臓物キャンプ 2
「はい、じゃあ内臓洗っていきまーす」
「「はーい」」
湖に着いた一行は早速作業を始める、持ってきた大きな木桶にヴィオレが水を張った。
ダストがバケツに入った牛の腸をナイフで切り開き、簡単に内容物を洗い出したら水を張った木桶に放り込んでいく、そこで更に双子が腸を丁寧に水洗い、比較的綺麗になったらザックに渡し一口大に切り分け別の容器に放り込んでいく。
容器に塩を入れカットされた腸も揉み洗いする、滑りが出てきたら再度綺麗な水で塩ごと洗い流す。
仕上げに小麦粉で再度揉み洗いしまた水で洗い流す、かなり綺麗になった。
「キャンプと聞いたが、これは何をやっているのだ?」
「「お爺ちゃん!」」
腸をすべて洗い終わると丁度ロイドが到着した。
「腸洗ってる、食べるんだって」
「プルプルしてる」
「そ、そうか」
ご機嫌な双子の答えにロンドは何とも言えない顔で相槌を打った。解せない顔のロイドを加え下処理は続く。
「次はこれだな、つってもこれは水で簡単に洗って下茹でするだけだが」
「それは? また内臓か?」
ダストはデニスから貰ったもう一つのバケツを開ける。 パッと見は牛肉だが脂身の塊のようなものが付いている部位が多い。
「腱やら脛、首周りの肉だな」
「ああ、あの焼いて食ったら硬い所か」
「ほら、とっとと肉を掃除するぞ、昼飯が遅くなる、レドとヴィオレは火を起こして持って来た鍋全部で水沸かせてくれ」
「「わかった!」」
早速双子はテキパキと火を起こし始め、大人三人はスジ肉を水洗いし食べれない部分を取り除いていく、湯が沸いた鍋に洗ったスジ肉、別の鍋に洗った腸を少しだけ取り分けその他をすべて入れた。
「少しだけ焼いて食おうぜ」
ダストは取り分けた少量の腸を焼き始める、味付けは塩のみだ。双子は興味津々で、ザックも面白そうに、ロイドは怪訝な顔のまま調理を見つめる。
「すげー油出るな」
「匂いは悪くないな」
「内臓だからしっかり火通すぞ、多分カリカリまで焼いた方が旨いはず」
ザックとロイドの感想を他所にダストは淡々と肉を焼く、頃合いを見て焼けた腸を一つ口に入れた。
「旨いな、言っとくが噛み切って食うもんじゃねぇ、そこそこで飲み込め」
「カリカリしてるけどクニクニしてるー」
「おいしいー」
「甘いのは油か? いけるな」
ヴィオレとレドは何の懸念もなく腸を口に放り込み味わう、ザックも躊躇なく租借し旨そうにしている。気は進まないがロイドも恐る恐る口に入れる。
表面はよく焼けていてカリカリと香ばしい、噛みしめると甘い脂がじゅわりと染み出てくる、雑に味付けされた塩がまたいい塩梅であった。
「……悪くないな、酒に合いそうだ」
「確かに!」
しみじみ呟いたロイドの感想にザックは大声で同意する、取り分けた腸はあっと言う間に五人で平らげてしまった。
「そういえば、手ぶらで来るのもアレかと思ってな、酒を持って来た」
「お、気が利くじゃねぇか爺さん、夜に飲もうぜ」
「コーン茶も後で煮出すぜ、……誰か来たか?」
五人で暫し地べたに座り談笑していると自らが来た道の方から話し声が聞こえる、五人は自然と無言で道の方を見つめた。
「あ、いた」
「本当だ! ロイド爺もいる!」
「地べたに座って、行儀悪いわね」
最初に小走りで駈けて来たのはカナンとケイルだ。後ろからシーラが追いかけるように歩いてきた。
「キャンプに来たんだぜ? 外で飯食って寝るのに行儀も糞もあるかよ」
「これだから男は……」
ザックとシーラのいつものやり取りを話半分に聞きつつダストは更に後ろから来た人物に気づいた。
「トリルじゃねぇか、珍しいな」
「やぁ、ダストを探してたらここだって聞いたから」
左手で杖を突きながらトリルはゆっくりと歩いてきた。そのままダストの横に腰を下ろす。村の男性の中では長めの赤茶の髪がふわりと揺れた。
「子供達はヴィオレとレドを、シーラはザックを、僕はダストを探して全員ザックの家に辿り着いてね、マーサさんからキャンプに行ったと聞いて馳せ参じたと言うわけさ」
トリルは垂れ気味の目を細め面白そうに経緯を語った。
「母ちゃんから許可は貰ったぞ!」
「自分の分のパンと毛布は持って来たからいいでしょ?」
「ここまで来て帰れとは言わねぇよ、シーラはどうしたんだ?」
「カナンとヴィオレがいて大人の女がいないのもどうかと思ってね、付き添いよ」
カナンとケイルは懇願するように言ったが、ザックはあっけらかんと笑いながら了承する。シーラは言い訳するように理由を述べた。
よく見ると四人全員荷物を背負っていた。食べ物と敷物などを持って来たのだろう。
「よし、昼飯仕込むか、トリルは俺の手伝い、ザックと爺さんはロープと布で屋根作ってくれ、シーラは野菜切る係、お前たちは遊んでていいぞ」
早速カナンとケイルはヴィオレとレドの手を引き湖の方に駆けていった。
「森に入ってもいいけどあんまり遠くに行くなよー」
「「「「はーい!」」」」
大人たちも作業を開始する、ザックとロイドは木と木の間をローブで繋ぎ布をかけ簡単な屋根を作る、下に敷物を並べ自分達の荷物を置いて簡単な拠点作りは完成だ。あとは細かい所をどれだけ凝るかだ。
「煮汁は捨てちゃうのかい?」
「ああ、これは下茹ででな、灰汁ごと捨ててサッと水で洗うぞ、火傷すんなよ」
ダストとトリルは鍋から煮汁を捨て再度水をいれジャブジャブと洗う。
「凄い、結構油出るね、手がベトベトだ」
「旨味のある油なんだが灰汁を取った方が旨いと思ってな、脂もまだまだ出るし」
トリルはニコニコと楽しそうに作業をする。ダストは腸を洗い終わるとそのまま鍋に入れたまま、先ほどヴィオレに行って魔法で出して貰った氷の上に置き鍋の上にも氷を置く、腸は夜飯に使うので暫し放置だ。
スジ肉は再度水を張り火に掛ける、先ほどより火から離し弱火で温める。
「シーラ、人参と玉ねぎ大きめに切ってくれ」
「はいはい」
手際良くシーラはナイフで野菜の皮を剥き切り分けていく、ダストとトリルも途中参加し夕飯で使う分の野菜の下処理を始めた。
「トリルはイメージ通りだけど、ダストも意外に器用なのね」
「何言ってるのさシーラ、ダストは器用だよ? 色々作ってるじゃないか」
「そうなのよね、だらしないイメージがどうしても先行しちゃって」
「本人がいねぇとこで言ってくんねぇかな」
ダストは切り分けた玉ねぎと人参をスジ肉と同じ鍋に加える、少し考えて荷台から小さい容器を持って来た。
「何入れるの?」
「塩と香草を少し、あとはギリの実を乾燥させたやつ」
「ギリの実って薬の素じゃないの? ミシル婆が偶にヴィオレ達に取りに行ってもらってるやつ」
「そうそれ、乾燥させたやつはピリッとした切れ味のある苦みがするんだよ、多分合う」
トリルからの質問に答えながらもダストは香草を刻み実を砕いて混ぜる、そのまま鍋に塩と一緒に加えた。
「大丈夫なのかしら? 薬の素なんて入れて」
「食えるんなら一緒だ、偶々成分に薬効が目立つってだけだろ」
「僕はダストのそういう考え方凄いと思うな」
「トリルはダストに甘過ぎよ」
「そうかな?」
シーラの言葉にトリルは楽しそうに答える、トリルは終始穏やかに笑っている。鍋の準備はこれで終了なのかダストはパンを切り始める。
ザックとロイドも一通り寝床を整えて寛いでいる。鍋が出来上がるまでの間、大人たちは談笑へと洒落込んだ。
「おーいガキンチョー! 飯出来たぞー!」
ザックが声を上げた時、子供達は目に見える範囲にはいなかったが森の方から声が近づいてくる。
「いや! レド! ヴィオレ! 捨てちゃいなさいって!」
「すげー! シュバって捕まえた! シュバって!」
「何か騒いでんな」
四人が森から出てきた、双子が何か手に持っている。
「ダスト、蛇捕まえた」
「食べれる?」
「凄いんだぜ! 茂みから飛び出してきた所を空中で鷲掴みにしてさ!」
ケイルが興奮して話しているように、どうやら繁みをつついていたら飛び掛かってきた蛇を双子が捕まえたらしい。
カナンとシーラは気味悪がって近寄ってこない。
「爺さん、どうなんだ? 食える種類か?」
「毒はない、食えはする」
「味は? 鶏肉みたいな感じか?」
「この森では珍しくない蛇だ。昔野営した時に食ったことあるが淡白な味で小骨が多かった気がする、どちらかと言えば魚に近かった記憶がある」
「よし、試してみるか」
ダストは双子から蛇を一匹ずつ受け取り頭を落とす、ナイフで切れ目をいれ引っ張るとシュルシュルと皮が捲れていった。内臓も皮と一緒に取れたので身を簡単に洗い、少しだけ塩を振って容器に入れる。
「よし、夜飯に使う」
「躊躇い無さすぎだろ」
「食べれるものは多いほど良い、もし旨かったら儲けもんだろ? 皮も何かに使えるかもしれん」
あっさりと食べることを決め躊躇無く捌いたダストにザックが突っ込むが本人は気にしない。
ヴィオレとレドはダストが蛇を捌く様を食い入るように見ていた。
各々持ってきた器にスジ肉のスープを入れる、パンは先ほど事前に切り分けたものを配った。
「よし、食うか!」
ザックの一声を合図に青空の下でのお昼ご飯が始まった。
「このスープ、冗談抜きで美味しいわね」
「本当だ! 前にダストが作った骨から取るスープとはまた違った感じだね」
「いやダスト、これ本当旨いわ」
シーラ、トリル、ザックの同年代には軒並み好評であった。
「スジ肉も煮るとここまで食べやすいのだな」
「今回はお試しだからそこまでだが、もっと水を足しながら似れば更に旨味がスープに出て、スジ肉もホロホロ崩れるくらいにはなると思う」
「そうか、棄てたり雑に焼いて食うのは勿体ないな」
ロイドも美味しそうに食べている、ダストも改善の余地を述べながらスープに浸したパンを大口を開けて頬張った。
子供達も四人でワイワイしながら食べているので好評なのだろう。
「これお好みで入れろ、多分パンに合うようになる」
ダストが持ってきた容器には自家製のバターが入っていた。
「濃厚になってガツンとくるな!」
「うん、バターは合うね」
疑うこと無くザックとトリルは一欠片放り込み試していく、牛の旨味をバターがまろやかに包むがねっとりと濃厚な重たいスープ感がパンと良く合う。
春にしては気温も高く天気も良い、ロケーションも解放感があって悪くない、少し騒がしい試食会兼昼食の時間は和やかに過ぎていった。
昼ご飯も終わり、大人達とカナンは煮出したコーン茶で食後休みと洒落込んでいた。
見える範囲でレドとケイルが木の棒でチャンバラごっこをしている、見た所首から上は無しで胴体部分に棒を当てられた方の負けというルールを勝手に作って遊んでいるようだ。
最初はヴィオレもカナンと並んで見ていたが、その内参加してしまった。レドとケイルはレドの圧勝だったが、レドとヴィオレは互角のようで全然勝負がつかない。
「やっぱあの二人はすげぇな、熊の件でも思ったが動きが速いんだ。ケイルだって同年代だったらかなり動ける方なんだけどな」
「狩りの最中も凄いぞ、高い枝にピョンピョン飛び乗る、他の狩人も身のこなしだけならあの二人に敵わん」
感心したようにザックとロイドが双子の攻防を見ながらお茶を飲んでいる。
「熊殺し殿なら勝てるんじゃないか?」
「馬鹿言え、あれは二人の魔法で死にかけてた熊にとどめを刺しただけだ」
茶化すダストにザックは笑いながら否定した。
「ダスト! 勝負して!」
「勝負!」
「ほら呼んでるぞ、冒険者殿のお手並み拝見だな」
ヴィオレとレドがダストを呼ぶ、ザックはここぞとばかりに茶化し返した。
ダストは渋い顔で抵抗を試みた。
「子供だけで遊んどけよ」
「やだ! 遊んで!」
「相手して!」
「遊んで上げなさいよ、ちょっとくらい」
「たまに帰ってきたときくらい相手してやれ」
「遊んで上げなよ、ダスト」
一言抵抗したら四方八方から非難されたダストは、味方はいないと悟り、大きな溜め息を付きながら重い腰を上げるのだった。




