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ゴミクズバイオレット  作者: つかさ
ホビロ村

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14/15

森の美食家2

 冬のホビロ村の朝は冷える。

 名残惜しそうに寝床から這い出したヴィオレとレドはいそいそと上に何枚か重ね着をする。寝ぼけ眼で竈に火を入れ湯を沸かす。


 湯が沸き始めるとレドは壺を一つ開け、用意した二つの木製コップに中の液体を少量程注ぐ。ダストが帰省していた時に一緒に仕込んだ生姜のシロップである。

 そこに蜂蜜と適当に選んだ柑橘類のドライフルーツを加えたところで、ヴィオレが湯を注いだ。


 昨日作ったスープ入りの鍋を竈に置き、近くにパンと干し肉を置いて一緒に温める。朝餉が温まるまでの間、双子は寄り添って飲み物を啜った。




 十四歳になったヴィオレとレドは成長するにつれダストの家で生活する時間が長くなっていた。今でもヒューイやロイドの家を中心に他の村人の家に招かれることも多いが、二人はなるべくダストの家で生活することを好んだ。


 日中は同年代の友達と遊んだり、ロイドと狩りをしたり、他の家の仕事を手伝ったりと一四歳になった双子はすっかりと村に馴染んでいた。

 ダストに料理を教わっている双子は生活に困る事もなく、ダストが冒険者業で留守にしている間もそつなく二人暮らしをこなしていた。




「ダストが言ってた通りだね、汁物は一度冷ました方が具に味が染みるって」


「うん、今度は根菜を沢山入れよう」


 一晩経って旨味が増したスープは朝食としては中々上等だ。ダストが好む生姜を使った味付けは体の芯を暖めてくれるようで二人もお気に入りだった。

 自家製のバターをパンに塗り、上から干し肉をナイフで削りかける。

 口いっぱいに頬張れば、干し肉の塩味とバターの相性の良さに眉尻が下がる。


「皆で狩りに行くんだよね?」


「大きい獲物だったらいいね」


 今日二人は何時もより早く起床している。詳細は知らないが狩人と若い衆で森に入るらしいのだ。

 ペロリと朝食を平らげた二人は、自分達も一緒に森に入るものだと疑わずに狩りの支度を始めるのであった。




「人気者ね、あんた達」


 カナンが笑いながら言う。視線の先には幼子に群がられているヴィオレとレドが座っていた。


 レドは肩口まで子供によじ登られて耳を引っ張られているが気にした様子はない。

 少し小さな女の子がヴィオレの髪を三つ編みにしていたが好きにさせている。


 他にも二人の膝の上には幼児が何人か乗っている。無視をしているわけではないらしく、抱っこをせがまれれば応じ、転びそうになれば支えたりと以外に面倒見は良いようだ。


「お留守番だって」


 ヴィオレが僅かに頬を膨らませている。

 今朝、一緒に森に入る気満々でロイド達のいる広場に向かった二人だったが、ロイドから留守番を言い渡されたのだ。


「俺の杞憂で済めばいいが厄介な事になる可能性がある。俺たちが森に入り、残った男衆が村の守りを固める。子供達と戦えぬ者達は村の中心に集める、お前達もそこにいろ」


 自分達も手伝うと二人が言ってもロイドは頑なに首を縦には振らなかった。


 そのままロイド達は森に入り、残りの男達は村の見張りをしている。

 残りの女子供、老いた村人はヒューイの家を含む、大きな家七ヶ所に集められていた。

 ヴィオレとレドは他の村人と一緒にヒューイの家で留守番をする事となったのだった。


「もう、不貞腐れないの! 仕方ないでしょ」


 カナンが膨らんだヴィオレの頬を指で押す、音を立てて空気が漏れていった。

 今は昼前、今朝森に入った男達はまだ戻ってきていない。

 幼児達がヴィオレとレドの所で大人しくしている隙を突いて、母親達は協力して昼食の準備をしている。

 森に入った男達が戻ってきた際に一斉に昼食が始まる予定のため台所は今大忙しである。


「でも大袈裟よね、わざわざ皆集めて森に入るんだもの、どうせロイド爺の取り越し苦労よ」


 カナンは双子の近くに座り、離れていこうとした幼児を一人膝に乗せて確保する。


「ま、私はあんた達とお喋りできるからいいんだけどね」


 レドとヴィオレはカナンと何気ない話をしながら部屋の片隅を見る。そこには今日使う予定だった狩りの道具が静かに鎮座していた。




「うぅ、冷えるな」


 ネイトは持っていた斧を雪に突き立て、手袋を擦り合わせる。ネイトは森に入った一団とは違い、村に残って見張りをする班に割り当てられていた。

 周りを見ると同じ間隔で配置されている仲間たちも思い思いに体を動かし体温が下がらない様にしているようだ。


「早く解決して暖かい飯を食いたいもんだ。……ん?」


 ふと視線を元に戻すと違和感を感じた。

 ネイトは仲間たちが入った森側の見張りの位置にいた。視界に移る色彩はほとんどが白で埋め尽くされ、まばらに雪が被っていない木々が見える。早朝から飽きるほど見飽きた景色だ。


 白に埋め尽くされていた世界にインクを垂らしたかの様にポツリと黒い点が見えた。異変を感じネイトは目を凝らすと黒い点が少し大きくなった様に感じた。

 次第にその点はどんどん大きくなり、形も円ではなく素早く動いている。


「おい! 何か近づいてくるぞ!」


 ネイトは本能的な恐怖を感じ大声で叫ぶ、他の見張りも近くに駆け付けた。


「狼か!? いやデカいぞ!? ……おいマジでデカいぞ!?」


 さらに大きくなる黒点、いやもうそれは点ではない、明確に生き物だと認識できるころにはそれの息遣いが聞こえた。体積が大きい生き物特有の低い呼吸音、振動が伝わってきそうなくらい力強く重い足音、巨大な体躯。


「熊だぁぁあああ!!」


 誰かの叫び声と同時に、村を囲む柵を飛び越え、その巨熊はいとも簡単に村への侵入を果たした。


「う、うぉおおお!!」


 想像以上の存在の強襲にパニックになった村人たちだったが、勇敢な村人の一人が用意していた松明と鍬を高く掲げ咆哮を上げる。

 その咆哮になんとか気を持ち直した他の村人も同様に威嚇を始めた。自然豊かな村に住んでいる長年の経験が彼らにはあった。親から子に引き継がれてきた経験則、背中を見せて逃げるのは悪手、混乱と恐怖の中でもそれに縋って勇気を振り絞る。


「お、おい止まんねぇぞ! くそぉ!」


 それでも巨熊は止まらない、気にした様子も無ければ吠え返すこともしない。全速力で距離を詰め続ける。

 勇気か恐怖か、どちらが切っ掛けかはわからないがネイトは覚悟を決めて斧を振りかぶる。鼻っ面に一撃入れることで状況が好転することを信じた。


「食われてたまるか!」


 全力で斧を振り下ろす、しかし大きな体躯に距離感とスピード感が狂わされていた。巨熊の頭に叩きつけたのは刃ではなく柄の部分、失敗したと気づいた時にはネイトの体は宙に浮いていた。圧倒的な質量差にネイトは木の葉のように吹き飛ばされる。目を見開いている村人たちがスローモーションで感じる事ができた。


ーー食われる


 積もった雪に落下したネイトは死を覚悟する、痛みを感じる余裕はなかった。


「……え?」


 しかし巨熊は吹っ飛ばしたネイトに見向きもせず、村の中心へ走り抜けていった。


「ネイト大丈夫か!?」


「生きてるか!?」


 直ぐに仲間達が駆け寄ってくる。


「それよりあの方向はヤバイ! すぐにっ!? 痛っでぇ!?」


 慌てて起き上がろうとしたネイトだが、そこで初めて自身の両腕の激痛に気付き堪らず崩れ落ちる。


「馬鹿野郎! 動くんじゃねぇ、折れてるかも知れないぞ」


「おいチャック、そのままネイトを屋内まで運んでくれ、他は全員であの熊を追うぞ」


 チャックと呼ばれた青年に背負われたネイトは熊が向かった方角に目を向ける。


「頼むからそのまま村を通り過ぎてくれよ」


 懇願するようにネイトは呟く、熊が向かった進路は村の真ん中を突っ切る進路、女子供達が待機している家々がある方角でもあった。




「本当、ヴィオレとレドがいると子供が預けれるから助かるわ」


「そうね、ちょっと悪いけどもう少しだけ面倒見てて貰いましょうか」


 食事の下拵えを終え、小休止とばかりに少し空いた時間で女性陣は雑談へと興じていた。

 視線の先には小さい子に群がられているヴィオレとレド、そしてその二人とお喋りに興じるカナンの姿がある。

 村長のヒューイや高齢の男性陣も一塊になって何か話していた。


「ねぇ、何か外が騒がしくない?」


「え? そう?」


 耳を澄ますような仕草で言ったシーラの一言に、自然と回りの人間も口を閉じ耳を澄ませた。

 室内には子供達の笑い声や話し声だけが残った。


「カナン、ごめんねぇ、少しだけ静かにしてくれるかい?」


 マーサがカナンに声をかけた。何だろうかとカナンもキョトンとした様子で口を閉じる。大人達の聞き耳を立てている姿を見て子供達も自然と外の音に耳を傾けた。

 微かに何か聴こえる。


「……何か言ってる?」


 また遠くで何か聴こえる。


「……ぁ!」


「本当だ、何か言ってるわね」


 人の声だ。


「くそぉ! そっちに行くなぁ!!」


 村の男の声だ。緊迫した声色であった。


「何か来るっ」


「え?」


 室内での発言に視線が集まる。ヴィオレだった。

 ヴィオレとレドは目を閉じ床に掌を押し当てている。


「何かって……」


 二人の発言の意図がわからずシーラが呟く、その時双子の目が同時に開きレドが普段とは違う声で告げるように言った。


「大きい、……獣だ」



ーー瞬間 轟音



 北側の壁から衝突音、木材が軋む音、振動、膨大な情報が室内の人間に叩きつけられる。

 悲鳴を上げる者、声もなく身を竦める者、建物内に混乱が素早く波のように波及した。


「なっ、何!?」


「揺れたわよ!?」


 慌てふためく声の中、それは聴こえた。喉の奥でとぐろを巻くかのような低い、獣の唸り声。

 ピタっと、空気が止まったかの様に全員が呼吸を止めた。恐怖と緊張がそうさせた。

 音の無くなった室内とは対照的に壁の外からは唸り声が止まない。全員が北側の壁を真っ青な顔で見ていた。

 やがて唸り声の発生源が、壁の向こう側で移動しているのがわかった。音が少しづつ離れていく。


 このままやり過ごせるかと思った矢先、音が移動する先に玄関の扉が有ることに気付いたヒューイがただ一人飛び出した。


「いかんっ!?」


 ヒューイが動いたことにぎょっとした一同だが扉を認識し尚更顔色が悪くなる。

 ヒューイは扉の近くまで来ると、隣に立て掛けてある閂の棒を二本慌てて扉に掛けた。間一髪間に合ったと息を付く暇がないまま、目の前の扉が音と共に砕け散りヒューイは揉んどり打って後ろに倒れるのだった。


「あんたぁ!?」


 マーサの悲鳴が響くが以外にもヒューイはすぐ立ち上がる、見た限りでは外傷はない。

 ヒューイはマーサに答えるでもなく扉を見ていた。いや、室内の全員が扉を注視せざるおえなかった。


 閂は幸い無事なようだが、扉上部が吹き飛んでおり室内に残骸が転がる。

 吹き飛んだ扉の部分からは本来外の景色が見えるはずだが、そこから覗き込んでくる一対の視線に、全員息を飲んだ。


 ゆっくりと室内を見渡した後、その巨熊は歓喜の咆哮を上げた。


 無理矢理入ろうと熊は顔を押し込んでくる。無事だった扉の部分が次々と弾け飛ぶ。


「ひっ!?」


「きゃぁぁぁあああ!」


「っ!? 子供!」


 阿鼻叫喚の中、レド達の元に親達が駆け寄る、自分の子供を回収し強く抱き締めた。


 目を血走らせ、大きな口からしとど唾液を滴らせながら熊は依然侵入を試みている。その姿は苛立ちよりも、喜びに興奮しているようにも見えた。


 熊は少しだけ扉から後退り、勢いを付けて体当たりをかました。さらに大きく扉が弾け飛び、閂は無事だが閂の留め具が僅かにひしゃげた。


 全員が悟った、もうそこまで持たない。


「止めろぉぉおお!!」


 味を占めた熊は再度後退り扉から距離を置いた時、追い付いてきた男達が熊に襲いかかった。

 纏わり付いて来る村人を鬱陶しげに熊が振り払う、その瞳は相変わらず室内を爛々と見つめている。


「射てぇ!」


 巨熊の側面に四本の矢が突き刺さる、村人が振り替えるとロイド、へイス、ジョン、サムが弓を構えていた。森に入っていた男たちがここでようやく戻ってきた。

 突き刺さりはしたが密集した体毛と分厚くて固い皮膚のせいか、巨熊が体を揺するだけで矢はポロポロと落ちた。


「ちっ、浅いか」


 後続から追い付いた男達も果敢に立ち向かうが、吹き飛ばされ巨熊は再度扉に体当たりをする。

 もう扉と言える様な状態ではない。辛うじて壊れかけの閂が掛かっているだけだ。


「こちらにはまるで興味を持たん」


 次の弓を構えながらロイドは苦々しく吐き捨てる。


「奴め、人の味を知っているな」


 二射目を射るが結果は変わらない、狩人達四人もナイフを抜き巨熊へと駆け出す。


「女と子供の肉が好みと言うわけか! させんぞ!」


「「「応!」」」





「女と子供達は奥の鎧戸がある部屋へ行け!」


 室内にいた年老いた男が声を荒げる。


「ヒューイ、お前も行け! 中に入られたら合図を出す、鎧戸から皆で外に出て別の大きい家まで逃げろ!」


「ワシらで室内に何とか足止めする、目の前で女房と孫を喰われて堪るか!」


「そ、そんな! 俺も」


「お前がヤられたら村は終わりだ! 死ぬなら倅に譲ってからにしやがれ!」


 老人達の意図に気付き反論したヒューイに全員で怒鳴る。

 老人達は開き直り覚悟を固めたようだ。


「くっ……、皆! 奥へ移動だ!」


 女達は子供を連れ移動を開始するが皆悲壮な表情だ。外に息子がいる者もいれば、残る者達の中に伴侶や父がいる者もいる。

 母親に抱えられながら父の名を泣きながら叫ぶ子供もいる。

 それは一つの絶望の形、誰かの命で誰かの命を繋ごうとする、誰も救われない取捨選択。




「おらぁ!」


「「ザック!?」」


 再度扉に近付いた巨熊の首付近に大振りな斧が食い込んだ。遅れて駆け付けたザックが走ってきた勢いのまま叩きつけたのだ。

 声に気付いたマーサとシーラが室内から声を上げる、二人とも奥へと避難する村人のサポートをしていた。

 体毛と皮膚を突き破り、浅くだが巨熊の肉に食い込んだ一撃、初めて巨熊が前進を止める。


「おいクソ野郎、この家には親父も母ちゃんも爺ちゃんも婆ちゃんも幼馴染みもダチから預かってるガキもいるんだ」


 斧を引き抜いたザックは巨熊の前に立ちはだかる。どうみてもブチ切れている。


「どれもこれも俺の大切なもんだ、お前の餌じゃねぇ! おい! いい加減こっち見やがれよコラ!」


 ここまでで一番の声量の罵声に、巨熊は初めて室内から視線を外しザックを見た。

 ザックを斧を再度構える。


「解放感しかない玄関にしてくれやがって! ブッ殺す!」




 ヴィオレとレドは巨熊に立ち向かうザックの後ろ姿から目が離せなかった。

 あの日のダストの後ろ姿と重なったからだ。


 あの日までの記憶は今ではかなり希薄だ。もしかしたら初めは辛かったのかも知れない。だが慣れてしまえばそれが普通で、それが当たり前だった。

 あの日ダストは自分達の普通に怒りをぶつけてきた。あの時の状況に、自分達の境遇と自分達自身に、あらゆる物に怒りをぶつけ逆らった。

 あの日二人の人生に色彩が宿った。二人の人生が始まった。

 あの日が有ったからそれ以前の自分達の不幸と不遇を知った。

 あの日ダストが見せた怒りが二人は大好きだ。

 初めて大好きが出来た大切な思い出だ。




 扉から見える景色は未だ絶望だ。男達が飛び掛かっては弾き飛ばされを繰り返し少しづつ押されている。

 ザックの重たい一撃が唯一巨熊に有効打を与えたが致命を与えるには事足りない。

 今まで鬱陶しげに振り払うだけだった巨熊だったが、何発か有効打を与えるザックに腹が立ったのか遂にザック単体に躍り掛かった。


 大きく口を開け噛み付く、ザックは咄嗟に間に斧の柄を差し込む。


「うおっ!?」


 何とか柄で受けたザックだが、体重が違いすぎる。柄に噛み付いたまま前進する巨熊に対して踏ん張るが成す術なく後退させられる。

 ザックを支えるように男達が群がる、ロイドが柄を咥える熊の目を狙ってナイフを突き刺そうとしていた。ジョンとサムは掩護射撃を、へイスとアルビンはザックを後ろで支えていた。


 そのすべてを振り払うように巨熊は咥えていた斧ごと頭を振り回す。

 大半は振りほどかれ、それでも手を離さなかったザックは地から足が浮いた。


「くっそ!」


 力ではどうしようもならない、ザックが手を離すか悩み初めた瞬間、巨熊はあっさりと口を離し、宙に浮いたザックを下から振り上げるように弾き飛ばした。


「「ザック!!」」


 放られた枝の様に自身の家の壁にぶつかり地面に落ちる、受け身も何も有ったものではなかった。

 その光景を目の当たりにしたマーサ、シーラ、が反射的に駆け出そうとしたのを咄嗟に回りが掴んで止めた。


「ザック!? いや! 離して!」


「駄目よ! あんたが行ってどうするの!?」


 シーラは半狂乱で暴れるが周りも必死に止める。気持ちは痛いほど分かるが彼らが体を張っているのは自分達の為なのだ。


「騒ぐんじゃねぇよ! かすり傷……、いや無傷だ!」


 斧を支えにしてザックは立ち上がる。すぐ側にロイドや他の村人も駆け寄ってくるが前進を進める巨熊はもう目と鼻の先だ。


「お願いだよ! 逃げておくれザック!」


 マーサの叫びにザックは答えない、獰猛に笑ったまま、周囲に集まった男達だけに聴こえるよう言った。


「頼む、悪足掻きに付き合ってくれ」


「ああ、怖いのももう慣れた、あとはヤケクソだ」


「奴の嫌いな男の硬い肉で腹一杯になってもらおう、食あたりで殺してやる」


 周りから次々帰ってくる同意にザックは子供のように笑った。


「全く、どいつもこいつも良い奴で良い男だ、全員男前に見えてきたぜ」


「違いねぇ、ホビロ村は男前ばかりの美男村だったはずだ」


「ふん、精々格好よく喰われてやる、片目位は貰うがな」


 普段は冗談を言わないロイドまでが軽口を返す。全員が覚悟を決めた。後ろの大切な者達の人生を諦めたくないから、自分達の人生を諦めた。

 ここから訪れる未来、外で抵抗をする続ける者達の誰かが、或いは全員が死ぬ。

 その後熊はその男達を喰らい、満足して一度森に帰るかもしれない。もしくは満足せずに、又は男達はやはり捕食されずあくまで女子供達を狙い続けるのか。


 いずれ訪れる、誰かの為に誰かが死ぬ、そしてそれを誰かが許容している未来。


「ダスト、後は頼むぜ……」



ーーお前らの変わりに怒ってやる


ーーお前らが選んだ未来を勝ち取って来てやる


ーームカつく運命への、唾の吐き捨て方を教えてやる


 ザックの何かが吹っ切れた、又は何かを諦めた言葉を聞いた瞬間、いつかの言葉が脳裏にチラつき、ヴィオレとレドは目配せもせず同時に駆け出した。


 いらないのだ、そんな未来は。

 だから唾を吐きかけるのだ。

 そして勝ち取るのだ。

 やり方はもう教えてもらったのだから。

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