魔法学校②
ヨシュア王子の婚約者が決定した時は大騒ぎだった。
王族の伴侶であるからには魔力のある令嬢、つまり魔法学校に通う資格のある令嬢から選ばれるとは当然であった。中でも伯爵家以上の家柄から、年齢の近い令嬢が選ばれるのであるが、
該当する女子が少ない場合には、子爵家の長子に生まれた令嬢もその対象となることもある。
ヨシュア様の伴侶として、 候補に上がっていたのは、魔法学校に通っている令嬢のうちの6名程で、その中にモリーの名前もあった。しかし魔力が豊富でも無く、成績が飛び抜けて優秀でも無く、容姿が特に優れているわけでもなかったから、候補としてはかなり可能性の低い候補だったと思われていた。
「僕たちが幼馴染だということを、周りには話さなかったんだね」
そう言うヨシュア様こそ、人前でモリーに話しかけることをしなかったから、周りの驚きはモリーのせいばかりではないだろう。
モリーは他の令嬢たちと共に、
ヨシュア様カッコいい!!!
と騒いでいたから、寧ろ周りの友人たちは下剋上だと大はしゃぎしている。
年上の、王太子妃候補から第二王子候補になったお姉様方はかなり落胆されていたが、モリーの出過ぎない人柄を貶める事もなく、ヨシュア様が気安く話しながらエスコートするのを大人しく見守ってくれていた。
「まさか、モリーが仕留めるとはなぁ」
初めてエスコートされて参加したパーティーで、ため息混じりに呟いたのは、ヨシュア様と同年でモリーの一つ上の学年にいるヴィクターだった。侯爵家の嫡子である彼は、最近魔法爵の弟子から独立したメリッサという女魔術師に弟子入りを志願して、一番弟子になれた!と騒いでいた。将来有望な王宮魔術師候補だ。
「侯爵家の長子だもんなぁ、一応」
そう、モリーは侯爵家の第一子である。通説として、魔法使い同士の家庭において、第一子の魔力が1番強く質が良いと言われている。
もちろん、一概には言えないが、高位貴族ほど、第一子を婚姻相手に選びたがる傾向にある。
「もう、魔法学校はやめるんだろう?」
1学年上ではあるが高位貴族の輪の中にいてヨシュア様よりも余程交流のあった彼が、少し寂しそうにこちらを見る。
「はい。王族に嫁ぐという事になるので、行儀作法を学ぶために王宮に通うことになるようです」
周囲の令嬢達からも、寂しがられている。それが、モリーにはとても嬉しかった。
ヴィクターは、周囲にチラリと視線を走らせ、モリーに囁く。
「お願いがあるんだけど」
急に近づいて来たので、身構える。
「一瞬で良いから、オレに魔力を流してみてくれない?」
言われたことの意味がよく分からず、モリーは首を傾げた。
「どういうことですか?」
「魔法陣に魔力載せるのと同じ感じで良いから」
と、手を差し出す。
魔法陣を作動させる時と同じように?
よくわからぬまま、手に触れようとした。
「モリー」
ヨシュア様の声に、目の前でヴィクターが飛び上がった。
振り向けば、騎士団の上層部に捕まっていたヨシュア様が遠くから大股で戻ってくる。
声が近くで聞こえたので、てっきりもっと近くに戻って来ていたのかと思ったが、予想以上に離れたところからこちらに向かって来る。
「ごめん、なんでもない。頑張れよ!」
ヴィクターが慌てたように言って、立ち去って行く。
「はい、ありがとうございます」
モリーがカーテシーをした所で、ヨシュア様がこちらに辿り着いた。
「何をしようとしていたの?」
穏やかな声とは裏腹に、目が怒っている?
「魔力を…」
「魔力?」
ヨシュア様がモリーの手を取る。
そして、その指先に口付けた。
「え?!」
指先から、ヨシュア様の黄金の魔力がモリーの中に入って来た。
何というか、皮膚の薄いところに触れられたようなゾクっとするような衝撃とともに、キラキラとエネルギッシュな魔力がモリーの身体を満たす。
「ダメだよ。君は僕の婚約者になったのだから」
モリーの反応に満足したような表情をして、ヨシュア様が言う。
「僕にもちょうだい?」
そして、こちらに手を差し出す。
モリーはその指先に口付けて、そこに魔力をのせた。




