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第3話 盗賊の極意

 「おい」


 その声は芯から冷め切っていた。スクールカースト上位の女子が、毛嫌いする相手にかける本気の冷めた声。青年は一瞬だけ何かを思い出したのか、震えるように肩があがった。恐る恐る振り返る。そこには般若のような顔をした女が立っていた。


 「な、何か僕にようでしょうか」


 「持っているもの全部よこせ」


 それは悪意を持った言葉だった。しかし、決して辱めを狙っている訳ではない。憎悪であり、軽蔑。まさに邪悪なエネルギーそのもの。アイフルは右足をあげると、出会ったばかりの勇者の太ももを思いっきり蹴飛ばした。無様にも青年は倒れ込む。


 「まずは金だ。金をよこせ。あと、この剣は頂くぞ。振り回せれば何でもいいや。あとは……おい、ラピア! 遊んでないで、そこの狼の死骸から宝石取って来い!」


 あまりの暴虐武人さに一同が唖然とする。あまりの衝撃的な光景に何が起こっているのか分からないという空気だ。本当に腰に身に着けていた巾着袋のようなものから、小道具を奪い去る。右足で背中を踏みつけ、立ち上がれないように抑える。


 「この世界ではお金は完全にデータ化しています。金品を身に着ける概念はありません」


 いや、そもそも人から物を盗むこと事態が有り得ないのだが。ラピアは苦笑いしながらも狼のドロップアイテムを回収する。


 「データぁ? じゃあお前、私に金を振り込め。それくらい出来るだろ! 取り巻きも何をぼさっとしている! サッサと持っている物出しやがれ」


 勇者ではなく盗賊である。ようやく周りの人間が正気に戻り反抗心を現した。


 「お前、いったい何をしている」「泥棒だよ、泥棒」「ダーリンを返してっ」「貴様、旦那様にこれ以上の無礼を働くようであれば……」


 「あぁ?」


 ドスの利いた本気の脅しに、一同が震えあがる。膝から地面に落ちて泣き出しそうな子もいるぐらいだ。


 「悪いね。コッチも必死なんだよ。私は魔王を殺す」


 「ひっ」


 「なりふり構っていられない。さぁ、よこしな」


 ★


 「あれ? 友達から聞いたんだけど、勇者って盗みとかしても捕まらないんでしょ? 民家から壺とか割ってお金を持ち去ってもいいって。案外ちょろかったわ」


 「…………そうですか」


 ラピアは前の世界の彼の写真を見せた。その写真には、決して美男子とは言えないふっくらした顔の少年が載っていた。それに怒りの感情を持って、行動に及んだのである。


 「あぁ、腹が立った。なんか自分でも言い表せないけど、無性に腹が立った」


 「災難でしたね、彼。何も悪いこともしていないのに」


 どうせゲームの世界だから、盗みを働こうと誰からも咎められない。間違った意味でこの世界に順応している気がする。


 「ん? 何だ、あれ」


 最初のダンジョン。『マチルダ』の町からすぐでた先には草むらが生い茂っている。緑色のスライムや前歯の長い子ネズミ、黄緑色をした子犬程度の大きさの芋虫、弱そうなモンスターがうじゃうじゃといる。アイフルは気色悪い光景に両膝に手を当てた。


 「最初のダンジョンです。ここで戦いの基礎を学びます。さっそく武器も手に入れたことですし、少し戦ってみましょうか」


 通りかかった鼠がこっちへ振り向く。エンカウント。紅い目で睨みつけ正面から襲ってきた。


 「えい」


 さっき貰った刀を野球の投球フォームで投げ捨てる。鼠は大慌てで逃げようとしたが、顔面に剣の先が当たり、そのままポリゴンとなって消えていった。あまりに味気ない勝利。


 「これの何が面白いのよ」


 そう呟くと剣を捨てたまま、小道を歩き出す。ラピアは信じられないという顔で腕をつかむ。


 「あの……勇者さま。剣は……」


 「はぁ? あれは鼠を殺す為に使ったんだから、もう捨てるしかないでしょ。返り血とかついてそうだし」


 「この世界に返り血という概念はないのですが」


 まるで弓矢のように高価な剣を使い捨てする彼女に、驚きしか感じない。彼女が冒険者として躓くポイントは何度もあるのだが、どうも上手くいかない。この世界へ苛立ちや不満はあっても、泣き出したくなるような絶望や胸が痛くなる悲壮感を感じて貰えない。最初のダンジョンで簡単だからなのか。


 「ねぇ、そろそろ魔王の城につかないの? 足が痛くなってきた」


 「そろそろ引き返しましょう。ダンジョンがいかに凶悪か分かったでしょう?」


 「はぁ? 引き返す? 私は一秒でも早く現実に帰りたいの」


 一日では魔王城どころか、第一のダンジョンを終えることも不可能だ。普通は次の町へ行くことを見越して、非常食や寝袋を持ち歩く。物を多く運んで冒険するので、どうしても仲間が必要なのだ。


 と、足を止めたことで、一気にモンスターに囲まれてしまった。相手は画家のようなベレー棒を被った芋虫である。これは……良い機会になるかもしれない。ラピアはほくそ笑む。


 「さぁ、新しいモンスターですわ。戦ってみましょう」


 紫色、黄緑色、緑色。もう気色悪くて吐き気がする造形である。


 (くっくっく。紫色は『毒』属性。黄緑は『麻痺』属性。緑は『眠り』属性ですわ。この状態で毒や麻痺を受ければ、『マチルダ』に帰るのは絶望的。じわじわと身体を苦しめる痛みに耐えながら、次のモンスターに襲われる恐怖で真面に立てない。地面を這い蹲って絶望しなさい)

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