臓物キャンプ 3
ダストはレドから木の棒を受け取る、最初の相手はヴィオレのようだ。
「えーと、首から上への攻撃は無し、棒を相手の胴体に当てたら勝ち、でいいのか?」
「そう」
ダストはルールを確認し棒の握りを少し確かめる様に握りなおす。そして面白そうに観客面しているザック達に視線を向けた。
「お前ら覚悟しろよ、大の大人が子供に良い様にボコボコにされ泣きじゃくる姿は見てる方が辛いぞ」
「キメ顔でこの上なく情けない事言ってんじゃねぇよ」
ザックの突っ込みに返事することもなくダストはヴィオレと対峙する。
「……ん?」
「ザックどうしたの?」
面白そうな顔で成り行きを見守っていたザックの困惑した声にトリルが反応する。ザックは怪訝な顔で首を傾げた。
「いや、あいつ左利きだったか?」
「おら、レドかケイル、合図しろ」
ダストは二人に声を掛け、棒を持った左手側を前に出して半身に構え、腰を少し落とす。一方ヴィオレは軽く飛び跳ねる様にステップを踏み始める。
「「始め!」」
レドとケイルの勢いのある開始の合図には似合わず、二人はゆっくりと間合いを詰め始めた。一定の距離まで詰めるとヴィオレはダストを中心に円を描くかのように移動し始めた。足運びは軽快で、その顔は楽しそうだ。
ヴィオレはダストの周りを一通り旋回し、軽い拍子で一歩踏み出す、緩急をつけあっと言う間に間合いに入りダストの胴体目掛け棒を振った。
「うお!?」
ダストは何とか攻撃を捌き、必死に反撃した時にはヴィオレはもうダストの攻撃範囲の外に離れていた。
「おいおいダスト、翻弄されてるじゃねぇか!」
「うるせーな、現時点でもう速さじゃ勝てねぇんだよ」
ザックの茶々入れに答えつつダストは再度構える、ただその顔付きは先ほどと違って少し笑っていた。
「まぁ、速さを競う勝負じゃねぇか」
独り言をつぶやき再度構える。
タイミングを見てヴィオレが踏み込む、先程よりも早いが予想していたのかダストは小さい動きで捌き、すぐさま反撃の為に踏み込んだ。
最短距離で左手を突き出す形の突き、だがヴィオレの反応は早く、また距離感を完全に掴んでいるのか下がる距離は最小限、ダストの手が伸び切ったところで棒は僅かにヴィオレの胴体には届かない。
棒の長さは同じだが腕のリーチの差でダストの方が懐が深い、その差を埋めるためヴィオレはダストの引き際の棒を内側から払う、ダストの体が開いた。
「ここ!」
棒を外に弾き、防御を遅らせれば速度差で勝てると踏んだヴィオレ、開いたダストの左肩付近、そこに最短距離で突きを繰り出すために最速で右手を突き出した。
「っ!?」
「捕まえた」
次の瞬間、ヴィオレの棒をもって突き出された右手首をダストの右手が掴んでいた。
ダストは左手が外に払われた時、逆らわずそのまま左半身を後ろ側に下げたのだ。結果的にヴィオレの狙った左肩はヴィオレから一番近いダストの胴体ではなくなり、伸ばした右腕がダストの無手の右手の届く範囲に入ってきた。
「おら」
「わわっ!」
ダストは右手を掴んだままヴィオレを振り回す様に力を入れた。自身の右側に引かれたヴィオレは無意識のうちに倒れないようにたたらを踏む。
ダストは振り回したままヴィオレの進行方向に腰ごと右足を踏み出す、足と腰を払われたヴィオレは空中で半回転しステンと背中を着いてしまう。棒を持った右手は未だに掴まれたままだ。
「はい、俺の勝ち」
仰向けで転がるヴィオレの右手を持ったまま、ダストはヴィオレの肩をコツンと棒で叩いた。
ヴィオレからは天地が逆さのまま、悪戯が成功した子供のような顔で笑っているダストが映った。
「いや! ズルだろズル!」
「そうなのか? ルールは守ったと思うが」
一拍置いて内容に納得できないケイルが捲し立てるが、ヴィオレを引っ張り起こしながらダストは全く悪びれること無く宣う。
一方引き起こされたヴィオレは少しの間ポカンとしていたが、一転破顔する。
「凄い凄い! もう一回やろ!」
「ヴィオレずるい! 次は僕の番!」
負けたのに嬉しそうに再戦を催促するヴィオレに横からレドが割り込む。
「はいはい、次はレドな」
「やった!」
「むー」
はしゃいで準備するレドと、むくれるヴィオレ、周りはダストの行動に何か言いたげだったが当事者達が全く気にしていないためなにも言えなくなった。
「だはは! やっぱりアイツはおもしれーわ!」
「くふふっ……」
一方ザックはダストの大人げない勝ち方に大爆笑し、トリルも口を抑えて笑いを噛み殺していた。
「ちょっと! 笑ってないで何か言ってよ」
「いやいやシーラ、ダストと勝負事するなら細かすぎるくらいにルール決めない方が悪いぜ」
「そうそう、実際禁止されたことはやってないからね」
「そうだけど……もうっ!」
二人が注意する気が無い様子なので今度はシーラがむくれてしまった。
「ケイル、合図お願い」
「お、おう」
一方レドはヤル気満々の様子で若干ケイルが気圧されている。
「ルールは?」
「一緒で良い!」
一応確認を取るダストにレドは元気に返事をする。
「始め!」
仕方なくケイルが合図をすると、先程とは一転、ダストが踏み込み右手で突きをだした。
レドは楽々反応し距離を取り躱す。
「え?」
しかしダストは突き出した勢いのまま棒を手放す、棒はレドの胸に軽く当たりコロンと地面に転がった。
「よし、俺の勝ち」
「ふざけんな!」
あんまりな戦法にレドでは無くまたケイルが声を上げる。
「なんだよ、またなんか文句あるのか?」
「棒を投げて当てるのなんて無効だ無効!」
「え、無効? じゃあ僕もう一回出きる?」
「レドずるい、次はまた私!」
ヴィオレとレドは文句は無いようでその後も交互にダストが相手をした。その度にダストは足を掛けたり、視線と言葉で騙したり、押し倒したり手を変え品を変え勝利を納めていく。
その度にケイルが怒り、カナンとシーラは呆れ始め、ザックとトリルは笑っていた。
ロイドは意外にも興味深そうに戦う様子を見ている、双子は終始嬉しそうにしているのだった。
「あー疲れた。元気無限大かよ」
「お疲れ」
しっかり汗をかくまで双子に付き合わされ、ようやく解放されたダストをザックが労う。
ヴィオレとレドはお互いを対戦相手にダストにやられたことを互いに仕掛けあっていた。
「相変わらずだな、お前は」
「うるせぇな」
ザックはダストの肩をバンバン叩きながら笑う、ダストは鬱陶しそうに手を払った。
「でも、今の勝負はもう二度とアイツらに勝てないだろうな」
「そうなのか?」
ダストの予想にロイドとトリルも聞き耳を立てている。
「多分あいつら反射神経と動体視力が良すぎて全部見てから避けてるんだ、だから相手の動きの予測とかしてないんだよ。多分今までそれで同世代には勝ててたんだろ」
汗を拭き、コーン茶で喉を潤しながらダストは続ける。
「搦手を使う事を予測も警戒もしてないから今回は俺が勝てた、次からは搦手が来ることも考慮するだろうから同じ勝負なら勝つのは難しいって話だ」
「なるほど、俺が感じていた違和感はそれか、なまじ能力が高かったから今までそんな癖に気が付かなかった」
ダストの見解にロイドは納得がいったかのように独り言ちる。
「そんなことはさて置き、あれはどうなったかなっと」
ダストは立ち上がり、乾燥させるために木の枝から網に入れて吊るしていた蛇肉を確認した。干す前に比べて乾燥して表面が乾いていることが見てわかる。
干すのをやめ、蛇肉を軽く火で炙る、少し香ばしさが匂い立つ頃合いで炙るのをやめ鍋に投じ水を入れた。
「結局蛇は煮て食うのか?」
「いや、夕飯は鍋物にしようと思うんだがベースになるスープにならねぇかなと思ってな、しばらく煮出してみる」
そしてダストは鍋から顔を上げ双子を見る、動き続けて流石に疲れたのか今は座り込んで休んでいる。相手をしていたケイルにいたっては仰向けで寝転がっている。
ダストは二人に近づき声を掛ける。
「ヴィオレ、レド、ちょっとついてこいよ」
ダストはヴィオレとレドを引き連れて湖の近くまで歩いていった。
「ここなら危なくねぇだろ、二人とも魔法見せてくれよ」
「うん」
「いいよ」
ヴィオレが湖に向かって拳大の大きさの氷弾を放つ、続いて同じ大きさの水弾を放ち着水すると水柱が立つ。
続いてレドが火の玉を魔法で放ち再度水柱が立ち、蒸発した分の水分が煙となって霞んで消えた。
「おーすげぇな、魔力切れになったら頭が痛くなったり意識が遠くなったりするって聞いたが大丈夫か?」
「一番最初は魔力酔いで気絶したけど、そのあとは全然大丈夫」
「ミシル婆に言われて魔力に体を慣らすために時間があったら練習してるよ」
「ふーん、エルフは魔法が得意って聞くから元々持っている魔力は多いのかもな」
褒められて嬉しそうな二人、ダストは少し考えるような表情で口を開いた。
「レド、ちょっと試して見てほしいんだが」
「うん、何をすればいい?」
「前に魔法使いの冒険者が魔法はイメージが大事って言っていてな、ちょっとした実験だ。 まず掌に炎を出してみてくれ」
レドは言われた通り掌を上に向け炎を出現させた。小さな炎がメラメラと揺蕩っている。次は? とでも言うように好奇心旺盛な赤い瞳がダストを見上げている。
「魔法で生じた炎にも該当するかはわからないんだが、炎は酸素っていうのを消費して燃えているんだ」
「さんそ?」
「ああ、俺も細かい部分は詳しくないが……、俺たちが吸っている空気あるだろ? その空気の中には目に見えないだけで酸素って物の他にもいろんな物が入っているんだ」
ダストの言う事を自分なりに想像しているのか二人は思案顔で黙って聞いている。
「その酸素って物を燃やすことで炎が発生しているんだが、赤い炎は酸素を上手に燃やせていない時の色なんだ」
「でも僕赤い炎しか見たことないよ」
「私も」
「ああ、だから炎を出しながら想像してみてほしい、空気中の何かを餌に炎が燃えている、効率よく燃やせていないから炎の色が赤い、上手に効率よく燃やせたら炎の色は赤じゃなくなる」
「効率よく……赤じゃない色に……」
ダストがいう事を想像しているのかレドは目を閉じる。三人の間で炎の燃える音だけが静かに響く。しばらく沈黙が続いたその時、炎が燃える音が変化を始める。
最初は空気が揺れるような音だったのが次第に空気が摩擦で擦れる様な激しい音へ変容していった。遂に炎の色も変色を始め徐々に薄く、最終的には青い炎がレドの手中で激しく燃えていた。
「お!? マジか! よし打て」
「う、うん!」
ダストの指示でレドはその魔法を湖へ解き放つ、着水と同時に爆ぜるような音と先程よりも大きな水柱と煙が爆発するように発生した。
三人はその光景を暫し無言で見つめていたが一番最初にヴィオレだった。
「レドすごい! どうやったの?」
「ダストに言われた通りイメージしてたらなんか自然に出来て……でもちょっとだけクラクラする」
「威力は上がったが工程が増えた分魔力を使う量が上がったって事か? 無理させたみたいで悪いなレド、夕飯まではちょっと大人しくしとけ」
「ううん、新しい魔法みたいで面白かった。またやってもいい?」
「練習するのはいいが体調と場所には気をつけろよ、火事になったら笑えん」
「うん!」
「ダスト! 私にも! 水と氷の新しい魔法作って!」
ダストとレドの会話を聞いていたヴィオレはダストの腕を引っ張りながらねだった。
「んー、ちょっとパッと思いつかんな」
「やだ! ずるいずるい! レドだけずるい!」
「わかったわかった、またタキミに行く時までには考えておいてやるから」
「むー」
頬を膨らませてヴィオレは駄々を捏ねたが、結局後日アイディアを出すことで一応の納得はするのであった。
「意外と澄んだ色だな」
拠点に戻ったダストは頃合いかと鍋を確認する、蛇の煮汁は澄んだ薄琥珀色をしていた。
「蛇の癖に良い匂いするじゃねぇか……」
「美味しそうね……蛇の癖に」
ザックは感心したように、シーラは何故か悔しそうに感想を口にする。
味見にと、少しずつ全員で味わってみることにする。
「さっきのスジ肉のスープ程じゃねぇが旨いな」
「優しい味……」
「うん、違う趣があるね」
「アッサリだが悪くないな」
大人達は意外と好評だが子供達は反応がない、昼食のスープの方が分かりやすく美味しかったので特に感想はないようだ。
「海産物の風味に近いな、よし、夜の鍋はこれを使う」
「海の物なんて食った事あるのか?」
ダストの感想にザックが疑問をぶつける、カイド王国は内陸国である為だ。
「……タキミで乾燥させた海魚と海草を食った事があるんだ、それに似てる」
「ふーん、やっぱり都会には色んな物が流通してんだな」
少し考えた後にダストは答えた。ザックは特に疑問に思わなかったが、ヴィオレとレドにはダストが何故か言い訳をしているように聞こえた。
ダストは蛇肉を取り出し、沢山の野菜と取っておいた腸を鍋に投入した。
そこに塩と刻んだにんにくを入れ蓋を閉める。
「煮たったら出来上がりだ」
各々世間話をしつつ器や飲み物の準備をしながら夕飯の出来上がりを待つのであった。
「いやー、正直昼飯よりは旨くねぇと思っていたが、蛇と腸も負けない位旨いな」
空は夕焼けが滲んでいる時間帯、一同は早めの夕食と洒落込んできた。
「昼のスープ使えば更に旨いんじゃないのか?」
「わからんぞ、昼間のスープはスープ自体が味が強いからな、この腸の脂の旨味とぶつかるかもしれん」
ザックの感想にロイドが意見する、トリルも満足げにしているしシーラも美味しそうに口に運んでいた。
「レシピは教えてくれるんでしょう?」
「レシピも何も全部見てたじゃねぇか、この村で手に入るものしか使ってねぇよ」
「調理法でここまでの御馳走になるんだね、他にも美味しくなるもの沢山あるんじゃないかな」
飯が旨ければ会話も弾む、薪を囲んでの晩餐は賑やかだ。子供達も先程とは一転、旨い旨いと口に運んでいる。
「腸鍋、内臓鍋って呼ぶのは嫌ね、何かいい呼び方はないかしら?」
「……臓物の鍋だから『もつ鍋』でいいんじゃねえか?」
「『ホビロ鍋』でもいいだろ!」
「いや、絶対他でも食ってる地域あるって」
鍋の名付けの話題で盛り上がる中、ダストは思い出したように荷台に何かを取りに行く。
「ヴィオレ、レド」
ダストは二人を呼んで何かを投げて寄越した。二人とも危なげなく片手でキャッチする。二人の拳で握れるくらいの半透明の石のようなものであった。
「ダンジョンに行くことがあってな、そこで手に入れた。形が良くて大きいものは貴族が買ったりするらしいが、それは小さくて値が付かなかったから貰ってきた」
「なにこれ? 石?」
「『魔灯石』だ。魔力を込めてみろ」
二人は言われた通り魔力を込めると石が光だす。
「込められた魔力が無くなると光が消えるが、また込めればまた光る」
柔らかい光だが周囲を照らすには充分すぎる光量であった。
「お前らが持ってた方が有効活用できそうだからな、やるよ」
「くれるの!?」
「ほんと!?」
「魔力たくさん持ってる奴が持ってなんぼだからな」
賑やかな晩餐は続くが、ヴィオレとレドは傍らで輝く魔灯石を嬉しそうにチラチラと見つめていた。
「ダスト、ダンジョンのお話聞かせて」
食後、薪と魔灯石で照らされている以外はすっかりと暗くなってしまっていた。ヴィオレのおねだりに全員の視線が自然とダストに集まった。
「ちょっと稼ごうと思ってな、寄せ集めでパーティー組んでタキミの近くのダンジョンに何回か潜ったんだ」
個人行動を主としている冒険者を寄せ集めたり、既存パーティーに混ぜて貰ったりなどして何回かダンジョンに潜ったのだダストは言った。
「俺は主に斥候役とかポーター役が多かったな、というかそれ位しか出来ん」
「斥候? ポーター?」
「斥候役は一人先んじて進んで偵察や安全確認って感じだな、ポーターは荷物持ちや荷物管理だ。新人冒険者が先輩冒険者のポーターをやって経験積んだりなんて運用の仕方もある」
「なんだよ、木っ端役ばっかりじゃないか」
「実際木っ端だからな」
ケイルが揶揄う様に言ったがダストは特に気を悪くするでもなくあっさりと同意した。その態度がまた気に入らないのかケイルは不機嫌そうに顔を反らした。
その後もダストは簡単にダンジョンでの経験談を語った。罠に掛かり四方から魔獣に襲い掛かられ泣き叫びながら逃げた話や、上から落ちてきた虫が服の中に入り少女のような甲高い悲鳴を上げた話などを面白可笑しく脚色して話した。
それは子供達が好きそうな冒険譚や英雄譚の類いではなかったが、ザックやトリルは等は腹を抱えて笑っていた。
意外にもダストは話が上手く、ダンジョン探索の話の佳境では全員真剣に話を聞いていた。
「だがそこで間一髪斧使いが投げた斧がその怪物の脳天を叩き割ってなんとかなったのさ」
「おお、手に汗握っちまったぜ」
「ちなみにダストはその戦いの中で何をしていたの?」
「そりゃ応援していたさ、隅っこの方でな」
「ふふ……手伝いなさいよ」
迫力の戦闘シーンからの緩急の利いた落ちにシーラも思わず笑ってしまう。
「よし、ちょっと俺は寝る前にブラっと散歩でもしてくるわ」
「僕も行く!」
「私も!」
ダストが立ち上がり湖の方に歩き始めると魔灯石を持った双子が付いていった。
「……ケイル、ダストの事が嫌いかい?」
三人が散歩に出かけ少し経った頃、トリルが穏やかに口を開いた。
「……正直苦手だ。ザック兄ちゃんやトリルさん見たいに小さい頃遊んで貰った記憶もないし、いつまヘラヘラしてるし」
「ザック兄見たいに男らしくもないし、トリルさん見たいに優しくもないしね」
ケイルの言葉にカナンも同調した。ザックは怒るわけでもなく苦笑し、シーラはコクコクと頷いている。
「好きになら無くてもいいさ、実際にダストは万人に好かれる人間じゃないからね」
「それでも」とトリルは続ける。
「あの二人にとっては大事な存在なんだ。二人から聞いたろ? 二人のために戦ったって」
「でも、絶対今日みたいな卑怯な戦い方なんだろ」
「そうだろうね」
「やっぱり」
「僕もヴィオレ達やダストから聞いた話だけど、二人を攫いに来た奴らは十人、皆剣を持った戦いを生業としているような連中だったらしい」
「っ!」
ケイルはバッと顔を上げた。カナンとシーラも驚いた顔をしている。
「僕はダストが正々堂々戦って死んだ、そしてヴィオレとレドは攫われた。そんな結末になら無くて本当によかったと思ってるよ」
ケイルとカナンが怒られた子供のように顔を下げる。ヴィオレとレドに簡単に聞いたことはあったが詳しくは知らなかったのだ。
「ごめんごめん、怒ってる訳じゃないんだ。ただダストは僕にとっても大事な存在なんだ。そう邪険にしないでくれると嬉しいな」
そう言ってトリルは何時ものように笑った。
「よーし寝るか、あ? なんだこの空気」
「なんでもないよ、寝ようか」
話し終わったタイミングで丁度ダストたちが帰ってきた。ダストは雰囲気が変わったことを訝しんだがトリルは笑顔のまま流した。
「ヴィオレはこっち、女の子でまとまって寝るわよ」
「レドは俺の隣な」
ヴィオレとレドはカナンとケイルそれぞれに有無を言わさず連れていかれてしまった。
「なんだぁ? ガキンチョ達に何か言ったのか?」
「いーからいーから、寝るぞ」
ザックがダストの肩を抱え寝床へ連行する。ロイドも火の始末を手早く済ませ後を追う、トリルも簡単に片づけをして寝床へ移動した。
賑やかなキャンプの時間は以外にも慎ましく幕を閉じた。
「トリル、早いわね? おはよ」
「おはようシーラ」
シーラが起きた時、既にトリルだけ起きていた。トリルは再度火を起こし、湯を沸かしながら穏やかな顔で湖を眺めていた。
シーラも隣まで来て座る、朝は少し肌寒いが静謐な湖の雰囲気は悪くない。
「意外にも快適な睡眠だった」
「ロイドさんもおはよう」
シーラが起きてすぐロイドも起きてきた。
「そういえばトリルはダストに用があったんじゃないの?」
「うん、新しい髪の石鹸の試作が出来たからね、あとで渡すさ」
「え!? 新しいやつ? 私も欲しい」
「しー、子供達が起きちゃうよ」
トリルは人差し指を唇につけシーラを窘める。
「もうちょっと寝かせてあげようよ、石鹸は数が出来たら皆に配るさ」
そういいながらトリルが一点を見始める、ロイドとシーラはその視線を追うと昨日の夜とは違う部分に気づいた。
「あら? いつのまに……」
「あれは起こせんな」
三人の視線の先には、安心しきった表情で眠るヴィオレとレド、その二人にいつの間にか左右から密着され寝苦しそうにしているダストの姿があった。




