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第17話 神への接触

 ★


 アイフルと別れたあと、ラピアは神殿に向かっていた。いつものように黒いドレスを着て、女神として相応しくない恰好をしている。邪悪さを隠す気持ちなど微塵もない。最初は位の高い女神から嫌味を言われていたが根負けしたらしい。髪飾りを付けて可愛らしいく仕上げ、ハイヒールを履いて神殿へと入った。


 神殿は人間でも入ることは出来ない場所。階が何層にも重なり神のいる天空へと繋がる道がある。多くの女神が滞在している場所であり、各個室を用意されている。魔王の軍勢との決戦において最終防衛拠点であり、一部の人々が崇拝する場所だ。


 「あっ、ラピアだー」


 大広間に姿を現すと数々の女神が出迎えてくれる。彼女たちは暇なのだ。ラピアのように勇者に同行する者など一人もいない。ただ何かしらの方法で眺めているだけ。他に仕事も任されていない女神が大半なので、勇者の戦っている映像など見ておらず、自分勝手に好きに時間を潰している。魔王城の方は規律が整っており、緊張感があった。


 「ごきげんよう。皆さん、お元気そうで何よりですわ」


 多種多様な女神たちが駆け寄ってくる。一番前にいた背の高い女神が、嬉しそうな顔をして両手を握ってきた。あまりに不意打ちだったので、ラピアも驚いてしまう。


 「皆さん、どうされたのですか?」


 「聞いたよ! 女の子を転生させたって!」


 アイフルは性別だけで言うなら男なのだが、と思いつつも大得意の営業スマイルでお茶を濁す。両手を握り締める握力が強い。何を興奮しているのだろう。


 「やっぱりラピアは頭がいいよ! 女の子を異世界から転生させて、容姿を変えない。たっらそれだけでセクハラから解放されるんだね!」


 神様のアドバイス通りに勇者転生の儀式を行うと、異世界から出来るだけ人生に充実していない人間を殺し、コチラの世界に呼ぶ。その際にイケメンの容姿に変更する。この手順だった。しかし、これでは勇者に必要以上の自信を生んでしまう。その上で女神だからとセクハラや非倫理的な接触をされるのだ。


 「私もこれから女の子を呼び出そう! その手で行こう!」


 「神様の言う通りに勇者を呼んでも今まで失敗続きだった。我々は思考停止していたのかもしれない。転生者は自分でよく考えて選ばなくてはな」


 どうやら他の女神達に変な希望を与えてしまったらしい。ラピアとしては予想外だったので苦笑いをする。下級女神たちは長年の苦しみから解放されたような乙女の顔になっている。それくらい少し考えれば簡単に分かるだろ阿保共と、ラピアは内心では馬鹿にしていた。まあ私の苦労も知らないで、とも思っていたが。


 「ラピアが戻ったのか!」


 今度は部屋の奥からおばさんの声が聞こえる。上級女神のお出ました。女神と表現するには歳を取り過ぎている。顔は皺だらけで、大きな眼鏡。煌びやかな宝石を首にジャラジャラと巻いて、高価な指輪をしている。服は身体のラインを隠すようにフワッとした仕上がりだ。黄色がかった白い柄。


 彼女たちは勇者召喚という雑用をせず、この世界での勇者のステータスやパーティの管理、素材の合成魔術の研究や、システムそのものの維持を担当している。下級女神を下に見ており、いつも説教くさい。


 「ギルドで揉め事を起したようですね! 見っとも無い! 何の為に勇者一人一人に女神を担当として付けていると思うのですか」


 あー始まったよと、その場にいた全員が嫌そうな顔をして下を向いた。


 「またそんな破廉恥な格好をして! 恥を知りなさい! 貴方はもっと女神としての品格を磨かなくては!」


 こんなに分かりやすい恰好をしているのに、スパイだと見抜けない貴様の方が恥を知れ上級女神よ、と腕を後ろに組んで中指を突き立てる。営業スマイルを浮かべ反論してみた。


 「今の勇者はこういう服装を好むんですよ。今まで我々女神は勇者を召喚しても、魔王を討伐出来ずに苦しんできました。これからの時代に必要なのは、勇者との信頼関係。それを近づける為にも流行に乗り遅れてはいけないのですわ」


 「そんな愚行は必要ありません。勇者に必要なのは、国に命を捧げる覚悟と悪を許さぬ正義心です。そんなことも分からず脆弱な精神の人間を転生しては失敗ばかり。お前たちには呆れます。勇者に相応しい心意気を持つ人間を召喚出来ないから、魔王討伐に進展がないのです」


 コイツ、絵本の世界の勇者像をそのまま現実に持ち出しているのか。これだから上司は現場の苦しみを知らない。どこの世界に『国に命を捧げる覚悟のある絶対正義な勇者』がいるのだ。与太話なら居酒屋でやれババア、とアイフルが内心で思っている。お前が勇者を召喚して、口説き落として、魔王を倒して見せろ! バーカと喉の底まで出かかったのをどうにか我慢する。営業スマイルをキープ、キープ。


 「さすが上級女神様のご高説はお勉強になりますわ。より一層精進致します」


 「分かればよいのです。ギルドへの迷惑行為の始末書を提出しなさい。今日までに」


 「はーい」


 誰がそんな頭の悪いことをするか。コッチは新米勇者を導く為に忙しいんだ、付き合ってやれるか! バーカと去り際の女神様に言い放ちそうになるのを、口を右手で覆い我慢する。一難去った後でため息をつく。あとで『ごめんなさい。滅茶苦茶反省してまーす。もうしませーん』とだけメモ用紙に書いて、奴の部屋に放り込んでおこうと思う。問題児ほど可愛いの心理だ。ここまで大きなアクションを取る奴をまさかスパイだと思わないだろう。

 

 「ラピア格好いい!」


 その場にいた女神たちがラピアに駆け寄り賞賛の言葉を送る。ラピアとしてはポカーンなのだが。上司の命令に従わず自分の好きな格好をする。仕事に意欲的で自己流を貫く。始末書を書くほどの挑戦をしている。媚びない、ブレない、従わない。この姿勢が他の女神に神々しく映ったのだ。


 「本当にラピアってカッコいいなぁ。私、本当に憧れちゃう!」


 「我々ではあんな大胆なことは出来ない。まさに神業だ!」


 いや、違うんだ諸君。私はただの……スパイなんだ。お前たちの敵なんだ。まあ魔王に心酔もしていないけど。神様も魔王も倒したいと考えているけど。ラピアの苦笑いがより女神たちの心を熱くさせる。威張ることをせず謙遜した態度もカッコいい、といった感じだ。


 「すいません。今日は用事があって来たのです。油を売っている場合ではありませんの」


 ★


 神様との接触。それが今回の目的だ。知りたい内容は、勇者を元の世界に戻れるかどうか。魔王にも同様の質問をしようと思ったが、不信感を抱かれるとマズいので前回は見送った。私は魔王に転生して貰っている。それを嫌がっていると感じられては気分を害する恐れがあった。


 しかし、神様にはこの質問はしても大丈夫だろう。実質は勇者召喚の第一人者であり、初期は神様自らが勇者の召喚をしていたらしい。異世界転移の総括責任者ならば、此方の世界に呼んだ勇者を元の世界に帰す方法を知っているかもしれない。


 分かったからといってアイフルに教えるつもりはない。しかし、用心には用心を重ねる。何でも情報は知っておいた方が吉だ。このネタはいずれ重要な意味を持つ。アイフルが戦っている理由なのだから。天空へと続く階段に到着すると浮遊魔法を使った。身体が宙へと舞い上がる。汗をかきながら階段を昇るなど女神らしくない。


 わざとこの件は誰にも話していない。上級女神にこの事が知られたら、そんな真似するなと追い返されるに決まっている。ならば、神様のいる部屋に直行する方が成功確率が高いと考えた。無礼千万、上等である。


 「おや、女神の方ですか。駄目ですよ、この先には行けません」


 以前に勇者召喚の説明会の司会進行役兼解説代理を務めていた天使だ。真面目そうな男である。天空へと至る階段に待ち構えていようとは。


 「神様にどうしてもお聞きしたいことがありますの。通っては駄目ですか」


 「ははは。以前に下級女神たちがセクハラ被害で押し寄せて来た際に、神様はトラウマになっていますからね。僕は女神達がストライキしてこの階段をこれ以上踏み越えないように、ここを護衛しているのです」


 なるほど。そうなれば話は早い。アイフルはお得意の営業スマイルに続き、必殺技を繰り出した。魔法を解除して階段の上に立つと、少し後ろを向いて涙目を見せる。麗しい可憐な声でこう言った。


 「そんな……私は神様に反抗心など持っておりませんわ。ただ日頃の感謝を伝えたくて。勇者召喚という大役を、こんな新人にも任せて頂いた神様に、精一杯のお礼が言いたくて……」


 必殺技パートⅡ『情に訴える+女の涙』。


 「お通り下さい!!」


 この門番も大概無能だなーと思いつつも、何故かあっさり道を譲ってくれたので、小さく手を振って横を通った。天空から差し込む光が眩しい。右手で目を覆いながら足を動かす。この場に来るのは初めての経験だ。


 魔法を使っていないのに雲の上を歩くことが出来る。どういう物理法則だろうか。そう思いつつも天空に聳え立つ大きな城の前まで来た。ここに神様がいるのか。しばらく引き籠っていると聞いたが面会出来るだろうか。


 「神様。女神でありますラピアと申します。少しお話したいことがあって……」


 「ひぃい!」


 どこからともなく小さな悲鳴が聞こえた。どうやら声が伝わっているらしい。


 「クレームではありませんの。どうかお立合いくださりませんこと?」


 「えぇ……嫌だ……怖い……」


 あわよくば神様の顔を拝んでやろうと思っていたのだが。もう欲を張らない方がいいかもしれない。ラピアは大きく息を吸い込み深呼吸をした。心を落ち着かせて再び声を発する。


 「では、このままで構いません。お話も難しい場合はそう仰って下さい」


 返事はない。このまま話をしても構わないようだ。


 「まずは、私を女神として採用してくださったこと、勇者召喚の権限を与えてくださったこと、心から感謝致しますわ。この気持ちを受け取ってください」


 スカートを両手でたくし上げて、軽く頭を下げる。この言葉にも返事はない。どうにか話しやすいように奴の気持ちを汲んでやったのだが。


 「では、本題なのですが……」


 すると、城の門が開いた。そこには白い髭を生やした少し小太りの男性がドアの隙間から此方を伺っている。間違いない、あれが神様だ。

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