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第1話 勇者を召喚

 ★


 こうしてラピアは勇者召喚の儀を行った。黒紫色に輝く水晶により人間界を眺め、素質のある人間を探す。どうせコチラの世界に引き込めば容姿など変わってしまうので、見た目はどうでもいい。素質ある勇者を狙うにはとにかく『人間界に馴染んでない者』。世界の構造そのものに違和感を持っているような人間がおススメだ。



 「まあ普通の女神ならそうするのでしょうが、面白くありませんわ」


 薄暗い部屋にロウソクのみの灯り。地下室なので壁面は粘土で出来ている。古びた木の机の上に自慢の水晶を乗せ、先日の説明会で貰った勇者召喚の魔方陣を赤いチョークで描く。勇者と対面するのだから、服装は女神らしいドレスを着用すべきなのだが、もう本性を隠す気はないので、魔王の手先らしく真っ黒な薔薇をモチーフにした令嬢のような姿をしていた。

 

 ラピアは下卑た目を浮かべた。異世界に呼ばれて喜ぶような人間を引き入れても仕方がない。強固な魔力はより強い悪意によって目覚める。ならば、世界に順応し、生活が順風満帆な奴を狙う方がいい。


 「さぁ、お出でなさい。異世界からの勇者よ」


 水晶に両手を当てて、目を邪悪に輝かせた。甘い吐息を吐く。古谷愛ふるやあい。そう名前のついた人間に目星をつけた。容姿が可愛く、身長が高くて、友達が多くいて、カッコいい彼氏がいて、部活動のエース。そして、異世界に召喚されるような人種を心底軽蔑しているような、そんなあちらの世界に順応した女の子を。


 彼女は部活帰りに家まで帰っていた。途中で友達とファストフード店に寄り道をしたせいで、辺りはすっかり暗くなっている。何もかも順風満帆。失敗しない、つまづかない、不平不満があれば激しく主張し、自分に自信があって、他人を見下している。そんな自信の漲った目をしている彼女。


 「その天狗の鼻をへし折って差し上げますわ」


 水晶の中に玩具のトラックを勢いよく投げ入れた。そのサイズは指先程度の大きさ。赤いフロントに、白い積み荷のごく一般的な大型車両。次の瞬間、古谷愛の頭上に薄暗い天空からトラックが降って来た。彼女は逃げる余裕もなく下敷きになる。彼女は訳も分からず、死ぬことにも気づかずに即死した。


 「投げる角度を間違えた」


 どう見ても轢き殺されたようには見えない不自然な死に方。


 と、同時にラピスの背後に用意していた魔方陣が怪しげに光り出す。


 「おいでませ、勇者さま」


 魔方陣からは先ほどトラックの落下により絶命した少女が頭を擦りながら寝そべっていた。


 「なによ、何があったの……」


 「哀れなるもの。あなたは不運にも前の世界にてトラックに轢かれて死んでしまいました」


 「え? 空から降って来たように見えたけど」


 「あ……容姿を変えるの忘れてた。うっかりうっかり」


 「え? これ私はどんな目に合わされているの?」


 「あなたは前世にて一度死んでしまいました。あまりにも哀れだったので、神様の意向により、この女神『ラビア』の召喚により、この別世界にて第二の人生を授かったのです」


 手と手を重ねて祈りのポーズをして納得させようとする。目を瞑り、女神っぽい微笑みをして。


 「死んだ。 私は死んだ……死後の世界……いやぁ、いあぁぁぁ!」


 急に頭を抱えて泣き出した。身体中が恐怖で震えている。唇を噛み締めのた打ち回る。聞いていた話と違う。最近のこの年代の子供は、例え異世界転生しても「そうか、ここが異世界か」なんてそれっぽいことを言って、従順に適応すると聞いていたのだが。


 自分が生きているかどうかを確認している。胸を触って心臓の鼓動を確かめる。心臓は動いていた。しかし、別に問題が……。


 「ナニコレ」


 「勇者には”男”しかいませんから。まあ、どの性別を転生させる場合も、コチラで見た目の良い個体を用意して、新しい自分に生まれ変わらせるのですが」


 「しなかったと」


 「忘れていました。私、説明書を読むのが大嫌いな性分で。貰ったと同時に塵箱に捨ててしまいました。と、いうわけで見た目は女の子ですが、その正体は男の子。まあ、需要高そう!」


 「今すぐ元の世界に送り返せ!」


 「いいですけど、トラックの下敷きになったぐちゃぐちゃの死体ですけど」


 「生き返れないの!? ふざけんなよ! 私が何でこんな目に!」


 取り乱し方は滑稽だったが、まあいい感じに絶望してくれているので良しとしよう。そろそろ他の女神達も召喚を行っている頃合いだろうか。


 「どうやったら、元の世界に戻れる」


 ラビアが不気味な笑顔をこぼした。


 「魔王を殺しなさい。さすれば、時間が元に戻り、きっとあなたは元の世界に戻れる」


 嘘八百だ。そんな条件があるなど聞いていないし、知りもしない。だが、そう言っておけば納得するだろう。ようやく古谷愛は生まれたての小鹿のように立ち上がった。もし魔王を討伐できたなら、元の世界に戻れないことに絶望させるのも悪くない。


 ラピアは水晶を魔方陣の中にしまった。そして、女神の笑顔で彼女に微笑みかける。


 「魔王? 何それ、気持ち悪い。まあでも、ソイツを殺せば帰れるのね。で、どこにいるの?」


 「魔王城でしょう。今から強力な魔王を倒す為に、あなたは冒険の旅に出ます。さあ、この荒廃した暗闇の世界に光をお与えください、勇者様ぁ。勇者『アイフル』よ」


 「変なあだ名つけるな!!」

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