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第2話 魔鹿の角

 ★


 魔物の中には賢い者も存在する。言葉を理解し話す事が出来るものもいて、高度な魔術を操る者もいる。人間のように社会体制が存在しており、血族などで階級制度もある。だから大物を狙うには危険があう。戦う場所を選び、罠を貼っており、危険度が高い。


 「今日は……レベル上げに努めます。質より量です。とにかく一杯倒します。そしてお金を儲けます。以上」


 「「「いやだ!!!」」」

 

 アイフルの提案にシャルハ、エーデル、スティルルが反対する。寝転んでジタバタして、駄々を捏ねる。顔を真っ赤にして、地団駄を踏む。


 「ふざけるな! 高貴なる吾輩に雑魚の掃除など、無礼千万である! 経験値が欲しいなら大物を狙えばよかろう!」


 「雑魚を倒しても、経験値は少ししか増えない。我が欲するは血が煮え滾るような激戦」


 大物が出現するクエストなど、この町には無い。少なくともギルドの掲示板には無かった。血気盛んな冒険者がそのクエストを受注してしまう。この町は戦える人材が多いために、クエストの数そのものが少ない。


 「で、何を倒せばいいの?」


 「魔鹿が大量発生したみたい。どうも動植物の生態系が狂った影響で、食物連鎖そのもののバランスが壊れたらしい」


 「ほーん、分からない」


 魔鹿レインディア。古くから魔力を生まれながらに宿すと言われる魔獣の一種。神聖な動物であり、お目にかかる機会は少ないはずなのだが。


 「レベルは15前後。雄はそこそこ攻撃力があるから注意しないと」


 大量発生の原因は、この町に冒険者が溢れかえっているからだろう。冒険者が多く存在し、この町周辺の魔物を全て殺し切ってしまった。その勢いで無関係の野生動物も皆殺しにしたのだ。おかげで数の少ない森の奥に住んでいた神獣が、人里まで現れるようになった。


 「光属性と闇属性の両者が存在するのが特徴です。繁殖期になると雄は極めて危険です。短期になり人間にも危害を加えようとします。さっさと退治して森の奥にお帰り願わないと」


 しかし、多少は危険と言っても相手はタダの鹿なのだ。テンションが上がらない。ここの所、チンピラに絡まれる日々が続いており、三人も嫌気がさしている。今日こそは第二のボスを倒しに行くと言ってくれることを期待していたのだろう。しかし、この町で装備や道具を揃えるのは困難だ。次に行く道筋は立たない。


 「ねぇ。クエストの内容を見せて! 倒した鹿の……角が欲しいって書いてある。じゃあお肉は貰っていいのかな。鹿肉ってどんな味なんだろう!」


 エーデルが少しだけ元気を取り戻した。右唇から涎を垂らして上の空だ。


 「魔鹿の角は装飾品によく使われる。魔鹿から切り取れば魔法的な価値は消えて無くなるが、その角は煌びやかで美しいからな。個体数が少ないために、なかなか手に入らない。吾輩の母上も持っていて、さぞ自慢しておったが。ここまで値下がりするとは。世も末だな」


 「おぉ、さすが貴族の娘さん」


 ラピアは顎に手を添えて考えていた。ラピアとしては今回のクエストは後押ししていいものか。忘れがちになるのだが、ラピアはアイフルを闇落ちさせたいと思っている。それを達成するには、今回のクエストは少し単純すぎる。無茶をし過ぎて死んで貰っても困るが、あまりに盤石な戦いを繰り返されても面白くない。


 最近、アイフルがこの世界のシステムに順応し始めた。


 「人里に降りて来たとはいえ、神獣を手にかけるのは気が引けますわ」


 「はぁ? それは設定で、実際はただの魔物でしょ。個体数が少なくて角が綺麗だから神獣だって昔の人が勝手に思い込んだだけであって」


 「くっ……。では……裏カジノへ行きましょう。そこには闇取引の対象になっている危険なクエストがあります。その冒険者たちがクエストを達成できるか……それを賭けの対象にします。予想を的中させたものが掛け金を総取り。その何%かは我々に還元されます。一気に大儲け出来るチャンスです……から……」


 言い終わる前に四人の冷たい視線を感じた。手と手を重ねてお願いするポーズで喋っていたラピアだった。さすがに雰囲気が悪いことを悟った。


 「女神殿。確かに雑魚狩りは嫌なのだが、我々の冒険を誰かの見世物にするのはちょっと……。それに、そういうクエストは挑戦者が必ず負けるように出来ている」


 「私は鹿肉が食べたいよう! 鹿を丸焼きにするの!」


 「そう……我々がクエストに失敗したと思っている金持ちの……賭けに勝ったと思っている連中の背中を後ろから…こうザクっと……」


 三者三様に好き放題、自分の言いたい事を言う中、アイフルだけは声を発しない。少し考えた面持ちでラピアの方を見ている。


 「こ、このパーティの勇者はアイフルなのですから……アイフルが判断すべきかと。私は女神として、一つの案を……」


 「ラピアって本当に鬼コーチだよね。前に鱗粉をばら撒く蝶と戦った時もそう思ったけど」


 不信感を持ったのだろうか。恐る恐るアイフルの方を見上げると、すぐに目線を逸らした。


 「まあ、私がゲームの知識がないから一緒に冒険に付いてきてくれているんだろうけど。普通の女神はそんなことしないんでしょ。本当にスパルタだよ。今回は危険な橋は渡らない。鹿の討伐に行きます」


 シャルハとスティルルは不満そうな顔だったが、これ以上抵抗することも無かった。シャルハは後髪を掻きむしりながらため息をつく。スティルルの表情が変わらず怖いままなのだが、包丁をじっと見つめていた。


 「よし、じゃあ……」


 と、次の夜の森林に繰り出そうとした瞬間に、ギルドの門が開く。そこには目つきの悪い美女がいた。背が高くてスラっとした体形だ。象毛色の亜麻の一枚布。地面につく程の長髪で花冠を乗ってている。細い身体に細い腕に真っ白な肌。すぐに分かった、奴はこの地に住んでいる戦いの女神だ。どうして……こんな場所に……。


 「今週末、闘技場にてバトルロワイヤルを開催する。勇者ならば全員参加だ! 拒否権は認めない。ギルドよ、大々的に張り紙を出せ!」


 あの細身の身体から信じられない程の、力強い大声だった。真剣な顔、眉間に皺を寄せて拳を握り締める。その言葉を聞いた瞬間にギルドの奥にいたスタッフが大慌てで動き始めた。どうやら拒否権はないらしい。


 「なんだあれ……」


 「戦いの女神『アテナ』です。先代の魔王を倒した勇者、その英雄を呼び出した女神です。とにかく争いを好む戦闘狂であり、紛れもなく最上級女神の部類」


 小声で話をしていたつもりだったなのに、どうやらアテナには聞こえていたようだ。真っ直ぐ此方を睨まれる。ドスドスと大きな足音をたてて歩いてきた。ラピアは背筋が凍ったような表情をする。


 目の前まで来ると座っているアイフルとラピアを見上げた。しかめっ面が笑顔に変わっている。一流料理人が市場で魚を選んでいるような、美味しいそうな顔。


 「貴様……女神だな。随分と邪悪な魔法を持っているな。そして、お前が召喚された勇者か。オフィーリアの洞窟を抜けてきた駆け出し勇者だな。お前も闘技場での乱闘に参加するがいい」


 ラピアとは違った意味で女神らしくない振る舞いだ。偉そうに上から目線で見下す。アイフルは興味が無さそうに顔を合わせようとせず、クエストの受注内容を記した紙を見ながら、アンテナにこう言った。


 「はぁ、何で? 私はこの町から抜け出したいの。人間を倒したって経験値にはならないんだから、そんな無駄なことに時間を使うのは嫌よ」


 「いけません、アイフルっ!」


 ラピアが政府を言い終わると同時にアテナがアイフルの頭に両手を添える。明らかに何かを付与しているとしか見えない。


 「何をする!」「ちょっと!」「ご主人様っ!」


 取り巻きの三人がすぐに動いた。シャルハは腕から茨の鞭を生成し、奴の身体を引き剥がそうとする。エーデルは飛び上がり右の拳で顔面に殴り掛かり、スティルルは料理包丁で差し伸べた腕の切断を狙う。相手は最上級女神だ、有り得てはならない不遜な行動だ。しかし……。


 アイフルの頭を握りしめると、身体を覆うほどの小さな橙色の結界を張り、三人の攻撃を防御する。その衝撃で三人は地面に転がった。アイフルは椅子を引いて逃げ出そうとする。しかし、アテナは腕を絶対に離さない。結界の範囲が広がり、アイフルも包み込んでしまう。金縛りのような効果で動けない。ラピアには何をしているのかハッキリ分かった。


 「加護を付与している……」


 「ふん。見習い女神よ、分かるのだな。私は冒険者が大好きだ。だから、頑張っている勇者をを見ると、つい自分の加護を付与したくなってしまう。この町の勇者の多くも私の加護を受けている。喜ぶのだ、女の面をした勇者よ。お前は簡単に強くなる! この私の加護は『チート能力』だからな!」


 そう言い終わると、ようやくアイフルを結界から解放した。床に転げ落ち咳をする。額からは嫌な汗が垂れていた。苦しそうに項垂れている。慌ててラピアはアイフルに駆け寄る。


 「どうして、こんなことを……」


 その答えを聞く前にシャルハ、エーデル、スティルルが怒りの眼を見せた。殺気立っている。


 「お止めなさい! 相手は最上級女神です。無礼は許されません!」


 「無礼? こ奴等のどこが無礼だ。大事な仲間を守る為に武器を持って強者に挑む。素晴らしいじゃないか!」


 自分に牙を向くことを歯牙にもかけない。それどころか賞賛する。根っからの戦闘狂、戦いこそが彼女の全てなのだ。


 「加護を解除して欲しくば闘技場にて優勝し、もう一度我が元へ姿を現せ。最もその加護は確実にお前を強くする。お前は私の信仰を乞うことになるだろう。そして泣いて叫ぶのだ、もっともっと強い敵と戦いたいと……」


 彼女の考え方は一度世界を救っている。戦いの女神アテナの加護は戦う意思そのもの。闘争心を刺激して、傲慢不遜な態度になる。この加護によって……勇者をより強い敵と戦わせ続け、勝利の感覚を味合わせ続けたのだ。


 「このギルドにいる勇者たちに我が信仰を授けよう。勝利こそ全て、戦わざる者は死んでいるのと変わらない。一秒たりとて立ち止まるな! 争い続けるのだ!」

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