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転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

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第26話「封鎖された第七坑道」

「これでは、たくさんの者が困るじゃろう」

 

 宿へ戻る途中、ティアがぽつりと呟いた。


「まあ、そうだな。このままいけば、鍛冶屋だけじゃ済まないだろうし」

「うむ。武器が高くなれば冒険者が困る。防具が高くなれば兵も困る。道具が高くなれば職人も困る。巡り巡って、飯屋も宿屋も困る」

「……だろうな」


 ティアは真面目な表情を浮かべ顎に手を当てる考える。

 

「なんとかしたいのう」

「どうにかって言ったって、どうするんだ?」

「うーむ。いっそ炭鉱に潜ってみるかのう」

「発想が犯罪者過ぎるだろ」

「確かに不法侵入にはなるが?」

「だから? みたいな感じで言うな。分かってるならやめなさい」

 

 俺は思わず額を押さえた。

 

 こいつはたまに、思い切りが良すぎる。

 いや、魔王としては正しいのかもしれない。問題がある。ならば現場を見に行く。実に分かりやすい。

 

 ただ、人間社会では手順というものがある。

 

「そもそも、鉱山って勝手に入れる場所じゃないだろ。危ないし、国の管理下にあるだろうし」

「では、正面から許可を取ればよかろう」

「俺たち、ただの旅人だぞ?」

「妾たちは冒険者ではないか」

「Dランクだけどな。国の鉱山に入れてくださいって言って、はいどうぞとはならないだろ」

「むう……面倒じゃのう」

「それが普通なんだよ」

 

 とはいえ、ティアの言うことも分からなくはない。

 原因が鉱山にあるのか、流通にあるのか、それとももっと別のところにあるのか。

 店を回って話を聞くだけでは、そこまでは分からない。

 

 調べるなら、もう少し踏み込む必要がある。

 

 だが、不法侵入はさすがにまずい。

 せっかく鍛冶の国に来たのに、初手で犯罪者になるのは勘弁してほしい。スローライフどころか、牢屋ライフが始まってしまう。

 

「なら、まずは情報を集めるか」

「情報?」

「ああ。鉱山に入れなくても、鉱山で働いてる人間から話を聞くことはできるだろ? 坑夫とか、運搬業者とか、商人とか」

「なるほどのう。良い考えじゃ」


 ティアは俺の提案に相槌を打ちながら答える。

 

「あと、冒険者ギルドにも行ってみる。鉱山関係で何か依頼が出てるかもしれない」

「依頼があれば、合法的に潜れるというわけじゃな」

「そういうことだ」


 結局、俺たちは宿へ戻らず、そのままガリアの冒険者ギルドへ向かうことにした。

 

 ガリアのギルドは、ヘンデルのものとは少し雰囲気が違っていた。

 

 建物自体は石造りで、壁には武器や盾ではなく、坑道の地図らしきものがいくつも貼られている。掲示板にも討伐依頼だけでなく、鉱石の運搬護衛、坑道内の魔物駆除、落盤現場の警備補助など、鉱山に関わるものが多かった。

 

「やっぱり鉱山関係の依頼が多いな」

「国柄じゃのう」

 

 掲示板を眺めながら、俺は依頼票を一枚ずつ確認していく。

 

 だが、肝心の魔鉱石不足に直接関係しそうな依頼は見当たらなかった。

 

 鉱山の護衛。

 採掘場付近の魔物討伐。

 資材運搬。

 坑道整備の人手募集。

 

 どれも関係ありそうで、核心には触れていない。

 

「……ないな」

「鉱山に入れそうな依頼はあるではないか」

「あるにはあるけど、場所が違う。こっちは一般坑道の整備補助。魔鉱石の採掘場とは別だと思う」

「むう。惜しいのう」

 

 受付へ向かい、俺は職員に話を聞くことにした。

 

 受付にいたのは、髭を三つ編みにした若いドワーフの女性だった。背は低いが、声ははきはきしている。

 

「鉱山関係の依頼をお探しですか?」

「ああ。できれば魔鉱石の採掘場に近いものがあればと思って」

 

 俺がそう言うと、受付嬢の表情がわずかに曇った。

 

「申し訳ありません。現在、魔鉱石の主採掘区域に関する依頼は、一般冒険者には開放されていません」

「開放されていない?」

「はい。上からの通達で、主採掘区域への立ち入りは許可証を持つ関係者のみとなっています」

「前からそうなのか?」

「いえ。以前は、魔物駆除や護衛の依頼で冒険者が入ることもありました。ですが、ここ最近は制限が厳しくなっています」

 

 ティアが隣で目を細める。

 

「ほう。制限とな」

「理由は?」

「安全確保のため、と聞いています」

 

 便利な言葉だ。

 だが、それだけでは何も分からない。

 

「魔鉱石が不足していることとは関係あるのか?」

「それは……私の立場では何とも」

 

 受付嬢は困ったように視線を落とした。

 無理に聞き出すのはやめておいた方がよさそうだ。彼女自身も詳しいことは知らされていないのだろう。

 

「分かった。ありがとう」

「お力になれず、申し訳ありません」

「いや、助かった」

 

 受付を離れた俺たちは、ギルドの酒場側に移動した。

 

 昼間だというのに、席には何人もの冒険者や坑夫らしき男たちが座っている。仕事明けなのか、顔や腕に黒い煤がついている者もいた。

 

「さて、どうするか」

「聞き込みじゃな」

「お前がやると威圧になりそうだから、俺が聞く」

「失礼な。妾ほど愛らしく聞き込みに向いた者もおらぬぞ」

「愛らしさと威圧感が同居してるのが問題なんだよ」

 

 俺は近くの席にいた坑夫らしきドワーフへ声をかけた。

 最初は警戒されたが、酒を一杯おごると、少しだけ口が軽くなった。

 

「魔鉱石不足? ああ、そりゃ街中で騒ぎになってるだろ」

「やっぱり鉱山で何かあったのか?」

「俺たち下っ端にゃ分からねぇよ。ただ、妙ではあるな」

「妙?」

 

 ドワーフの坑夫はジョッキを傾け、声を少し落とした。

 

「鉱山が枯れたって話じゃねぇ。少なくとも、俺が入ってる坑道じゃ、まだ鉱脈は生きてる。質も悪くねぇ。なのに、上物はどこにも回らねぇ」

「採れてはいるのか?」

「採れてる。だが、運び出した後が分からねぇ。どこに行ってるのか、現場の俺たちには知らされねぇんだ」

「それは前から?」

「いや。前の長の時は、ここまで妙なことはなかった。採れた石は組合を通して職人に回る。上物は国に納められる分もあるが、それでも街から消えるほどじゃなかった」

 

 また、前の長。

 武器屋の店主も同じことを言っていた。

 

 つまり、今の体制になってから何かが変わった可能性がある。

 

「今の長になってから、流れが変わったのか?」

「声がでけぇ」

 

 坑夫はぎろりと俺を睨んだ。

 俺はすぐに声を落とす。

 

「悪い」

「……余所者が首を突っ込む話じゃねぇ。だが、まあ、困ってるのは事実だ。俺たち坑夫もな」

「坑夫も?」

「ああ。採ってるのに、街には物がない。なのに俺たちの賃金は上がらねぇ。危ねぇ場所に入らされる回数だけ増えて、懐は寒いままだ」

 

 坑夫は苦々しげに笑った。

 

「しかも最近じゃ、閉鎖されたはずの古い坑道の近くで、夜中に荷車の音がするなんて話もある」

「古い坑道?」

「ああ。第七坑道だ。昔、落盤事故があって閉じられた場所だよ。今は誰も入らねぇはずなんだがな」

 

 その言葉に、俺とティアは思わず顔を見合わせた。

 

 閉鎖された坑道。

 夜中に荷車の音。

 誰も入らないはずの場所。

 

 これで何もないと考える方が難しい。

 

「その第七坑道って、どこにある?」

「おい、まさか行く気じゃねぇだろうな」

「まだ決めてない」

「やめとけ。あそこは崩れやすい。昔から空気も悪いって言われてる。それに、最近は見張りみてぇな連中もいるらしい」

「見張り?」

「俺は見てねぇ。ただの噂だ。だから忘れろ」

 

 坑夫はそう言うと、残っていた酒を一気に飲み干した。

 

「余所者が首を突っ込むとろくなことにならねぇ。特に今のガリアではな」

 

 それだけ言って、坑夫は席を立った。

 俺はその背中を見送りながら、腕を組む。

 

「……かなり怪しいな」

「怪しいどころではないのう」

 

 ティアの声は低かった。

 普段の軽さが消えている。

 

「閉鎖された坑道に、夜中の荷車。見張り。しかも魔鉱石は街に回っておらぬ」

「つまり、魔鉱石がどこかに横流しされてる可能性がある」

「あるいは、もっと面倒なことに使われておるかじゃな」


 その言葉に、俺は喉の奥が少し詰まった。

 

 魔鉱石はマナを含んだ鉱物だ。

 武器や防具の素材になるだけではない。使い方次第では、魔道具や兵器、儀式にも利用できるかもしれない。

 

 考えすぎならいい。

 だが、この世界で面倒事が考えすぎだった試しは、あまりない気がする。

 

「とはいえ、勝手に第七坑道へ行くわけにはいかないぞ」

「まだ言うか」

「当たり前だ。不確定要素が多いのに犯罪犯すのは違うだろ」

「むう。ではどうする?」

「まず場所を調べる。それから、正式に入れる理由を探す。依頼がなければ、誰かに許可を取る」

「随分まどろっこしいのう」

 

 そう言った時だった。

 ギルドの入口が乱暴に開かれた。

 

「誰か! 誰か助けてくれ!」

 

 飛び込んできたのは、小柄なドワーフの少年だった。

 息を切らし、顔は煤と泥で汚れている。片腕には血のにじんだ布を巻いていた。

 

 ギルド内の視線が一斉に少年へ向く。

 受付嬢が慌てて駆け寄った。

 

「どうしたの!?」

「親方が……親方たちが、第七坑道の近くで凄い音がしてから戻ってこないんだ!」

 

 その瞬間、酒場の空気が凍った。

 

 第七坑道。

 ついさっき聞いたばかりの名前だ。

 

「落盤か?」

 

 誰かが問いかける。

 少年は首を振った。

 

「違う……たぶん違う! 変な音がしたんだ。岩が崩れる音じゃない。何かが、坑道の奥で動いてるみたいな……」

 

 俺はティアを見る。

 ティアもこちらを見ていた。

 その琥珀色の瞳が、静かに細められる。

 

「ユウマ」

「ああ」

 

 どうやら、正式に入れる理由とやらが向こうから転がり込んできたらしい。

 ティアは小さく息を吐き、それから不敵に笑った。

 

「では行くか。困っておる者を放ってはおけぬからのう」

「はぁ、仕方ないか」

 

 ただの資源不足。ただの値上がり。

 そう思っていたものの奥に、何かが潜んでいるかもしれない。


 俺は腰の《黄泉》に軽く触れた。

 

 ガリアの街に槌が振るわれる音が、今も遠くから聞こえてくる。

 

 けれどその音はもう、職人たちの誇りだけではなく、助けを求める声のようにも聞こえた。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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