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ゴミクズバイオレット  作者: つかさ
ゴミクズ冒険者

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6/15

追跡者

 ダスト達が旅立った二日後、突如言い渡された休日が終わり、ネリッサはギルドに出勤していた。


「ネリッサ君」


「ギルド長、おはようございます」


 業務前にダルクが話しかけてきた。予想はしていたことだ。

 ダルクは休日中にダストに接触したかを遠回しに聞いてきたがネリッサはシラを切った。

 酒場内で二人の接触があったのを知っているのはカーラとその家族だけだ。

 酒場とカーラの家族関係を知らないダルクではたどり着けないだろう。


「あの冒険者はギルドの規約に違反している可能性がある、ギルドに来たらすぐ伝えるように」


「かしこまりました」


 あの夜、ダストは双子を連れてシバリア領にある故郷に里帰りすることを決意した。冬を向こうで過ごし、騒動のほとぼりが冷めた頃、様子を見にくる予定だ。

 それまでは故郷の村でなんとか双子の面倒が見れないか交渉するとの事だった。


 当たり障りない受け答えでダルクを煙に巻き、いつもの様に業務を始める。

 お昼の休憩の時間を取った際、カーラから手招きされた。


「ギルド長焦っているみたいね、冒険者にまで聞き込みしてるらしいわよ」


「好きにやらせましょう、いくら探しても彼はもういないのだし」


 あの申し出を断っていればこんな事態にはなっていなかった。

 普通に依頼の抹消ではなくキャンセルとして処理する、あちらがいくら文句を言おうと、ギルドからすれば少し強引なやり口で持ち込まれた依頼に対して、真摯に条件に合う冒険者を派遣し、依頼主都合でキャンセルになった。という結末で責はないのだ。

 依頼を無かったことにする事を安請け合いし、依頼が存在した証拠であるギルド印が押された依頼書を回収できなかったのはダルクが勝手にやったことだ。


「冒険者を守るのがギルドなのに、貴族にすり寄ったら意味ないじゃない」


 憤るカーラを見て、同僚のこういう真っ直ぐな所をネリッサは内心嬉しく思う。


「私たちも身の振り方考えないとね、こんなことが続くようなら働きたくないわ」


「そうね」


 ただ、この件はこのまま風化してしまう可能性がある。シモーシャもギルドに出した依頼の事は隠すはずなので、コロトー公爵の耳に入らない可能性もある。

 問題なのは今回の対応で生じたダルクに対するギルド職員内での不信感と、今後のダルクの動きだ。

 ギルドを運営するに当たって利益は必要だが、利益への傾倒、低ランク冒険者への配慮の無さ、敵対する必要はないが迎合する必要もない貴族へのすり寄り等色々垣間見え始めている。


「一応、切り札が手元にあるのは救いね」


「ええ、本当に当事者が彼でよかったわ」


 ダストから預かった依頼書を肌身離さず持ったままネリッサは溜め息をついた。




 タキミの街を出たダストは北へ向かう道を進んでいた。

 太陽が落ち切る間に適当な風避けを見つけ、火を焚いて飯を食った。

 火を絶やさないよう番をしながら、双子を見る。外套の上から荷物に入っていた毛皮を二人で被って寝ている。

 火の番と見張りを交代でやるわけにも行かないのであまり野営が続くとダストの体力が持たない。


(明日にはノタンに入りたいな……)


 今向かっているのはタキミの街から北へ二日ほどの位置にあるノタンという街だ。

 そこから更に北へ向かう乗り合いの馬車が出ていたはずだ。

 馬車に乗ってベルシー村へ行き、そこからはまた徒歩でシバリア領へ入り、村を二つ経て目的地であるホビロ村だ。

 全て徒歩なら半月程掛かる道程、今回は子供も連れているので更に掛かるかもしれない。

 火で暖を取りつつダストは夜が開けるのを待った。




 翌日、早朝に出発した三人は順調に北上していた。

 まだ双子には疲れは見えず、このまま行けば夕方前にはノタンに入れる見通しだ。

 行儀は悪いが昼飯として歩きながら三人で干し肉を齧った。双子の感想は「少しだけ良い感じ」との事だった。


 暫く山を切り開いた登りの道が続き、登り終えたときには前方に小さくノタンの街も確認できた。あとは下りなので気も少し楽になる。


「お前らは、いつ奴隷になったんだ?」


「んーわかんない」


「ずーっと餌をもらってたよ?」


 何の気なしに過去の事を聞いてみた。

 双子が言うには商会に移って移動するようになったのはここ最近で、それまでは別の場所で枷を付けられて管理されていたのだと言う。


(奴隷が生んだ子供の可能性もあるのか?)


 過去の話をしている時も、双子は特に辛そうな様子はない。それが当たり前かのように振る舞う。

 今もただただ初めて見るものを指差してはダストに訪ねたり、双子同士でトンチンカンな会話をして楽しそうだ。


(このまま何事もなく行けば良いんだが)


「ああ、やっと追い付いたよ」


 瞬時にダストは戦闘態勢になり振り返る。

 そこには糸目の男が立っていた。後ろには仲間であろうものたちも一緒だ。


(あまりにも速すぎる……)


 周囲に通行人はいない。山を切り開いた道で左右は森だ。男達は森から出てきていた。


(ここまで森を突っ切って一直線できたのか?)


 ダストは今回北上する際、基本的に街道に沿って進んでいた。

 子供を連れたまま野生動物や魔獣に合う確率を下げるためだ。

 だが、この男達は山を突っ切る最短距離で来た。十人全員が戦闘行為が出来る利点を使った強行軍で追い付いてきたのだ。


「俺を追ってきたのか? 依頼は取り下げられたって聞いたが」


「そう警戒するなよ、俺たちだって貴族の坊っちゃんの言うことを聞くしかなかった。不幸な行き違いさ」


 一番最初に見せたような朗らかな対応を見せる糸目の男、無論警戒は解かない。


「それで? 用件は?」


「ああ、その双子を引き取ってやろうかと思ってね」


 随分正直に来た。とダストは意外に思った。


「お前は双子を持て余している、そうだろ? 本当はあの依頼で譲渡して終わりのはずだったが、偶然が重なって手元に残っちまってる」


「まぁ、形としてはそうだな」


(無事に譲渡で終わったかは置いておいてだが……)


「俺たちは奴隷を引き取り、売り先を探して金が手に入る、あんたは身軽になって元の状態に戻れる、ウィンウィンってもんだろう?」


 確かに、この男が言う通りに事が進むなら、ダストとしては身軽に戻れる。

 ギルドとの問題は残るが、違う街にでも行ってまたすぐ冒険者活動を出来るであろう。



ーー腹が立つ



 ここで断ってもし力付くで奪いに来られたら、こちらは子供二人連れて逃げる事になる。逃げきれるわけがない。

穏便に話が進むならそれに越した事はない。



ーー気に入らない



「もとのところもどるの?」


「また餌食べる?」


 双子は後ろで話している、悲観の色は声からは感じられない。


「ちなみになんで俺たちが北に向かったと思ったんだ?」


「ああ、冒険者に聞き込みしたらお前が北の出身と聞いてもしかしたらと思ってな」


 酒場に居ないことが判りすぐに聞き込みをし、当たりを付けて一直線に追ってきた。大した嗅覚だ。


「それにギルド長がお前の事探しているみたいだったぜ? 何かやったのか?」


「さて? わからんな」


 双子だけ置いて逃げたとして、『主の紋』がダストにある以上売り物にならない、結局は追われるのだろう。



ーーすべてが癇に障る



「なぁ、『餌』と『クッキー』、どっちがうまかった?」


 この双子は、例え元の環境に戻されてもなんとも思わないのだろう。それしか知らないから、それが当たり前だったから。

 ダストが行けと言えば、奴らの所に行くのだろう。今までずっと誰かに従ってきたから。抗う事を知りもしないから。

 これからも生殺与奪の権利を他人に握られ続けるのだろう。自分で握る事が出来ると知らないのだから。


 ダストの質問に双子は首を傾げる。


「どっちが食いたい? 『餌』と『クッキー』だ」


 再度双子に問いかける。双子は互いに目を見合わせ答えた。


「「クッキー!」」


 急に考え事をしたと思ったら、奴隷と何か話し始めたダストにソーバンは少しだけ苛立ちを顕にする。


「おいおい、こっちも時間がないんだ、速く決心してくれよ」


「もう茶番はやめろよ、今殺すか後で殺すかの違いなんだろ?」


 ソーバンの発言を遮るようにダストが吐き捨てた。

 一瞬呆気に取られたが、すぐにソーバン達はせせら笑い始めた。


「おいおい諦めるなよ冒険者、気付いてんだろこの状況! 唯一お前が助かる可能性は奴隷を渡した後、殺されないように俺たちの機嫌を取る事だけだって!」


 嘲笑いながらソーバンが声をあげるとダストはシラけた態度で返す。


「何が面白いんだ?」


「あ?」


「どうせお前達どっかの傭兵崩れのチンピラなんだろ? そんなダセェ連中にこいつらはやらねぇ」


 ダストは腰の鉈を抜いて自然に構える。


「わかるか? 俺を殺す殺さないって話じゃねぇんだよ、そもそもこの双子はお前らにやらねぇって話だ。お前らそれで引き下がるのか? 引き下がらねぇよな? わざわざこんな所まで大急ぎで気持ち悪いアホ面下げて必死こいて追っかけて来たんだもんなぁ!?」


 ソーバン達の雰囲気が変わった、目をギラつかせ全員が抜剣する。

 それでもダストは止まらない、言葉に怒気が混じり初め止めどなく溢れてくる。


「どいつもこいつも気に入らねぇ! 理不尽な事ばっか言いやがってよぉ! 俺が何したって言うんだよクソッタレ!」


 ダストはムカついていた。最初からだ、意味の分からない依頼を受けた時から、幾度も苦労した。


「あのふざけ散らかした歯並び野郎も! それにこき使われてるダセェお前らも! いきなり手に穴開けてくるイカれた女も! 俺を切り捨てようとするギルドの糞野郎も! 思いきりぶん殴りやがった口の臭せぇ冒険者も! 全部奪われてんのにヘラヘラしてるエルフのクソガキも!」


 だが、ここに来て怒りを抑えるのをやめた。無性に見せてやりたいと思ったのだ。『怒り』を。


「あんだけ考えてよぉ! 何とか立ち回ってよぉ! 痛い思いもしてよぉ! それで手元に残ったのがよく判らんガキ二人だ!」


「おいおいどうした? イカれちまったのか?」


 いきなり逆上し始めたダストにソーバン達は半笑いで茶化し始めるが、自分達への罵倒も入っているのでもう剣を収める気はない。


「でも手元に残ったんなら俺のモンだ! それをお前ら見たいな糞ダセェチンピラがタダで奪おうだって!? 冗談は顔だけにしとけよ!」


「おいソーバン、もういい、殺そうぜ」


「黙って聞いてりゃベラベラと、低ランク風情がっ」


 遂にダストの言葉に耐えかねた男達がソーバンに視線で問う。


「もうちょっとお利口のままでいられたら、少しだけ長生き出来たのにな」


 男達に答えるようにソーバンは歩き出し距離を詰め始めた。動き出したリーダー格に仲間も追随する。

 

「あ? 自分よりバカな奴に従う事を、お前らが育った国では利口って言うのか?」


「あの減らず口を閉じさせろ!」


 最後の言葉が琴線に触れたのか、ソーバン達はダストに向かって駆け出した。

 それを見たダストは背嚢を後ろに放りがてら双子を指差す。


「おい!」


 いきなり怒声と共に強い感情を浴びせられ、双子はビクリと硬直する。


「一回だけだ! 一回だけ、お前らの変わりに怒ってやる」


 ダストは目を逸らさない。


「一回だけ、お前らが選んだ未来を勝ち取って来てやる」


 向かい来る敵に視線を戻す。


「一回だけ、ムカつく運命への、唾の吐き捨て方を教えてやる」


 その後ろ姿を、双子はじっと見つめていた。

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