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第21話 暗闇の洞窟

 ★


 第一のダンジョンオフィーリアは洞窟ステージである。明かりがないので人間が入るには松明が必要。また、水分が多く、水系のモンスターが多く出現する。中の鍾乳洞は入り組んでおり、複雑に道が分かれている。途中で道が分からなくなり、奥にあるボスの部屋まで辿り着くのは難しい。


 しかし、第一のボスであるが故の弱点がある。このダンジョンに挑んだ勇者が多すぎるのだ。地図は完成しているので、マチルダにて地図を購入してダンジョンに臨めば全く苦労することなくブネの待つ部屋まで辿り着く。松明や地図という初期の準備さえ怠らなければ、問題なく倒せる相手だ。


 「って、松明や地図などなくとも簡単にボスの部屋に辿り着いたんですけどね」


 ブネが二人を掴んで洞窟に中に戻って来た。そのままボス部屋まで安全に運んで貰えたので、何の苦労もなく大広間に到着している。ラピアは安堵していた。この地に戻ることによりブネの強さは一旦リセットされていた。魔王城までの実力ではない。今の段階のアイフルでは太刀打ちできないが、ここで修業を積めば倒せるまでに至るかもしれない。最も気が遠くなる日数が必要、である前に勇者を望まない彼女にそれが成立しない。


 ただこの場には、アイフル以外に神の軍勢への裏切りを知られることを、警戒をすべき人間が誰もいない。アイフル自身もこの世界の仕組みをまだ理解していないので、今更ブネと会話をしても、心底怪しむという思考にならないだろう。最悪は誤魔化せばいい。


 「ようこそ、我が憩いの場へ」


 「ジメジメして気持ち悪い。水滴で服が濡れる。暗くて何も見えない」


 「あぁ、すいません。ちょっと温かい飲み物を持ってきますので」


 ブネはロウソクで灯りをつけたあと、奥へ引っ込んでしまった。牢屋にでも閉じ込めるのが定石だろうに、奴は何の枷もつけない。ラピアに手を挙げたとなっては魔王が黙っていない。そんな大それたことを出来る奴ではない。


 という前に、単純に誘拐という実感もないのだろう。アイフルに関しては勇者と思っていない場合は誘拐なのだが、ラピアは元魔王の軍勢なので誘拐という表現になるか怪しい。奴にとって誘拐はただの憂さ晴らし。魔王の命を受けての任務ではない。ただ元旧友を自分の領域に招待し、その上で町の女を一人誘拐した。奴にとってはその程度のこと。


 ……アイフルが実は男だと知ったらどんな顔をするのだろうか。


 暗闇に馴れないアイフルは洞窟に入った瞬間に何も見えなかった。蝋燭のおかげでようやく辺りを見渡せる。そこには人間が生活出来るような物は一つも無かった。椅子や机、ベットや服をかける場所もない。本当にただの洞窟。


 「この洞窟を抜けると次の町があるのです」


 「へぇ。でも、その町はよく成り立っているわね。こんなに近くに強い魔物がいたら、怖くて生活出来ないでしょ」


 「いえ、第一のボスとしてのブネは全く強くありません。攻略法さえ把握できれば、多少のレベル差でも簡単に突破できます。このマチルダから洞窟までは、距離が多少は長いだけで攻略は簡単です」


 RPGの常識やお約束を知っているという前提と、命の駆け引きを恐れない気持ちがあれば、の話であるが。そして、ブネがこの地では弱体化しているという忘れてはいけない前提があってのこと。露骨に嫌そうな顔をしているアイフルに提案をした。


 「これからどうしましょうか?」


 「どうにかアイツを説得して、魔王城まで連れて行って貰えないかな。羽があるなら楽勝でしょう。アイツも魔王に不満があるみたいだから、仲間にしちゃって」


 ブネは小心者だ。性格は温厚で我を通すタイプじゃない。魔王に歯向かう根性がある魔物ではない。それにブネはこの洞窟で勇者と戦うことを強いられている。現に奴はこの地に戻って来た。無意味に魔王城へ行くことが可能かも怪しい。


 アイフルの首筋に水滴が滴る。「冷たい」と声をあげる彼女を見た。


 「人間が住める場所じゃないわよ。なんか気味の悪い声とか聞こえるし、湿気だらけでベトベトするし、蝙蝠とかナメクジとか住んでそう。ちょっと寒い……」


 蝙蝠型のモンスターはいる。人間より巨大なカエルや蛇も多い。ここは女の子が嫌がりそうな気色の悪い魔物で溢れている。それだけではない。このオフィーリアの洞窟は浸水している。泳ぎのスキルがなくては突破できない。途中で濡れ着になるイベントが発生することで有名な地なのだ。


 「大人しく救出を待つしかありませんね」


 「ねぇ。ラピアがあの竜と戦えないの?」


 今の弱体化したブネなら勝てるだろう。しかし、ブネをラピア単独で倒せば魔王が反逆と捉えかねない。いや、魔王がそう思わなくとも、他の強力な部下達が不信感を持つだろう。ブネは死なない、魔王の呪いにより明日には蘇るのだから。そこまでのリスクを負ってブネと戦う理由がない。


 「魔物との戦闘は出来ませんよ。私はこう見えてもか弱い女神ですわ」


 「そうは見えないけど……」


 変な時だけ疑り深いアイフルに少しイラっとする。素直に信じてほしいのだが。アイフルがその辺の岩場に腰を下ろすとする。しかし、この地はどこも水滴だからけだ。お尻が濡れたのかすぐに立ち上がった。


 「なんかここ気持ち悪い!」


 「いやぁすいません。僕は何ともないんですけど……どうぞ」


 温かいココアを持ってブネが現れた。まだ鼻の下が伸び切っている。真ん中の竜も、犬も、鳥も、阿保面が三匹並んだ。アイフルは遠慮など知らずココアを奪い取る。魔王直属の幹部を相手にこの太々しい態度に溜息しか出ない。自分だけ悩んでも仕方がないと思い、ラピアもブネからコップを受け取った。


 「誘拐とは随分と手荒な真似をしてくれますわね。女神を誘拐とは。魔王の差し金ですか?」


 「え、魔王様? 何のこと?」


 不思議そうに首を傾げている。三つ首だから三匹が一斉に右に首を動かすので、見ている分には面白い。どうやらブネの独断で行動したようだ。魔王がアイフルを抹殺するように仕向けたと考えていたが、取り越し苦労だったようだ。よく考えてみればアイフルなど魔王にとっては取るに足らない存在なのだから。


 「俺は単純に悔しかったんです! この地には幾多の勇者が訪れます。その度に凄んでみせるけど、僕との決戦をそっちのけで女の子と手を繋いで、キスとかし出して、雑魚とか虫けらとか暴言吐かれて、死んだら足で踏みつけて……あれが勇者のすることかよ! もっと真面目にやれよ! って思っていたんです。だから思い知らせてやりたかった。さっさと次の町に行けばいいのに僕の首を持って凄んで見せて……ラピアさん、俺悔しいんすよ!」


 名乗ってもいないのに名前を出すな、こっちを向いて泣くな、両手を組んで膝をついて祈るポーズで崇めるな。魔王の幹部ともあろう魔物が情けない。こっちが恥ずかしい。


 オフィーリアから魔王城まで距離がある。他のダンジョンの中で最長だ。だからこそ、魔王の魔力が届きにくい。加えて無限に復活する呪いに魔力を奪われている。本調子が出せなくて当たり前だ。だから本来ならば負けるはずのない相手に惨敗を繰り返してきた。その中で勘違いした勇者に散々な暴言を吐かれてきたのだろう。心が荒んで当然だ。


 「僕の夢は女の子と毎日、毎日、イチャイチャして、身の回りをお世話をしてもらうことです。そう言って魔王様と契約したのです。なのに……勇者ときたら、何の努力もしないで、僕が欲しいものを全て持ち合わせてやがる。何で魔王様の幹部たる俺が引き立て役で、あの駆け出し勇者たちがハーレムなんだ!」


 事情は呑み込めた。呆れた話だが、放っておいて解決する内容でもない。ラピアは腕を組んで、悩んでいるフリをしながらブネに質問した。


 「それで私をどうするつもりですか?」


 「まさか。魔王様の不倫相手であるラピア様に何かをして貰おうとだなんて……」


 ラピアが凄まじい迫力で、怨念のような殺気を与える。ブネはあまりの衝撃に背中から地面に転んでしまった。地震でも起きるかってくらいの衝撃で、目を殺意に滾らせてブネを睨む。


 「え、なに、今コイツなんだって?」


 アイフルが不思議そうな顔をして、不信感たっぷりに言う。


 「言葉を選べよ……今ここで私がお前を鳥の餌にしてやってもいいんだぞ」


 物凄く怖い声で、それでいでアイフルには聞こえない音量でブネに囁く。


 「ラピア様は邪悪の女神。悪感情を支配する我らが母。お、お母さんになって欲しいと思っています!」


 「もう、お母さんだなんて!」


 思いっきり背中を蹴飛ばす。今度は三つの顔面が地面に激突した。ラピアはこの場を誤魔化す為に、恥ずかしそうな顔をして顔を赤らめる。


 「あーなに? 私たちに身の回りのお世話をして欲しい。そういうこと?」


 「そういうことのようですね!」


 アイフルが呆れたような声を出す。それに対し、ラピアは手と手を重ねてニコニコしている。


 「いや、そんな大それたことは思っていません。ただ俺は……誰かに褒めて欲しかったんです。ブネ、頑張っているね! 本当は強い魔物だよね! お前はカッコいいドラゴンだねって言って欲しいだけなんです」


 承認欲求を満たして欲しい、いや褒められたいだけか。まあ、いくら初心者で無名の勇者を倒した所で誰からも褒められないし。気持ちが理解できないでもない。


 「なるほど。さぁ、アイフル。喜ばせてあげなさい」


 「嫌よ。何でこんな意味の分からない生物を褒めないといけないの? コイツ、可愛くないし。まあ、逆に私の身の回りの世話をするって言うなら考えてやらなくもないけど」


 これは龍の逆鱗に触れたのではないか。そう思いブネの表情を見ると、三匹の顔が鼻息を鳴らして興奮している。どうやら乗り気のようだ。それでいいのか、魔王直属の幹部よ。


 「あっ、ココアありがとう」


 「へ、へ、滅相もございません!」

 

 横を向いて飲み終えたコップを手渡しただけなのに、ブネの頬はへの字に緩んでいる。このステージのボスが見る影もない姿になってしまった。呆れて物も言えない。

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