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ゴミクズバイオレット  作者: つかさ
ホビロ村

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11/19

ダスト

 ダストは元々ホビロ村で生まれた子供ではなかった。


 ある日、村にトミオーンという男が流れ着いた。三歳くらいの子供を連れていて、村への定住を希望した。

 トミオーンは偏屈な所があり、人付き合いを得手としていなかったが、狩りの腕に秀でていて不誠実というわけではなかったため次第に村に受け入れられた。


 森の近くに家を建て息子と二人で暮らすようになったトミオーンだったが、狩りに出る際、子供を家に一人で置いていってるという事に村人が気付く。


 何人かの村人が善意で子供の面倒を見ると手を上げたがトミオーンは何故か渋った。

 普段トミオーンは息子の話を全くせず、名前すら村人には知らせていなかった。姿を見たのも村に来たときの一度のみだ。

 村人は子供が心配になり、トミオーンにしつこく子供の事を相談するようにいった。無論善意である。


 渋々トミオーンは息子は健常では無いという旨を明らかにした。 

 それからはトミオーンが狩りに出ている間、持ち回りで子供の面倒を見たが、子供は虚空をぼんやりと見つめるばかりで意思の疎通が出来ず、生存に必要な世話だけすることとなった。

 名前を聞くと、「教えても意味はないだろう、呼んでも意味がないのだから」とトミオーンは言った。


 子供が五歳になったある日、村の外で熊の目撃情報があった。

 トミオーン含む村の狩人達が討伐に出掛け、若い衆で村の防御を固めた。

 熊自体は討伐されたが、出会い頭で攻撃を受けたトミオーンは大怪我を負った。


 村で治療されたが、一目で時間の問題とわかる怪我だった。

 村人達は残された子供の事を思い出し、これからも村で育てるからせめて名前を教えろとトミオーンに言った。

 トミオーンは死に際に「ダスト」と言って息を引き取ったため、変な名前だとは思いつつも子供は「ダスト」と村で認識された。


 翌日村ではトミオーンの葬儀が行われていた。

 無愛想で偏屈な男だし、子供の件で思う所もあったが、村の為に戦った事もあり、遺体は村人総出で手厚く弔われた。


 葬儀の最後、遺体の埋葬中に異変が起きる。

 父との別れなので、一応その場の椅子に座らされていたダストがいきなり絶叫を上げたのだ。

 その後頭を掻き毟りながらダストは何かを呪詛のように呟いていた。

 当時幼少期のザックは偶々近くに居たため何を呟いていたのかはっきりと聞こえていた。


「どうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてるどうしていきてる」


 突然発狂し、気絶したダストに村人は困惑した。


 しかし摩訶不思議な事に、その日以降ダストは突然受け答えが出来るようになり、村人は仰天したのであった。


 父の想いが起こした奇跡だという村人も少数いたが、薄気味悪く感じる村人の方が多かった。


 ダストは今までの記憶が曖昧なようであった。当たり前の事を質問しては難しい顔をしたり落ち込んだりと情緒が安定しない時期がありはしたが、次第に落ち着き普通に生活を送るようになる。


 同世代の子供達は気味悪がって近づかず、大人達も腫れ物を扱うような接し方をせざるを得なかった。

 当の本人も自ら同世代の子供に混ざろうとする事もなかった。


 子供にしてはかなり聞き分けが良く、受け答えも落ち着いていて、村の仕事の手伝いも文句言わずするので、孤立はしながらも問題なく生活は出来ていた。


 持ち回りで面倒を見られていたダストだが、十歳頃になるとかつて父と住んでいた家で寝食をするようになった。

 亡き父との家に思うところが有るのかもしれないと、強く反対することも出来ず、皆見守るしか出来なかった。


 そんなある日、ダストがきちんと生活出来ているか確認してくよう親から言われたザックは、嫌々ながらもダストの家に向かった。

 同世代の中で一番ヤンチャながら面倒見が良かったザックだが、トミオーンの葬儀の時の事もあり、他の子供同様ダストの事は苦手だった。


 ちょっと見てすぐ帰ろうと割りきっていた所、ダストの家に近づくに連れ、嗅ぎ馴れない匂いを感じた。


 声を掛けもせず中に入るとダストが鍋の前に立ち、こちらを振り返っていた。

 何をしていると聞けば料理だと言う。嗅ぎなれない匂いではあったが、お腹が空いていたこともありザックは好奇心に任せて分けて貰うことにした。


 以外にもすんなり分けて貰った料理は具が入った汁物だ。

 一口食べただけでザックは驚愕した。

 毎年収穫祭で振る舞われるスープ、村で取れた野菜や肉を贅沢に沢山煮込んで作ったご馳走だ。

 ダストが作ったスープは、ザックの家でいつも出るスープより具が少ないのに収穫祭のスープくらい美味しく感じた。


 おかわりをねだると迷惑そうな顔をされ追い出されたが、その日を境にザックはダストの家に頻繁に顔を出すようになった。


 ダストは会う度に何か新しい事を試していた。

 髪の毛を洗う専用の石鹸を作ろうとしていたり、村の薬師が使うような薬草をなんとか旨く食べられないか試したり、当時主に家畜の餌であったトウモロコシを食べてみたり、牛乳を滅茶苦茶に振って自作のバターを作ったりしていた。


 ザックはそれを新鮮で面白く感じ、ダストが何か新しい事をやる時は絶対に一緒にいるようにしていた。寧ろ大人に怒られながらも率先して手伝っていた。


 同世代の中心人物だったザックがそのように構うものだから、ダストは自然に受け入れられていった。




「今日の晩飯のスープも、ダストの考えた作り方なんだぜ?」


「「ダストすごい」」


 ザックは自分の自慢かのように双子に伝える。シーラに加え、途中からマーサも混ざり当時の事を思い出していた。


「最初ダストの真似して料理しろって言われたときは何事かと思ったけどね、今でこそ皆同じ作り方するようになったけどさ」


「ザックなんかあの頃、何をしててもダストがダストがって煩かったんだから!」


 昔話を双子は真剣に聞いていた。全身でもっともっととせがんでいた。


「結構あいつの影響で変わった事は多いんだ、トウモロコシの畑増やしたり、養蜂始めることになったりな」


「特に食べ物へのこだわりは凄いわよね、でも髪の石鹸はトリルじゃないの?」


「違う違う、ダストが作ったけどトリルが髪の石鹸作りにハマって全部受け継いだんだ」


 「へぇ」とおざなりに相づちをうち、シーラは双子に視線を戻す。


「どう? ヴィオレ、レド、面白かった?」


「うん! もっと教えて」


「沢山聞きたい!」


 さっきまでの落ち込みが嘘のように双子の目はキラキラと光を放っていた。


「あ〜? そうだなぁ、じゃあ昔ダストと湖に行った時なんだけどよぉ……」


 と、ザックがまた昔話を始め、昔話の時間は双子が眠くなるまで続いた。




「お待たせしました。久しぶりですね、ダストさん」


「ネリさん、久しぶり」


 無事タキミの街に着いたダストは早速ネリッサとコンタクトを取っていた。

 フードを被ったままギルドに入り、たまたま受け付けにいたネリッサに声を掛けた。すぐ気付いたネリッサは落ち合う場所を伝え、カーラの実家の酒場で落ち合い今に至る。


「あの後、ダストさんの情報を嗅いで回る集団がいたみたいですが大丈夫でしたか?」


「ああ、追い付かれたけど何とかなったよ、遺恨は残ってない」


 遺恨どころか命も残っていないが、詳しく語るのも面倒なのでダストは濁すことにした。


「あの双子は村で面倒見ることになったよ、あと街を出る際に本当に世話になった」


「いえ、お互い様です」


 簡単な礼と挨拶を済ませ、二人は本題に入る事にした。


「で? 俺はこの街で冒険者できそう?」


「それなんですが……」


 ネリッサは答えづらそうにしながら語った。

 あの騒動の後、ダルクは全職員にダストが来たら教えるよう通達をしたとの事だ。

 しかしダストは帰省していたため音沙汰無く、公爵側からも特に動きがないため、事態は停滞しているようだ。


「俺がまた現れたってなったらどう来るかまだわからんって事か……」


「ええ、あとあの子達の代価の金貨五百枚、貴族だとしても無視出きる金額ではないです。公爵もお金の行き先くらいは追求されるでしょうし」


「そうか、本格的に活動場所移したほうがいいかもな、シバリア領都とか」


「ダストさんは悪くなので心苦しいですが、それも手かもしれません」


 ダストがタキミに戻ってきたと分かったら、依頼書を求めてまた動きだす可能性がある。


「俺はギルド長から狙われ続ける可能性があるから、依頼書は変わらず預けておくよ。ちなみに依頼書にあるオルトンは偽名で、本名はソーバンって名前だったぜ」


「わかりました。依頼書の出すような事態になる際は、その名前と一緒に使いますね」


「で、話は変わるがネリさん、例の件調べてくれた?」


 そこで一旦話を切り、ダストは仕切り直した。


「はい、奴隷法の解放条件を調べておきました」


 あの夜、遠出の買い出しとは別に、ダストはネリッサにひとつ調べものを依頼していた。それが奴隷の解放条件である。


「主人の死亡以外だと、犯罪奴隷などの例外を除き、主人本人から役所への奴隷解放申請という方法になるのですが……」


「なるほど、てか多分解放方法はそっちがメインだよな? 皆俺を殺した過ぎだろ」


「申請料が購入額の一割、あの子達の場合金貨五十枚になります……」


「そりゃ俺殺そうとする訳だわ! てか金貨五十枚!?」


 村で暮らすことになった以上、何か面倒ごとになる前に奴隷という身分から解放しておこう、くらいの心積もりであったダストにとっては、予想外の申請料の高さに始める前から挫折を味わうような気分だった。


「普通に貯めるとなると、十年以上掛かりそうだな……」


 頭を掻きながらダストは肩を落とす。


「かといってDランクに上がって戦いたくなんかねぇし……」


「どんだけ嫌なんですか……」


 この人は本当になんで冒険者になったのだろうとネリッサは思った。

 ダストの冒険者活動再開は中々に波乱に満ちていそうだった。


 

 

 この五年後、予定より大分早くダストは五十枚の金貨を稼ぐことになる。

 ダストの願い叶わず戦うことになるし、死にかけもするが、それを双子が知るのはまだ先の話であった。

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