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転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

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第25話「魔鉱石の行方」

 翌朝。

 

 目を覚ました俺は、しばらく天井を見上げたまま動けずにいた。

 

 理由は単純だ。

 昨日の温泉と酒と飯が、思った以上に身体へ染みていたからである。

 

「……旅先で飲む酒って、なんであんなに美味いんだろうな」

 

 ぽつりと呟いたところで、隣の部屋からどたどたと足音が聞こえてきた。

 

「ユウマ! 起きておるか!」

「朝から元気だな、お前……」

「今日は鍛冶屋巡りをするのであろう? ならば早う行くぞ!」

 

 どうやら、俺より楽しみにしていたやつがいたらしい。

 

 顔を洗い、軽く朝食を済ませた俺たちは、さっそくガリアの街へ繰り出した。

 

 昨日は温泉と酒場を優先したせいで、街の中をじっくり見る余裕はなかった。けれど、改めて歩いてみると、この国が鍛冶の国と呼ばれる理由がよく分かる。

 

 通りの両側には、武器屋、防具屋、工房、工具店、素材屋がずらりと並んでいた。

 

 店先には剣や斧、槍、鎧、盾が所狭しと飾られている。どれも作りが丁寧で、ただ並べてあるだけなのに妙な迫力があった。

 

「……すげえな」

 

 思わず足が止まる。

 

 剣の刃はよく磨かれていて、光の反射に曇りがない。柄の巻き方も丁寧で、握った時に手へ馴染むよう考えられているのが分かる。防具も同じだ。見た目の派手さだけじゃなく、可動域や重量の配分まで計算されている。

 

 職人の仕事だ。そう感じるものばかりだった。

 

「目が輝いておるぞ、ユウマ」

「仕方ないだろ。こんなの見せられたら、鍛冶師なら誰だってこうなる」

「まったく。昨日からずっと子供のようじゃな」

「昨日のお前も飯を前にして似たような顔してたぞ」

「妾はよいのじゃ」

「ずるい理屈だな」

 

 そんなやり取りをしながら通りを進んでいく。

 

 武具だけではない。細工物の店も多かった。

 金属で作られた置物、細かな模様が刻まれた杯、魔石をはめ込んだ灯り、髪留め、指輪、腕輪、首飾り。

 

 どれも工芸品としての完成度が高い。

 

「武器だけじゃなくて、こういうものも強いのか」

「ドワーフは細工も得意じゃからのう。力任せに槌を振るうだけが鍛冶ではないということじゃ」

「なるほどな」

 

 ふと、隣を歩いていたティアの足が止まった。

 

 視線の先には、小さなアクセサリー店がある。

 

 店先に並んでいたのは、琥珀色の石を使った髪飾りだった。金属の細工で小さな花のような形が作られていて、中央に透き通った石がはめ込まれている。

 

 ティアはそれをじっと見つめていた。

 

「気になるのか?」

「む? いや、別にそういうわけではない」

 

 そう言いながらも、ティアの視線はまだ髪飾りに残っている。

 

 珍しい反応だった。

 普段なら肉だ酒だ温泉だと騒ぐくせに、こういう時だけ妙に静かになる。

 

「欲しいなら見ていけばいいだろ」

「いらぬ。妾に装飾品など不要じゃ」

「そうか?」

「そうじゃ。ほれ、行くぞ」

 

 ティアは少しだけ早足になって店の前を離れた。

 

 俺はもう一度、店先の髪飾りへ目を向ける。

 透き通った琥珀色の石。

 白い髪には、たぶんよく映える。

 

「……覚えておくか」

「何か言うたか?」

「いや、なんでもない」

 

 俺はそう答えて、ティアの後を追った。

 

 しばらく街を見て回ったあと、俺たちは一軒の武器屋へ入ることにした。

 

 外から見ても分かるほど大きな店で、店内には剣、槍、斧、短剣、弓、盾、鎧が整然と並べられている。壁には一級品らしい武器が飾られており、奥ではドワーフの店主が腕を組んでこちらを見ていた。

 

「いらっしゃい。冷やかしか?」

「失礼な出迎えだな」

「ここに来る旅人の半分は値札を見て帰るからな。先に言っとくが、うちは安くねぇぞ」

「見るだけでもいいか?」

「壊さねぇなら好きにしな」

 

 店主はぶっきらぼうに言い、また椅子へ腰を下ろした。

 

 俺は近くにあった剣を眺める。

 片手剣だ。刃渡りは標準的で、重心も悪くない。装飾は控えめだが、その分、実戦向きに作られている。鍔の処理も丁寧で、柄も握りやすそうだった。

 

「いい剣だな」

 

 感心しながら値札を見る。

 そして、固まった。

 

「……百二十金貨?」

 

 思わず二度見する。

 百二十金貨。

 

 俺の知っている感覚で言えば、かなりの大金だ。冒険者が普段使いする武器として考えるには、なかなか胃にくる値段である。

 

「こっちは……九十八金貨。こっちは百五十金貨……」

 

 並んでいる武器は、どれも百金貨前後。中には二百金貨を超えるものまであった。

 

 たしかに品質は高い。

 高いのだが、それでも値段が跳ねすぎている気がする。

 

「随分高いのう」

 

 隣でティアも値札を見ながら呟いた。

 

「これが普通なのか?」

 

 俺が店主に尋ねると、ドワーフの店主は苦い顔で鼻を鳴らした。

 

「普通なわけあるか。こっちだって好きでこんな値をつけてるんじゃねぇよ」

「じゃあ、なんでこんなに高いんだ?」

「材料だよ。最近、魔鉱石が全然入ってこねぇんだ。一級品を打つための上物ともなると、材料だけで三百金貨を超えることもある」

「材料だけで三百……?」

 

 それはもう、武器の値段が高いとかいう話ではなかった。

 

 この店に並んでいる武器は、まだ以前に確保した素材や、品質を少し落とした素材で打ったものなのだろう。新しく一級品を作ろうとすれば、今の値段では到底済まない。

 

「弟子が打ったやつでも七十金貨はする。安くしたくてもできねぇんだよ。鍛冶屋だって霞を食って生きてるわけじゃねぇ」

「資源不足で高騰しているのか。なら仕方がない……のか?」

 

 そう言いかけたところで、ティアが小さく眉を寄せた。

 

「資源不足じゃと? おかしなことを言う」

「あ?」

 

 店主が鋭い目を向ける。

 ティアは気にした様子もなく、店の外に見える山の方へ視線を向けた。

 

「魔鉱石は自国産じゃろ。このガリアを囲む山々は、古くから魔鉱石の産地であったはずじゃ」

「ティア、そうなのか?」

「うむ。魔鉱石とは、ただの鉄や鋼とは違う。マナが長い年月をかけて周囲の鉱物に浸透し、結晶化したものじゃ。とくにこの地の山脈はマナの巡りが濃く、良質な魔鉱石が採れることで知られておる」

 

 マナが鉱物に浸透して結晶化したもの。

 

 つまり、魔鉱石は単なる鉱石ではなく、土地そのものの力を受けて生まれる素材ということか。

 

 俺は改めて店の外を見る。

 ガリアを囲む山々は、遠目に見ても巨大だった。

 

 これだけの山脈群だ。そこから採れる魔鉱石が、急に不足するなんてことがあり得るのだろうか。

 

 採掘量が落ちたのか。

 流通が止まっているのか。

 あるいは、どこかで誰かがせき止めているのか。

 

「そんなこと、俺たちが一番聞きてぇよ」

 

 店主が吐き捨てるように言った。

 怒っているというより、疲れ切っている声だった。

 

「鉱山はある。職人もいる。工房だって止まっちゃいねぇ。なのに石が回ってこねぇんだ。先代の長の頃じゃ、こんなこと考えられなかった」

「前任……?」

 

 前にエイネシアが言っていた件か。

 気にはなったが、今それを聞ける雰囲気ではない。

 

「理由は分からないのか?」

「分かってたら苦労してねぇよ。こっちは客に高いと言われ、職人には素材がないと怒鳴られ、上からは値を崩すなと釘を刺される。まったく、やってられねぇ」

 

 店主は苛立たしげに頭をかいた。

 

「悪いが、買わねぇなら出てってくれ。こっちも暇じゃねぇんだ」

「あ、ああ。邪魔したな」

「ふん」

 

 半ば追い出されるような形で、俺たちは武器屋を後にした。

 

 外へ出ると、相変わらず通りには槌の音が響いている。

 けれど、さっきまで胸を躍らせていたその音が、今は少しだけ違って聞こえた。

 

「……どう思う?」

 

 俺が聞くと、ティアは腕を組んで首を傾げた。

 

「妙じゃな」

「やっぱりか」

「うむ。魔鉱石が希少で高価なのは間違いない。じゃが、この国でここまで不足するというのは不自然じゃ。山が枯れたと言うには、話が急すぎる」

「鉱山で何か起きたとか?」

「それなら噂になっておるはずじゃ。事故か、魔物か、落盤か。どれにせよ、職人たちの耳に入らぬとは考えにくい」

「じゃあ、流通か」

「その可能性はあるのう」

 

 俺たちはその後も、いくつかの店を回った。

 防具屋でも、同じように値段は上がっていた。

 

 鎧の価格は以前の倍近くになっているらしく、店主は「冒険者が修理だけで済ませようとするから、新品が売れねぇ」と頭を抱えていた。

 

 工具店では、鍛冶に使う金槌や(やすり)、金床まで値が上がっていると聞いた。魔鉱石を扱うには、それに耐えられるだけの道具が必要になるらしい。素材そのものが高騰すれば、加工するための道具にも影響が出るというわけだ。

 

 アクセサリー店でも状況は似ていた。

 魔石や魔鉱石を使った装飾品は値上がりし、安価な金属細工へ切り替える客が増えているという。

 

「うちはまだ信用で買ってもらえてるけどねぇ」

 

 年配のドワーフの女性店主が、ため息混じりに言った。

 

「ガリアの品なら間違いない。そう言ってくれる客がいるから、なんとか店を開けられてるのさ。でも、このまま値が上がり続けたら分からないよ。いくら信用があっても、財布には底があるからね」

 

 その言葉は妙に重かった。

 

 品質は高い。

 技術もある。

 職人もいる。

 

 けれど、材料がない。

 材料がなければ、どれだけ腕のいい職人がいても何も作れない。鍛冶師にとって、それは火のない炉の前に立たされるようなものだ。

 

「……嫌な感じだな」

 

 店を出た俺は、通りの真ん中で足を止めた。

 

 周囲では、相変わらず槌音が響いている。

 

 カン、カン、カン。

 

 昨日はあれほど心地よく聞こえた音だ。

 だが今は、その音の裏側に無理や焦りが混じっているような気がした。

 

「鍛冶の国ガリア。魔鉱石に恵まれた国。なのに、その魔鉱石が足りない」

「しかも、理由が見えぬ」

 

 ティアが静かに続ける。

 

 俺は山々を見上げた。

 巨大な岩壁。その奥に伸びる無数の坑道。そこからこの国の技術と富は生まれてきたはずだ。

 

 それが今、どこかで詰まっている。

 まるで、血管の途中を何者かに押さえつけられているみたいに。

 

「いったい、この国で何が起きてるんだ?」

 

 俺の呟きは、槌の音にかき消された。

 けれどその日から、ガリアの街に響く音は、ただの鍛冶の音には聞こえなくなった。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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