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This is the "TIME"  作者: 御樹本 正輝


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ニューヨークの空

「ニューヨークってどんなとこなの」

「人がいっぱいいるよ」

「真面目に答えてよ」

「いや、ホントにたくさんの人がいることを実感する街だよ。

 国籍も人種も階層も宗教も何もかも、

 あらゆるヴァリエーションがコレクションになってる」

「ふーん」

彼女は僕の肩に寄りかかったまま、僕の手首を軽く触れた。

その指先が、船の揺れに合わせて小さく動く。

その動きが妙に心地よかった。


「ニューヨークでは“アメリカン”とは言わず、

僕らはみな“ニューヨーカー”なんだ」

「なんか、いいね。そういうの」

彼女は僕の腕に頬を寄せた。

寒さのせいか、あるいは距離のせいか、彼女の体温がじんわり伝わってくる。


船は静かに進み、横浜の夜景がゆっくりと流れていった。

僕たちはその光景を見つめながら、肩を寄せ合い、言葉を交わし続けた。


大学時代には決してなかった距離感。

その近さが、僕の胸の奥に静かに広がっていった。



水上バスを降りて山下公園を歩く。金曜日の夜なので、若い男女の姿が多い。

僕たち二人も同じように見えるに違いない。

人だかりが出来ているのはパフォーマーがいるからだろう。

この公園に来ると、不思議と現実が少し遠くなる。

現実の生活を離れて深呼吸しているような気分になるのだ。

「セントラル・パークもこんな感じなのかな」

「そうだね。ただ、メチャクチャ広いけど」

「そうなの?」彼女は驚いたようだった。

3年近くニューヨークで生活しているが、まだ行ったことがない場所の方が多いぐらいだ。

「ニューヨークの街は目の前を見て歩くことが多いけど、

 セントラル・パークにくると自然と空を見上げるんだよね。

 普段は空なんか滅多に見ないのにさ」


挿絵(By みてみん)


海に近い場所で、ハーモニカとアコーディオンの音が重なり合っていた。

その音色は、夜の海風に乗って柔らかく広がっていく。

僕たちはその近くのベンチに腰を下ろした。

座る瞬間、彼女が僕の袖を軽く引いた。

その自然さが、胸の奥に静かに広がった。


「セントラル・パークもこんな感じなのかな」

「そうだね。ただ、メチャクチャ広いけど」

「そうなの?」

彼女は驚いたように僕を見る。その動きで、肩がもう少し強く触れた。

僕は少しだけ身体を寄せて、彼女の背に軽く手を添えた。


演奏が「ピアノ・マン」に変わった。

アコーディオンの音が夜の空気に溶けていく。

彼女はその音に合わせるように、僕の手の上で指先を動かした。

「こういうの、好きなんだよね。海のそばで音楽聴くの」

「知ってるよ」

「覚えてるんだ」

「そりゃ覚えてるよ」


彼女は嬉しそうに笑い、僕の腕に軽く触れた。

その指先は、風の冷たさのせいか少し冷えていた。

僕は反射的に手を重ねた。

彼女は驚いたように僕を見て、すぐに柔らかく微笑んだ。


彼女は僕の腕に頬を寄せた。

寒さのせいか、あるいは距離のせいか、彼女の体温がじんわり伝わってくる。



演奏が続く。

夜の海風が吹くたびに、彼女は少しだけ僕に寄りかかる。

そのたびに、僕は自然と身体を寄せて支えた。

「ビリー・ジョエル好きなのは意外だったよ」

「そう?」僕は意外そうな顔で答える。

「だって、アメリカにいる時のニックネームは『キース』だったでしょ。

 ストーンズのキース・リチャードから取ったのかと思ってた」

「違うよ」

僕は笑いながら答えた。

その笑い声に合わせるように、彼女は僕の手首に触れた指先を動かした。

まるで、話の続きを促すように。


「キース・ジャレットだよ」

「誰?」

「ジャズ・ピアニスト」

「そういえば、部屋にジャズのCDたくさんあったもんね」

「よく覚えてるね」

「あの時もずっとピアノの曲をかけてくれたよね」


そう、アイルトンが死んだ時の話だ。

彼女の声が少しだけ沈む。

その瞬間、僕はそっと彼女の手に触れた。

握るのではなく、ただ触れるだけ。

それだけで、彼女は小さく息を吸った。

「……あの時のこと、ずっと忘れられなかったんだよ」

彼女はそう言いながら、僕の手に自分の指を重ねた。

その指先は、風よりも少し温かかった。


演奏は続いていた。

夜の海と音楽と、肩の重さと、指先の温度。

それらがすべて混ざり合って、僕たちの距離を静かに縮めていった。


大学時代には決してなかった近さ。

その近さが、胸の奥に静かに広がっていった。

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