第9話 中学卒業
京子と黒ぶち眼鏡が二人そろって第一志望の高校受験に失敗した。京子と黒ぶち眼鏡で足を引っ張り合ったって事だろう。
二人がどこの高校に進学するのか知らないけれど、頑張ってくれたまえ。
俺の方は入学手続きも済ませているので、もう公立校を受験しなくてもすむ。学校には通っているが、卒業したも同然だ。とは言え、KI高校に入ることは大きな目標だったけど、それが最終目標じゃない。高校入学組は高校ではカリキュラムが進んだ中学から持ち上がり組の生徒たちに追いつかなければならないそうだ。
彼らに地頭では到底かなわないことは十分分かっている。ならば歯を食いしばり石にかじりついても中学から持ち上がった生徒たちに追いついて、少しでも上を目指していく。
ということで、俺は今までの生活ペースを変えることなく入学式まで中学の復習をしていくことにした。
卒業式の前日中学最後の成績表が返ってきた。全部の教科で5だった。3年になって主要教科はいつも5だったけど、それ以外は4が多かった。中学3年間で初めてだった。
卒業式当日。
教室にいったん集まった。教室の中では友達同士で式のあと遊びに行く相談をしていた。もちろん俺は誰にも話し掛けられていない。よく考えなくても、俺って友達一人もいなかった。誰から見てもつまらないガリ勉だしな。そういった諸々を言葉は悪いが犠牲にして高校受験で成功したわけだから何も言うことはない。
予鈴のチャイムが鳴ったところでクラス委員が赤いリボンを配った。俺もそれを胸につけていっぱしの卒業生気分になった。
本鈴のチャイムが鳴り、教室から出た俺たちはぞろぞろと講堂に歩いていった。教室に京子の姿はなかった。講堂に移動する間、女子たちが京子のうわさ話をしていたけど、聞く気はなかったので速足で講堂に向かった。
講堂の後ろの方には保護者がそれなりの数立っていた。うちの母さんは仕事なので特に後ろの方を気にすることもなく用意されていたスチール椅子に座った。
みんながスチール椅子に着席してしばらくして卒業式が始まった。
君が代を歌った後、すぐに卒業証書授与。名まえを呼ばれた生徒はステージに上がり校長から卒業証書を受け取る。受け取った卒業証書はステージ下の台の上に置いてある筒の中に入れて席に戻っていく。
「松田祐介」
京子の名まえは呼ばれないまま、俺の名まえが呼ばれた。
小走りにステージに上がり校長の前にいき卒業証書を受け取った。その時校長から、「KI高校合格おめでとう」と、小さな声で言われた。俺のこと校長が知ってたなんて思っていなかったのでかなり驚いたけどなんとか「ありがとうございます」と言えた。
校長の言葉に続いて来賓のことば、在代表校生の送辞、そして卒業生代表の答辞と続き校歌斉唱で卒業式は終了した。ちなみに卒業生代表は生徒会書記をしていた銀縁メガネで三つ編みの女子だった。本来なら生徒会長の京子の出番だったんだろうが来ていないものは仕方ない。そう言えば黒ぶち眼鏡って卒業証書貰いに出ていったっけ? 全然記憶にないけど生徒会長の京子が欠席してたら、普通なら生徒会副会長が卒業生代表と思うけど、今回は書記だった。黒ぶち眼鏡も欠席したのか?
卒業証書を貰ったあと、俺は去年の卒業式のことを思い出していた。あれからずいぶん経ったような気がするけれどまだ1年なのか。
講堂の扉が開き保護者が講堂から出た後、俺たちも2列になって講堂から出ていった。
長い黒髪を後ろで三つ編みにして赤いリボンで纏めた女の子が俺たちの列に向かって駆けてきた。その子が俺の目の前まで来て盛大に転んだ。転んだ女の子の手には封筒のようなものが握られているのが目に入った。
これってデジャヴ? 俺に手紙を?
俺たちは動きを止めた。転んだ女の子をうちのクラスの女の子数人で起き上がらせてやった。
俺は高校に入ったら今まで通りストイックに勉学に励むと決めている。申し訳ないがきみと付き合うことはできない。などと頭の中で予行演習していたら、その女の子は俺の後ろのイケメンに手紙を渡して逃げ帰っていった。
女の子の気持ちを傷つけなくてよかった。などと負け惜しみ的なことなど思うことはなかったハズだけど、動き始めた列の中で俺は少し顔を赤らめて教室に向かって歩いていった。
教室に帰ってしばらくしたら担任の先生が段ボール箱を抱えて教室に戻ってきた。
先生から一言あったあと、段ボール箱の中に入っていた小箱が配られた。記念品のマグカップということだった。
「じゃあみんなこれで解散だ。気を付けて帰れよ」と、担任から最後のことばがあった。
クラスメートたちは教室の中で仲間同士で集まって、どこそこに遊びに行こうとか話し合ってぐずぐずしていたけど、俺には関係ない話なので教室から早めに出ていくことにした。
教室を出る前、先生の前まで行って「いままでありがとうございました」と頭を下げたら先生が「高校に入ってからも頑張れよ。だけど無理だけはするな」と言ってくれた。もう一度頭を下げた俺は小箱と卒業証書の入った筒を持って教室を出て寄り道することなく家に帰った。
その日、京子のことを母さんから聞いた。
京子は地元の公立校に行くことになっていたところ父親がカナダの本社に異動になり、家族でカナダに引っ越すことになったそうだ。引っ越しの荷物はもう運ばれるらしい。父親は既に赴任しており、京子と京子のお母さんは都内のホテルから今日の午後の便でカナダに向かったはずだと母さんが言っていた。母さんはだいぶ前からそのことを知っていたみたいだった。
京子は俺にとって完全に過去の人になったんだなあ、とその時思った。




