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転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

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第23話「それぞれの関係性」

「お、おい、ティア……」


 目の前で止まった大剣を見ながら、俺は思わず声を漏らした。


 何が起きたのか、理解が追いつかない。

 ついさっきまで明るく笑っていたエイネシアが、次の瞬間には俺の首を刎ねようとしていた。


 その刃を、ティアが片手で掴んで止めている。


 空気が冷たい。

 ティアから漏れる殺気は、冗談で済ませられるものではなかった。


 だが次の瞬間。


「あっははははは!」


 エイネシアが腹を抱えて笑い出した。


「ごめんごめん! つい試しちゃったんだ。言葉より咄嗟の行動の方がよっぽど信用できるからね」

「はぁ……このおてんば娘め」


 ティアは何かを察したのか、すっと殺気を消した。

 掴んでいた大剣の刃から手を離す。


「えっと、状況がいまいち……」


 俺だけが取り残されている。

 普通に首を飛ばされかけたんだが。


「魔王ちゃんにとって、ユウマ君がとーっても大切な存在だってことさ!」


 エイネシアはにこにこと笑いながら、大剣を背中の鞘へ戻した。


「魔王ちゃんもごめんね。怒らないでよ」

「ふん、今回だけじゃぞ」


 ティアは深々とため息をつく。

 俺も思わず額を押さえた。


 なんなんだ、この人。

 強いのは分かったが、性格の方向性がだいぶ面倒くさい。


「で、改めて聞くけど、どうして二人は一緒に?」


 エイネシアが首を傾げる。


 ティアは答えるのも面倒そうに俺を見た。

 どうやら説明は俺に丸投げらしい。


「ええと……俺は渡り人なんです」


 そう切り出して、俺はこれまでの経緯を簡単に話した。


 前世で鍛冶師だったこと。

 死の間際に《黄泉》という刀を打ち上げたこと。

 気がついたらこの世界にいて、そこでティアと出会ったこと。

 それから首都ヘンデルで冒険者になり、色々あって街を出ることになったこと。


 もちろん、《黄泉》の細かい力のことまでは伏せた。

 いくらティアの知り合いらしいとはいえ、初対面に全部話すほど俺も不用心じゃない。


「ふうん。なるほどねえ」


 エイネシアは興味深そうに俺と腰の刀を眺める。


「渡り人の鍛冶師で、魔王ちゃんと旅をしてる。なかなか面白い組み合わせだね」

「面白がるでない」

「だって面白いじゃん。魔王ちゃんが誰かと一緒に旅してるなんて、昔を知ってる身としてはびっくりだよ」

「昔は昔じゃ」


 ティアはそっぽを向く。

 エイネシアはそれを見て、また楽しそうに笑った。


「で、次はどこへ向かってるの?」

「ガリア共和国です。鍛冶の国だって聞いたので」

「ああ、ガリアか」


 その名を聞いた瞬間、エイネシアの表情が少しだけ変わった。


「ちょうどいいかもね。ただ、気をつけて」

「気をつける?」


 俺が聞き返すと、エイネシアは肩をすくめた。


「ガリア共和国の長が代替わりしたって噂があるんだ」

「代替わり……?」


 隣でティアがわずかに眉をひそめる。

 その反応からして、どうやら軽い話ではないらしい。


「詳しいことは僕もまだ知らないよ。でも、ドワーフの国で長の代替わりってことは、何かしら面倒な動きが起きてても不思議じゃない」

「……忠告、ありがとうございます」


 俺が頭を下げると、エイネシアはひらひらと手を振った。


「いいよいいよ。魔王ちゃんの連れなら、ついでに気にかけてあげる」

「余計なお世話じゃ」

「はいはい。魔王ちゃんは相変わらずだね」


 エイネシアは笑いながら、後ろに倒れた地竜へ親指を向けた。


「一緒に行けないのは残念だけど、僕はこれの片付けとか、色々やらないといけないことが山積みでさ」

「あの地竜ですか」

「そうそう。素材も魔核も放っておくにはもったいないし、あれだけ大きいと解体にも人手がいるからね」


 確かに、あの巨体を一人でどうにかするのは無理がある。

 いや、エイネシアならやりかねない気もするが。


「まあ、僕もガリアに滞在する予定だから、機会があればまた会えるさ!」

「そうなんですね。じゃあ、また」

「うん! ユウマ君も、魔王ちゃんもまたね!」

「はよう行け」


 ティアが手で払うように言う。

 だがエイネシアはそれすら楽しそうに受け取り、満足げな笑みを浮かべて地竜の方へ向かっていった。


 俺たちもエイネシアと別れ、再びガリア共和国へ向かって歩き出す。


 その直後だった。


 背後で、何かが空へ打ち上がる音がした。

 振り返ると、空中で花火みたいに赤い光が弾ける。


「なんだあれ?」

「信号弾じゃな」


 ティアがちらりと空を見上げる。


「あの大きさの魔物になると、ああやって信号弾を打ち上げて、近くの冒険者ギルドへ解体要請を出すのじゃ」

「へぇ……」


 俺は赤い光が消えていく空を見つめた。


 今の俺じゃ、正直あんな地竜を単独で倒せる気はしない。

 だが、信号弾を持ち歩けるくらいの実力には少し憧れる。


 言ってしまえば、それを持っているだけで「自分は大型魔物を倒せる実力があります」と言っているようなものだろう。

 もちろん、中にはただ持っているだけのやつもいるだろうが。


「なあ、さっき」


 俺は歩きながら、ふと思い出して口を開いた。


「また死にたいかって言ってたけど……あれ、どういう意味なんだ?」

「ああ……」


 ティアは少しだけ遠い目をした。


「昔、ちいっと妾の地雷を踏み抜いたことがあってな。つい本気になってしまったのじゃ」

「本気って……」

「それで、むかついて殺した」

「さらっと言うなよ!」


 思わず声が裏返る。


「じゃが、すぐに誤解だと分かって蘇生させたぞ」

「蘇生って、そんな簡単にできるものなのか?」

「んや、無理じゃな。あやつが特殊だっただけじゃ。普通の者なら蘇生などできぬ」


 特殊。


 勇者のことも言っていたし、エイネシアもただの冒険者ではなさそうだ。

 天剣の魔女なんて二つ名を持っている時点で普通じゃないのは分かっていたが、どうやら俺が思っている以上に厄介な相手らしい。


「ちなみに、何をされたんだ?」

「聞きたいか?」

「いや、やっぱいい」


 ティアの目が一瞬だけ据わったので、俺は即座に話題を打ち切った。

 世の中には、触れない方がいい過去もある。


「賢明じゃな」

「ティアが話したくなったら聞かせてくれ。ティアが嫌なことは俺も知っておきたい」


 死にたくない意味で、だが。


「っ! よくそんなこと、恥ずかし気もなく言えるのう」


 ティアは何故か頬を赤らめながら、そういう。


 俺、そんな恥ずかしくなるようなこと言ったか?

 ったく、こいつの考えていることはよくわからんな。


 そんなことを話しながら、俺たちは西へ続く街道を進んでいく。


 ガリア共和国。

 鍛冶の国。

 長の代替わり。

 そして、天剣の魔女エイネシア。


 新しい土地に近づくにつれ、知らないことばかりが増えていく。

 だが、不思議と足取りは軽かった。


 知らないことを知っていくのも、旅の楽しみの一つなんだろう。

 旅なんてきっとそんなものだ。


 俺は地図を畳み、前方に見える山並みへ視線を向けた。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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