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転生鍛冶師は異世界を往く。魔王の少女が旅に同行することになったが、たぶん俺のスローライフを邪魔しているのはコイツだと思う。  作者: 烏羽 楓
第二章

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第21話「山脈の手前で」

 翌朝。


 結界のおかげか、野営とは思えないほどよく眠れた。


 目を覚ますと、空は薄く青み始めていて、焚き火の跡からはわずかに白い煙が上がっている。夜露(よつゆ)を含んだ草が朝日にきらきらと光り、遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。


「……ん、朝か」


 身体を起こすと、少し離れた場所でティアが背伸びをしていた。


「おはよう、ユウマ」

「ああ、おはよう。よく眠れたか?」

「うむ。おぬしの飯も悪くなかったし、結界も完璧じゃったからの」

「結界はお前の魔法だろ」

「ならば(わらわ)のおかげじゃな」

「飯は俺のおかげな」

「うむ。では五分五分じゃ」


 いつものようなやりとりに、つい頬が緩む。

 

 焚き火の名残を片付け、簡単に朝食を済ませる。昨日の残りのパンを軽く炙り、干し肉と一緒に食べるだけの簡単なものだ。


「昨日の飯が恋しいのう」

「朝から贅沢言うな」


 ティアは不服そうに頬を膨らませるが、ふと何かを思い出したかのように目を輝かせる。

 

「ガリア共和国には今日中に結構いい所まで行けるんじゃないかのう? 噂によるとガリア共和国の燻製肉とキンキンに冷えた酒がたまらなく美味いと聞く」


 なんだその悪魔的な組み合わせわ。想像するだけで(よだれ)が出そうじゃねえか。


「よし、ついたらそれを食べよう」

「うむ!」


 荷物をまとめ、俺たちは再び西へ向かって歩き出した。


 街道は昨日よりも少しずつ起伏(きふく)が増えている。

 緩やかな坂道が続き、左右に広がる草原の向こうには、背の低い森が点在していた。風は少し乾いていて、どことなく土と岩の匂いが混じっている。


 地図を見る限り、このまま進めば今日中には山岳地帯へ入ることになるらしい。


「ガリア共和国って、山の向こうにあるんだよな?」

「うむ。正確には山脈の(ふもと)から洞窟を抜けた先に都市が広がっておる。鉱山と鍛冶の国、とも呼ばれておるな」

「鉱山と鍛冶の国か……いい響きだな」


 思わず口元が緩む。


 鍛冶師としては、正直わくわくする。

 良い鉄、良い炉、良い職人。それらが揃っている国なんて、前世の俺なら喉から手が出るほど行ってみたかった場所だ。


「おぬし、本当に鍛冶が好きなのじゃな」

「まあな。鉄を熱して、叩いて、形を作る。あれはいいぞ」

(わらわ)には暑苦しい中で淡々と同じことをやるなんて、退屈でしかないのう」

「分かってないな。そこがいいんだよ」

「暑くて、退屈で、疲れるのがか?」

「言い方に悪意があるだろ!」


 そういうと、ティアは笑う。

 絶対わざとそういう言い回しをした顔だ。


 前世では、好きなものに人生の大半を注ぎ込んだ。

 病気になってからも、最後まで手放せなかった。だからこそ、今こうしてまた鍛冶に繋がる場所へ向かっているのが、妙に不思議だった。


 そんなことを考えながら歩いていると、ティアがふと俺の腰へ視線を落とした。


「それで、ガリアでは刀を探すのか?」

「できればな。《黄泉》以外にちゃんと使える武器が欲しい」

「スキルで作る剣では駄目なのか?」

「便利だけど、あれはあくまで一時的なものだ。崩れるし、安定しない。強敵相手に毎回その場で作るのは怖い」

「ふむ。確かにの」


 ティアは珍しく素直に頷いた。


「それに、俺はやっぱり刀が一番しっくりくる」

「なら、自分で打てばよいではないか」

「それができたら一番だけど、設備がない。炉も、道具も、素材も必要だ。鍛冶ってのは思ったより準備がいるんだよ」

「なるほど。つまり、工房が欲しいのじゃな」

「まあ、いつかはな」


 いつか自分の工房を持つ。

 最後に《黄泉》を打ち上げた小さな工房はあったが、あれは夢を叶えた場所というより、人生の終着点みたいなものだった。


 今度は違う。

 今度は旅をして、色んなものを見て、美味いものを食って、それからいつか、気に入った場所に炉を構える。


 考えるだけで、胸の奥が少し熱くなる。


「おぬし、今ちょっと良い顔をしておったぞ」

「そうか?」

「うむ。飯の時の(わらわ)ほどではないがの」

「そこで張り合うな」


 そんな軽口を叩きながら、俺たちは街道を進んだ。


 昼頃には、道端の木陰で休憩を取った。

 途中で小さな荷馬車とすれ違い、商人らしき男から周辺の道について少し話を聞くこともできた。


 どうやらこの先の山道は、最近少し荒れているらしい。


「荒れてるって、魔物が多いとかか?」

「それもあるが、落石や地鳴りが増えているそうじゃな」

「地鳴り?」

「山の中では珍しくないが、頻度が多いなら注意した方がよい」


 ティアがそう言うので、俺は地図へ視線を落とした。


 このまま西へ進めば、ガリア共和国へ続く山道に入る。

 避けて大きく迂回する道もあるにはあるが、日数がかなり伸びる。食料も足りなくなるだろうし、正直その選択はしたくない。


「できれば、このまま抜けたいところだな」

「うむ。妾も同感じゃ。遠回りは面倒じゃしの」


 否定はできない。


 休憩を終え、再び歩き出す。


 午後になると、道の先に山並みが見え始めた。

 遠くに青灰色の稜線(りょうせん)(つら)なり、その奥にはさらに高い山々が(かす)んでいる。低く流れる雲が山肌にかかり、風もどこか冷たくなってきた。


「おお……あれが山岳地帯か」

「うむ。あの先がガリアへ続く道じゃ」

「近くで見ると迫力ありそうだな」

「鍛冶の国に行く前に、足腰が鍛えられそうじゃの」

「それはあんまり嬉しくないな」


 そう言って笑いかけた、その時だった。


 ドォンッ!!


 遠くの山の方から、腹の底に響くような轟音(ごうおん)が鳴り渡った。


「ッ!?」


 遅れて、土埃(つちぼこり)が大きく舞い上がるのが見える。

 山肌の一部が崩れたのか、それとも何かがぶつかったのか。灰色の煙のような土煙(つちぼこり)が空へ広がり、次の瞬間、強い風圧が街道まで押し寄せてきた。


 俺は思わず腕で顔を(かば)う。

 ティアの白い髪も風に大きく(あお)られた。


「くッ! なにごとだ!?」


 視線の先で、山の方からもう一度、低い地鳴りが響いた。

見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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