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ゴミクズバイオレット  作者: つかさ
ホビロ村

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8/15

北へ

「なんとか……、なるもんだな」


 ダストは大きく息を吐き出しその場に腰を下ろす。

 策が上手くハマったのもそうだが、最後の戦意喪失は運が良かったと胸を撫で下ろした。

 スクロール二枚は間違いなくダストの虎の子であった。高い代価で手に入れたものだったので、使う時は絶対に命中させたいと編み出した方法が今回両方とも功を奏した。

 正直、スクロールを使いきった時点でダストに残された手札はそう多くなかった。

 あたかも毒であるかの様に調味料を得物に塗ったはいいがあそこまでの戦果になるのは想定外だ。

 精々毒を警戒し、攻撃が消極的になれば儲け物位に考えていた。


「まぁ、勝ちは勝ちか……」


 のろのろと死体の処理を始めたダストを双子はじっと見つめていた。

 生まれて初めて感じる感情を持て余しながら。


 奴隷である記憶しかない双子にとって、誰かに従うのは当たり前で、何かを選んだ事もない。

 餌をくれる者が自分達を見る瞳は荒んで無機質であることが多く、客からの視線は物欲、支配欲、色欲がほとんどだ。

 稀に憐れみを感じることもあるが、目の前の男は心底嫌そうな顔をしていたのを覚えている。


ーー餌とクッキー、どっちが食いたい?


 そんな男から、人生で初めての選択肢を提示された。

 クッキーと言う食べ物は固かった、だが『餌』の様に虚無ではなく、双子には表現できなかったが悪くないのだ、良い感じになる何かだった。

 この男に着いて行って以降、物を食べるのが楽しくなった。自分の片割れの様な存在が同じように思っていると想像すると嬉しくなった。

 双子にはその感情をどうして良いかわからなかったが、あって困る感情では無いと感じていた。


 先ほどダストとその他の男達の会話は、恐らく自分達の今後に関わる会話であったが、どこか他人事のように双子は感じていた。

 いつも通り決まった事に従う形になるであろうと思っていた双子に、目の前の男は選択肢を突き付けてきた。

 双子が選んだクッキーが食べられる未来を、十倍の人数を打ち倒す事で手に入れてきた。

 『一回だけ代わりにやってやる』、その言葉は自分達でも何かを選ぶことが出来る様に聞こえた。

 もしそれが出来るなら、なにかとても楽しそうで、とても良い感じがすると双子は思った。

 故に、生まれて初めて感じる、自身の中の強い感情に従って、双子は揃って走り出していた。


「「すごい!」」


「んごっ!?」


 死体を運んでいた所を後ろから双子に体当たりされたダストは思わず変な声を出しながら、何事かと振り替える。

 見ると体当たりのままにダストの腰辺りを引っ付かんで何か一生懸命訴えている双子の姿があった。


「すごい! 火がぶわーって!」


「どうやったの!? みんなひとりで倒しちゃった!」


「あ? 火? あー、あれだよ、何か気合い入れたら出るんだよ、ウンコと一緒だ」


(なんかテンション高いなこいつら)


 すごいすごいと、はしゃぐ双子を適当に相手しながら、死体処理を終え、三人はまた北へと進み始めるのであった。




 辺りが暗くなる頃、ノタンに着いた一行は安い宿を一部屋取った。今回は予定にない突発的な帰省のため、路銀の準備もろくに出来ていない。

 更に厳しくなる懐事情にため息を吐きながらダストは一夜を過ごした。


 翌日、早朝北へ向かう乗り合い馬車に三人は乗り込んだ。

 前日の戦闘以降、双子がやけにダストとの距離を近く取るようになっていた。


「どこまでいくの?」


「ホビロ村って所だ」


「くっきーあるの?」


「クッキーは作らなきゃないな、まぁ他にも良い感じのものはあるぞ」


 なぜ懐かれたかはよくわからないが、取り敢えず適当に相手をするダストであった。


 ベルシー村で下車し、住民に借りた納屋で一泊した一行。

 北のマローサ村へ行くと言う行商人と交渉し運良く馬車の荷台に乗せて貰う事となった。

 シバリア領に入り、マローサ村で行商人と別れ、そこで一泊し再度徒歩でマメン村を目指す。

 一日掛けてマメン村に辿り着き、翌日の早朝に目的地ホビロ村へ向けて出発した。




「不味いな……、降るかもしれん」


 マメン村を出発し、本来なら夜営を挟み翌日の昼過ぎに到着の腹積もりでいたダストだったが、急激な気温の冷え込みに足を早めた。

 他領から雪国なんて表される事があるシバリア領だが、例年よりも冷え込む時期が早い様だ。


「くそ、降って来やがった」


 遂に例年よりかなり早い初雪まで降りだし、ダストは辟易した。背嚢から毛皮を取り出し双子の首に巻く。


「悪いが少し急ぐぞ」


 ここからは到着まで止まらない方が良いと判断しダストはペースをあげた。


 夕方になり、本来なら夜営の準備を始めるところだがそのまま歩き続ける。

 ふと双子を見ると歩き方がおかしい事に気付いた。


「おい、どうした?」


 ダストが声を掛けるが双子は答えない。いつもの表情でダストを見上げるだけだ。


「足見せろ」


 ラチがあかないと判断し双子を地面に座らせ靴を脱がせる。二人とも靴擦れを起こし出血していた。


「痛てぇなら痛てぇって言えよ!」


 つい大きい声を出してしまい双子が一瞬怯えた表情をした。

 ダストは何か言葉を探したが結局出てこず、無言で荷物から自家製の軟膏を取り出し患部に塗り始める。荷物の中で一番綺麗な布を破り、手持ちの薬草を挟んで足に巻いた。


「お前は後ろ、お前は荷物ごと前な」


 そう言うとダストは消費して荷物が少なくなった背嚢ごと一人を抱え、もう一人を背負って歩きだした。


「手は怪我してねぇだろ、ちゃんと掴まっとけよ」


 子供とはいえ二人は重い、だが凍えながら夜営するよりはマシだとなんとか気合いをいれる。

 暫くただ黙々と前進するダスト、無言の時間が続いたが、バツが悪そうにダストが喋り出す。


「痛いなら痛いって言え、痛いまんまになっちまうぞ」


 先ほどとは違う響きの言葉に、返事をするように双子はダストに掴まる力をギュッと強めるのだった。




 夕暮れに夜が滲み、次第に視界が効かなくなる。なんとか完全に夜に追い付かれる前にホビロ村に到着した。

 村を囲う柵を越え、村の中心地へ向かう道から逸れる。村の端、半ば森に飲まれ掛けている位置にポツンとダストの家はあった。


「あぁくそっ! 疲れた」


 留守の間、最悪違う村人に使われている可能性も考えていたが、誰も使っていないようだった。


「今火着けてやるから、休んでろ」


 床に双子をコロンと転がし、使える薪があったか探す。

 幸い室内に少し備蓄が残っていた。薪を暖炉に投げ入れ、自前の着火剤を取り出そうとした所に、ドアを強く叩く音が響いた。


「おい! 誰かいるのか!?」


 続いて響いて来た声にダストはハッと顔を上げてドアに向かう。


「俺だ! ダストだ! 開けるから待ってくれ」


「ダスト!?」


 ダストがドアを開けると二人の男が立っていた。一人は松明を持った壮年の男、もう一人はダストと同じくらいの年齢の青年で斧を構えて驚愕の表情をしていた。


「お!? お前! 帰ってくるなら手紙なりで先に伝えろよ!」


「浮浪者や山賊でも入り込んだかとヒヤヒヤしたぞ」


 男達は構えを解き、安堵のため息を漏らした。


「オジさん、ザック、いや悪い、訳があって急遽帰ってきたんだ」


 同い年で仲が良かったザックと、その父親で村長のヒューイであった。


「悪いんだが寝藁と薪が足りねぇ、分けてくれないか?」


「藁と薪は明日いくらでも分けてやるから、今日はうちに来い」


 疲労の色が濃いダストと、その後ろにいる見知らぬ子供達の姿を見てヒューイはすぐ決断する。


「おいザック、先に行って母ちゃんに伝えてこい。飯と、あとお湯の準備してやれ」


 ザックは「まかせろ」と斧を担ぎ駆けていった。


「取り敢えず飯だ、泊まっていけ、後でそのガキンチョの事も教えろ」


「すまねぇオジさん、世話になる」



 

「はぁ、奴隷のエルフねぇ」


 ザックは腕を組ながら難しい顔をしている。

 村長であるヒューイの家は村で一番大きい、前村長夫妻と現村長ヒューイとその妻マーサ、そして息子のザックの五人が暮らしている。

 あの後、村長宅に招待されたダスト達は、貰った湯で体を清め晩餐をご馳走になりながら帰省に至った一連の流れを説明していた。


「いやでも、どこかから拐って来た訳じゃなくて私は安心したよ」


「貴族絡みって……、大丈夫なのか?」


「聞いた感じダストはどこの法も破ってないんだろ?」


 もう前村長夫妻は部屋に戻っているようでこの場にはいない。

 一連の説明を聞いて思い思いに声を上げていた。


「オバさん、飯ありがとな」


「水臭いこというんじゃないよ、昔みたいにいつでもおいで」


 懐かしそうに笑うマーサにダストは苦笑する。いくつになっても自分は息子の友達で子供扱いなのだろう。


「おいしいかい?」


「……、良い感じ」


「あったかい」 


 マーサに話しかけられた双子は一度お互いとダストを見てから答えた。


「そうかいそうかい、でもね、これからは何かを食べて良い感じだと思ったら、『おいしい』って言うんだよ?」


「「凄くおいしい」」


「ちょっと! 素直で良い子達じゃないか! ザックなんて図体ばっかりでっかくなってもう全然可愛くないのに!」


「うるせぇなぁ」


 まさかの飛び火にザックは不貞腐れたように酒を飲む、それを見たヒューイは笑っていた。


「ガキンチョの名前はなんてぇんだ?」


「決まってねぇ、番号で呼ばれてたみたいでよ、なんか良い感じので頼むわ」


 ザックの問いに事実を伝える。ついでに名前も考えて貰うように頼むと、マーサが少し真剣な顔をした。


「あんたが決めな」


「え? 俺?」


「あんたがどう思っていようとね、この子達が一番信用できる大人はあんたなんだよ、だからあんたが決めな」


「そうだな、偶然とはいえ拾って持って帰って来たのはお前だ」


 マーサの言葉にヒューイも乗ってきた。子を持つ親として何か思うところがあったようだ。

 ダストは双子をチラリと見ると、双子はダストを興味深げにジッと見つめていた。


「……、わかったよ、くそっ」


 ザックに続き、ダストも不貞腐れたような顔で頭を掻いた。

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