第8話 高校受験
年が明けた。
大晦日の午後11時30分過ぎに俺は家を出て少し遠いけどこの辺りでは有名な神社に向かった。夜更かしはしたくなかったが今回だけだ。
神社の参道にはまだごった返すほどの人はいなかったけれどそれでもかなりの人出だった。
その中を境内目指して歩いていった。
境内に入るとかなりの人出で、拝殿までたどり着くのがやっとだった。何とか最前列までたどり着き、100円玉を箱とは言えない巨大な賽銭入れに投げ入れて、手を叩き高校合格を祈願した。それで安心してUターンした。おみくじとかいろんなものを売店で売っていたけれど何も買わなかった。
拝殿からの帰り道、参道を下っていたら、京子と黒ぶち眼鏡とすれ違った。向こうは俺のことに気づかなかったようだ。
KI高校から受験票が送られてきた。受験番号は213番だった。
213番が特別な数字というわけではなかったけれど、受験票に貼った自分の顔を見たら更にやる気が湧いてきた。
それで俺は本番までの5週間の勉強スケジュール表を作った。これから4週間、復習のつもりでここ4年分のKI高校の入試問題を1週間ずつ使って解いていき、本番前の1週間は、最初の3週間で間違った問題や解けなかった問題にあたっていく。そして生活のリズムを整えるため最近就寝時間が遅くなりがちだったのを改めて午後10時就寝6時起床を徹底することにした。
そして、入試当日。
母さんの見送りを後に電車に乗ってKI高校にやってきた。カバンの中には筆記用具。母さんの作ってくれた弁当とお茶の入った水筒。受験票は上着の内ポケットに入れた。
学校に到着したらまだ門は開いていなくて他の受験生たちと一緒に門の前で門が開くのを待っていた。
8時に門が開いたので、受験票に書かれた番号の教室に向かった。
試験までまだ1時間ある。早すぎたきもしたけど遅れるより何倍もいい。指定の椅子に座た俺は受験票を机の上に置いて、筆記用具も置いて準備万端整った。
一度トイレに行って、スッキリして椅子に座り、頭の中で簡単な計算なんかをして頭のウォーミングアップをした。これを試験前にしていると問題文がすんなり頭に入ってくるような気がして、ここのところ試験前に必ずやっている。
試験開始5分前に試験官が3人教室に入ってきた。そのうちの二人は助手のようだった。試験官簡単な説明の後、助手の二人が問題用紙と解答用紙を配ってくれた。
国語、数学、英語、昼休憩1時間を挟んで午後から理科と社会。
心配した英語の聞き取りもなんとか乗り越えることができた。致命的なミスはなかったと思う。
手ごたえを感じて、俺は試験場の教室を後にした。合格すれば4月から通うことになる学校の校舎を振り返ってみて、それから門を出て帰りの電車に乗るため駅に向かった。
家に帰ったら、誰もいなかった。夕方になって仕事から母さんが帰ってきたけど試験のことは何も聞いてこなかった。台所に立つ母さんの後ろ姿に何か話しかけようかと思ったけれどやめておいた。
そう言えばもし試験に合格したら高い授業料の私立高校に通うことになる。受験料なんかも貰っているから暗黙の了解があると思っていたんだけど、俺って親の了承をちゃんと貰っていないことに今さらながら気づいた。
夕食時そのことを母さんにいったら、笑って、
「何言ってるのよ。祐ちゃんがそんなこと気にする必要なんかないんだからね」って言われた。俺は母さんに「ありがとう」って答えた。
合格発表は試験の2日後。月曜の正午にKI高校のホームページに合格者番号が発表されることになっている。学校の授業もあと2カ月しかないけど、教科書は終わっていないので授業は3月卒業式の前日まで続くらしい。
試験が終わった翌日、本当に久しぶりに丸一日何もしない日を送った。
発表当日。本来うちの中学はスマホは禁止だがその日俺は制服のポケットの中に忍ばせて登校した。
4限が終わって急いで教室から飛び出した俺は、校舎の脇でスマホを開いて高校入試合格者の特設ページに跳んだ。
祈るような気持ちでリストを上にスワイプした。
あった! 213番があった! あったぞー!
その瞬間、涙がこぼれ字が霞んでしまった。ハンカチで涙を拭いてもう一度見たらちゃんと213があった。
スマホの電源を切ってポケットにしまいもう一度ハンカチで涙を拭いて急いで教室に帰った俺は、給食を食べた。味は分からなかった。
5時間目の授業は俺の担任の授業だった。
教室に入ってきた担任の先生がいきなり俺に向かって「松田。KI高校通ってたぞ! おめでとう」と言ってくれた。そしたら教室の中から拍手が起こった。俺は立ち上がりみんなに向かって「ありがとう」と言って頭を下げた。その時もまた涙が出てた。
受験番号を教えていなかったのにどうしてわかったのかと後で担任の先生に聞いたら「伝手があるんだよ、伝手が」と言って笑っていた。
そのとき、京子が目に入ったんだが、京子の手は叩いていたが、お付き合いで手を叩いている感じで顔は笑っていなかった。興味がなかったので京子がどこの高校を受けるのか、受けたのか全くわからない。たしかK大学の付属女子校の試験はもうあったはず。京子がそこを受験したかどうかは知らないけど夏の段階であの塾のAクラスだったんだから、どこかの私立を受験したか、すると思うんだけど。まっ、俺には関係ないものな。
その日の授業が終わった俺が家に帰ると仕事に出ているはずの母さんが家にいた。
「祐ちゃん、合格おめでとう!」
母さんもスマホで合格発表を見てたのか。
「うん。母さんありがとう」
「今日はお祝いにどこかのお店で外食しよう」
「うん」
「祐ちゃん、何たべたい?」
「焼肉食べたい」
「じゃあ、焼き肉屋に行こう。もう少ししたら家を出るから祐ちゃん着替えていらっしゃい」
「うん」
着替えて居間に下りていったら、母さんも支度が終わっていて、すぐに家を出てバスに乗って市内の繁華街に向かった。
何度か来たことのある焼き肉屋だったけど、久しぶりだった。
母さんと向かい合って4人席に着いて、焼肉を注文した。母さんは珍しくビールを注文していた。
肉を食べながら母さんが、京子のことを話した。
「祐ちゃん、京子ちゃんK大学の付属女子校受験したって知ってた?」
「聞いてない」
「受からなかったみたい」
「そうなんだ」
俺なんかよりよほど地頭のいい京子だ。真面目に勉強していればK大学の付属女子校に通っていただろうけど、真面目に勉強していたとは思えないものな。少し前の俺だったら『ざまあみろ』と思ったかもしれないけど、今はどうでもいいって感じだ。京子は俺にとっては過去の人間なんだ。と、その時認識した。
それから1週間がたった。休み時間教室で座っていたらうわさ話が耳に入ってきた。黒ぶち眼鏡も第一志望の高校には受からなかったらしい。黒ぶち眼鏡の第一志望の高校というのがKI高校だったそうだ。試験の日に見かけなかったけど、どこかにいたわけだ。
黒ぶち眼鏡の受験失敗についてはなぜか『ざまあみろ』と思ってしまった。俺って意地悪なのだろうか?




