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第5話 武器の選択


 魔王はそう簡単には倒せない。ならば、やるべき事は経験値を積み上げること、仲間を集めること、武器を強化すること、防具を身に着けること、使える魔術を増やすこと。すべきことは山ほどある。しかし、まずは……。


 「ギルドに行きましょう」


 「で、そこで勇者としての登録、武器と防具を支給して貰って、簡単なクエストをこなす。余裕があれば仲間を探す。もう分かった、分かった」


 二日目も魔王暗殺に向けて飛び出して行くのかと思いきや、今回は落ち着いてくれていたようである。宿屋の朝食が気に入らないのか、不機嫌そうな顔を浮かべて食事を口に運ぶ。


 この世界は魔王の支配下にあり、強力なモンスターが町の外を闊歩している。『マチルダ』は結界が完備されており比較的に安全だが、統率者を得た魔物は群を率いて町を襲うこともある。魔物にはそれぞれ特徴があり、有効打や弱点も存在する。格上の相手でも弱点を見抜けば少ない労力で仕留めることもある。


 と、普通の勇者になら説明するほどでもないRPGの常識を解説するも、アイフルは興味無さそうである。こんな魔法とファンタジーに溢れる世界に来れたら、普通は喜ぶと思うのだが。彼女には冒険心や未知の世界へ挑む気概が感じられない。


 「スマホもテレビもない。学校がないし、友達もいない。ついでに両親もいない。化粧品もないし、お洒落もできない。ゲーセンないしボーリングない。何が楽しいのよ、この世界」


 何か呪文のようなセリフを語っているが面倒なので無視することにした。今すぐには難しいが、お洒落は出来るし装飾品も売ってある。通うことは出来ないだろうが魔法学校もあったりする。仲間集めの際に卒業生などに話しかけると効果的かもしれない。なんて、彼女には無縁な話だ。もっと先に知ってもらうべきことがある。


 「暇だ。こんなに暇を感じるのは久しぶりかもしれない」


 「暇などありませんよ。食事が終わればギルドです。初期の武器を貰いに行きますよ」


 「これ全然美味しくないし。味付けも何もないし。これ何の肉なのよ」


 「サラマンダーです」


 「阿保か!」


 涙を溜めて苦しそうな顔をしている。今まで当たり前にあった物が無いのだ。不自由極まりないだろう。そんな彼女を見て、ラピアはほくそ笑む。これでいい。もっと苦しめ、もっと絶望しろ。それこそ心が壊れてしまう程度に。


 「ん? 外が騒がしいですわね」


 「あぁ、何よ。何かあったの」


 宿屋のドアを開け外に出てみると、そこには黒髪の美男子が馬に乗って優雅に街中を進んでいた。まるでパレード。その男の右手には生首となった怪物の姿があった。一角獣のように角が生えた鬼であり、彼はそれを見せつけるため、槍の先に突き刺し高く掲げる。それに呼応して住民たちが喜びの雄叫びをあげる。


 「討ち取ったぞっ!」


 そんな声が鳴り響いた。彼は自信に満ち溢れた顔をしている。そして行進する馬の傍らには数十人に及ぶ美女ばかり。昨日会った勇者よりも大勢である。よく観察すると防具も高価なことが分かった。白と青を基調としており艶めいた輝きを放っている。


 「第一のダンジョンのボスを討ち取ったぜ! これでこの町は安泰だぁ!」


 朝っぱらから耳障りな声を聞かされて、アイフルは興味がなさそうに宿屋へ戻っていった。


 (おめでたい人々ですね。あれは魔王の幹部ではありますが、相手の力量を全て知った訳でもあるまいし。その首を持ち帰り自慢するとは恥ずかしい。他所の勇者も底が知れていますわね。それに……死んでもいませんし)


 ラピアは生首と化した魔物の目玉が一瞬だけ動いたのを見逃さなかった。


 「まあ我々にとっては詮無きことですわ。それよりも……」


 「へぇ。じゃあこれで第一のダンジョンには行かなくて良いってこと?」


 「いいえ。残念ながら、物事はそう都合よく出来ていません」


 「あーそー。ごちそうさま」


 食事を半分以上残したアイフルは、ゆらゆらと部屋に戻っていく。昨日の毒は回復しているはずだが。眠りすぎで具合が悪そうだ。頭を掻きむしり、何度も目をこする。今日で何度目の溜息だろうか。


 「先が思いやられますわねぇ」


 ★


 ラピアの案内により、ギルドへ到着した。そこには多くの冒険者や、魔術師、僧侶、騎士、屈強なる戦士が集まっている。壁にはクエストの内容や、パーティの募集要項、武器の簡単な使い方が載っている。


 「さぁ、まずは受付を済ませる前に、主な武器を決めませんと」


 メインウエポン。力に自信があるなら大剣や槌、防御に拘りたいなら大盾、スピードを生かしたいなら短剣、遠距離攻撃を極めたいなら弓という選択肢もある。魔術特化で杖を選ぶのも面白い。その代わり仲間に剣士を加えればいいだけだ。武器を複数持つことも可能だが、軽快さを損なう上級者向けの芸当なので、まずは自分の武器に馴れることが先決だ。


 「さぁ、どの武器を選びますか?」


 女性で非力なために、大剣、斧、槌、その他重量系は不可能だろう。動きも身軽ではないため、短剣もお薦めできない。かといって、RPGの知識ゼロのアイフルに杖を使って魔法攻撃など、習得するまでに時間が掛かり過ぎる。もうラピアとしては弓一択という気持ちだった。だが、あくまでも消去法で導き出した結論だ。落ち着きがないアイフルに弓が合うとも思えない。


 「ねぇ。武器って持たないといけないの?」


 「素手で戦うおつもりですか? 格闘家グラップラーを選ぶ勇者はこの世界に一人もいません。接近戦ほど危険なことはないですから」


 「まあ私も素手で触るのは嫌だけどさ」

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