第28話「金色の閃光」
「硬すぎるだろ!」
「下がれ、ユウマ!」
ティアが手をかざす。
赤黒い魔力が渦を巻き、槍のように伸びた。
「砕けよ」
魔力の槍がゴーレムの胸部へ直撃する。
普通の魔物なら、それだけで胴体に穴が空いてもおかしくない一撃だった。
だが、ゴーレムは倒れない。
胸部に触れた魔力が、表面で散るように霧散した。
「今のはなんじゃ!?」
ティアの目が細くなる。
ゴーレムはわずかに後退しただけで、すぐに腕を振り上げた。
「こいつ、たぶん魔法を受け流してるぞ!」
俺は斧を握り直し、地面を蹴る。
正面から叩き割るのは無理だ。
なら、関節を狙う。
すかさずゴーレムの膝部分へ斧を叩き込む。
だが、刃はやはり浅い。
表面を削り、火花を散らしただけで止まる。
そのまま横から腕が迫った。
「まずっ」
避けきれない。
そう思った瞬間、ティアの魔力が俺の身体を後ろへ引いた。
ゴーレムの腕が鼻先をかすめ、岩壁に叩きつけられる。壁が砕け、石片が雨のように降った。
「助かった!」
「礼はあとじゃ。こやつ、普通のゴーレムではないぞ」
「ああ、物理も魔法も効きづらい。なかなか厄介だな」
倒れている坑夫たちがいる以上、広範囲や高火力の攻撃は使いづらい。
黄泉を抜く選択肢も、あるにはあるが正直どこまで影響が出るか分からない以上、今は使えない。
そんな状況でこいつを止めながら、坑夫たちを外へ逃がす必要がある。
物理に強いゴーレムが、魔法まで弾く。実に厄介すぎる。
そんなもの、反則だろう。
「ティア、坑夫たちを動かせるか?」
「やってみる。おぬしは時間を稼げ」
「善処はする」
俺は再び《鍛冶》を発動した。
今度は斧ではなく、杭のように太い短槍を作る。
狙うのは、膝の同じ箇所。
一撃で壊せないなら、同じ場所を何度も叩く。
俺はゴーレムの攻撃をかわしながら、膝へ短槍を打ち込んだ。
一度。
二度。
三度。
岩と金属の表面にひびが入る。
「よし、いける!」
そう思った瞬間、ゴーレムの胸部に青白い光が走った。
ひびが、ゆっくりと塞がっていく。
「はあ!? 再生するのかよ!?」
「なんと、厄介なッ!」
ティアが舌打ちする。
彼女は魔力の糸で坑夫の一人を引き寄せ、壁際へ移動させていた。だが、全員を運ぶには時間が足りない。
ゴーレムがティアの方へ向く。
まずい。
俺はとっさに叫んだ。
「こっちだ、岩野郎!」
短槍を投げつける。槍はゴーレムの肩に当たり、砕けた。
ダメージは薄い。
だが、注意は引けた。
ゴーレムがこちらへ向き直る。
「よし、来い!」
全然よくない。
内心ではそう思いながら、俺は新しい武器を作ろうとした。
その時だった。
坑道の奥から、風が走った。いや、風ではない。
誰かが、凄まじい速度で広場へ飛び込んできたのだ。
「あれか! はーい、皆伏せて~!」
聞き覚えのある声が響く。
俺は反射的に身を低くした。
次の瞬間、金色の閃きがゴーレムの腕を横から叩き砕いた。
重い破砕音。
ゴーレムの片腕が吹き飛び、岩壁にめり込む。
「なっ……」
俺は思わず声を漏らした。
舞い散る粉塵の向こうに、一人の女が立っていた。
堂々とした立ち姿。その顔には、見覚えがある。
「エイネシア……さん?」
「あ、やっぱりまた会ったね! てことは……」
エイネシアはきょろきょろと周囲を見渡し、ティアの姿を見つけると満面の笑みで大きく手を振る。
「魔王ちゃーん! 加勢するよー!」
「やかましい! まずはそいつをどうにかするぞ」
「それはそうだね!」
エイネシアは軽く肩を回しながら、砕けたゴーレムの腕を見た。
「ふーん。なるほどね……」
ゴーレムが残った腕を振り上げる。
エイネシアは一歩踏み込み、低い姿勢から拳を叩き込んだ。
衝撃が坑道全体を震わせる。
「っく!」
なんつー、威力だ。
硬いゴーレム相手に素手で挑むのも凄いが、あの小さな身体から放たれる威力じゃねえだろ!
エイネシアの一撃を受けてゴーレムの胴体が大きく傾いた。
俺はその隙を逃さず、再び《鍛冶》で作ったハンマーで膝のひびへ一撃打ち込む。
すると、そこへティアの魔法が、ハンマーの一撃をさらに押し込むように重なる。
ゴーレムの膝が砕け、巨体が倒れた。
エイネシアがさらに踏み込み、胴体に魔力を纏わせた拳を叩きつける。
青白い光が乱れ、ゴーレムの動きが鈍った。
「今のうちに坑夫を!」
「分かった!」
俺とティアは急いで倒れていた坑夫たちを移動させた。
幸い、全員息はある。
怪我はしているが、命に別状はなさそうだった。
ゴーレムは膝を壊され、片腕を失ってもなお動こうとしていた。その身体は今も再生しようと周囲のマナを吸っている。
だが、エイネシアが間髪いれず連撃を叩きこんで動きを封じ込めていた。
人間一人で、巨大なゴーレムを止めている。
相変わらず、規格外だ。
そして、ついに露出した魔核をエイネシアの拳が砕き、ゴーレムの動きが完全に止まった。
「まったく、なんて硬さだ。流石の僕も、腕が痺れたよ」
エイネシアが苦笑する。
だが、その目は笑っていなかった。
「これ、ただのゴーレムじゃないよね?」
「じゃろうな。妾もこんなやつ初めてみたわ」
二人は、動かなくなったゴーレムに目をやり、冷静に分析する。
「俺は普通のゴーレムすら知らないから分かんないが、どう違うんだ?」
「砕いた腕を見てみるといいよ」
俺は岩壁にめり込んだゴーレムの腕へ目を向けた。
割れた断面の中に、青白く光る結晶がいくつも混じっている。
魔鉱石だ。
「こいつの身体……魔鉱石が使われてるのか?」
「そういうことだね」
エイネシアはゴーレムを警戒したまま答えた。
「ゴーレムはもともと物理に強いんだ。岩や土、金属を核で動かしているからね。ただこいつは魔鉱石が混ぜ込まれているせいで、魔力に対する耐性まで持つようになった」
「だからティアの魔法が途中で散ったのか」
「うむ。妾の魔法は、ちょいっと特殊なんじゃが、魔鉱石が放つような純粋なマナとは相性が悪い。まぁ、どのみち普通の岩人形ではあり得ぬ反応じゃ」
ティアが険しい顔で頷く。
エイネシアは砕けた破片を一つ拾い上げ、指先で転がした。
「厄介だよ。正面から削り合うなら、下手な地竜と大差ない」
「地竜って……この前の!? 冗談だろ?」
「硬さと面倒さだけならね。総合的な脅威度は状況次第だけど、狭い坑道で相手をするには最悪の部類だよ」
背筋に冷たいものが走る。
そんなものが、閉鎖された坑道にいる。
しかも、これは偶然とはとても思えなかった。
「でも、ゴーレムの身体って、自然に魔鉱石を取り込むものなのか?」
俺が聞くと、エイネシアは首を横に振った。
「ないね。少なくとも、こんなふうに均一に混ざることはあり得ない」
彼女は破片を強く握りしめた。
「これは自然発生じゃない。誰かが意図的に作ったものだよ」
その言葉に俺は、思わず唾を飲み込んだ。
これを意図的に作ったやつがいる?しかも、こんな場所に放って……。
そいつは、いったいなんの意図があってそんなことをしたんだ?
魔鉱石が足りない国。
魔鉱石を使って作られたゴーレム。
ただの偶然で片づけるには、あまりにも出来すぎている。
動かなくなったゴーレムを見つめながら、俺は背筋に冷たいものが這うのを感じていた。
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