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ゴミクズバイオレット  作者: つかさ
ゴミクズ冒険者

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2/15

厄介事2

「これに五百枚の金貨が入っている」


 そう言って男は目の前のテーブルに大きめな革袋を投げつける。重たい音を立ててテーブルが軋んだ。


 身柄を確保された後、四人の男に周囲を固められ、連行されたのは更に南の富裕街にある宿だった。

 その中の一室に通され、そこには部下らしき二人の男に守られるように、貴族めいた小綺麗な服を着た男が待っていた。

 ダストと貴族めいた男を含めて室内に八人いるのにも関わらず、窮屈さを感じさせぬ広い部屋だった。

 同行した四人の内半分はダストの背後に、残りは左右に散った。

 

(こいつの歯並びぐらい趣味の悪い部屋だ)


 室内の派手な調度品を観察しながらダストは耳を傾ける。


「金貨と言ってわかるか冒険者? お金だ。お前の知ってる銅貨や鉄貨で換算しようとするなよ? 虚しくなるだけだ」


 落ちた衝撃で袋の口が開き、中身が少し見えている。


「それを持ってお前にはある物を購入し指定の場所に持ってきて貰う、簡単だろう? 依頼に出していた通り『荷運び』と言うわけだ」


「自分で買えば良いのは?」


 自分でも無意味だと思う問いを敢えて伝える。

 すると男は「理解できんとは思うが」と、嫌みったらしい前置きを添えてから喋り出す。


「下賎の者に仕事を下ろしてやるのも高貴なる人間の勤めだ。市井に金を落とし経済を回す、政治と言うやつさ」


(世界はそれをパシリと呼ぶんだぜ)


ーーしかし。

 と、ダストは思考を巡らす。

 目の前の男が言う学があるようで無い詭弁はさておき、取り敢えず従うしかなさそうだ。

 その買い物とやらは、自分達で実行するには何かしらの理由で都合が悪く、第三者を挟む必要があった。

 その第三者としてこれからダストが利用される。

 キナ臭い事この上ないが、現時点では男の言うようにお使いを頼まれているだけだ。違法や違反は示唆されていない。


「場所は西の門外広場、お前は金を持ってそこに行け」


 男は懐から一通の封筒を取り出す。


「あとはこれを商人に渡せ、お前はただ金を払い、商品を受け取り、東門近くにある倉庫まで持ってくるんだ。ほら、わかったらさっさと行け冒険者」 


「……はいよ」


 ダストは封筒と金貨を受け取り席を立つ、扉に手を掛けた所で足元に何かを投げつけられた。確認すると一枚の銀貨であった。


「小遣いの前払いだ、受け渡しの際にもう同額渡してやる」


「そいつはどうも」


 ダストは依頼の達成報酬よりも高い前金を大人しく拾い、外に出るのであった。




 貴族じみた男以外はダストと共に宿を出て散開し、今は少し離れた位置で囲むように随行している。


(まぁ、そりゃ監視されるわな)


 早々にギルドへの寄り道を諦め、最短距離で歩を進めると一刻も経たぬ内に西門を抜け目的地に着いた。


 タキミには東西南北に町へ出入りするための門が存在する。

 それぞれの門の外には開けた場所が設けられており、通称門外広場と言われていた。

 街には入らず夜営する者や、通行人に対して商いを行う者等でそこそこの賑わいがある。


 しかし今日の西門外広場は様子が違った。

 大きな幌が複数建てられ、駐留している馬車もかなり多い。

 隊商が市でも開いているのか、人数が多い。


ーー変な感じだ。

 感じた違和感を探すためダストは周囲を見渡す。

 普段より賑わっているのに活気があるとは感じない。街中ではなく門外広場で市を開いたのも何か引っ掛かる。


 そこまで考えたところで視界に監視の男が入ってきた。最初の糸目の男だ。

 目が合った事を悟った男は顎で一際大きなテントを指した。あそこへ行けと言う事なのだろう。大人しく従う事にした。


「ご用件は?」


 テントに近づくと入口の両脇に待機していた男の片方から声がかかる。ダストを上から下まで観察しつつ男は進行方向を塞いだ。


「これを責任者に」


 封筒を渡す、受け取った男はもう一人の男に目配せし封筒をもってテントの中に消えた。


「お待ちを」


 控えていたもう一人がそう言って入り口を塞ぐ。

 暫くして最初の男が戻り、もう片方に軽く耳打ちしたあと「どうぞ」と中に招かれた。




「いらっしゃいませ、ようこそ黒猫旅団商会へ」


 中で待っていた商人は意外にも女だった。

 スカートではなくズボン姿、上はシャツと灰色の毛皮のベストで全体的に落ち着いた印象だ。

 艶のあるダークワインレッドの髪はアップにされており、上品な微笑みを浮かべた若い女である。


ーー残念歯並び野郎よりセンス良いな。

 と、失礼なことを考えていたダストだが、どう対応するのが適切かわからないので取り敢えず目礼を返した。


「私、メリーチカが対応致しますわ」


「ダストだ、よろしく頼む」


「ご要望は先程の封書にて確認致しましたわ、失礼ながら先にお代を確認しても?」


 金貨の入った袋を出すと後ろに控えていた部下らしき男が出てきて受け取り、見える位置にある机で金貨を数え始めた。


「では、待ち時間で商品の確認をしていただきます」


 テントの奥、布で区切られている方に向かってメリーチカが「お品物をこちらに」と声をあげた。

 時間を置かず運ばれてきた、いや、連れてこられた『商品』を見てダストの顔が強張る。


 それは二人の子供だった。


「ご要望の奴隷です。どうぞ確認ください」


 メリーチカの声が妙に遠くに聞こえた。




 連れてこられた二人の子供の両手両足には枷が嵌められていた。

 最低限の身なりだけ整えられており、一枚布で出来た簡素な服を纏っている。

 二人とも灰色なのか白なのか判断に困る髪色でその顔からは何の感情も読み取れない。

 特に目を引くのは頭髪からはみ出た、長い耳だった。


「ご要望にあった双子のエルフですわ」


 ダストが返答できずにいてもメリーチカは続ける。


「このエルフの入荷をご存知なんて、そのお耳の速さに感服致しますわ」


 ダストが言葉を失い挙動不審になっている状態を見ても、メリーチカは不審な視線を送ること無く対応を続ける。

 逆にダストはそれを気持ち悪く感じた。


 「メリーチカ様」と、金貨を数えていた部下がメリーチカに声をかける。


「お代の確認が取れたようです。問題なければ契約に移りましょう?」


「け、契約?」


 部下の目配せを受け商談を次の段階へ促すメリーチカに、状況について行けないダストが思わず問い返す。


「あら? 奴隷の購入は初めてでしたかしら? 配慮が足らず申し訳ありませんわ」


 上品に頭を下げるメリーチカを視界に納めつつも、ダストは厄介すぎる商品に混乱していた。

 ダストは奴隷関係の法に詳しいわけでは無いが、奴隷の購入自体は合法であることは知っている。

 ただ、実際に購入したことはもちろん無い。

 メリーチカは契約と言った。自分は契約者として何かしらの手続きを行うのだろう。自分が契約者となる事によるリスクに想像が付かない。


(あのパニック歯並び貴族野郎は自分が直接契約者になることを避けた、その理由がわからん。……だが)


 奴隷購入が合法である以上、これは買い物だ。

 このまま契約を進め、契約内容がダストの身を滅ぼす可能性が出てきた場合、なんとか逃げ出し監視を撒いてギルドに報告する。逃げ切れるかどうかは別として。

 一時的に契約者になっても問題ないと判断したらそのまま手続きを完結し、受け渡しに赴く。


(それしかないか)


 ダストは腹を決めた。




 商会の部下が何やら道具を持ってきた。

 赤黒い素材で出来た台座の様な物と、五寸釘を大きくしたような片側が鋭利な金属だ。


「サインとかは必要ないのか?」


「ええ、現在の奴隷法ではこの魔法道具、『奴隷契約血錠(けつじょう)』を用いた方法でしか購入も譲渡も出来ません」


 メリーチカの説明は続く。

 書類は必要なく、この道具を使い契約した時点で対象の奴隷との主従が魔法契約で締結する。

 購入と譲渡は金銭のやり取りが発生するかの違いしかない。


「現在私が扱っている奴隷は、都合上私と主従契約を結んでおりますわ」


「なるほど、じゃあこれからアンタから俺へ譲渡して終いか」


「仰る通りです、ちなみに再譲渡する際も同様の手順です。『奴隷契約血錠』を所持している商人を立ち会わせるか、教会から使用料を払い借り受ける必要がありますが」


 再譲渡が可能という一番気にしていた事が判明したためダストは取り敢えず納得することにした。


「では、こちらの台に手を」


 納得はしたが利き手を預ける気にはならず、ダストは左手を台に乗せる。


「では、始めます」


 メリーチカは大きな五寸釘のごとき『奴隷契約血錠』を手に持ち、言葉を紡ぐ。


「奴隷「九番」と「十番」の権利を貫かれし者へ……」


(え? 貫く?)


 物騒な言葉に気を取られた瞬間、手の甲のど真ん中に魔道具が突き立てられた。


「っんがぁぁぁああ!!」


 突然の痛みに悲鳴が漏れる。


「ダスト様、少しチクっとしますわ」 


「刺してから言うなや! 控えめに言ってドスッとしただろ!」


 瞬間、貫通した手を中心に光が点り、何かの模様を形作る。

 視界の端で、双子の左の鎖骨付近も光を放っていた。

 光が収まるメリーチカは魔道具を引き抜き、近くに用意されていた布で魔道具から血を拭う。


「てめぇっ! くそっ!」


「ご安心を、終わりましたわ。お手をご覧ください」


 不意打ちとその痛みに混乱の極致にあったダストだが、左手の穴は既に塞がり、見慣れない紋様が赤く左手甲に浮かび上がっていた。


「それは『主の紋』、奴隷には『従の紋』が浮かんでいますわ。『従の紋』に関しては一般的に奴隷紋とも呼ばれる事もございます」


 既に痛みも引いているが、恨みがましく睨んだままのダスト、そんな視線を受けてもメリーチカは全く気にした様子はない。


「「九番」と「十番」というのは便宜上その双子に付けていた名前なのでお気になさらず、お好きに名付けください」


「……そうかい」


 何を言っても無駄だと察したダストは言葉を引っ込める。


「では、またのご利用をお待ちしております。黒猫旅団商会、奴隷部門統括『錆色のメリーチカ』が担当致しました」


 恭しく礼の姿勢を取るメリーチカ、たまたまその両手に目が行き、ダストは息を呑んだ。

 その両手には、手の甲にも掌にも、重なり合うように、夥しい数の『主の紋』で埋め尽くされていた。


 紋が重なり赤黒く見えるその両手は、錆びた鉄の様な色をしていた。




「見かけによらず裕福なんですね、今の客」


 今しがた奴隷を購入した客を見送った後、部下の男が何の気に無しに言った。

 それに対してメリーチカは溜め息を隠さなかった。


「そんな訳無いでしょう、あなたは少し深慮が足りないわね」


 接客用の姿勢を辞め、上司として苦言を呈する。


「あの奴隷を欲しがっているのは別の人物で、さっきの客は代理で購入に来たのでしょう」


ーー買う商品も聞かされないまま。

 そう言い、メリーチカは懐から封筒を取り出す。

 最初にダストから渡された封筒、中の文章は稚拙な内容だった。


 ひとつーー最近入荷したと聞く双子のエルフの子供を買いたい。


 ふたつーー相場より高い金を出すから取引内容は他言無用、取引後存在しなかったと認識してほしい。


 みっつーーこの文章は持参した本人が書いたものだ、忘れないように文にしたためただけなので気にしないでほしい。


「簡単にまとめると以上の内容が書かれていたわ、馬鹿よねぇ」


 照明用の蝋燭の火で封筒を燃やしながらメリーチカは続ける。


「エルフの奴隷がどうしてもほしい、だが何かしらの理由があり直接契約が出来ない。さて、どんな理由が考えられる?」


 部下の男は「そうですねぇ」と少し考え、考えを口にする。


「まず、うちの出禁リストに入っている可能性でしょうか。あとは顔を見られたくなかったり……」


「そう、取り敢えず細かい事情は置いておいて『自分が奴隷を買ったと周りに知られたくない』って事は間違いないわ。さっきの文章もあるし」


「間に一人挟んだとして結局譲渡を行えば『主の紋』が浮かぶので無意味では?」


 部下の疑問にメリーチカは「そうね」と相槌を打ち答える。


「例えばさっきの客が黒幕の部下の場合、部下の奴隷としてそのまま管理する方法もあるけど……、さっきの男は何も知らなすぎなので多分違うわ」


「ではあとはどんな可能性が?」


「さっきのダストという男は十中八九、金持ちの物欲に巻き込まれた可哀想な被害者よ、そして多分今日中に殺される可能性が高いわ」


 メリーチカの言葉に部下の男は怪訝な顔をする。


「殺害ですか?」


「そう、殺して契約が解ける。奴隷ではなくなった双子を奴隷ではなく実質支配しようとしているんじゃないかしら」


「子供とはいえ魔法に長けるエルフですよ? 成長して力を付けたら奴隷という強制力無しに従え続けられますかね」


 そこまで聞いてメリーチカは笑った。


「服従させれる自信があるか、そこまで考えていないか、……あのお粗末な手紙の内容を見ると後者も十分可能性があると思うのよね」


 部下の男は「そんなことあります?」と言い募ったが、メリーチカ様が言うのならあり得るのか? と一人で考え事を始めた。


 そんな部下の姿を笑って見つめながらメリーチカは思う。


(奴隷契約血錠に貫かれるのが怖くて直接契約出来ないっていう情けない貴族もいたわね)


 きっとどこかの貴族の小倅の物欲が暴走でもしているのだろう。精々我が商会の部下の想像力を鍛える教材にでもさせて貰おう。


ーーそれにしても、あの名前。

 とメリーチカは契約時の魔方陣を思い出す。


(私も知らない文字だった、異国の生まれには見えなかったけど……)


 奴隷契約血錠で発生する魔方陣には主人と奴隷の名前が表示される。名乗った名前ではなく当人が自分だと認識している名前だ。

 「九番」と「十番」は自分の名前を知らないのか何も表記が出なかった。ただ、主人の名前として浮かび上がった文字は、男が名乗ったダストという名前の他に、見知らぬ言語が重なるように浮かんでいた。


『五味 葛男』と

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