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ゴミクズバイオレット  作者: つかさ
ゴミクズ冒険者

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7/15

弱者の戦い方

 一塊になって男達は襲いかかってくる。十対一の圧倒的な戦力差だ。


「楽に死なせねぇぞ! 冒険者!」


 ダストは右手で鉈を構えたまま、左手で懐から折り畳まれた紙を取り出す。

 それを開き、見せ付けるように敵へと向けると敵は途端に急停止し警戒態勢になった。


「っ!? 気を付けろ! 『スクロール』だ!」


 スクロールとは、魔法使いが魔法を封じ込めた書物だ。書面や巻物の形で作られる物が多い。

 自身の魔力を使わず封じた魔法を放てるが、一度使うと終わりの使い捨てだ。

 ダストが取り出した物には、スクロール特有の魔方陣や呪文が書き込まれている。

 面倒な物を取り出したものだと、ソーバンは舌打ちをする。


「強い啖呵切ったと思ったら、切り札があったって事か!」


「おらどうした!? 泣きながら尻尾巻いて逃げるなら今だぜ!?」


 得意気に振る舞うダストに対し、ソーバンは思案する、散開するべきか否か、込められている魔法によって対処が楽な物もある。

 強い魔法のスクロールほど値が張る、もしくはダンジョンから発掘されたものか。譲り受けた可能性もある。

 Eランクがどれくらいの物を用意出来るかに考えが及びそうになったその時、仲間の一人が小声で喋りだした。


「ソーバン、よく見ろ、あのスクロール何かおかしいぞ」


 スクロールを確認する。魔方陣があり、呪文が書き込まれている。

 ソーバンの仲間にスクロールを作れる魔法使いは居ないが、見たことも利用したこともある。

 過去見た事があるスクロールに記されていた文字は、魔法を学んでいないと意味不明な文字と、普通に意味の分かる文字とがあった。

 片方の文字だけで構成されているスクロールもあれば、混ざり合うように同じスクロールに散りばめられている事もある。


「気付いたか?」


「ああ、笑えるぜ」


 ダストは相変わらずスクロールを見せ付けながら何か喚き立てているが、種が分かれば何て事もない、「贋作か」とソーバンは吐き捨てた。


 よく見れば魔方陣はどこか歪で、意味が分かる文字の中に書き損じもみつけた。この分だと意味不明な文字の方は、文字通り意味がないかもしれない。

 抑えきれないとばかりに男達は次々と噴き出す。


「何ニヤニヤしてやがる! 吹っ飛ばされてぇのか!?」


 先程よりも必死に叫んでいるが、種が分かれば滑稽にしか見えない。


「おーおー、怖い怖い」


「笑ってやるなよ、多分無い頭で必死で考えたんだぜきっと」


「ここ一番で使うように後生大事に抱えてたってか、泣けるね」


 仲間が半笑いで口々に言うものだからソーバンも笑いを抑えきれなかった。


「よし、もう殺すぞ」


 止めていた歩みを再び動かす、大分楽しませて貰った。


「お、おい! それ以上近づくな! 撃つぞ」


「撃てよ、撃てるものならな!」


「面白かったから、面白く殺してやるよ!」


 ダストに向けて一団で襲いかかる。これで終わりだ。強行軍の追走もこれで報われる。思い思いに刃を振り下ろすその時、山に爆音が鳴り響いた。




ーー何が起こった?

 ソーバンは夕暮れに染まりつつある空を見上げていた。

 自分が仰向けに倒れている事を認識するまで少し時間が掛かった。


「あっ……、ああ……」


「熱い! 熱い! ぁぁぁああああ!」


「腕っ! 腕がぁ!」


 仲間の悲鳴が聞こえガバッと身を起こす。耳鳴りが止まない。


 ソーバンは状況を思いだし、膝立ちで見回した。訳も分からず剣を構えながら状況を確認する。何か焦げ臭い。


 人が倒れている、動いているのもいれば、全く動かないのもいる。すべて仲間だ。

 そして、炎に包まれていた。


「何をされた? 何をやった?」


 今度こそ立ち上がる。やっと脳が動きだし状況を鮮明に読み取り出した。


 自分と同じく立ち上がった仲間が三人、炎に包まれピクリともしないのが二人、炎に包まれ転げ回っているのが一人、腕を欠損し倒れているのが一人視界に入った。

 残り二人に至っては原型を留めていなかった。


「言ったぜ? 俺は、近づくなってな」


 死ぬはずだった。それも簡単に死ぬはずだった冒険者の男が立っている。

 その表情は必死に喚き散らかしていた先程とは違っていた。


「何をした!? テメェっ! 何をした!」


「言っただろ、聞いてなかったか? 魔法でぶっ飛ばしてやったんだ」


 ダストは左手に持っていた紙を放る。

二枚の紙はヒラヒラと地面に落ち、使い終わったスクロールは直ぐに青く燃え塵になった。


「テメェ! 重ねてやがったのか!? 本物と偽物を!」


「ありがとな、親切に一ヶ所に集まってくれてよ。それともあれか? お前ら蛾の親戚か? 言われてみたら少し似てるな」


 ソーバンには取り合わず、淡々と挑発しながらダストは歩きだし、鉈を振り上げた。

 目下には片腕が炭化し欠損した、死にかけの仲間がいる。


 「やめっ」と言葉にならない声を上げたのと同じタイミングで鈍い音が響いた。

 ダストの武器は鉈だ。剣より短く切れ味も劣る、武器よりも枝を切り払ったり薪を割ったりする道具だ。

 だが、刃物であり、金属で出来た鈍器でもある。

 ダストは頭部に向かって何度も振り下ろす。動かなくなるまで振り下ろす。


 正気に戻った仲間の内二人が、炎にのたうち回っている仲間を助けようと近付いた。

 それを見たダストはベルトの金具に収まっていた筒状の容器を取り外し、蓋を外して投げつけた。


「うわっ! なんだ!?」


 それは炎に触れるとすごい勢いで燃え広がり、助けに近づいた内の一人を巻き込んだ。

 爆発にも似た燃え広がり方に唖然としている隙を突き、ダストは助けに近づいたもう一人にも背後から鉈を振るった。

 後頭部を一撃でカチ割られた男は倒れ、三人一緒に炎に包まれる。


「自家製の着火材だ、よく燃えるだろ?」


 たった一瞬、たった一つの嘘、それがもたらした被害は甚大だった。

 偽物のスクロールだと思って油断した。一塊で突っ込み偽物のスクロールに重ねて隠されていた、本物のスクロールを使われた。爆発にも近い強力な炎の魔法が発動した。

 先頭に居た数人は即死、燃えていた仲間を利用され無事だった仲間の二人も今やられた。

 十人居た仲間が、自分を含め二人だけだ。ソーバンは頭を掻き毟る。

 理解できなかった。

 納得できなかった。


「なんでだ!? お前!? なんで殺した!? ズルいだろこんなの!」


 思考が纏まらないままトンチンカンな言葉ばかりが出てくる。


「あ? お前ら奪いに来たんだろう? 俺の物も、俺の命も」


 ダストはシラけた様に宣った後、獰猛に笑った。


「じゃあ命くらい賭けて貰わないとなぁ」


「糞がぁあああ!」


 弾け飛ぶようにソーバンは駆け出す、残った仲間も同様だ。


「よくも仲間を!」


「殺してやる!」


 ダストは左手でベルトの背中側からナイフを引き抜く、鉈とナイフで迎え撃つ。


 剣撃の応酬、にはならなかった。ソーバン達二人の攻撃をダストが必死に捌いて逃げ回っているだけだ。

 やり合ってみてソーバンは再認識する、やはりこの冒険者は強くない。

 剣で戦ったら本来敗ける相手ではないのだ。それ故に苛立ちが募る。


「なんでお前なんかに! この程度の奴に!」


「うるせぇ! お前らから仕掛けたんだろうが! 仲間が殺された途端被害者面か!?」


「だまれ!」


 挟み撃ちを警戒して動き回るダストだったが遂に捌ききれず態勢を崩した。

 勝機と見た仲間の男が大上段から斬りかかる、躱せないと判断したダストは鉈とナイフを交差して受けることになった。


「よくやった!」


 両手が埋まり隙だらけになったダストに向けてソーバンが駆け寄る。

 仲間が鍔競っている間に攻撃を加えようとするが、攻めていた仲間が不自然に吹き飛んでいった。


「何してやがる! しっかり抑えてねぇか!」


 吹き飛んだ仲間に怒鳴るが、反応がない。よく見ると仲間の胸部ど真ん中に氷で出来た太い槍が刺さっている。


 ダストの衣服前面にはいつの間にか大きな空いていた。ダストは慌てて穴に手を突っ込み何かを穴から引きずり出して投げ捨てた。


「……スクロール」


 ソーバンは呆然と呟いた。

 ダストが投げ捨てたのは使用後のスクロール、服の中に仕込んでいたそれを、正面からの攻撃を両手で受け止めた後に発動した。

 攻撃が出来ない姿勢からのまさかの反撃に最後の仲間もやられた。


「なんなんだよお前!? おかしいだろ!? なんでこうなる!?」


 ソーバンの慟哭にダストは笑って返す。


「お前、自分は上手くやってると思ってたんだろ? 奪う側だって思ってたんだろ?」


「あぁ?」


 ダストの言っている事が理解できず、生返事が溢れた。


「貴族にも上手く取り入って、なんだったらあのパニック歯並び貴族も上手く使ってやってると思ってたんだろ? Eランク冒険者なんてどうとでもなると思ってたんだろ? 初めて合ったときから透けて見えてたぜ」


 バカにするように、決めつけるように、踏みにじるように話す。


「今回の一連の流れの中で、自分が一番賢いと思ってたんだろ? 掌で転がす側だと思ってたんだろ? 俺とお前が同じ土俵に居ることに気付いてないんだろ?」


「てめぇと同じ土俵だと……」


 「同じだよ」と言いながらダストはベルトから別の筒容器を取り外し、中に入っていた液体を刃に垂らす。


「万年Eランクの冒険者と、どっかから湧いて出たチンピラ、どっちもゴミクズみたいなもんじゃねぇか」


 垂らした液体を鉈とナイフを擦り合わすように両方に塗り広げる。


「ただのゴミクズ同士の喧嘩なのに、お前らは終始狩りかなんかのつもりだったんだろ?」


「やめろ」


 わかってしまった。ソーバンは納得してしまった。ダストが言うことがしっくり来てしまった。


 仲間が死んだことは今までもある。戦いの中で死んでいった。

 弱いから死んだ、敗けたから死んだ。


 だが今回だけは納得できなかった。今回だけは仲間の死に苛立ちと怒りと困惑ばかり感じる。


 戦いだという自覚がなかったからだ。

 それを今、わかってしまった。




「ほら、最後くらい正々堂々戦ってくれよ」


 いけしゃあしゃあとダストが宣う、散々搦め手と騙し討ちばかりして来てこの言い草だ。

 明らかに毒っぽい何かを塗りながら言う台詞では決してない。

 だが挑発だとわかってもソーバンの精神は限界だった。


ーーこいつにだけは敗けてはならない。


ーーこいつだけは否定しないと行けない。


ーーでないと俺の人生を、価値のないものにされてしまう気がする。


 目の前の、自分より弱いはずの冒険者にある種の恐怖すら感じる。

 ソーバンは今日初めて心身共に戦う構えを取った。

 目の前の男を全力で殺す。Eランクとかはもう関係ない。自分のすべてを賭けて撃滅するべく立ち向かう。

 その覚悟が完了する一瞬前に、ソーバンの左腕に刃が突き立った。


「は?」


 呆然と自分の腕に突き立った刃を見る。ダストが持っていたナイフ、何かが塗られたナイフ、それの刃部分だけが深く腕に突き立っていた。


 ダストの手元にはナイフの柄だけ握られていた。足元には金属製のバネが落ちている。

 詳しい仕組みはわからないが、刃を打ち出す仕掛けなのだろう。


「は、はは……」


 自分より格下だと思った相手に、散々バカにされた挙げ句、出し抜かれ、何やらわからない間に仲間をすべて殺され、知りたくなかった心を読みとかれ、全力で戦う直前に致命的な攻撃を受けた。


「なんだこれ? はは……」


 すべてがどうでもよくなった、あんな性格の悪い戦い方をする奴が使う毒だ、質が悪くない訳がない。

 剣がスルリと腕から抜け落ちる。足に力が入らない、尻餅をついてしまう。

 馬鹿馬鹿しすぎて戦う気持ちがなくなってしまった。

 ソーバンの中の何かが壊れてしまった。さっき限界まで膨らんだ闘争本能が、穴の空いた風船のように抜けていく。


 ダストがゆっくり近付いていき、鉈を振り上げた。


「トドメを刺してくれるのか、意外だな、苦しみながら死んでいくのを見るくらいの事はすると思ったが」


 ソーバンはどうでもよさげに呟いた。


「そりゃトドメは刺すさ」


 ダストはソーバンの頭に狙いを付け、そして……


「毒なんか塗ってないしな」


「へぁ?」


 振り下ろした。


「これ、只の調味料だぜ?」


 その言葉に答えるものはいない、ソーバンの最後の言葉はなんとも間抜けなものだった。

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