臓物キャンプ
「なぁ、お前ら好きな奴いるか?」
「どうした急に」
時刻は昼下がり、村の東にある木材置き場の隅、ポカリと空いた場所、子供達の溜まり場の一つで投下された話題に突如緊張感が走った。
「いやほら、俺ら次で十五になるじゃん? すぐにとはいかないけど結婚できるようになるしさ、皆どう考えてんのかなって」
少し恥じらうように村の少年、ナスリが切り出した。
いつもの様に仲間内で集まったはいいものの特にする事も思いつかず、溜まり場の一つでお喋りに興じていた少年達、多少興味はあるのか全員周りの出方を伺うが話題を逸らそうとする者はいなかった。
「……俺はミルが少し気になっている」
色黒の少年、エディーがボソリと口火を切る。
「ちなみにどんな所が良いんだ?」
「笑った顔が可愛い」
「なるほど」
エディーの発言によりそれまで黙っていたソバカスの少年、ルードも続く。
「僕はアメリが気になる」
「ちなみに理由は?」
「おっぱいが大きい」
「ストレート過ぎて逆にポイント高いな」
なんのポイントかはわからないがルードも乗っかったことにより、異性の話題が盛り上がりを見せる。彼らも絶賛思春期真っ最中である。
「なんだかんだカナンって可愛いよな」
「それな、でもやっぱりヴィオレだろ」
「ヴィオレは整い過ぎてて緊張するんだよなぁ」
「でも喋ったらポヤポヤしてるギャップがいいんじゃないのか?」
「同意せざるを得ないな」
「一周回って優しさって一番大事だと思う」
「深いな……」
思春期トークが止めどなく続く、しばらく各々自分の気持ちをぶつけ合っていたがケイルが流れを変えた。
「なぁ、好みとか性格とか一旦抜きにしてよ、見た目だけだったら誰が一番可愛いと思う?」
「「「女装したレドだろ!!」」」
即答だった。半数近くがビックリするくらい即答だった。なんだったら若干食い気味ですらあった。
「で、今日レドはどうしたんだ? 呼んでないのか?」
一頻り思春期トークで盛り上がり、落ち着いてきたころにポーロが気づいたように問うた。
「呼んでもこねぇよ、忘れたのか? 帰って来てんだろ」
ケイルがつまらなそうに言った。少し拗ねているようにも見えた。
「あぁそうか、あのダストって人か、ザック兄ちゃんと違って全然喋った事ないからどんな人かわからないんだよなぁ」
「あの人いる間はヴィオレもレドもベッタリだからなぁ、優しそうに見えないけど何が良いんだろうな?」
それからも少年たちの雑談は遅くなるまで続いた。
「やっぱり男って頼りがいだと思うの」
「じゃあケイルとかって事?」
「えー、私はトリルさん見たいな優しいイケメンが好き」
「年上過ぎるでしょ、まぁイケメンだけど」
同時刻、カナンを含む少女達も集まりガールズトークに花を咲かせていた。
「十個上なら問題無いでしょ、年取ったら誤差よ」
「じゃあザックさんは? トリルさんと同い年でしょ? 頼りがいが服着て歩いてるような人だし」
「ザック兄狙うならライバルはシーラ姉よ? あんた村一番の器量良しと戦える?」
「勝ち目ないわね、ていうかシーラ姉もさっさと告白すればいいのに、いつまで初恋拗らせてんのよ」
少年達のそれと比べ、同年代以外も話題に上がる生々しい内容であった。
「でもあのダストって人は嫌だわ、頼り無さそうだし、優しくもなさそう」
「そうね、ヴィオレも何であんなに懐いてるんだろう?」
「ヴィオレのあれはそういう好きじゃ無いでしょ」
「確かに」
「あんた達今は良いけどヴィオレの前であの人の事悪く言っちゃ駄目よ? あの子の事だから怒ったりしないけどビックリするくらい機嫌悪くなるわよ?」
仲間達にカナンが釘を刺す、「分かってるって」と適当に返しガールズトークは尚終わらない。
「村だと結婚相手限られるわよねぇ、騎士様とか憧れるわぁ」
「知り合えないでしょ」
「だよねぇ、出会えて隣の村か行商人くらいだもんねぇ」
「そうだ! 今度ヴィオレとレドに男装してもらってダブル王子様堪能させて貰いましょうよ!」
「レドに王子様の格好させることを男装って言うのやめて上げなさいよ」
夢を見ては現実に戻され少女達は忙しい、全く預かりしらないところで着せかえ人形に成ることが決定したヴィオレとレドであった。
余談だが近い未来、騎士達と初対面をすることになるが、この時の彼女たちは知る由もなかった。
ホビロ村に帰ってから数日はダラダラしていたダストだが今日は違った、天気が良いことを確認するといそいそと出掛ける準備を始める。
荷台を用意し、そこに大きい鍋を数個、家にあった食材、ロープを初めとした何に使うか分からない物を次々と荷台に乗せていく。
「どこか行くの?」
ダストが振り向くと自宅からヴィオレとレドが不安げに顔を出していた。
「ああ、ちょっと試したい事があってな、西の湖まで行ってくる」
「新しい料理? 家でやらないの?」
「ちょっと匂いが出そうなんだよ」
「……、一緒に行っていい?」
「なんだぁ? 何も言わなくても勝手に着いてくるもんだと思ったが、行かないのか?」
「「っ! 行く!」」
モジモジと様子を伺っている姿から一転、嬉しそうな顔で家から飛び出してきた。
「一日掛けて色々試したいんだよ、なんなら湖の畔でキャンプでもするか? 今日暖かいし」
「キャンプ? する!」
一緒に何かできるのが嬉しいのか二人は楽しそうだ。なぜここまで懐かれているのかダストには全然わからないが、偶に帰ってきた時くらい構ってやってもいいかという気持ちになった。
「じゃあやるか料理実験キャンプ、ヴィオレは魔法で氷とか水とか出せるようになったんだろ? どれくらい出せるんだ?」
「たくさん」
「ほう、ではヴィオレはお水担当大臣に任命します」
「はい!」
「おいおい、イベントにはノリが大事なんだ、そこは『拝命します』だろ」
「拝命します!」
「よろしい」
ピコンと右手をまっすぐ上げて返事をするヴィオレ、中々ノリがいい。
「ダスト、僕は?」
「ではレドは、火付け担当大臣に任命します」
「拝命します!」
レドも嬉しそうに右手をまっすぐ上に上げて返事をした。ヴィオレを見てやってみたかったのかもしれない。
「よし、まだ準備するものもあるし早速出かけるぞ」
ご機嫌の双子を引き連れて、ダストは台車を引き歩き出した。
「こんにちはー」
「ん? あぁヴィオレの嬢ちゃんか、こんにちは」
あの後ヴィオレとレドはダストに言われたお使いの為一旦別行動となった。
ヴィオレは牛を扱っているデニスの所へ物の受け取りを言い付けられ、受け取り後ザックの家の前で合流する算段である。
「昨日ダストに言われたから用意したけど、これ本当に食うのか?」
「成功したら美味しいって言ってた」
「成功したら教えろって言っておいてくれ、あと結構臭うから気を付けろよ」
「わかった、ありがとう」
ヴィオレはデニスから金属製のバケツを二つ受け取る、中は蓋がされていて見えないが確かに少し生臭い。
「気を付けろよー」
デニスの声に見送られながらヴィオレは村長宅まで駆けていった。
「あら、レドいらっしゃい」
「こんにちは」
レドもお使いで豚を扱っている家まで来ていた。玄関では娘のキファが待っていた。
「お使い? 良い子ね」
キファは片手を伸ばしレドの頭を優しく撫でる。レドは大人しく身を任せる。
キファはレドより年上の十八歳である、年下の男の子は照れるのかあまり撫でさせてくれないが、レドとヴィオレは大人しく撫でられるので歳上の女性陣達からは結構可愛がられていた。
「はいこれ、『こんなに脂身だらけの所でいいのか?』ってお父さんが言っていたけど大丈夫なの?」
「大丈夫だと思う、ダストが美味しくしてくれる」
「あらそう、上手く出来たらお姉さんにも教えてね」
「わかった!」
植物性の繊維で編まれた籠を受け取りレドはザックの家に向かう。
「本当可愛いわぁ、あんな弟欲しかった……」
その後ろ姿をキファは物欲しげに見ていた。
双子にお使いを命じたダストは荷馬車を引きザックの家に到着した。修繕したてだという玄関扉を叩く。中からマーサが顔を出した。
「あらダスト、どうしたの? 夜逃げ?」
「違ぇよ、冬余った備蓄の野菜貰えねぇかな?」
「また何か試すのかい? いいよ、納屋から好きなだけ持っていきな」
「おい、ダスト来てるんなら呼べよ」
マーサとの話の最中、後ろからザックが割って入ってきた。
「ん? 何か試すにしては大荷物だな」
「匂いが強そうだから湖の畔でやろうと思ってよ、どうせだからガキ連れてキャンプと相成ったわけだ」
「面白そうだな、俺も行くぜ」
キャンプの話をするとザックは即答で乗っかってくる、マーサはそれを見て苦笑した。
「悪いんだけどダスト、そういうことだからザックも任せていいかい? 上手く出来たらザックにレシピ伝えて貰える?」
「わかった、今回は旨い自信あるぜ」
玄関口で話している間に双子がそれぞれ荷物を持って戻ってきた。
「ダストー、貰ってきたー」
「いっぱいくれたー」
「荷台に乗せてくれ、あとザックも参加することになったぞ」
荷物を荷台に乗せた二人がこちらに来る。楽しそうな二人の様子にマーサは顔を綻ばせた。
「二人とも遊んで貰えてよかったねぇ、たくさん甘えておいで」
「「うん!」」
マーサは二人の頭を優しく撫でる。頭を撫でていているマーサの方が何故か嬉しそうに見えた。
湖へ向かう四人を見送りマーサは家の中に戻る、居間に入ると座っていたヒューイと目が合った。
「ヴィオレもレドもダストの前だとちゃんと子供っぽい顔するのよね、普段が聞き分け良すぎるからはしゃいでいる姿を見ると安心しちゃったわ」
「そうだな、たくさん甘えればいいんだ。奴隷だろうがエルフだろうが、まだ子供なんだから」
「む、どこかいくのか?」
「あ、おじいちゃん!」
四人で湖へ向け出発すると、見回り帰りのロイドと出会った。ロイドは荷台の荷物を怪訝な顔で見つめていた。
「お爺ちゃんも誘っていい?」
「ん、好きにしろ」
二人はロイドをキャンプに誘う、ロイドは少し考えて結局了承した。一度家に帰ってから現地に赴く旨を伝えその場を後にする。
「五人か、結構増えたな」
「色々試したいから丁度いい、味見兼消費役が増えるのは歓迎だ」
「食うのは任せろ、ていうかそのバケツ結構匂うな、何入ってんだ?」
荷台を後ろから支えていたザックが生臭い匂いを放つバケツを見る。
「牛の内臓だ、今日一頭潰すって聞いていたからな、有難く貰う事にした。というか今日のメインディッシュだ」
「お前のその食に対する好奇心は何なんだよ? まぁ、食える物が増える分には大歓迎だが」
談笑しながら荷台を引く、村から森へ入る、西の湖は釣りへ行く村人もいるため簡素だが道が出来ている。ガタガタと揺れる荷台を大人二人で前後を支えながらゆっくりと進んでいく、ヴィオレとレドは楽しそうに荷台の乗ったり偶に道をそれて森へ入っては戻ってきたりとはしゃいでいた。
「ダスト、ザックは何の担当?」
「雑用だな」
荷台に乗っているレドから尋ねられたダストは適当に返事をする、その返事を受けた双子は得意げな顔でザックに振り返り宣言した。
「「ザックは雑用担当大臣に任命します!」」
「はいはい、わかりましたよー」
「ザック違う!」
「拝命して!」
「え、どういう事?」
「拝命しますって言って! ちゃんと手を上げて」
「あ? えーと、拝命します?」
雑用係を了承した筈なのになぜかダメ出しをされたザック、とりあえず言われるがまま右手をあげる。そのザックの様子を見て双子は満足げに頷いた。
「ダスト、なんだこれ?」
「気に入っちまったみたいなんだ、悪いが付き合ってやってくれ」
そんなやり取りを挟みつつ、四人は湖へと進む。天気は晴れ、準備も抜かりなし、気分は上々、絶好のキャンプ日和である。




