ヴィオレとレドとホビロ村
シバリア領
カイド王国最北端に位置し、よく知らない人間からは年中雪が降っていると思われることもあるが、そんなことはなく普通に四季がある。
カイド王国内で唯一毎年必ず雪が降る領なのでそんなイメージが他領では定着してしまった。
シバリア領は魔獣が出現するコズミーシの森が東西を分かつ様に縦長に存在しており、領都は西側に位置している。
東側には大小それぞれの村があり、ホビロ村はその中でも大きく豊かな村であった。
東西を跨ぐ移動は森を南北どちらからか迂回することになり、東側の住人が大きな街に行く際は他領であるノタンやタキミに行く方が多いという、少し領内の移動が不便な場所であった。
歩くとザクザクと小気味良いがする、うっすらと雪が積もった自宅への道をダスト達は歩いていた。
ダストと双子が村に来て一月経った。ダストが頭を悩ませなんとか双子にはそれぞれ名前を付けた。
青い瞳で女の子の方がヴィオレ、赤い瞳で男の子の方はレドと名付けられた。
「さむいねレド」
「うん、白くてさむいねヴィオレ」
薪を背負って歩いているダストの後ろを、ダストの半分以下の量の薪を双子は二人で持ち上げ着いていく。
名前を貰って以降、それが新鮮で楽しいのか、二人は事あるごとにお互いの名前を呼びあっていた。
ダストはそんな二人が着いてきているか定期的に振り返って確認している。
「ダストまって!」
「ダストはやい!」
「うるせぇな、待ってるから早くこい」
出会った当初に比べれば、まだ控えめではあるが双子は少しずつ表情が豊かになった。そして事あるごとにダストの事を真似するようになった。この薪運びもその真似事のひとつである。
「薪運び終わったら、罠に獲物掛かったか見に行ってくる」
「「いっしょにいく!」」
「わかったわかった」
主に双子が喋り、たまにダストが巻き込まれるのを繰り返しながら、三人は冬が始まったホビロの道を歩いていく。
罠猟の成果はエナガ鳥が二羽とボチボチな結果だった。エナガ鳥は食いでのある中型の鳥で、リスが隠した食料を奪うため地上に降りるのでリス用の罠に引っ掛かっている事が多々ある。
冬の間の麦やパンなどの食料は村の備蓄分から分けて貰えることになったため、罠猟で多く取れた分はなるべく村にお裾分けする形で帳尻を取っている。
今回は一羽分だけ自宅に持ち帰った。
ホビロ村は作物も豊かで麦の他には芋やトウモロコシ等多岐にわたり、牛や豚の家畜も扱っている。
村の作物は出来がよく、年に数回来る行商人も仕入れていくほどだ。
ヴィオレとレドは特に好き嫌いせずにその作物で出来たご飯をよく食べ、ここ一ヶ月で少し肉も付いて来ていた。
食事を終え、暖かい飲み物を飲みながら過ごす時間が双子は好きだった。
子供の遊び道具になるかと、賽の目上に線が刻まれている木版と、表裏で違うマークが刻まれた石をダストは手作りした。
交互に石を置き、同じマークで挟まれた石を引っくり返す遊戯を教えると双子は毎日やるようになった。
二人で対戦し、時折ダストに相手をねだって、面倒くさそうにダストが相手をする。
暖炉の前でぬくぬくと遊ぶ、寝るまでのこの時間はヴィオレとレドの一番のお気に入りだった。
「なんだよ、自分の所で寝ろよ」
「こっちがいい」
「さむい」
寝床に入って暫くすると、双子がダストの寝床に飛び込んでくる。
「お前らの寝床の方が暖炉に近いだろうが」
最近毎日である、寝床に入って明かりを落として暫くすると、双子はダストの寝床に来るのだ。
ダストが何を言ってもなんだかんだ理由を付けてモゾモゾと勝手に両サイドに潜り込んでくる。
いつものように根負けしたダストが不貞寝するように目を閉じるとヴィオレがダストの上に覆い被さって来た。
「……、なんだよ?」
上からヴィオレの視線を感じる。再度目を開けると、暗闇の中、青い瞳と目があった。
「ダスト、ごほうし、する?」
「どこで覚えたんだよ、それ」
「ズルい、僕もする」
「おい業が深すぎんだろ」
一瞬ギョッとしたダストだが、意味も分かってなさそうなので二人からの言葉を待った。
「前のところでいわれたの、おまえたちは成長したらセードレーだぞって」
「そのときはちゃんとごほうししろって」
ヴィオレ、続いてレドの言葉にダストはため息を漏らす。
「前の所で言われたのは全部気にしなくていいぞ」
「やだ、ダストとごほうしする」
「え? 俺もする側なの?」
「ごほうししたらよろこぶって言われた!」
多分自分に何かしたくて思い出した事を口にしているのだろうが、恐らく意味は分かっていない。
何を言っても引かない双子にダストはため息を漏らした。
「ご奉仕は大人にしか出来ないんだ、残念だったな! 後それ絶対外で言うなよ!」
適当なことを言って煙に巻くダスト、問題を先送りにしているだけだが、成人する頃には忘れているだろうと、この時のダストは浅はかにも考えていたのだった。
「おーいダストー、ザックだ、入れてくれー」
ある昼下がり、適当に双子に構いながら過ごしていたダストに来客があった。
扉を開けると荷物を抱えたザックと、焦げ茶の髪に意思の強そうな瞳が印象的な女が立っていた。
「ん? シーラか、久しぶりだな」
同年代であるシーラは昔からザックとは親しいがダストはそこまで懇意にしていた記憶がなく、どう言った用件か内心首を捻る。
「まぁ入れよ」と中に招き入れ、大鍋でずっと煮出し続けてる自家製のコーン茶を二人に振る舞う。
「いやー助かるぜ、やっぱり冷えるからよ」
うまいうまいとコーン茶を飲むザックを、少し拗ねたようにシーラは見ている。
「おー、ヴィオレ、レド、元気か?」
「すごくげんき」
奥で遊んでいる双子にザックが声を掛けるとレドが答えた。ヴィオレは遊びに集中していて聞こえていないらしい。
「ねぇ、あの子達が例の?」
「ザックから聞いてるか? 赤い目してんのがレドで青い目がヴィオレ、年はわからんけど八歳とか九歳くらいじゃねぇかな」
「エルフって初めて見たけど、案外普通なのね」
三人は暫し双子を見ながら世間話をして、まったりとした時間が流れた。
「ダスト、シーラがこれくれるってよ」
そう言って、ザックが持ってきていた荷物を開ける、中には女物の服が入っていた。
現在双子が主に着ているのは男物のお下がりだ。もう使わないザックの幼少期の服をマーサが簡単に整えそれを譲って貰った形である。
双子の事は村長から簡単に村人達に伝えられているが、ダストが帰ってきてすぐに本格的な冬が訪れた為、村人の外出が減り今のところ双子はほとんど村人と交流がない。
基本ダストの後ろを付いて外に出るだけなので服装もあまり気にならなかったし、そもそも冬の間は双子はモコモコに着膨れさせられていたので男物女物所の話ではなかった。
「私の子供の頃の服と、近所の家のもう使わない服を集めてきたわ。雪が溶けたら他の住民とも会う機会増えるんだから、今のままじゃ可哀想よ」
「そういうもんかねぇ、でもありがとな、服とかわかんねぇからよ」
「これだから男は」とでも言うように溜め息を一つ落としてシーラは双子の方に歩みよった。
ダストは苦笑しながらザックを見ると、ザックも似たような顔で笑っていた。
その後シーラは双子に服の着方を教え、双子も素直に聞いている。
なぜかレドまで女物の服を着せられていたが、楽しくなってきたのかテンションが上がったシーラをダスト達が止めることはなかった。




