第0話 反逆の女神
輝く黄金の遺跡に100人の女神は集められていた。今日、この時間に神様からのお告げを受けるのだ。この世界は崩壊の危機を迎えている。名も姿も現さない魔王の手により、世界に暗雲が広がった。あらゆる場所にモンスターが跋扈するようになり、魔王の配下達が民家を荒らし、金品を奪い、この世界に住む全ての生き物を虐げている。
この世界には信仰のある『神』がいた。遂にこの世界中の人々の祈りが神様に届いたのである。神様は大聖堂に姿を現し、お告げがあった。100人の天使を使いとして差し出す。その女神たちは異世界よりこの世界を救う『勇者』をお与えになってくれると。その勇者が必ず魔王を滅ぼし、世界にまた光を取り戻してくれると。
「それではこれより、世界を救う為の勇者召喚の方法を伝授する」
黄金の遺跡に集まった女神たちの顔は、最悪だった。不機嫌そうに遺跡を蹴飛ばす奴。今にも泣きだしそうになっている奴。寝巻のまま髪がクシャクシャな奴。この場に集められた天使たちは憤りを隠しきれず、苛立ちは頂点に達していた。
「また勇者召喚かよ、これで何度目だよ」「どうせ世界を救うことなんて放っておいて、女の子とイチャイチャするだけに決まっているよね」「チート能力をよこせだの。無敵の武器をくれだの」「それ言われるのが一番腹立つよね、そんなのあるならお前なんか召喚していないよ~って」「最近は一緒に冒険するとか言い出すし。本当に気持ち悪い」
「というか誰を狙うの?」「はぁ?誰でも言いだろ、人間の餓鬼なら最近はみんなゲームをやり込んでいる奴ばっかりなんだから。イキっている奴なら誰でもいいんだよ」「じゃあもう引きこもりが部屋から出てきた瞬間に合わせてトラックを当てるなんて、面倒な真似はもうしなくてもいいんだね!」「あー殺し方考えとかないと。違和感なく自然に殺さないと」
勇者召喚は以前にも何度かあったが、成功した試しはない。素質がない者が選ばれているわけでも、途中でモンスターに殺されている訳でもない。この世界に順応してしまうのだ。魔王討伐なんて面倒なことをするよりも、ソコソコの幸せを求めて勇者を引退してしまう。
「あっ、神様だ!」
暗雲に一つの光が刺さった。そこから野太い声が聞こえる。
「女神の皆様、今宵は『勇者召喚儀礼特別説明会』にお越し頂き誠にありがとうございます。神様なのですが、前回の召喚オリエンテーションの際にデモが起こった恐怖でしばらく部屋から出られないほど、深刻な精神的苦痛を受けていらっしゃいますので、不肖ながら私が代理でお話をさせて頂きます」
「はぁ?ざけんなよ!」「出て来い!働け!カスがぁ!」「今すぐ部屋から出てきて貴様が魔王と戦ってこい、くそ猿がぁ!」「おい、炎上させようぜ、また神様の悪口をSNSで拡散させようぜ!」「給料あげろ!有給よこせ!偉ぶるな!異世界から人間を召喚させるなんてパワハラは止めろぉ!」
「「「神様ぁ。やめろ!!!」」」
女神たちによる『神様やめろ』という歌詞の大合唱が神殿中に鳴り響く。
「落ち着いてください。いや、異世界から人間を召喚して、倒してもらうのが、一番効率がいいんです。今まではあまり魔王討伐に対し乗り気ではない人が多かったですが、今回は100人も召喚するんですから、熱心な方がいらっしゃるかもしれません。やめて!光の矢を打ち込んでこないで!」
女神たちにとって勇者召喚など、もっと恥ずべき雑務である。勇者を異世界で殺害し、こちらの世界に呼ぶまでは簡単だ。しかし、人間は不遜な生き物だ。女神に対してセクハラは当たり前。中には本当に一線を越えようとする奴も珍しくない。死んだ直後も死んで時間が経ってもこれは変わらない。担当した女神はこまめに勇者と連絡を取る。その度にイキった餓鬼の英雄譚を聞かなければならない。これが何よりも増して苦痛だ。
ちょっと怪我しただけで泣き叫び、文句を言い、女神たちに金を要求しては豪遊する。日夜、女の子を仲間にすることしか頭になく、日に日に魔王の名前など忘れていく。戦死もしないので勇者は増える一方。なのに魔王討伐が一向に進まない。下卑た考え方、横柄な態度、知識をひけらかし、外道な考え方をする連中。これが勇者だ。
上級女神ともなればこんな仕事は任されない。本当に選ばれた100人の女神たちは、『役立たず』の烙印を押されたも同じ。だから心の底から吹っ切れているのだ。
「誰がするか!こんな仕事を!」「もう勇者の顔なんか見たくない!」
この罵詈雑言の嵐の中に唯一、不気味な笑みを浮かべている女神がいた。その名を『ラピア』。彼女は女神の姿をしているが、本当は魔王の軍勢の一員である。今回はスパイとして勇者紹介の儀に潜り込んだのだ。元々女神の素質を持ち合わせていたので、ここまで来るのは容易かった。しかし、その目は魔王討伐など考えていない。
(神様も魔王も殺してみせる。この世界は全て私が手に入れる)




