第23話 武器の強化
アイフルは斧を振り回した。先ほどと明確に違うのは狙いを定めている所である。奴らの頭上から生えている提灯。それを切断するように振り下ろしたのだ。思惑は見事に当たった。奴等は額の突起物を切られると急に動転して暴れ出す。まるで盲目になったように。
水中では水の流れによって位置を把握できようとも、地上では灯りがなくなれば何も見えない。奴の弱点は視力だったのだ。この洞窟の薄暗さが敵にも不利益になっていたのである。四匹はすぐに飛び跳ねて水の中へ逃げて行った。
「これ、経験値になったの?」
「少しの損傷でも経験値にはなります。しかし、あれだけの傷では微々たる物でしょう」
そう言いつつステータスを確認する。相手のレベルが高かっただけに悪くない稼ぎなのだが、それでもレベル3だ。何か能力を得たわけでもない。ランタンフィッシュがいなくなったので、洞窟から明かりが無くなる。ラピアが松明に火をつけてくれた。
「RPGにおいて一気に強くなるなんて芸当はありませんわ。経験値を豊富に含む魔物もいますが、そればかりを狙える訳ではありません」
「少しずつしか強くなれないか」
「えぇ。でも、魔物を倒す際に落としていくのは、経験値だけではありませんよ」
ランタンフィッシュの甲殻を武器に練り込めば強度が上がる。防具に取り込むのもいい。ラピアは少し小走りで先ほど戦闘があった場所へとやってきた。何かを拾いあげる。
「ドロップアイテム」
「あぁ、二匹から切り落とせたからね。それをどうするの?」
真っ赤に光っているランタン。魚に付着していた時は気味が悪かったが、こうして拾い上げると宝石のように感じる。透き通った炎のような石。
「ブネがマチルダで暴れ回った時のことを覚えていますか?」
「まあ、私もそこにいたし」
「どんな攻撃がありました?」
「犬の頭が噛み付いてきて、鳥が炎を吐いていたかも」
「そうです。遠距離で火炎を巻き散らす。では、コチラはどう対策するか……」
今度は捨てられていた初期の武器である短剣を取り出した。両手で逆手に持つタイプである。その錆びついていた刀身に宝石が取り込まれていった。すると、真っ赤な短剣に生まれ変わる。先ほどまでと明らかに違う。
「ステータスを開きなさい。念じるだけで開くことが出来ますよ。初期装備の短剣のデータを添付しました。違いを比較してごらんなさい」
切れ味、耐久力、何をおいても先ほどとは比べ物にならない数値だ。およそ五倍以上の力がある。しかも『炎耐性』と書かれているのだが。
「あっ、そうか。これで奴の炎の攻撃を耐えられる……」
「少しは楽しくなってきましたか?」
ラピアは豪華な真っ白の椅子に座り込み、お茶菓子を一口。美味しそうに頬張り咀嚼したあと、また話を始めた。
「どうやって自分より格上の相手を倒すか。それがRPGの醍醐味です」
アイフルはまだ目の前に表示された画面に注視していた。そこには魔法が書いてある。熱線レベル1。そう画面に書いてあるのだ。
「炎属性の魔法です。入手困難な魔法ですよ。浴びせるだけの爆発的な炎ではなく、真っすぐ敵を貫く炎の線。レーザーのようなものです」
アイフルは試しに壁に向かって刀を振る。すると、刀身から真っ赤なレーザーが飛び出し、壁面を一直線に傷つけた。
「以前に逃げ出した芋虫。実は炎の魔法が苦手としています。この技が使えれば一撃だったでしょう」
「マジか」
「戦いには相性があります。魔物にはそれぞれ不得意分野があり、攻略法も存在する。その癖や弱点を調べて、入念な準備をする。勝てない相手をどうやって倒すか考え抜くこと。そして、倒した時の快感とレベルアップの喜びを味わう。これこそRPGなのです」
そう説明し終えると、彼女はアイフルにビスケットを差し出す。
「ご褒美です」
「いらねーよ! 犬か! 私は!」
「でも、そのレーザーは無限に使える訳ではありません。あなたの魔力が底を尽きれば、しばらくは使えない。レベル3では五回撃てればいい方でしょう。魔力回復効果のある菓子ですわよ」
そう言われて食べてみると、疲れが吹き飛んだ感覚がある。魔力どころか、先ほど消費した体力まで一気に回復している。しかも美味しい。
「私のお手製ですわ」
「なぁ、ラピアって本当は凄い女神なのか? 魔物には詳しいし」
まだ序盤なので、腕を披露するという程の事をしていないのだが。魔王の軍勢として魔物の研究をしていたラピアは他の女神よりも魔物には詳しい。まあ異世界から来た勇者は、そういう魔物の倒し方を女神に教えを乞う真似などしないので、彼女たちが活躍するタイミングを失っているだけかもしれないが。
「ラピアが全力を出せば魔王を殺せるんじゃない?」
「前から言おうと思っていましたが、魔王を舐め過ぎですわ。もし私が倒せるなら、この世界はもっと簡単に救われています。誰にも倒せないのです」
奴に弱点はない。奴に出来ないことはない。完全無欠の存在なのだから。




