第22話 提灯の水魚
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こうして第一のボスであるブネの捕虜となったわけだが、立場が逆転し今はブネにこの洞窟の中でも不自由がないように動き回って貰えることになった。その間の時間は暇である。この時間を無駄に過ごすのも勿体ない。ダンジョンの探索をすることにした。アイフルは最初、嫌そうな顔をしたが、他にすることもなく暇が耐えられなくなり、やる気になった。
この洞窟内でもモンスターは出現する。その強さは今のアイフルでは単独で倒すには難しいレベルだ。幸いにもブネを倒そうとして失敗した勇者が落としていった武器が、倉庫の中に大量に残っていた。これで武器の不足には困らない。正直に言って、ブネを倒すには勇者としてレベルが足りない。今はとにかく経験値を稼いで強くなることが必須だ。
弓をメインウエポンとして戦う決断をしたが、これを機に色々な武器を試しに使ってみるのも悪くない。他の勇者はこんな真似はしていないから、貴重な経験になるかもしれない。
「まずは剣か。思ったより重いな」
「取り合えず振ってみてください」
思いっきり振りぬくも、手から剣が滑り落ちる。金属音を鳴らして地面に落ちた。それを見てラピアは呆れた顔をする。
「ほら湿気が凄いから、ここ」
「では、実際に戦闘してみましょうか。ほら、そこの魚を倒してみてください」
「なんで陸上に上がってきているのよ」
眼光が大きく、額から提灯を垂らした魚が現れた。皮膚は銀色で目が充血して大きく滑るように地面を這う。四匹程度で固まって行動している。「ランタンフィッシュ」。何か能力を持っている訳ではないが、突進からの噛み付き攻撃が強力である。複数体から連続で攻撃を受けたら一撃死もありうる。
ボス前の最後の砦。言うまでもないが、今のアイフルが敵う相手ではない。
「ねぇ。ラピアが戦うって出来ないの?」
「私が倒しては経験値になりませんわ」
「ああ、そうかい。それじゃあ、やってみますか!」
背後を取って後ろから刀を振り下ろす。直撃はしたのだが、その強靭な皮膚に弾かれてしまった。傷一つない。そして四匹がアイフルを敵だと認識した。怒りの方向をあげる。
「ちょっと全然だめじゃない」
「お逃げなさい。突進が来ますわよ」
「へぇ?」
一番奥にいた一匹がアイフルの胸に向かって飛び込んできた。驚いて後方に避けようとするも、尻餅をついて地面に倒れる。魔物の戦闘において、足を地面につけるのは最悪だ。機動力を失う事ほど不利なことはない。最初の一匹はギリギリで躱せたが、次の一匹が飛び込んでくる。
顔に飛びつく前に剣がランタンフィッシュの頭部に当たった。しかし、魚は身体をバタつかせつつ向きを変更し、剣の刀身に噛み付くと飴細工のように噛み千切ってしまう。
「全く歯が立たないじゃない」
アイフルは慌てて立ち上がった。距離を取ろうと水のある方へ走ってしまう。
「ランタンフィッシュは主に水中で活動しますわ。水中に引きずり込まれたら確実に負けますわよ」
そんなアドバイスをしつつも、自分は優雅に豪勢な椅子に座ってお茶を飲んでいる。そして、今度は巨大な斧を地面に滑らせてきた。武器を使い捨てにして、アイフルに合う武器を選定するつもりなのだ。
「ねぇ、やっぱり私のレベル差で勝てる相手じゃないでしょ!」
アイフルは現在レベル8、相手はレベル18、それが四体。勝負になるはずがない。ラピアもそんなことは分かっている。武器には馴れておらず、魔法も一切使えない。手持ちの使えそうな道具もなく、防具もない。勝てる要素は無いように思える。
「重い……さっきの剣よりも重い……」
「これで威力が出ますわ。今度こそ甲殻を破壊出来るかも」
その前に頭より上に斧が上がらないのである。この間にもランタンフィッシュの攻撃は止まない。有り得ない跳躍力で齧り付いてくる。
「このままじゃ体力が無くなって、いずれ殺される……」
レベル差がある以上は倒した時の経験値も大きい。一気に強くなることが出来る。しかし、今回はやはり相手が悪いと思った。斧を地面に沿うように振り回すも、魚に当たる気配すらない。防戦一方、真面に攻撃に転じる余裕はない。
「勇者なら頭を使いなさい。純粋なポテンシャルでは敵いません。もっと相手をよく観察して。こういう敵には弱点があるものですよ」
一度に攻撃して来ない。必ず一匹ずつ突進をしてくる。一斉に攻撃した方が避けるスペースを減らせるはずなのに。足元に噛み付いて来ない。必ず頭や胸の辺りを狙って飛び込んでくる。足元に着地したなら、そこから追撃はせずに必ず距離を取ろうとする。強靭な全身の皮膚、鉄をも噛み砕く強靭な顎。気色悪い巨大な目。……巨大な目?
「分かったかも、攻略方法が」
アイフルは斧を振り回した。先ほどと明確に違うのは狙いを定めている所である。奴らの頭上から生えている提灯。それを切断するように振り下ろしたのだ。思惑は見事に当たった。奴等は額の突起物を切られると急に動転して暴れ出す。まるで盲目になったように。
水中では水の流れによって位置を把握できようとも、地上では灯りがなくなれば何も見えない。奴の弱点は視力だったのだ。この洞窟の薄暗さが敵にも不利益になっていたのである。四匹はすぐに飛び跳ねて水の中へ逃げて行った。
「これ、経験値になったの?」
「少しの損傷でも経験値にはなります。しかし、あれだけの傷では微々たる物でしょう」
そう言いつつステータスを確認する。相手のレベルが高かっただけに悪くない稼ぎなのだが、それでもレベルが一つ上がっただけだ。何か能力を得たわけでもない。ランタンフィッシュがいなくなったので、洞窟から明かりが無くなる。ラピアが松明に火をつけてくれた。
「RPGにおいて一気に強くなるなんて芸当はありませんわ。経験値を豊富に含む魔物もいますが、そればかりを狙える訳ではありません」
「少しずつしか強くなれないか」
「えぇ。でも、魔物を倒す際に落としていくのは、経験値だけではありませんよ」
ランタンフィッシュの甲殻を武器に練り込めば強度が上がる。防具に取り込むのもいい。ラピアは少し小走りで先ほど戦闘があった場所へとやってきた。何かを拾いあげる。
「ドロップアイテム」
「あぁ、二匹も切り落とせたからね。それをどうするの?」
真っ赤に光っているランタン。魚に付着していた時は気味が悪かったが、こうして拾い上げると宝石のように感じる。透き通った炎のような石。
「ブネがマチルダで暴れ回った時のことを覚えていますか?」
「まあ、私もそこにいたし」
「どんな攻撃がありました?」
「犬の頭が噛み付いてきて、鳥が炎を吐いていたかも」
「そうです。遠距離で火炎を巻き散らす。では、コチラはどう対策するか……」
今度は捨てられていた初期の武器である短剣を取り出した。両手で逆手に持つタイプである。その錆びついていた刀身に宝石が取り込まれていった。すると、真っ赤な短剣に生まれ変わる。先ほどまでと明らかに違う。
「ステータスを開きなさい。念じるだけで開くことが出来ますよ。初期装備の短剣のデータを添付しました。違いを比較してごらんなさい」
切れ味、耐久力、何をおいても先ほどとは比べ物にならない数値だ。およそ五倍以上の力がある。しかも『炎耐性』と書かれているのだが。
「あっ、そうか。これで奴の炎の攻撃を耐えられる……」
「少しは楽しくなってきましたか?」
ラピアは豪華な真っ白の椅子に座り込み、お茶菓子を一口。美味しそうに頬張り咀嚼したあと、また話を始めた。
「どうやって自分より格上の相手を倒すか。それがRPGの醍醐味です」
アイフルはまだ目の前に表示された画面に注視していた。そこには魔法が書いてある。熱線レベル1。そう画面に書いてあるのだ。
「炎属性の魔法です。入手困難な魔法ですよ。浴びせるだけの爆発的な炎ではなく、真っすぐ敵を貫く炎の線。レーザーのようなものです」
アイフルは試しに壁に向かって刀を振る。すると、刀身から真っ赤なレーザーが飛び出し、壁面を一直線に傷つけた。
「以前に逃げ出した芋虫。実は炎の魔法が苦手としています。この技が使えれば一撃だったでしょう」
「そうか。シャルハも炎の魔法を使っていた」
「戦いには相性があります。魔物にはそれぞれ不得意分野があり、攻略法も存在する。その癖や弱点を調べて、入念な準備をする。勝てない相手をどうやって倒すか考え抜くこと。そして、倒した時の快感とレベルアップの喜びを味わう。これこそRPGなのです」
そう説明し終えると、彼女はアイフルにビスケットを差し出す。
「ご褒美です」
「いらねーよ! 犬か! 私は!」
「でも、そのレーザーは無限に使える訳ではありません。あなたの魔力が底を尽きれば、しばらくは使えない。レベル9では五回撃てればいい方でしょう。魔力回復効果のある菓子ですわよ」
そう言われて食べてみると、疲れが吹き飛んだ感覚がある。魔力どころか、先ほど消費した体力まで一気に回復している。しかも美味しい。
「私のお手製ですわ」
「なぁ、ラピアって本当は凄い女神なのか? 魔物には詳しいし」
まだ序盤なので、腕を披露するという程の事をしていないのだが。魔王の軍勢として魔物の研究をしていたラピアは他の女神よりも魔物には詳しい。まあ異世界から来た勇者は、そういう魔物の倒し方を女神に教えを乞う真似などしないので、彼女たちが活躍するタイミングを失っているだけかもしれないが。
「ラピアが全力を出せば魔王を殺せるんじゃない?」
「前から言おうと思っていましたが、魔王を舐め過ぎですわ。もし私が倒せるなら、この世界はもっと簡単に救われています。誰にも倒せないのです」
奴に弱点はない。奴に出来ないことはない。完全無欠の存在なのだから。




