第2話
戦いが終わり里に戻ってきたが、里の者は男を腫れ物の様に扱っている。
鍛えるのに妙な干渉をされずに良いが、たまにうざったく感じるのはどうしようもない。
いつもの場所で鍛錬を重ねる。
戦いで得たものは多かった。いくつも傷を負ったが、充分な見返りがある。
こうして鍛えるのも悪くない。だが戦士の本分は戦うことだろう。
剣を振り、盾を動かす。
男の戦い方は珍しいものではない。基本の型が400年の蓄積で多くのことに対応できるようになっただけだ。
斬る。打つ。刺す。受ける。反らす。崩す。
ひたすらに基本の動作を繰り返す。繰り返しながら、戦っていった者たちを思い浮かべる。
強靱な体を持つ魔物がいた。恐ろしく速い槍使いがいた。器用に翻弄する双剣使いがいた。
自然と笑みがこぼれる。
四肢の動き、体幹の位置を確かめる。
戦いの間に悪い癖がついている気がする。理想の動きを思い描べ、動きを少しずつ修正する。
5、60回繰り返すとイメージに体が近づいてきた。
あと4、500回も繰り返せば癖も抜けるだろう。
次は新しい動きだ。
戦いの中で見たものを真似て体を動かす。やはりうまくいかない。
新しく得るものがあるのは嬉しい。
繰り返すだけでなく、動きを分解したり、違う動きを入れてみる。
これらの動きを理解するには、あと何十年繰り返せばよいのか。
楽しくて笑い声が洩れる。
鍛錬を続ける。腕が動かなくなり、脚を引きずるまで。
前のめりに倒れる。ああ、心地よい。
気付けば月が昇っている。随分長い時間続けていたようだ。
待たせていてすまなかったと告げると、相手は不機嫌そうに答えた。
「気付いていたのならば途中でやめろ」
明日できることは明日に先延ばしする連中なら少し待たせても平気だろう。
「だからと言って加減がある」
里長は不服そうだが、俺は鍛錬がすぐに終わらないことぐらい里の者ならば知っている。
それでも出直さずに鍛錬が終わるのを待ったのだ。文句を言われる筋合いはない。
「鍛錬が思っていたより長く続いたことは別に良い。何日経っても里に戻ってこないから、ここで終わるのを待つしかなかったのだ」
ああ、そういえばここ一ヶ月は里に戻らず鍛錬ばかりしていた気がする。
そうなると鍛錬が終わるのを待つ以外に俺と話す機会はないな。
途中で休憩を挟めばよかったか。
「まあ良い。確かめることも出来た。外の世界で英雄と呼ばれているのも伊達ではないようだな」
英雄なんぞになった覚えはない。
俺は戦士である。だから英雄がどうのと言われても困る。
そもそも俺の戦いは格好良いものではなかった。勝ったか負けたかも判らない戦士が英雄であるはずがない。
「そうか。まあ外の世界での呼び名なんてどうでもよいか。お前に仕事を持ってきた。戦士長として戦ってくれ」
戦士長ではなくなっているはずだが?
「他に適任もいない。戻しても問題ない」
俺にどうしてもやらせたいことがあるようだ。
仕方がない。上半身を起こし、胡座を組んで地面に座る。わざわざ俺でならないことに興味はある。
「うむ、まずは聞きたいことがある。外の世界の様子なのだが」
里長の質問に答えていく。判らないことも多かったので、それらは素直に判らないと答えた。
質問は里の周りから始まり、周辺国、大陸全土の情勢や地理にまで及んだ。
それらの答えを聞いて里長はしばらく目を瞑り考え込んだ。
「では最後に、里から出て我らの土地を取り戻せると思うか?」
これが本題らしい。
さて、我らが土地というと、森の外にある平原だろう。
かつては森に居を構え、平原を馬で駆けたことがあったらしい。しかし、今更そんなことを言い出すとは面白い。
平原には国が2つできているはずだ。
早い話、人種どもが戦いで勢力を減らしたはずであり、我らは戦いに関わっていないから勝てるのかという話だ。
無理だな。一時的に取り戻すことはできるかもしれないが、すぐに寄って集って叩かれるはずだ。
「そんなにか? 人種も疲弊しているであれば、もう少しなんとかできると思うのだが」
やるならば戦いの最中にやるべきだったな。それならばもう少しなんとかなったかもしれない。
周辺国も復興をしてきているし、広大な平原を統べるには俺達では数が足りない。
一部の土地で俺が百の兵に勝っても千の兵が押し寄せてくれば土地を守りきれないし、万の兵が他にいけばどうしようもない。
人種に平原をかすめ取られたのも、俺達が管理するには平原は広すぎたのだ。
「なるほど、頭数が足りない我らでは維持ができぬか。では、全てではなく一部ならどうだ?」
それならなんとかなるかもしれないが、やはり里の者だけなら厳しいな。
一部というのがどの程度かにもよる。
森周辺だけならどうにかできるだろう。
だがそんな小さい土地を手に入れてもどうしようもない。
そして意味があるほどの土地では管理できない。
「判った。参考になる話だ。ありがとう」
里長は礼をいって帰って行った。
しかし、面白いことになりそうだ。
あの話に後も、俺は鍛錬を続けていた。
それ以外にやることもなかったし、他のことも知らなかった。
里は何やら騒がしくなっている。
若い者達が頻繁に里の外へ出て、里の外のものがやってきている。
どうも里長は俺の言葉を聞いてどこかと協働することにしたようだ。
しばらくすると里長がまたやってきた。
「初めの動きが決まった。里の周囲にある村を襲撃してみることになったから君にも出て貰いたい」
村の襲撃に俺が必要なのか?
「戦いは初めてのものが多い。君自身は戦わなくて良いから指揮してもらいたい」
戦いで俺が戦わないなんてあり得ないが、慎重にことを運ぶのだな。
「勝手も違うだろう。先のことを考えると少しずつ経験を積ませたい。後々は他の者にも部隊を率いてもらうつもりだ」
里長も本気のようだ。これは面白くなりそうだ。




