者だ」

「あ、ああ!」

 

 俺たちは怪我人を連れ、急いで街へ戻った。

 

 ギルドに着く頃には、すでに騒ぎを聞きつけた者たちが集まっていた。担架が用意され、坑夫たちは奥の治療室へ運ばれていく。

 

 全員、命に別状はないらしい。

 それを聞いて、俺はようやく息を吐いた。

 

「ひとまず、救助は成功だな」

「うむ。あのゴーレムには肝を冷やしたがのう」

 

 ティアが腕を組んで言う。

 その隣では、エイネシアが砕けたゴーレムの破片を片手で転がしていた。

 青白い光を帯びた魔鉱石が、割れた岩の断面に混じっている。


 綺麗な光だ。だが、今は不気味な光でもあった。

 

「これ、ギルドに報告した方がいいですよね」

「もちろん。というか、報告しないと後で面倒事になっちゃうよ」


 そう言うと、エイネシアは楽しげに笑った。

 

「それは……嫌ですね」

「ユウマ君、面倒事に巻き込まれる才能ありそうだもんね」

「誤解です、俺にそんな特性ないですよ。こっちのちっちゃいのが面倒事を持ち帰ってくるだけです」

「誰がちっちゃいのじゃっ!」

 

 俺とティアのやりとりにエイネシアは軽く笑うと、受付の方へ歩いていった。

 

 俺たちもそれに続く。

 

 受付嬢は、俺たちが差し出したゴーレムの破片を見た瞬間、表情を強張らせた。

 

「これは……魔鉱石、ですか?」

「ゴーレムの身体に混ざってたものです」

「えっ、ゴーレムに……?」

 

 受付嬢の声がわずかに震えた。

 周囲にいた冒険者や坑夫たちも、その言葉にざわつき始める。

 

「第七坑道にゴーレムだと?」

「しかも魔鉱石が混ざってるって……」

「まさか、最近石が入ってこねぇのと関係してるんじゃねぇだろうな」

 

 誰かが小さく呟いた。

 その言葉に、俺は思わず反応する。

 

 そう、そこが問題だ。

 魔鉱石が不足しているって時に、その魔鉱石を混ぜ込まれたゴーレムが廃坑にいた。 

 偶然で片づけるには、あまりにも都合がよすぎる。

 

 俺は受付から少し離れ、エイネシアに声をかけた。

 

「エイネシアさん。少しいいですか?」

「うん。だいたい聞きたいことは分かるよ」

 

 エイネシアは、いつもの軽い調子のまま答えた。

 けれど、目だけは真剣だった。

 

「今あちこちで、魔鉱石の供給がかなり不足してるみたいなんです」

「やっぱりね」

「知ってたんですか?」

「完全に知ってたわけじゃないよ。でも、通りかかった店の商品が軒並み値上がりしてたからね」


 どうやら、エイネシアも高騰していることに疑問は持っていたらしい。


「それに僕がこの国に来た理由でもあるんだけど、もう一個の問題の方も厄介なんだ」

「もう一個?」

 

 俺が聞き返すと、エイネシアは懐から一通の手紙を取り出した。

 

 封蝋は割られている。

 だが、紙自体は丁寧に扱われていた。

 

「少し前、ガリアの長――正しくは先代の長から手紙が届いたんだ」

「先代の長から?」

「そっ。どうやら、娘さんが行方不明らしいんだよね〜。しかも、その娘さんは失踪する前に、なにやら魔鉱石について調べていたらしい」

 

 エイネシアは手紙を見下ろしながら続ける。

 

「捜査依頼……では、あるんだけど。この一通以降、連絡が取れないんだ」

「じゃあ、その手紙は……」

「本人が出したものだとは思うんだけど……。なんだか違和感があって、誰かが先代の名を使ったものかもしれないって疑ってるんだ。だから、まずは今の長に会って確かめるつもり」

「それで街に?」

「うん。そしたら、ギルドで第七坑道の騒ぎが聞こえてさ。場所も内容も気になったから、先に救援へ向かったんだよ」

 

 なるほど。

 エイネシアがあの場に現れたのは偶然ではなかった。

 この国の異変を追っていたからこそ、第七坑道の騒ぎに反応できたのだ。

 

「小娘の話と、あのゴーレムのことを合わせれば、やはり一度ガリアの長に会うべきじゃな」

 

 ティアが静かに言った。

 エイネシアがにこりと笑う。

 

「小娘って僕のこと?」

「ほかに誰がおる」

「魔王ちゃんの方がちっちゃいじゃん!」

「かかっ! 面白い冗談を言う。消し炭にするぞ」

「やめなさい」

 

 今にも魔法を放ちそうなティアの頭に、後ろから軽くチョップを入れる。

 

「痛っ!? 何故じゃ!? 今のは妾は悪くないじゃろ!」

「すぐ武力行使に移ろうとするのが悪い」

「因果応報ではないか!」

「俺からしたら五十歩百歩だよ」

 

 緊張感のある話をしているはずなのに、どうにもティアが混ざると場の気が緩む。

 だが、今はそれに少し救われた気もした。

 

「まぁ、僕も魔王ちゃんの意見に賛成かな。状況も含めて色々確認した方がいいと思う」

「決まりじゃな」

 

 その言葉にエイネシアは手紙を懐に戻した。

 

 俺たちはギルドへ簡単に事情を伝え、ゴーレムの破片を証拠として一部預ける。

 残りの破片は、エイネシアが持っていくことになった。ガリアの長に会うなら、証拠はあった方がいいだろう。

 

 ガリアの長がいる場所は、街の中心にあった。

 山の内側を大きく削って作られた広場。その奥に、重厚な石造りの建物が建っている。

 

 議事館、と呼ぶべきだろうか。

 入口には、分厚い鎧を身につけたドワーフの衛兵が立っていた。工房街の熱気とは違う、固い空気が漂っている。

 

「止まれ。何用だ」

 

 衛兵が低い声で問いかける。

 エイネシアは一歩前へ出ると、手紙を見せた。

 

「先代の長から調査依頼を受けて来た。今の長に面会したい。それと、第七坑道で異常なゴーレムを確認している。それについての報告も兼ねて通してもらいたい」

 

 衛兵の眉がぴくりと動く。

 

「少々待て」

 

 そう言って、一人が建物の中へ入っていった。

 待っている間、ティアが小さく呟く。

 

「衛兵が多いのう」

「そうなのか?」

「うむ。長のいる場所なら警備は当然じゃが、これは少し物々しい」

 

 言われてみれば、入口だけではない。

 建物の窓辺や通路の奥にも、衛兵の姿が見える。

 

 外敵を警戒しているというより、何かを必死に守っているような雰囲気だった。

 

 しばらくして、先ほどの衛兵が戻ってくる。

 

「面会を許可する。ついてこい」

 

 俺たちは衛兵に案内され、建物の中へ入った。

 

 中はひんやりとしていた。

 磨かれた石の床に、壁には歴代の長らしき肖像画が並んでいる。どの顔も髭が立派で、誰が誰だか一瞬分からなくなる。

 

 廊下を進むたび、衛兵の視線がこちらに向けられた。

 歓迎されている感じはしない。

 

 やがて、大きな扉の前で足が止まる。

 

「中で失礼のないように」

「僕はいつも礼儀正しいよ」

 

 エイネシアが笑顔で答えると、衛兵は何とも言えない顔をした。全然、信用されていない。

 

 扉が開かれ、俺たちは部屋の中へ足を踏み入れた。


 中は思っていたよりもずっと広く、中央には大きな机があり、壁際には鉱山の地図がいくつも貼られている。

 魔鉱石らしき結晶を使った灯りが、青白く室内を照らしていた。

 

 その奥に、一人のドワーフが立っていた。

 まだ壮年といった年頃で、髭は綺麗に整えられている。身につけている衣服も上等で、胸元には長を示すものらしい紋章があった。

 

「ようこそ、ガリアへ」

 

 男は穏やかに笑う。

 

「私が現在のガリアの長である、ファウラーだ。遠路はるばる、よく来てくれた」

 

 丁寧な声だった。

 だが、俺の意識はその男ではなく、部屋の奥にある椅子へ向いていた。

 いや、誰もがそちらに目を奪われていた。

 

 そこに、もう一人のドワーフが座っていたからだ。

 白く長い髭。深く刻まれた皺。

 けれど、その目だけは妙に鋭く、俺たちの方をじっと見ていた。

 

 エイネシアの表情が、一気に変わる。

 

「……じっちゃん!?」


 え? じっちゃんって……え?


 思わず言葉を失う。俺とティアは互いに顔を見合わせた。

 その光景を見て現長が笑みを浮かべたまま言う。

 

「ああ、紹介が遅れたね。こちらは先代の長、ロダン様だ。今は体調を崩されていて、表にはほとんど出ておられないが」

 

 先代の長。その言葉に、俺は息を呑んだ。

 エイネシアに手紙を送った人物。 

 その先代が、今、目の前にいる。

 

 だが、椅子に沈んだその姿は、どう見ても自由に動けるようには見えなかった。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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