厄介事4
待機と言われてから結構時間が立った。監視が近くにいるので動かないが、流石に待ちくたびれたガストは近くの段差に腰を下ろす。
双子は立ったままだったが特に何も言わなかった。座りたかったら勝手に座れば良い。
(そういえば、昼飯食ってないんだった)
少し緊張が解けると空腹を思い出す。ダストはリュックから自作の携帯食料を取り出す。
固焼きのクッキーっぽい何かに申し訳程度のドライフルーツを混ぜ混んだものだ。納得のいく味ではないが黒パンを噛るより何倍もマシだ。
(食いづれぇ……)
リスのように少し大きく作ったクッキーモドキをカリカリと削り取っていると、物凄く視線を感じる、例の双子だ。
無視しようとも考えたが、精神衛生上非常によろしくないことを悟る。
溜め息を付きながらもクッキーモドキを適当に三等分する。
「ほら」
それぞれに渡してやると双子はキョトンとダストを見た。
「固てぇけどな、文句言うなよ」
そう言ってまた自分の分を噛り始めると、しばらくして双子も真似するように食べ始めた。
視界の端で何となく見守る、双子は一口噛り、ふやかす様に咀嚼するとまた一生懸命噛り始めた。
「うまいか?」
気付いたら何となく声に出ていた。
もしかしたら喋れないのかもしれないと思っていたが意外なほどあっさり双子は話し始める。
「わかんない、でも良い感じ」
「良い感じ」
片方が片方に追随するように答える。相変わらず表情はわからないが青と赤のそれぞれの瞳は先ほどと違い好奇心に揺れている。
(なんだぁ、そりゃ)
要領を得ない感想だったが、まぁ悪くなかったのだろう。
「これなんていうの?」
「いうの?」
「あ? これの名前か?」
双子は頷く。
(自作だし名前なんか無ぇよ)
「強いて言うなら、クッキーだな」
「「くっきー」」
絞り出した答えを双子が繰り返す。それから「クッキー良い感じ」「良い感じ」「今までで一番良い感じ」等と二人でトンチンカンなやり取りをしている。楽しそうで何よりだとダストは苦笑する。
表情以外は割りと分かりやすいようだ。
「今まで何食ってたんだよ?」
会話ついでに何となく質問した。答えなんて特になんでも良い。謎の待機時間を持て余した戯れの質問だった。
「一個しかたべたことないの、でもいつもちがうあじ」
「でも良い感じじゃないの」
「「みんな『餌』って言ってた」」
楽しそうにも聴こえる双子の話し声が、ダストには少し遠く感じた。
それから少し経った頃、糸目の男が戻ってきた。何か苛立っている様子が見て取れる。
少し仲間内で話した後、ダストの方にやってくた。
「依頼は一旦ストップだ、声掛けるまで街に滞在していろ」
「日跨ぐなんて聞いてねぇぞ、流石に説明してくれ」
あまりに不可解な対応にダストも説明を求める。「こっちが聞きたい」とばかりに糸目の男は舌打ちをした。
「一旦ギルドには報告させて貰うぜ、あんたらと俺で完結する話じゃねぇだろ」
糸目の男は少し考えて頷いた。
「わかった、報告は好きにしろ。何かあったら使いをやる。宿の名前を教えろ」
「貧民街にある『梟の宿』って所だ。じゃあな」
ダストはギルドに向かうべく、双子の手を取り歩き出す。
「あの冒険者に二人付けろ、交代で見張るぞ」
糸目の男はダストが離れていくのを見ながら仲間に指示を出す。
「おい、ギルドにいかせて良いのか?」
仲間の一人が疑問を呈すると、糸目の男は苛立たしげに頭を掻いた。
「ああ、そこのケツモチはボンボンがやってくれるとよ」
ギルドに入るとダストは脇目も振らず受付嬢を一人捕まえる。見慣れないエルフの子供に視線が集中するがすべて捨て置く。
「すまん、ネリさんに取り次いでくれないか?」
受付嬢は怪訝な顔をしながらも「お持ち下さい」と席を立つ。
「その必要はない、私が話を聞こう」
受付嬢を引き留め、カウンターに来たのはダルクだった。
普段奥から出てこないギルド長の登場にダストは本日何度目かのキナ臭さに辟易した。
「あー、いや、ネリさんに報告を頼まれていた依頼があってね、直接本人に伝えた方が二度手間にならないと思うんだが?」
ダストは一応角が立たないように答える。しかし、ダルクはわざとらしく顎に手を当て思案顔をした。
「依頼? それはおかしいな、今君に任せている依頼はないはずだが……、失礼だが考え違いではないかね」
ダルクの言葉を聞き、自分が知らない所で状況が変化していることをダストは感じた。
「考え違いねぇ……、じゃあその確認も兼ねてネリさん本人に聞いてみるのが一番早いな」
ダストの返答に、ダルクは先ほどまでの思案顔を苛立たしげに変えた。
「存在しない依頼に付いて何を確認すると? もしかしてだが君、うちの職員を何か悪事に荷担させようとしていないかね」
「おいおい人聞きが悪いこと言うなよ、依頼書だってあるんだ」
ダストは懐から依頼書を出して見せる。未だに隣で佇んでいる受付嬢にも見えるようにしたが、ダルクはその視線を遮るように姿勢を変えた。
「その依頼書、形式が不自然に見える。こちらで確認しよう」
「ふざけんな、ここで確認出来るだろう」
「調べられたら不味い理由でもあるのかね?」
「この場でそれが出来ない理由を是非ともお聞かせ願いたいね」
ダストとしてはこの依頼書は渡せない、偽物だと発表されると別の罪に問われる可能性があるからだ。
元々自分を捨て駒にした奴である、冤罪くらい平気で捏造される可能性が高い。
かといって「勘違いでした」と泣き寝入りするにはもう不自然な状況にあった。
あまり冒険者の前に出てこないギルド長と、万年Eランクの落ちこぼれの言い合いは次第に周囲の興味を引き始めた。
「おい『雪ゴミ』! なんか迷惑かけてやがんのか!?」
周囲から野次られていたが、その中の一人が近づいて来た。確かCランクでダストより年上の冒険者だったはずだ。
正直ダルクとの落とし所を見失っていたダストは、この乱入者を利用することにした。
「関係ねぇ奴は引っ込んでろ! 口が臭いんだよ! 二度と喋るんじゃねよこの大気汚染ハゲ野郎が!」
「口悪っ」
まさかのオーバーキルな返しに乱入した冒険者はポカンと虚を付かれ、周囲からは思わずといった突っ込みめいた感想が漏れる。
「なんだとコラ!? Eランクが調子に乗るなよ!!」
我を取り戻した冒険者にダストは殴り飛ばされた。依頼書だけは手放さず、思ったより大きいダメージにふらつきながらもなんとか立ち上がる。
「テメェッ!! 許さねぇ!! 俺の口は臭くねぇ!!」
「やめろガイル! ギルド内で乱闘は不味い!」
一発では怒りが収まらない男を、同じパーティメンバーであろう連中が羽交い締めになって制止している。
(利用させて貰って悪いが、本当に口は臭いぞハゲ)
「くそっ! 今日は話にならねぇ、ネリさんいる日に改めて来ることにする」
「おい待ちたまえ! 依頼書を渡せ!」
「待て『雪ゴミ』!! てめぇ許さねぞ!!」
「ガイル頼む! 落ち着いてくれガイル!」
「そうっすガイルさん! ガイルさんは禿げてないっす! 敢えて剃ってるだけっす!」
「ガイルお前はお洒落だ! スキンヘッドが似合ってるナイスガイだ!」
「誰か口臭の事もフォローしろやっ!!」
そそくさと逃げるダストにダルクは追いすがろうとしたがギルド内の狂騒に邪魔される。
どさくさに紛れて問題を先送りにすることにしたダストは双子に声を掛けて出口へと急ぐが、その進行方向に急に職員が出てきてぶつかってしまった。
「ちょっと! 室内で走ったら危ないじゃない!」
「わ、悪い」
ぶつかった赤毛の女性職員はプリプリと怒りながら捲し立ててくる。
「カーラ君! その冒険者を止めなさい!」
「え!? ギルド長? 周りがうるさくて聞こえないんですけど!?」
そこにダルクから声が掛けられるがカーラは逆にダストから離れダルクの方に向かった。
それを尻目にダストは足早にその場から立ち去った。
ぶつかった際にポケットに捩じ込まれた何かを確認するために。
時刻はもう夕方に差し掛かる中、ダストは双子を連れ、道を急いでいた。
ポケットに捩じ込まれていたのは走り書きされたメモであった。あの時ぶつかった職員が入れたのだろう、良く見る受付嬢の一人だ。
明るい快活な美人でネリッサとはまた別の人気を博していたと思う。
メモには時間と場所の他に『予約者 キャシー』とだけ記されていた。
「ここか? 高そうな店だな」
指定の場所は酒場だった。ダストが良く行くような店より数段格式と値段が高そうである。
キョロキョロしながら入店すると店員に声を掛けられた。
「個室、カウンター、フロア共に満席ですがご予約は?」
「あー、連れが先に来ていると思うんだが……、名前はキャシー」
ダストが連れている双子を訝しげに見ている店員に探り探り伝えてみる。
「お連れの方は三番の個室でお待ちです」
店員に告げられた個室に向かう、念の為得物に手を掛けながら扉を開けたが、中で待っていた人物を見て安堵の溜め息が溢れ出た。
「よかった、カーラはうまくやってくれたんですね」
「そうじゃねぇかとは思っていたが安心したよ、ネリさん」
「ここは知り合いがやっている店で、他に話が漏れないんでよく使わせて貰っているんですよ」
「人気職員の行き付けの店なんてバレたら冒険者でごった返すからな」
取り敢えず席に座り水を飲んで落ち着く、双子は終始キョロキョロと周りを見ていた。
「面倒事を押し付けたのでここは私がご馳走します。ご飯を食べながら状況を整理しましょう」
「助かる、もう何が何やらだ」
ネリッサは双子の子供が気になりながらも一旦適当に注文する。
料理が用意され、ダストが双子に食事を促してから二人の情報の擦り合わせが始まった。
「ではまず私から」
夕方の冒険者たちの達成報告ラッシュでギルドが立て込んでいる時間帯に、ギルドに不釣り合いな仕立ての服を着た男がやってきた。
その男が受付嬢に何か捲し立てると、受付嬢は困ったように席を立ち、ギルド長室に向かった。
暫くしてダルクが現れ、ダルクと男は奥の部屋に消えたとの事だった。
「小綺麗な格好で歯並びが散らかっている高慢そうな男か?」
「歯並びは見えませんでしたが、他は合っているかと」
暫くしてカーラがネリッサの元に現れた。ダルクは男を部屋に案内する際、見かけたカーラにお茶を用意する様申し付けたとの事だ。
カーラがお茶を持って室内に滞在している間は、両者は当たり障り無い会話をしていたが、カーラは出来心で退室後息を潜めて聞き耳をたてた。
男は焦っていたのか、割りとすぐに声も殺さずに話し出したらしい。
「内容はオルトン名義の依頼の抹消、キャンセルではなく、依頼の存在自体を無かった事にしろと言っていた様です」
「なるほど、こっちも心当たりがある」
「ギルド長は声量を控えていたのであまり聞こえなかったらしいのですが……、『コロトー』、『公爵様』という単語が辛うじて聞き取れたみたいで……」
ネリッサは続ける。
不穏な情報を伝えられたネリッサは、カーラを含めた仲の良い受付嬢にそれとなく冒険者から情報を聞き出すようお願いしたらしい。
すると何組かの街の外に出向いていた冒険者から、南門へと続く街道を行く立派な馬車とそれに随行する一団を見たという情報が上がってきた。
暫くして部屋を出てきた二人、小綺麗な男は足早に立ち去り、ネリッサとサティはダルクの呼び出しを受ける。
ギルド長室で伝えられた内容は、今朝の依頼の件は先方側と穏便に話が付いたとの報告と、先方の気持ちを慮ってこの件は他言無用にする事、二人に要らぬ心労を強いた事を憂慮し現時刻から二日間の特別休暇を与える事、の三点が言い渡された。
「すぐに帰宅するよう付いて回るので、何とか走り書きをカーラに渡しました。汲み取ってくれて本当に助かりました」
「すげぇな、よく俺にたどり着いたなカーラって人」
「たまたま休憩中にカーラとサティと今回の依頼話を愚痴っていたので……」
自分側の話が一区切り付いたネリッサは双子に目を向けた。
「おいしい?」
声を掛けられた双子はキョトンとネリッサを見つめた。
「良い感じ」
「これもクッキー?」
「え?」
よく分からない返答にネリッサが困惑しているとダストが横から口を出す。
「これは『ご飯』って言うんだよ」
「ごはん、良い感じ」
「うん、良い感じ」
ダストと双子の噛み合ってない会話を聞きながらネリッサは一度姿勢をただした。
「気を取り直して、ダストさんの話を聞かせてください。その子達の事も」
ダストも時系列に沿って今日の出来事を話し始めた。
指定の場所に赴き集団に包囲された事。
連れられた場所で小綺麗な歯並びの悪い男にお使いを命じられた事。
買い物の内容は奴隷であった事。
理由は分からないが一度解放され、ギルドに立ち寄りダルクと言い合いになって今に至る事。
「ギルドに依頼取り下げに来た男と、ダストさんが遭遇した貴族っぽい男は同一人物と見ていいでしょう」
「そうだな」
「それに現状わかっている事実を元に推論を立てるとするなら……」
ネリッサは目を閉じ、少し頭を整理した後、見解を述べた。
まず今回の依頼は例の貴族じみた男が部下を経由して出した。依頼の内容は奴隷を購入し連れてくること。
「恐らくその男の正体は、コロトー公爵家の関係者の可能性が高いです」
「公爵家? 領主様がなんでまた」
「ダストさんは知らないかもですが、コロトー家の現当主は奴隷嫌いで有名なんですよ」
ネリッサの推理では、今回の件は奴隷嫌いの公爵には内密で奴隷を手に入れようとしたのではないかとの事だった。
「ダストさんの言う通り、欲しければ直接買えばいいのですよ。でもそれは出来なかった」
「なぜならば」とネリッサはフォークを指揮棒のように突きつける。話に夢中で行儀の悪さに気付いていないようだ。
「主人には『主の紋』という証拠が残る、それを公爵に見られるわけには行かなかった」
「なるほど、奴隷嫌いの親分が居たら、子分は奴隷を買いづらいわな」
「ええ、なので公爵家関係者か、三人いる跡継ぎの内の誰かが怪しいと思います」
「ただ……」とネリッサは少しいい淀む。
「それでその双子を手に入れようと思うと、ダストさんを害して解放した双子を無理矢理支配するという、かなり強引で考えなしの方法を取ることになるんですよ」
「それは逆にあり得るかもしれん。あのスクランブル歯並び野郎は頭良さそうには見えなかった」
「スクランブル歯並び?」と首を傾げているネリッサを差し置いてダストは一人納得する。
あの男に知性はあまり感じなかった、よく分からない経済理論を政治と宣うような輩だ。
「カーラが聞いた会話内容と冒険者からの情報を元に、南門側からタキミに近づいて来たのがコロトー公爵だとすれば……」
ネリッサの発言を継ぎ足す形でダストは結論を出す。
「公爵家のバカ息子が、奴隷嫌いの父親に内緒で奴隷を手に入れようとした。無い頭振り絞って穴だらけの悪巧みを決行したはいいが、途中で父親の接近に気付いて慌てて証拠隠滅に動いている……」
(一応は筋が通る……のか?)
それにしても計画が強引で見通しが悪すぎる事をダストが気にしていると、ネリッサが落ち込んでいるように頭を垂れていることに気付いた。
「ネリさんどうした?」
「いえ、予想通りだった場合、目的地まで奴隷を連れていった行ったダストさんは殺されていた可能性が高く……、申し訳が立たなくて」
ネリッサに感謝こそすれ怒りを向ける気にはなれなかった。自分を指名したのはあのギルド長で、ネリッサは反対だったが業務命令に従わざる終えなかっただけだ。
「ガキも含めて三人前の飯代出してくれたんだ。チャラでいいぜ」
「そういう訳には……」
ダストは気にしてないがネリッサは罪悪感から思うところがあるのだろう。
「じゃあおっぱい揉んでいい?」
「小さい子の前でなに言ってるんですか!?」
「元気になってくれて何よりだよ」
それから少しの間、大人二人も止まりがちだった食事を再開した。
ダストが普段食べてる飯より何倍も豪華である。
ネリッサは双子の汚れた口元を拭ったりしていて、暫し穏やかな時間が流れた。
食事も終わり、今後について考える。ネリッサは甲斐甲斐しく双子の世話を焼いていた。
「おつかれー」
突然個室の扉が空き、ダストは身構えた。個室に入ってきたのはカーラであり、ダストはネリッサにどう言うことか目で問う。
「ダストさんすいません、話に夢中で説明してませんでしたね、このお店は彼女のご実家なんです」
「そうそう、私はここの次女ってわけ、ネリッサとサティ以外には言ってないけど」
ダストは取り敢えず落ち着き、構えを解いた。確かにネリッサは知り合いの店と言っていた。
「ネリッサとサティが突然帰されるもんだからさぁ、窓口は回らないしガイルさんは暴れまわるしで大変だったわよ」
カーラはジャケットを脱ぎネリッサの隣にドカッと腰を落とす。
「話は聞かせてくれるんでしょうねぇ?」
「なにそれ!? 本当だったらそれ、ギルドのミスを冒険者に処理させた上に、貴族の倅に良い格好見せるために証拠隠滅を安請け合いしたってことじゃない!?」
ネリッサからここまでの状況と予想を聞いたカーラは信じられないとばかりに憤慨した。
「まぁ、南側から来た一団が領主様だったらって前提での推測だけどな」
「いいえ、恐らく間違ってないわ。南の富裕街が慌ただしい雰囲気だって報告も入ってるし、何よりギルド長の様子がおかしすぎるもの」
満腹になって互いに寄り掛かるように寝てしまった双子達を見てダストは難しい顔をする。
「なぁ、その領主様が奴隷嫌いっていうのは有名な話なのか?」
「そうねぇ、私達が知っているくらいだし、貴族はもちろん商人とかの中では常識かもしれないわ」
「すぐ戻ってくる、ガキ達を見ててくれ」
ダストは言うやいなや店を飛び出し西門へ走る。店を出た瞬間視界の端に昼間の監視の内の一人が目に入ったが一旦無視した。
ダストが西門に付いた時には既に門は閉じられていた。近くにいた衛兵に話を聞く。
「表で市をやっていた連中に返品しなきゃいけない商品があるんだが、通してくれないか?」
ダストの言葉に人が良さそうな顔の衛兵は苦笑いした。
「お兄さん、偽物でも掴まされたかい? でも残念だな、連中は夕方には店畳んで王都方面に出発したよ」
「……、そうかい、そいつは残念だ」
歯噛みしながら視線を下げたダストを憐れに思ったのか、衛兵は続ける。
「連中、商隊にしては随分短い滞在だったよ。公爵様と入れ違うように出ていったって言うから、もしかしたら奴隷でも扱っていたのかもね」
思わぬところで話の裏が取れたが、ダストとしては一足遅かったというのが正直な所であった。
「ありがとう、邪魔したな」
衛兵にひと声かけ、ダストは来た道を早足で引き返す。
監視の尾行に気付いていない振りをしつつダストは店に戻った。
ダストが店に戻ったときには、もう閉店の雰囲気が漂っていた。
個室にはネリッサとカーラがまだおり、双子には毛布が掛けられていた。
「いきなり出ていってどうしたんですか?」
「西門に行ってきた。こいつらを買った店は尻尾巻いて逃げた後だった」
「何あんた? もしかしてこの子達突き返す気だったの!?」
ダストの返答にカーラは軽蔑の視線を向ける。
少し間を開けて「そうだ」と答えたダストにカーラはいよいよもって憤慨した。
「また檻の中に戻す気!? 面倒見れば良いじゃない!」
「Eランク冒険者に無茶言うな、それに檻の中だろうと外だろうとこいつらは奴隷だ」
「甲斐性見せなさいよ! あんた本当はDランクに上がれるんでしょ!?」
「カーラ! 落ち着いて!」
立ち上がったカーラにネリッサはすがり付く、しかしネリッサがダストに向ける視線にも何か懇願めいた物を感じた。
ダストは溜め息を付きながら椅子に腰を下ろす。
「落ち着いて聞いてくれ、依頼は取り消された。だが俺に監視が続いているんだ、さっき確認した」
神妙そうな雰囲気に、カーラは一旦話を聞こうと再び腰を下ろし、ネリッサは安堵の溜め息を付いた。
「あの残念歯並び野郎かその部下の独断かは知らねぇ、まだ狙われている可能性があるって話だ」
「だからどうしたのよ」
「ガキが一緒だとそもそも冒険者の仕事が出来ねぇ、じゃあ仕事中は宿に置いていくか? そんな維持費を捻出出来ねぇし速攻で拐われんぞ」
以外にも現実的な指摘にカーラもネリッサも黙り込む。
確かに幼い子供二人を連れ回しての冒険者家業は現実的じゃない、そして単純に食い扶持も三人分に増える。
ネリッサやカーラが預かるにしても、監視の話が本当なら安心も出来ない。
「尚且つギルド長の事もある、そもそも俺はこの街で冒険者続けられんのか?」
「でもそれは! あんたは悪くないじゃない!」
カーラの言うことは間違ってないが、現実問題ダストはギルド長にとって目の上のたん瘤のような存在になってしまった。
大人しく依頼書を返したとしても、依頼の捏造という冤罪を被せられる可能性もある。
暫し個室に沈黙が流れる。
「ネリさん、こんだけ世話になって申し訳ないんだが、最後にもう一個頼まれてくれねぇか?」
「……何か考えがあるんですか?」
意を決した様子のダストに二人は次の言葉を待つ。
「街を出ようと思う」




