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This is the "TIME"  作者: 御樹本 正輝


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8/16

幸せな二人の時間

横浜の港で見上げた空は、僕たちに何かの終わりと始まりを同時に予感させていた。

再会から数日が経っても、胸の奥に残る温度は消えなかった。

台風の風に吹かれながら水上バスを待っていたあの夜の彼女の横顔が、ふとした瞬間に蘇る。

20歳の頃の曖昧な関係ではなく、今回は互いに大人として向き合っているという実感があった。

それが心地よくもあり、どこか不安でもあった。


二度の雨天順延を挟んだ日本シリーズを、僕たちは横浜と所沢で観戦した。

横浜スタジアムの外野席で肩を並べて座り、風に揺れる応援旗を眺めながら、

彼女は子どものように目を輝かせていた。

「こういうの、初めてなんだ」

声を弾ませて笑う彼女の横顔を見ているだけで、僕は胸が満たされていった。


試合が白熱するたびに、彼女は僕の腕に軽く触れ、僕はそのたびに心臓が跳ねた。

勝敗よりも、彼女と同じ瞬間を共有していることが嬉しかった。


挿絵(By みてみん)


その合間に、ヤンキースがパドレスをスイープで破り世界一を決めたというニュースが流れた。

僕の予想通り、ヤンキースタジアムに戻ることなく勝利した。

「あなた、これ絶対言うと思った」

彼女は笑いながら僕の肩を軽く叩いた。

そんな何気ない仕草が、胸の奥に深く刻まれていった。



その夜、彼女は自宅に戻らず、横浜のホテルで一緒に過ごした。

学生時代の曖昧な空気ではなく、お互いの体温と存在を確かめ合うような深い抱擁を交わした。

窓の外に広がる港の夜景を眺めながら、彼女は僕の胸に顔を寄せて

「やっと、ちゃんと隣にいられるね」

とつぶやいた。

その声は、長い時間を経てようやく辿り着いた場所を確かめるような、静かな幸福に満ちていた。



翌朝、ホテルの小さなレストランで朝食をとりながら、

僕たちは自然と「付き合う」という形になった。

「付き合おう」

そんな言葉は、結局どちらも口にしなかった。

彼女は横浜で英語教室の準備を進め、僕はニューヨークへ戻るまでの短い滞在を彼女と過ごした。

彼女はよく笑い、僕もよく笑った。

笑うたびに、あの頃の僕らが少しずつ取り戻されていくような気がした。



週末、10月最後の日。僕たちは公開初日の『踊る大捜査線 THE MOVIE』を観に行った。

映画館の暗闇の中で、彼女は時折僕の方を見て笑い、僕もつられて笑った。

エンドロールが流れ始めた頃、彼女はそっと僕の手を握った。

「なんか、夢みたいだね」

その言葉に、僕はただ頷くしかなかった。



そして、母校の学祭に二人で足を運んだ。

キャンパスに足を踏み入れた瞬間、彼女は懐かしそうに深呼吸した。

模擬店の匂い、サークルの呼び込み、校舎のざわめき。

「ここで、もっとちゃんとあなたと話してたら、どうなってたんだろうね」

彼女がそう言った時、僕は胸の奥が少しだけ痛んだ。

でもすぐに、彼女は笑って僕の腕に絡んだ。

「まぁ、今こうして一緒にいるんだから、いいか」

その言葉に救われたのは、僕の方だった。


学祭の帰り道、夕暮れのキャンパスを歩きながら、僕たちは未来の話をした。

「ニューヨーク、行ってみたいな」

「いつでもおいでよ。一緒に行きたいとこがたくさんある」

そんな軽い会話が、なぜかとても大切に思えた。



そして、出発の日。

空港の出発ロビーは、いつもより少しだけ冷たく感じた。

彼女は僕のコートの袖をつまみながら

「またすぐ会えるよね?」

と聞いた。僕は笑って頷いたが、その笑顔がどこかぎこちないことを自分でも感じていた。


搭乗が始まり、ゲートへ向かう僕を、彼女はずっと見つめていた。

振り返るたびに、彼女は小さく手を振った。

最後にもう一度振り返った時、彼女は唇を噛みしめていた。その表情が胸に焼きついた。



飛行機が離陸した瞬間、彼女の姿が雲の向こうへ消えた。

この距離が、僕たちに何をもたらすのか、その時はまだ知らなかった。

飛行機が雲を突き抜ける頃、横浜の港はもう見えなかった。

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